【十一番隊・京の人斬り編】化物(けもの)
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■シリーズシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月19日〜12月24日
リプレイ公開日:2005年12月31日
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●オープニング
式盤を前に、賀茂陽憲はゆるりと顔をあげた。
呪力によって賦活された彼の全身からは陽炎の如き気が立ち上り、静まり返った陰陽寮を重く圧している。賀茂陽憲は今、大六壬を終えたところであった。
「陽憲殿、いかが?」
賀茂陽憲の背後に座した公家が口を開いた。すると陽憲は大きな吐息をついて後、顔だけを振り向かせた。
「しかと」
「おお。で、どのように?」
「されば――」
陽憲は再び式盤に眼を戻し、やや掠れた声で告げた。
「京を覆う凶相。偏に源徳にあり。源徳が摂政にある限り、京はさらなる凶事にみまわれることになりましょう」
「組長!」
部屋に飛び込んで来るなり、神代紅緒は大きな声をあげた。
何事かと顔をあげた伊集院静香の側で、一升徳利を枕に寝そべっていた平手造酒もまたちらと眼を動かす。
「うるせえぞ、紅緒」
平手が顔をしかめた。どうやらかなり酔っているらしい。
が、紅緒には通用するはずもなく。
「うるさいもなにもないですよ。勝手に自分だけ仕事に行ってきて‥‥こっちは大変だったんですからね」
「岡田以蔵か‥‥」
苦い顔で平手が身を起こした。
前回の依頼。平手抜きの十一番隊は、人斬りに雇われた浪人者の捕縛には成功したものの、新撰組隊士である村田籐兵衛と木戸隆道を岡田以蔵によって斬り殺されている。
「聞きましたよ、組長は警護に行ってたらしいですね」
「ああ」
頷く平手の表情は冴えない。
彼がひそかに赴いた先は堺の豪商、今井宗慧。が――
一足違いで今井宗慧は謎の人斬りの手によって暗殺された後であった。
「それよりも紅緒、新しい命がくだったわ」
「えっ」
瞳を爛と輝かせ、紅緒が静香に顔を向けた。
「十剣党ですか」
捕らえた浪人者より、彼らを雇った者の人相特徴は訊き出してある。そこから糸は手繰れるはずであった。
が、静香は頭を振る。
「いえ。‥‥賀茂陽憲は知ってるわよね」
「はい。陰陽寮の陰陽師様で、源徳家が摂政であると京に凶事がふりかかると占われたとか」
「そう。良く知っているわね。仕事は、その賀茂陽憲の警護よ」
「ほっ」
瞠目し、しかしすぐに紅緒は小首を傾げた。
華山院忠朝を斬殺した人斬りを警戒し、賀茂陽憲の護りに京都見廻組がついたことは聞き知っている。であるのに、何ゆえその上に反源徳ともいうべき賀茂陽憲を、源徳家康私兵である新撰組が護らねばならぬのか。
そのことを口にすると、静香が冷笑を浮かべた。
「世の中は貴方が考えているほど単純じゃないわ。考えてもごらんなさい。万々が一、京都見廻組が護り切れず賀茂陽憲が暗殺された場合、世の者は誰を疑うか」
「それは――」
紅緒の舌が凍りついた。
「でも人斬りは源徳の者では――」
「人斬りの正体が誰であろうと関係ないわ。明白なのは反源徳の陰陽師が斬り殺されたら、そのことを利用しようとする者がいるということ。――源徳にとって、それは拙いことなのよ」
「と、いうわけだ」
平手が欠伸を噛み殺し、そして続ける。
「そこで十一番隊が出張ることとなった。影となり、京都見廻組に気づかれることなく賀茂陽憲を護るべし――それが此度の仕事だ」
