【少女と剣】婚約者からの手紙

■シリーズシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月05日〜11月12日

リプレイ公開日:2008年11月14日

●オープニング

 とある村の住民達が一人残らず虐殺され、一箇所に集められた状態で発見されたと言う事件が起こったのが、今から半年程前の事。
 事件当初、その現場に居合わせたものと見られ、馬を残して行方を晦ませた騎士ジャック・ブリューゲル。彼こそが最有力容疑者であるとされて、当時は捜査が進められていたのだが‥‥。
 結局その身柄は発見されるどころか足取りさえも掴めず、冒険者達も動き出す事は出来ないまま『不可解な失踪を遂げた騎士』と言う結果のみを残し、捜査は打ち切られた。

 そして月日が経ち、関与した者達の頭からも事件の記憶が薄れつつあった――そんなある日。

 冒険者ギルドのカウンターに、使用人に支えられる様にして現れたのは、ウィルに住まう令嬢であり、ジャックの幼馴染で婚約者でもあったルーベル・アニス。
 彼女が冒険者達に背中を押され、素直になれず封じ込め続けていた思いの丈をジャックに打ち明けたのが、彼の失踪する更に2ヶ月前。
 そんな経緯を経て、過ぎたる9月には結婚式を挙げる予定であったと言うのに‥‥成程、今まで彼女がどの様な精神状態で日々を送って来ていたのかは、そのやつれ具合や立つのも辛そうな佇まいから、容易に見て取れる。
 そんな彼女を見兼ねた受付係が、せめてもの気遣いと言う事でハーブティーを勧めるも、ルーベルは首を横に振り――。
「これを‥‥読んで、下さい‥‥」
 呼吸器系でも患ってしまったのだろうか、苦しげに息を吐きながら彼女が使用人に取り出させたのは、一枚の羊皮紙。
 それを受け取った受付係は、怪訝な表情で内容に目を通す。


***

 ごめんなさい、僕は暫く帰れません。

***


「‥‥!! これはまさか、ジャックさんからの手紙ですかっ!?」
 受付係が身を乗り出して尋ねると、ルーベルは大きく頷いた。
「間違いありません‥‥その字は、ジャックの物です。彼は‥‥彼は、今もまだ何処かで生きて‥‥ゲフッ、ゲホッ!!」

 ――その暫く後、漸く容態の落ち着いたルーベルを前に、依頼内容を纏めて行く受付係。
 だがしかし‥‥何しろ一度は捜査が打ち切られた事件である、このまま依頼として出そうにも、それこそまさしくウィル近郊に浮かぶ雲と言う雲を掴むかの様な、当ての無い捜査となってしまう。
「ところで、このお手紙はどの様にして受け取られたのです?」
 ほんの僅かな糸口でも何とか見出そうと、ルーベルに尋ねてみる受付係。
 だがしかし、彼女の答えは「使用人から渡された」と言う物で、そして使用人に尋ねてみれば。
「配達シフールさんから渡されるいつもの郵便物に混じっていたんです」
 との事。
 今度はそのシフールに尋ねてみようとも思ったが‥‥配達の為にウィルを飛び回るシフールと言っても数知れず、特定は難しい上に足取りを掴む事さえも容易では無い。
 受付係が頭を抱えながらも、止む無く『手紙を届けた配達シフールを探し出し、事情を聞きこむ事から始める』と書き記そうとした――その時。

「あ、あの‥‥」

 ふとルーベルの背後から掛けられた声に視線を向ければ、其処にはジプシー風の装飾品を身に纏った少女が、立ち竦んでいた。
「ああ、こんにちはミーヤさん。如何致しました?」
 ミーヤ・フルグシュタイン。
 かつてウィル近郊の領主の娘であった彼女は、紆余曲折あって冒険者となる為にジプシーとしての修行を積んでいた。
 今ではその修行も終えて冒険者としての登録も済ませ、晴れて新米冒険者となったのだが‥‥どの様な依頼を請けたものか分からず、悩んだ末に『取り敢えず過去の報告書全部読んで、参考にします』と言い出したのが一週間以上前。
 それから彼女は本当に毎日ギルドに通っては、様々な依頼の報告書を読み漁っていたのだが‥‥。
「その、お話声が聞こえたもので‥‥。ジャックさんの調査に関する事も窺っておりましたから、何かお役に立てないかと、勝手ながら魔法を持って占わせて貰いました」
 即ち、ジプシーの使役する陽の精霊魔法フォーノーリッジ。何度も失敗を繰り返しながら『ジャックさんとの再会』と指定して、彼女の見た映像は――。

