【エルフの忠騎士】失踪
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■シリーズシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月14日〜11月20日
リプレイ公開日:2008年11月22日
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●オープニング
――それは、全くの偶然であった。
以前の様に頑なになっていれば、何時に気付けた事か‥‥知る由も無い。
だが、私は知ってしまった。気付いてしまった。
‥‥その名、立ち振る舞い、そして能力。
全てが、解に向けられている。
――果たして、それは貴様なのか?
朝方のギルドで、忙しなく書類を捌くのはカウンターを預かる受付係。
この所どう言う訳か妙に彼の下へと回ってくる書類の量が多く、この日も折角淹れておいたハーブティーが、冷めたまま片隅に取り残されていた。
ふとそこに、のそりと現れるのは、矢鱈に大きな影。
受付係が顔を上げると――。
「た、た、た、た、大変なんだよっ!!! 頼む、アレアレアレアレッ!!!!」
「O☆CHI☆TSU☆KE」
と言う訳で、カウンターの前に佇む丸っこい男は、ウィルに住まう貴族、珍獣男ことウルティム・ダレス・フロルデン。
まあ、彼の素行が色々と妙なのは、今に始まった事ではないが‥‥何やら今回は、只事では無い様子。
一先ず受付係は彼の事を(割と強引に)落ち着けさせると、事情を話す様促す。
‥‥仕事によるストレスもありき、これでもし(世間一般的に見て)下らない内容で騒ぎ立てていたのだとしたら、直ぐにでもその鼻面にめり込ませようと握り拳を用意して――。
「アレッ‥‥アレックス!! 昨日までうちに居た筈のアレックスが居なくなっちゃったんだっ!!!」
「‥‥ナ、ナンダッテー!!?」
ちなみに、アレックスとは‥‥イムンはルオウに領地を持つウルティムの父エルガルド・ルオウ・フロルデン伯爵。その彼に仕える冒険者嫌いなエルフの神聖騎士の事である。
どうやら思っていた以上にまともな内容‥‥と思いたいが、何しろこの『珍獣』の事だ。今の言動にしろ、何処に落とし穴があったものか分からない。
受付係は慎重に、言葉を選んで詳しい事情を聞いてみる。
すると。
「そ、それが、アレックスは今日の昼過ぎにフロートシップでルオウに帰る事になっていたんだ! ところが、今朝起きたら荷物や馬ごと‥‥! 義弟のサマエル君に頼んでフロートシップの発着場にも問い合わせてみたんだけど、やっぱり来てないらしくて‥‥! あの超律儀な男が、何も言わずに居なくなるなんて普通じゃない! 探すにしても、僕達だけじゃあお手上げなんだ!」
‥‥どうやら、珍しく本当にまともな依頼であったらしい。
受付係は心の中でウルティムに詫びつつ、依頼書をしたため――る傍ら、ふと思い起こすのは。
「そう言えば、関係あるかどうかは分からないのですが‥‥彼、昨日このギルドにいらっしゃってましたよ?」
「ええーーっ!? そ、それ本当!?」
「はい、珍しい方が居るなーと思って見ていたのですが‥‥何やら一頻り依頼に関する資料に目を通したら、そのまま帰って行ってしまいましたけれどね。その後に何か変わった事はありませんでしたか?」
「う、うぅーん、どうだったっけな‥‥。昨日まではこんな事になると思ってなかったから、いつも通りミルクた――げふげふ、彼に特に注意を向けたりはしなかったんだけど‥‥」
この男らしいと言えばこの男らしい。
ともあれ、まずは地道にアレックスの手掛かりを探す事から始めなければなりそうだ。
「頼むよ! 後で思い出したんだけど、うちのメイドたん達に見付からない様、絵師とかから買い込んだ絵を馬の鞍の下に隠したままだったんだ!! せめてソレだけでmぶげろぽっ!!?」
やっぱり珍獣は珍獣だった。
●リプレイ本文
●四人の騎士による少数精鋭
「少数精鋭とは言ったものですね‥‥とにかく4人なら4人で頑張っていきましょう」