十一番隊隊士と冒険者を集めるべく、部屋を飛び出して行った紅緒の跫が遠ざかり――
見送る平手の顔色がなおも浮かぬことに静香が気づいた。
「平手さん、何か気がかりなことでも?」
「ああ」
僅かな躊躇いの後、平手が肯首した。
「此度の仕事のことよ」
「それは――。確かに京都見廻組に気づかれぬよう警護するのは難しいとは思いますが‥‥」
「いや」
片手をひらとふり、平手が静香を制した。
「それもそうだが‥‥。俺が気にかかっているのは、そのことじゃねえ。件の人斬りのことよ」
「人斬りの‥‥こと?」
「そうだ。‥‥今井宗慧の斬られた痕を見分したが、並の腕じゃねえ。村田や木戸の斬傷と比べてみたが、おそらくは以蔵も及ぶまい。のみか、下手すりゃあ斎藤や沖田ですら‥‥」
「それは――」
静香が息をひいた。
名だたる人斬り岡田以蔵のみならず、新撰組屈指の剣客である斎藤一、沖田総司をすら凌ぐ手練れとは、そもいかなる者であろうか。それではまるで――
「化物よ」
静香の思いを読み取ったかのように平手が呟いた。
「けもの――」
繰り返し、ふと静香は平手の面に浮かぶ笑いの細波に気づいた。それは楽しくてたまらぬような――
眼前の剣客の身裡で獣が身を起こしたような気がして、静香はひそかに畏れた。
●リプレイ本文
●影として
八葉車がゆく。
前後左右に見廻組隊士十人を従えて。
その後を――
所所楽柊(eb2919)は懐手に背を丸め、すたすたと歩む。
その様はどこか剽げているが、眼は油断なく岡田以蔵を含めた十剣党――仲間から人相は聞き終えている――らしき者を探っている。
「見廻組を出し抜けってか〜?」
面白い。平手という男のやりよう、そしてからくりも。
その斜め先。凛とした美しい娘がニヤリとした。新撰組十一番隊隊士、日下部早姫(eb1496)である。
「どうにも裏が有りそうな敵ですが‥‥さて、鬼が出るか、蛇が出るか」
呟きを返す。
そして、他方。
行列の後方につく形で歩く町人の中にも新撰組隊士はいた。
将門司(eb3393)。傍らをゆく美女はその妻、将門夕凪(eb3581)であった。
「見張りの上に見張りか‥‥なんや、ややこい仕事やなぁ〜」
ごちる司の唇を、つっと夕凪の指が押さえる。
その――傍から見ていると張倒してやりたくなる二人の様子にもさしたる感慨を抱くことなく、志士の和泉みなも(eb3834)はさらに後方にいた。
彼女にとって、本音をいえば源徳がどうなろうが知ったことではない。ないが、神皇様のおわしますこの京都で動乱が起こるのは困るのだ。江戸の大火は洒落ではないが、火種は火種のうちに摘み取らねばならぬ。
と、突然ぼうと竹薮を眺めやっていた一人の町人が八葉車を追い始めた。
笠を被り、その陰から覗く面は女と見紛うばかに秀麗で。
町人風と変じた志士、その名は――緋神一閥(ea9850)といった。
八葉車が陰陽寮に着いた頃、朱鳳陽平(eb1624)は賀茂陽憲の屋敷近くにいた。
襲撃に適した個所を探しての探索――帰宅間際ならば護る者の心底にも隙が生じ易いと判断してのことだ。その点については一閥も言及している。
「虎さん、どうだった?」
まるで虎がのそりと地を踏みしめているような――白峰虎太郎を見とめ、陽平が手をあげた。すると虎太郎は巌のような顔をごりっと頷かせて、一言。
「うむ」
「そうか」
陽平はニッと笑った。虎太郎ならば、別の見地を披露してくれるはずだ。
陽健、と名を呼ばれ、真神陽健(eb1787)は陰陽寮の門前で足をとめた。
見れば神代紅緒が手招きしている。顔を顰めると陽健はどすどすと足を踏み鳴らし近寄っていった。