「‥‥ルーベルさんが、森の中の古いお城‥‥見た感じ廃墟になってるみたいですけれど、その中へ男の人と一緒に入って行く所が見えました。他に誰も居ませんし、多分この人がジャックさんではないかと思いますけど‥‥何だか、様子が変なんです。何て言うか、その‥‥何かに操られて、ルーベルさんを無理矢理連れ込んでる、って感じでしょうか?」

 ――彼女の見た未来は何時の物なのか、分からない。
 ましてや、それは誰も何の行動も起こさなかった場合に迎える未来だ、とてもではないが正確とは言い切れない。
 だがしかし‥‥このままでは、ルーベルの身にまで危険が及ぶ可能性がある。
 その事実を突きつけられるや、途端に表情を引き締め、一気に依頼書を仕上げる受付係。

 その下の方には――『ミーヤ・フルグシュタイン』の名がはっきりと記されていた。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb5814 アルジャン・クロウリィ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

レイン・ヴォルフルーラ(ec4112

●リプレイ本文

●身近な危険
 アトランティスの空を駆る、グリフォンの影。
 その背には、冒険者アシュレー・ウォルサム(ea0244)とミーヤの姿があった。
 向かう先はジャック・ブリューゲルの失踪したと思われる現場‥‥住民を失った村の跡地。
 秋風の如く空を往く獣に跨りながらミーヤがふと身震いをすれば、彼女の前で手綱を握るアシュレーは荷物の中から暖かげなマントを取り出し、それを手渡す。
「あ、ありがとう御座います」
「良いって良いって。ミーヤにとっては初依頼なんだし、体調崩して何も出来ずなんて報告書に書かれたら、笑えないからねぇ」
 冗談っぽく言いながら笑みを溢すアシュレー。

 ちなみに出発前、同じく冒険者のアルジャン・クロウリィ(eb5814)にも同じ様な事を言われていたりする。
 彼は先輩冒険者としてミーヤの保存食、野営道具、防寒具等々の準備に抜かりは無いか、念入りに確認していたのだ。
 彼だけでなく、冒険者となる以前のミーヤの事を知っている面子は、凡そ皆が皆彼女の事を気遣っていて‥‥。
 この様な門出を迎える事の出来た彼女は、見様によってはとても恵まれていると言えるだろう。
 けれど、同時にアルジャンからは気になる事も言われていたりするのだが‥‥まあ、それは置いておいて。

「まあ最初からずいぶん面倒そうな依頼だけど、頑張ろう。同じ冒険者としてね」
「は、はいっ!」
 と、意気込む声が風切る音に掻き消され――。
 それから暫く後、何やら悲鳴の様な、怒鳴る様なミーヤの声が、地上を愛馬リンドブルムで往くオラース・カノーヴァ(ea3486)の耳にまで届いて来た。

『アシュレーと行動するにあたり、いざという時は護って貰う様に‥‥いざという時以外はアシュレー自身にも気を付ける様に』(割と真顔で)



●血痕
 そんなこんなで、一先ずは目的の村に到着した3人の冒険者。
「事件当時のまま残されているとは聞いてたが‥‥本当にその時から、ずっとほったらかされてたみてぇだな」
 オラースの言葉通り‥‥住民を失った村は半年前から手入れもされずに放置されていた様子で、辺り一面を覆い尽す背の高い藪の中から民家や木がぽつぽつと生えているかの様な景観になっていた。
 これは足を踏み入れる事すらも難しそうだ。
 とは言え、ここで立ち往生している訳にも行かない。3人は意を決すると藪を掻き分けながら踏み込んで行き、まずは手近な民家を目指す。
 そして辿り着いた建物の扉を開けば、一同の鼻を突くのは如何とも表現し難い異臭。
 それは、屋内の壁や床、天井にまで飛び散る様に染み付いている黒いシミの様な痕から来る臭いで‥‥。
「‥‥大丈夫かい、ミーヤ?」
 この環境は彼女には辛かったか。顔を蒼白させて俯くミーヤを気遣い、声を掛けるのはアシュレー。
 だが、彼女とてこの程度で挫けて等は居られない。彼の問い掛けに小さく頷くと、顔を上げ一番に屋内へと足を踏み入れて行った。