集った面子を見るや、苦笑交じりに言うのは失踪したアレックスと同じ神聖騎士のニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
「アレックス殿が失踪とは‥‥後に笑い話で済むよう急いで居所を探さねばな」
その横で、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)は何処か落ち着かない様子で呟く。
彼女が内跳ね気味なブロンドの髪を鮮やかに揺らす中、同じくブロンドでありながら比較的癖の強い外跳ねな髪質を持つフルーレ・フルフラット(eb1182)も、難しい表情で。
「しかし、主に何も知らせず、独断で動くとすればこの世界に来る前からの確執でしょーか。その手掛かりを冒険者ギルドで掴んだ、と」
「アレックス殿の過去の確執、か‥‥」
それは、一体どれ程前の事になるのだろう。
エルフと言う種族は、総じて人間などに比べて長い寿命を持つもの。時間間隔も、相応に長い場合が多い。
同じくエルフであるシャリーアからすれば、計り知れない所では無いのであろうけれど‥‥。
「まあ、それは本人を見付けてから、じっくりと問い質しましょう。それにしても、ギルドで掴んだ手掛かり‥‥ひとまず有力な候補としては『L.D.』‥‥ッスかね」
『L.D.』。ウィル近郊に蔓延る盗賊の幹部格であるライアーズトリオの一人の、黒尽くめの男。
その男とアレックスに、果たして本当に関わりがあるのか。現時点では未だ分からない所だが‥‥冒険者達はその仮説に、何処か確信めいた自信を持っていた。
つい先日に行われた、『L.D.』との決闘――その当事者の一人であるセオドラフ・ラングルス(eb4139)は、今まで伏せていた目をふと上げて。
「皆さんが言われるように、もしアレックス卿が『L.D.』と関係あるあらば‥‥色々と事情を聞かせていただきたい所です。何としても見付け出せる様、足取りを追いましょう」
彼の言葉に、ブロンドの騎士三姉m‥‥ゲフンゲフン、ニルナにフルーレ、そしてシャリーアは大きく頷いた。
●ギルドに残された手掛かり
最初に冒険者達が調査の手を伸ばしたのは、冒険者ギルド。
「いつもお世話になってます神聖騎士のニルナ・ヒュッケバインですが‥‥アレックスという名のエルフの神聖騎士がこちらに見えませんでした?」
ニルナが職員の一人ひとりに話を聞いて回り、アレックスの足取りを追おうとする一方、他の者達はまた別方面の情報を仕入れようとしていた。
「これが、ライアーズトリオの人相‥‥」
ギルドの資料の中に残されていた三人の似顔絵を眺めながら呟くシャリーア。
だが、肝心の『L.D.』に関してのみはどうにも曖昧で(本人がミミクリー使いである事、普段はフードで顔を隠して居る事など故)どうしたものかと首を傾げていると。
「彼の者の人相でしたら、私が間近で見ておりますので」
そう言うセオドラフが見事な筆捌きで描き上げたのは――若干彫りの深いエルフの男性の顔。
彼が『L.D.』の顔を見たと言う報告書によれば、その当時にミミクリーは発動されていたものの、咄嗟に人相まで変えられる様な状況ではなかった為、これが素顔であると考えても問題ないだろう。
それにしても、何故彼らは此処まで『L.D.』に拘わるのか。そこには、シャリーアのある憶測があった。
「『L.D.』か‥‥。まさかこの『D』が実はダンデリオンの略で何か関わりがある‥‥?」
そう言われて似顔絵を見てみれば、髪の色や目の色が同じと言うだけでなく、何処か記憶の中のアレックスを思い起こさせる様な面影もあるかも知れない。
もし二人に関わりがあるとしたら、年齢を鑑みるに親子か叔父甥か‥‥と言った所だろうか。
一同が頭を悩ませている中、ふと其処へ自らの記録した資料を手に現れるのはニルナ。
「アレックスさんが当時に探されていたと言う依頼がどの様な物であったか‥‥概ね搾る事が出来ました」
その結果は――ごく一部、ジ・アースから多くの者達がアトランティスに訪れて間もない頃の報告書と言う例外を除き――ほぼウィル近郊の盗賊関連、それもライアーズトリオが関わっている物ばかりを探していた、と言うものだった。
「やっぱり‥‥。アレックスさんはライアーズトリオ、更に言えばその中の『L.D.』を探していたと見て、間違いなさそうッスね」