「呼び捨てにすんなって云っただろ」
「なによ、子分のせに」
「何で、おいらが紅緒の子分なんだよー」
「わたしより背が低いからよ」
「いいかげんにしてください」
見かねてとめたのは、一閥だ。
「それより、賀茂陽憲とは面談できたのですか?」
「うん。しち面倒くさい手続きがあった上に、見廻組がうろうろしてて、少しの刻しか会えなかったけど」
応えて、陽健は口をへの字に曲げた。陽憲の尊大な態度を思い出したのだ。
「もったいぶって話してたけど、予定はね‥‥」
夕さりには、まだ少し。
賀茂陽憲屋敷近くの路上に備前響耶(eb3824)は端坐していた。
研師を装った彼の前には鍛冶の道具が一揃い。傍らには見本としての得物一振り。
そして、客。
湖面の如き静かな風情の――これは新撰組十一番隊士、静守宗風(eb2585)である。
「どうだ?」
「動きはない。‥‥が、見廻組と協力しあえぬとは、何とも面倒なことだな」
「政治とやらが絡むと面倒になるのは世の常だ。いざとなれば身を晒すのも止むをえんが」
苦い笑いを零すと振り返り、宗風は賀茂陽憲屋敷を見遣った。
同じく眼をあげた響耶の面はやや暗い。
「まともに門から襲撃をかけてくれれば、さすがに見廻組でも対処できようが‥‥そうでなければこちらがやらねばなるまい。宗風殿、どうだ?」
問うたのは、技量において人斬りを斬れるかということだ。下手人は平手造酒さえ顔色をなくしたほどの手練れである。
「‥相手はより強い方が殺り甲斐がある」
さらに笑う宗風の身から、この時蒼い炎のごとき闘気がゆらと立ち上った。
ほう、と溜息一つ。
紅緒はうっとりと夕凪を見つめる。噂に聞いてはいたが、これほど綺麗だとは‥‥
すでに日はとっぷりと暮れ。酒と蕎麦との引き換えに、賀茂陽憲に仕える小者からここ数日の予定を聞き出した哉生孤丈が立ち去った後のことである。
場所は賀茂陽憲屋敷裏。司が用意した蕎麦屋の屋台において。
連絡の為に陽健と共に訪れた紅緒であるが――。
やがて、紅緒の憧憬の眼差しは驚愕のそれと変わる。夕凪の前に三つ目の丼鉢がおかれるに及んで。
「嘘‥」
たじろぐ紅緒であるが、司は平然と笑って、
「月を見るとこうなるんや。心配はいらんで、まだたいして食うてへんから」
「嘘‥」
さらに身を退く紅緒。その間、夕凪はもの凄い勢いで蕎麦をかきこみ、司は黙々と蕎麦を茹で上げ――トンと、彼は夕凪の前に追加の蕎麦を三つ置いた。
「帰ったら美味いもん作ったるから、腹八分目にしとくんやで」
「嘘‥」
ずずっと後退った紅緒の腕に、無理やり引っ張ってきた陽健がしがみついた。
「紅緒、おいら、恐いよ」
じろっ。
無遠慮に所所楽苺は平手を見つめる。姉の柊に仕掛けを施した鎖分銅を手渡しにきたものであるが――。
「手数かけたな。もう帰っていいぜ」
「うん‥なのだ」
それでも、じろり。剣を志す者としては、やはり興味がある。新撰組組長という存在が。
その様子にくすりと微笑を頬に滲ませ、早姫は平手に眼を戻す。
「では、精霊魔法の線からは手繰れないと?」
「そうだ」
平手はほろりと頷く。
「志士にしろなんにしろ、皆がおめえやみなものように芯が通った奴ばかりじゃねえ。さらうには崩れた奴の数は多すぎる」
平手が応えた。
その時だ。
だだだ、と紅緒と陽健が駆け込んできた。化物を見た者のように顔色を青ざめさせて。
●策略の夜
「な、組長。この件‥政治絡みと見ますか?」
「そうさな」
手をとめると、平手は一升徳利をおき、陽平を見遣った。
三日目。お役ご免となる最後の夜。
陽平が見出した隠れ場所に潜んでの二人である。
「俺は政治絡みじゃねえと見る」