 ――その後。
 一通りの家を回り、一度馬やグリフォンを繋げている場所に戻った3人は、ここで更に二手に分かれて調査に当たる事になっていた。
 アシュレーとミーヤは、彼女の未来視によって観た光景を頼りに、古城を探し出すべく近隣の森の中へ。
 そしてオラースは、ジャックの所属していた騎士団等に事情を聞く為――ここで掴んだ『重要な手掛かり』を胸に、ウィルの街へ。
「それじゃあ、道中気を付けるんだよ、オラース」
「なに、心配すんな。途中で邪魔する様な奴が居たら、デビルだろうが何だろうがぶっ飛ばしてやっからよ」
「君なら本当にやりそうだよね‥‥」
 と、小さく笑い合う二人。
「それより、あんたの方こそ気を付けろよな? 何しろ、『奴』の根城かも知れねぇ場所を探そうってんだ。いざとなったらミーヤの事、しっかりと護ってやれよ?」
 馬と戯れる本人には聞えない程小さな声。
 そんな彼の言葉に、アシュレーも小さく、されどしっかりと頷いて応えるのだった。



●読心という名の慈愛
『どうやら、ルーベルさんには特に魔法効果は掛かっていない様です』

 初日に全員で依頼人ルーベルを尋ねた冒険者達。
 その際に、リーヴィルマジックを用いて検分を行ったミーヤの言葉。
「一先ずは、デビルに魂を抜かれていると言う訳では無さそうで、一安心ですよ」
 長い廊下を歩きながらふと思い出す様に言うのは、白銀麗(ea8147)。
 とは言え、同じくしてミーヤが自身の姿を見た所、青白く光って見えたらしく‥‥。
「手放しに喜ぶ訳にもいかないけど、ね」
 複雑な表情の加藤瑠璃(eb4288)が、銀麗の隣を歩きながら豊満な胸の下で腕を組む。
 そう、やはりミーヤの魂の片割は‥‥未だカオスの魔物に奪われたままなのだ。
 こちらもいずれは何とかしなければならない問題ではあるが、今は今するべき事に集中しなければなるまい。

 と言う訳で、二人はその後もルーベルの護衛と言う名目で、ウィルの一角に佇むアニス家の屋敷に留まっていた。
「失礼しますよ。‥‥御具合は如何ですか?」
 ルーベルの私室。その扉を銀麗が潜ると、ベッドの上で上半身だけ起こした状態で出迎えるのは部屋の主。
 その顔色は、話す事さえも辛そうな状態であった初日に比べ、幾分か良くなっている様に見受けられた。
 初日においては彼女の体調を鑑みて、詳細な聞き込みを断念していた冒険者達。
 今二人がここに来たのは、当然その時に聞けなかった事を尋ねる為である。
 勿論ルーベルもそれを断る道理は無い。何でも聞いて下さいと言わんばかりにベッドから起き上がろうとする彼女を、銀麗が優しく宥める。
「どうかご無理はなさらず。そのままで結構ですよ」
「すみません‥‥ゲホッ、ケホッ!!」
 途端に咳き込んでしまうルーベル。
 やはり、喋る事も辛そうな彼女から事情を聞くのは難しいか‥‥。
「辛いのでしたら、無理して喋らなくても大丈夫ですよ」
 と、銀麗の口からそんな言葉が出てくる。
「と言うのも‥‥御仏の加護の一つには、触れた相手が今考えている事を読み取るという、読心の魔法があります。ルーベルさんが伝えたい事を思い浮かべてくだされば、私が言葉にして伝えますよ」
「読心の‥‥魔法」
「ええ。とは言え、此方の判断だけで行う訳にもいきませんので‥‥もし了承してくださるなら、私の手を握ってください」
 そう言って差し出された手を、おずおずと握るルーベル。