フルーレが呟けば、他の者達も頷く。
思わぬ形でスムーズに得る事の出来た、大きな手掛かり。
それが意味するものの真相は未だ全貌を明かしてこそ居ないものの、それでも手前の目的――失踪したアレックスを探す為と言う事においては、この時点でかなりの進展を見せたと言っても良いだろう。
後は、その足取りを追い、実際彼が今何処に居るのかを探るだけである。少なくともその先は、主の待つルオウである可能性は極めて低い。
逸る気持ちを胸に、冒険者達は一斉にギルドを飛び出して行った。
●調査その一・珍獣屋敷
セオドラフが向かったのは、依頼人こと珍獣男――ウルティムの屋敷。
話によると、失踪前日までアレックスは此処に居た。
となると、やはり此処の者達に話を聞くのが、その方向性を探る上で最も手っ取り早いのではないかと思い至ったのだ。
その結果得た情報といえば、彼の様子を気に掛けていたメイド長のレモン曰く。
「確かに、当時アレックスさんは何か思い詰めてる様な表情をしてました。食事の間もずっと眉間に皺を寄せてて‥‥口に合わなかったのかと、夕食を担当した子が泣いちゃったりもしてましたけど、それでも心此処にあらずって言うか‥‥」
「成程、それはギルドから帰って来た後との事でしたな。その後、何処に向かうと仰っていた‥‥いえ、口に出していなくともそれに準ずる様な手掛かり等は御座いませんでしたかな?」
「うぅん、残念ながらこの屋敷では、そう言った物は一切見付かってません。けど、あんなに生真面目で律儀な人が、『珍獣』とは言え主の息子にも何も知らせず姿を消すって言うのは、ちょっと変だなって思ってるんですよね‥‥」
それは、依頼提出当時にウルティムも言っていた事だ。
あれからそれなりに日は経って居ると言うのに、シフール便等で事情を知らせる事はおろか、置手紙の類なども見付かっていない。
――何となく、得体の知れぬ胸騒ぎを覚えつつ。
セオドラフは地道に聞き込みを続けているニルナと合流すべく、珍獣屋敷を後にして街へと向かって行った。
●調査その二・騎士団詰所
一方その頃、フルーレとシャリーアの二人は以前に一度ライアーズトリオを捕えた事のある騎士団の下へ赴いた後、続けて先日に『L.D.』の決闘を受けた騎士団の詰所へ訪れていた。
「急用にて、祖国での知人を探してるッス。どうか知ってる事があれば、教えて欲しいッス!」
と、イムンに関連して居る事は匂わさずに尋ねて回るのはフルーレ。
だがしかし――どう言う訳か、此処の者達然り、その前に向かった詰所の騎士達然り、口を揃えてアレックスらしき人物が訪れた事は無かったと証言しているのだ。
「おっかしいッスねぇ? 本当にライアーズトリオを追って居るのならば、ここ以上に有力な手掛かりが得られる場所なんて、そう無いと思うんスけど‥‥」
首を傾げるフルーレ。
ちなみに言うと、街で聞き込みを続けているニルナ達の方も、殆ど目撃証言を得る事が出来ていなかったりもする。
まるで、ウィルの街中に留まる事を避けているかの様に‥‥。
「けどまあ、来てないんなら仕方ないッス。もしこの後にそれらしき人が来る様な事があれば、出来るだけ引き止めておいて欲しいッス」
と言い残し、フルーレは――同騎士団の者達が『ある者』の保護監察を続けている場所へと向けて、足を進めて行った。
●調査その三・疑惑の少女
「あなたの名はアン‥‥間違いないのだな?」
卓を挟んで向かい側で、嬉々と桜餅を頬張っていた少女に尋ねるのは、シャリーア。
対するアンはと言えば――何故そんな質問をするやら、分かっていないと言った表情で首を傾げる。
と言うのも、今回アレックスの失踪と『L.D.』との関連性の他にも、シャリーアにとってもう一つ気に掛かっている事があった。
それは‥‥この娘が偽名、または本物のアンに成りすました偽者でないか、または内通者でないかと言う疑惑である。
故に、彼女は今こうしてお菓子を与えて場の空気を和ませつつ、一つ一つ問答を繰り返しているのだ。
「事情は先に説明した通り‥‥もし可能であれば、一緒に手掛かりを探すべく、ご同行を願いたいのだが」