ふっと皮肉に笑い、
「おめえは気性が真っ直ぐだから分らねえかも知れねえが、政治ってのは冷たいもんよ。打算によって裏打ちされてやがる。が、この人斬りにはその冷たさがねえ。むしろ――」
そこまで云った時、平手の眼がぎらと光った。やや遅れて陽平も。
「感じるか?」
「はい」
陽平が頷く。
闇の中に蠢く気配。一つ、二つ。いや、それよりもっと多い。
かなりの人数が息を殺し、足音を殺し、にじり寄りつつある。
「何をしておる」
突如、声が。同時に闇の中からすいと現れる影が幾つか。
侍。身なりからして浪人者ではない。
愕然として宗風と響耶は身構えた。
見つからぬよう隠身には十分に気を配ったはず。それが何故――。
「うぬらこそ何をしている」
「何者だ」
刀の柄に手をかけ、逆に二人が問うた。
すると一人の侍の口元に一筋。浮いたものは薄い嘲笑だ。
「見廻組」
侍が名乗った。
「!」
雷にうたれたように一閥は瞠目した
一人潜んでいた彼の前にも、また数人の侍。名乗りしは、見廻組。
「闇に潜みおる怪しい奴。何者だ?」
「うっ」
返答に窮し、しかしすぐに詮無しと悟った一閥が口を開く。
「新撰組‥‥に協力する者です」
「新撰組? その新撰組に協力する者が、何故このような深更、賀茂殿の屋敷近くに潜んでおるのだ?」
「それは――新撰組も以前より賀茂様を陰乍らお護りしていたのです」
「護っていたと!?」
見廻組隊士が哄笑をあげた。
と――
それが合図ででもあったかのように、賀茂陽憲屋敷の表門木戸口が開き、わらわらと見廻組隊士が走り出てきた。そしてそのうちの一人――一際貫禄のある侍が、これは平手と陽平の潜むところへ。
「新撰組、だな。賀茂殿の命を狙い、今宵襲撃をかけようとしていたのだろうが、そうはいかぬ」
「待て」
慌てて制止の声をあげたのは陽平だ。
「俺達は賀茂陽憲の命を狙ってたんじゃねえ」
「後を尾行けまわし、屋敷外に潜んでおってよく云うわ」
「!」
はじかれたように平手と陽平が顔を見合わせた。
見廻組は知っている。十一番隊の動きをすべて。
「な、何故、その事を‥‥」
「ふっ」
見廻組隊士侍が笑った。嘲笑というより、むしろ憫笑を投げて、
「悪い事はできぬものよなぁ。うぬらが事、逐一報せてくれた者がおったのだ」
「なにっ!」
平手が呻いた。直後、その口からもれたのは――
しまった!
その時、夜の底を震わせるように苦鳴が響いた。
一斉に視線をはしらせたその場の全ての者は見た。一人の見廻組隊士の首筋に深々と小柄が突き刺さっているのを。
「おのれっ、手向かうか!」
無数の鞘走る音が夜気を切り裂き――
呼応するかのように十一番隊隊士と冒険者も刃を抜きあわせ――
そして、乱戦。が――
十一番隊が不利だ。
個々の技量は十一番隊隊士と冒険者の方が上であったろう。それに今は平手もいる。
しかし多勢に無勢。おまけに殺すつもりの見廻組と違い、十一番隊隊士と冒険者は峰を返している。技量以前の気迫において遅れをとり、さらに賀茂陽憲を護らねばという焦りがさらに足枷となり、十一番隊士と冒険者の動きを鈍らせている。
「ええい、どけ!」
見廻組隊士の一人を叩き伏せ、平手はぎりっと歯を軋らせた。
最も恐れていた陽動にまんまとかかろうとは――。
その平手の周囲では、同じく陽動に対応する為に控えていたはずの宗風、響耶までもが乱刃と斬り結んでいる。これではとても賀茂陽憲を護るどころではない。のみか、全滅の恐れすら――。
その時、平手の左の見廻組隊士が崩折れた。同時に右の見廻組隊士の振りかぶった刃が凍結する。その刃を封じているものは――おお、柊の鎖分銅だ!