 そして――銀麗の代弁の下、ルーベルは瑠璃の質問に答え始めた。



●ハートのジャック
 まず瑠璃が尋ねたのは、彼女が此処まで体調を崩してしまう前後の事。
 それによれば、彼女が此処まで健康を損ねてしまったのは、今から約2ヶ月前‥‥そう、丁度結婚式を予定していた9月からの事だった。
 それまでには、彼はきっと帰って来てくれる。そんな淡い希望さえも打ち砕かれ。
 そして、今に至るのだ。
「まさしく『病は気から』ね‥‥」
 ともあれ、原因がカオスの魔物ではないと一先ずは判明している以上、この質問から得られる手掛かりは無さそうだ。

 次に尋ねるのは、婚約者ジャックの失踪前後の事。
 そこから得られた情報も、それ程多くは無かったが‥‥その問いに対する答えを纏めてみると。
 まずジャックは、冒険者達に仲を取り持たれ婚約を交わしてからと言うもの、騎士としての勤めの前後に毎日、ルーベルの屋敷に訪れていたらしい。
 ――彼が遠征に行ったまま帰って来なくなったのは、そんな最中であったそうだ。
 以来、あの『手紙』が届くまでずっと音沙汰は無かったとの事。
 ちなみに、彼の遠征先との問い合わせ等は、調査に当たっていた騎士団が入念に行ったのだが‥‥されど事件との関連性は全く見出せなかったらしい。

 そして。
「それじゃあ、これが最後の質問だけれど‥‥貴女の婚約者、ジャック・ブリューゲルさん以外に『ジャック』という名前の心当たりはあるかしら?」
 瑠璃が尋ねると、やがて返って来た答えは‥‥。
「あるにはあるけれど‥‥質問の意図が分かり兼ねるそうです」
 まあ、無理も無い。ジャックと言う名前は基本的にそれ程珍しく無い名前の様だし、それが今回の事とどう関係があるのか‥‥冒険者で無い彼女にとっては、理解に苦しむ所だろう。
「あー、つまりね。ミーヤちゃんの見た『ジャックさんとの再会』の場面に居たのは、貴女の婚約者では無いかも知れない、って事よ」
 それで漸く理解したとばかりに大きく頷くルーベル。
 だが、そうは言われても今まで会ったジャックを洗いざらい思い出して‥‥と言うのは、かえって難しい。
 う〜んと考え込んでしまう彼女に、瑠璃と銀麗も困惑の表情を浮かべる。

「‥‥マント」

「「え?」」
 唐突にルーベル本人の口から出て来た言葉に、二人は目を見開く。
 どうやら、何か心当たりがあるらしく‥‥銀麗が再び手を握り、思考を読み取ると。
「‥‥なるほど。婚約者のジャックさんが遠征に行く少し前に、彼の誕生日を祝ったのだそうですよ。その際、ルーベルさんがお手製のマントを贈ったらしいのです‥‥が、これは言っても良いでしょうか?」
 何となく気まずそうな表情で尋ねる銀麗に、首を傾げる瑠璃。そして頷くルーベルの顔は、何処か赤いような。
「ええと、何でも贈ったマントの裏地には、大きなハートマークが縫い込まれているらしくて‥‥後で見てみたら、表からでも目を凝らすと浮かび上がってしまっていた為、恥ずかしくて作り直すつもりだったそうですよ」
 ハートを背負う騎士‥‥‥‥。(汗)
 ともあれ、そんなマントを羽織っている者など、アトランティス広しと言えど彼しか居るまい。
 どうやらこれは、未来視によって見た場面の『ジャック』が彼であると裏付ける上で、重要な手掛かりとなりそうだ。



●無事を願われ誓う者
 そして一方、調査の為にとトルクの国境沿い‥‥ウィエ領にも程近い街にまで足を運んでいる冒険者も居た。
 アルジャンである。
 彼は何を追い求めてその様な場所にまで出向いているのかと言うと‥‥他でも無い、例のジャックからの手紙を届けたと言う配達シフールを探す為である。
「探すのにも苦労したが‥‥結果として大分長旅になってしまった、な」
 ふと呟き苦笑しながら思い出すのは、ウィルを発つ彼を見送った恋人――レイン・ヴォルフルーラの事。