「う〜ん‥‥アンも出来ればそうしたい所なんだけど、今はアンまで命を狙われてる危険があるから、絶対に外に出ちゃ駄目だって言われてますし‥‥。それに、アンは一度皆さんを‥‥。だから、これからは絶対に言う事を聞いてなくちゃ‥‥」
ちなみに、事前にシャリーアも騎士団の者達に問い合わせてみたが‥‥やはり相手の力量もありき、計り知れない危険を伴う故との事で、アンを連れ出す許可は下りなかった。
それを分かった上で、どう反応するか発破を掛けてみたのだが‥‥。
「お気持ちは察するが、もしかするとアン殿の父はアレックス殿が先走ったが故、危険な目に遭われる可能性も否定できない。それでも‥‥」
――と、気が付けばアンは小さく鳴咽を漏らしていた。シャリーアは思わずぎょっとする。
「わ、分かってますっ、分かってますけどっ‥‥アンはそのアレックスさんって言う人も知らないし、この間の黒い人の事だって、脅されてたって言うだけで何も‥‥っ!」
「あ、ああ、分かった。済まない、些か言い方が厳しかったか」
言いながらももだんごを差し出せば、涙混じりでそれをモソモソと頬張るアン。
「ひっく‥‥‥‥だ、だから、お願いですっ。手遅れになる前に、絶対お父様を助けて‥‥! 頼れる人が、冒険者さんしか居ないんですっ!」
「‥‥どうでした?」
「ああ、身の上を伺って返ってくる答えは実に明確で、今の所では大して不審な部分は見当たらなかったな。挙動や言動等は確かに15歳にしては幼な過ぎる感もあるが‥‥聞かれた事にはきちんと答えるし、普通に見れば見た目以上にしっかりした娘、と言った所だろうか」
「そう、ッスか」
それでも何処か釈然としない様子のシャリーアに、訝しげな表情を浮かべるフルーレ。
その手には、アンの証言を元に描き上げたアンの父親の似顔絵があった。
「まあ、後は裏付け調査次第ッスね」
「そうだな。今回の依頼の期間では其処までするのは難しいだろうから、後はギルドに頼んでおくとしようか」
●調査その四・決闘現場
「久しぶりの長距離飛行になりますね。ソフィア、よろしくお願いします」
そう言って自らのグリフォンの背を撫で、空路を経て『L.D.』との決闘現場に向かうのはニルナ他冒険者達。
ウィルの街中に殆ど留まっていなかったとなれば、後思い当たるアレックスの向かう先と言ったら、実際『L.D.』ないしはライアーズトリオの現れた場所の他に無い。
中でもこの場所は、事が起こったのがつい最近であり、尚且つギルドで資料を見た時に真っ先に目に付いていた可能性が高いと言う事で、最有力候補となっていた。
一同が現場に降り立てば、真っ先に目に付くのは幸いにも今日まで風雨により流される事なく残っていた、岩場にこびり付く白い粉末。
そう、『L.D.』が逃亡の際に用いた消火器と呼ばれる天界製品による物である。
その上に未だうっすらと残っているのは、主に冒険者達による複数の足跡。
それらが密集している箇所は、余りにごちゃごちゃとしていて変化があったか否かも分からない状態であるが。
「――当時はこちら側に、『L.D.』とやらが居たのですよね?」
ふとセオドラフに尋ねるニルナが立って居るのは岩場の南西よりの位置‥‥その近辺は比較的足跡が少なく、新しい痕跡でもあれば容易に見付ける事が――。
「‥‥ありましたよ、新しい足跡が。それも、足取り等を見るにやはり何かを探っていたかの様な感じです」
果たしてそれが本当にアレックスに因る物なのかは分からないが、一先ずは決闘の事後に此処に誰かが訪れたと言う事実には、疑う余地が無さそうだ。
結果として今回、比較的短い依頼期間でありながら、期待していた以上に多くの手掛かりを掴む事の出来た一同。
予測と裏付け調査の繰り返しの甲斐あり、これから更に調査を続けるとして、アレックスを探し出す事自体においてはそう難しい事でも無くなった様に思える。
‥‥だが、恐らくは今回の事件、それだけで全てが解決する程容易なものでも無いだろう。
胸を撫で下ろすと同時に、得も言わぬ不安を胸の中に抱きながら、冒険者達はウィルへと向けて空を駆って行くのであった。
――その原因は、今回見付ける事が叶わなかったウルティム秘蔵の絵画集の事ではない。きっと、多分、恐らく。