「平手殿!」
「みなもか!」
呼ぶ声に、平手が返す。
彼は見とめていたのだ。左の見廻組隊士を撃ち倒したのが蒼き氷輪であることを。
そして、さらに。見廻組隊士の身が空を舞う。――天地を返す業こそ早姫の手練!
それでは夕凪が抜け出すことを得たか――
「よし、これなら――」
平手は見廻組の動揺を見てとった。十一番隊の増援に浮き足立っている。
「紅緒、司、みなも、夕凪は見廻組を抑えろ。早姫と陽平は俺と道をつくる。宗風と柊、響耶と一閥は陽憲を!」
「良いのですか、屋敷に乗り込んで」
すでに数条傷を負い、それでも冷静に一閥が問う。平手は血笑を返し、
「責任は俺がとる! 踏み込め!」
「おいらは?」
いつの間に混じったか。平手の傍らで陽健が。平手は左手で庇いつつ、
「宗風達とゆけ!」
叫んだ。
●化物
一歩踏み込み――
すぐに柊は異変を感じとった。
むっとする異様な臭いが鼻をうつ。濃い血臭だ。
宗風の眼は闇を貫き、見とめている。庭の片隅に這っている人影を。
駆けより、確かめてみて響耶は息をのんだ。
見廻組隊士らしき侍は胴を一薙ぎされている。恐るべきはその手練だ。眼を見開いた無表情の死に顔は、己が斬られたことすら気づかず事切れたのであるまいか。
その時、一閥の優れた聴覚はかすかな呻き声をとらえた。屋敷の内だ。
猛禽のように飛びたった彼らは戸を蹴破り、屋敷内に侵入した。そのまま疾風と変じて屋敷内を進み――見出した。また一人見廻組隊士が倒れている。いや、二人。
と――物音。何かが倒れて畳をうったものだ。
近い!
「無理はしても無茶はするな‥」
柊に一声かけ、宗風は先に駆けた。
刃をかわすと、早姫はすると見廻組隊士の腕に手をからめた。背後では、夕凪の革手袋をつけた拳が唸っている。
「平手様、おゆきください」
「組長、ここはお任せを!」
「すまぬ、早姫!」
刃を引っさげ、平手は地を蹴った。
影の刃が閃き、血煙りをあげて賀茂陽憲が倒れ伏した。悲鳴を発する間もなく。
が、影は再び刃をかざす。天か地か、迫る殺気に影の正確無比の斬撃にも髪の毛一筋ほどの乱れが生じ、止めを刺し損ねていたのだ。
と――
影が飛んだ。一瞬後、影のいた空間を分銅がついた鎖が疾りすぎ、次いで柊達が姿を見せた。
「逃さぬ」
襖障子を破って隣部屋に踊り込んだ影を追い、宗風が刃を構えた。
それきり――宗風ほどの剣客が身動きもならぬ。すでに刃を鞘におさめている影の、それは圧倒的な殺気の成せる業であった。
刹那、影が身を翻した。
そうと知り、響耶が足を踏み出し――平手の声が飛んだ。
「やめろ! かかれば、死ぬぞ」
「しかし――」
唇を噛む一閥であるが、すでに影は闇の彼方に。
肩を落す十一番隊士と冒険者であるが、しかし平手の表情は思いの外明るい。
「賀茂陽憲に止めを刺させなかっただけでも上出来だ。それよりも――」
何故、こうもあっさりとこちらの手の内が見透かされたのか?
疑念にけぶる眼を平手が闇の奥に据えた時、見廻組の乱入する足音が響いてきた。
そして――
化物の夜は終わった。