『無事に戻って来られる様、精霊にお祈りして待っています。どうか、くれぐれも気を付けて下さいね‥‥』

 本人曰く、その言葉は知り合いたるアシュレーや、初心冒険者のミーヤにも向けられたものであったらしいが‥‥特に彼に対しての想いは、格段に強かった事だろう。
 ミーヤに『伴侶』と言われて二人して焦っていた事が、何だか懐かしくさえ思える。
「‥‥愛し合う者達は幸せに結ばなければならない。ならないのだ。くれぐれも、無事で居てくれよ、ジャック・ブリューゲル‥‥」
 ――アルジャンには、その男の本当の心の声が聞こえた気がした。

 そして、件のシフールと酒場で落ち合い、話を聞く事に成功したアルジャン。
 それによると、例の手紙はウィルの街からそれ程遠くない街の酒場で、騎士風の男から預かった物だったらしい。
 その街の地名を尋ねてみれば‥‥。
「そ、そこは確か‥‥一年前に『マスクド・ジャック』の被害があった場所ではないか!」
 マスクド・ジャック。『ジャック』と言う名の付く者ばかりを狙う、正体不明の殺人鬼。
 そう、今回の事件の中心人物もまた『ジャック』‥‥そしてオラース達が村の跡で見付けた痕跡、天井に残された『JACK』の血文字。
 そこまでは今のアルジャンが知る所では無いが‥‥これはもはや、偶然で済ませる事の出来る問題ではないだろう。

 そして、此処で得た情報はもう一つ――即ち、手紙を渡した騎士の風貌についてだった。
「何だか変な人だったんですよね〜。うす〜くハートっぽい模様の浮かんでるマントなんか着ちゃってて、その割すっごく暗いって言うか、思い詰めてるみたいな顔してて」
「ハートのマント‥‥? それは一体どう言う事だ?」
 確かに、今の彼にとってはそれは不可解な特徴でしかない。
 だがしかし――間も無く、彼は知る事になる。
 その情報が示す、真の意味を。



●託された物、見出された道
 所変わってウィルの街、ジャックの所属していた騎士団の詰所。
 そこに訪れていたのはオラース――本当はアルジャンも一緒に聞き込みに来ようとしていたのだが、とてもではないが間に合う筈が無く。
 ともあれ、オラースもまた別方面において事件前後のジャックについて‥‥また、『マスクド・ジャック』との関連性について調べようとしていた。
 ところが、ジャックの様子に関しては、ルーベルの話した物とほぼ同様。『マスクド・ジャック』との関連性については、恥ずかしながら血文字さえも見落としてしまっていたので、思い至らず‥‥とは言え、これに関しては一年前に事件のあった場所の騎士に問い合わせて、次回までに再度情報を集めておくと約束してくれた。
 加えて、現場周辺に古城が無いかについても聞いてはみたが‥‥少なくとも二日間歩き回って見付かるような範囲内には無く、近隣を治める領主に地形図を見せて貰っても、やはりそれらしき物は見当たらなかったそうだ。

「邪魔したな、協力感謝するぜ」
 粗方の情報を聞き終えると、そう言って詰所を去ろうとするオラース。
 そんな彼を、引き止めるのは騎士団長。
 そして、差し出されたのは一振りの剣‥‥一般的にフランヴェルジュと呼ばれる物である。
 どうやらそれは、ジャックが愛用していた物で――彼が失踪してから間も無く、修理を担当していた鍛冶屋から送り届けられていたらしい。
「お願いです。もし奴に会う事が出来たら、これを‥‥渡してやって下さい」


 一方――。
「‥‥見付けたね。ここで間違い無いかい?」
「はい、この景観、周囲の植生、崩壊した城壁‥‥私が見たのは、まさしくこの場所です」
 森林探索5日目。
 漸く見付け出されたそれは、恐らくは当時、かなりの権力者が居住いとしていたのであろう、かなりの広さを持つ城跡。
 だが、住人が居なくなって既に相当な年月が経っている様だ。空から見ても目立たない程、周囲を背の高い木々で埋め尽くされてしまっている。
 とは言え、一度見付けてしまえば、以後にその場所を見付け出す事は容易い。
 アシュレーはその姿をデジカメに収めながら――ふと石の中の蝶に目を落とす。
 だが、蝶の羽はピクリとも動かない。

 ――そんな様子に何処か違和感を感じつつも、一先ず目的の物を見付ける事に成功したアシュレーは、そのままミーヤと共にウィルへ向けて空を駆って行くのであった。