【この子の七つのお祝いに】前編
 |
■シリーズシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月16日〜03月21日
リプレイ公開日:2006年03月27日
|
●オープニング
あっ、と。
夜風にまぎれるような悲鳴を耳にした同心は帯にさした十手に手をかけた。
土埃をあげて駆けつけた先。一軒の商家の表戸が開いており、とろりと滲む行灯のものらしき黄色い光がもれている。
その中に染みのように浮かびあがるひとつの人影。
身なりは尻絡げした町人。顔に黒布を巻きつけ覆面としている。
そして、その手には――血塗られた刃。
「ぬっ」
うめき、同心は十手を閃かせて殺到した。
覆面の男の方も同心に気づいたらしく刃を振りかざす。
がっきと火花散らせ、十手と刃が噛み合った。
「手向かいするか!」
同心が叫んだ。
刹那、殺気が背をうち――ほとんど反射的に同心は己の刀を鞘走らせた。
それは無意識の一閃であるが、なまじ手練れの同心の一撃は死神のそれに等しく。肉と骨を断つ感触が刃から同心の手に伝わり、異様に大量の血潮が夜に躍り散った。
一息、二息。
どうと別の覆面の男が崩折れた。
夜に濡れて。
豪壮な屋敷が沈んでいる。
入り口に一人の男。身なりからして町人であるが、目付きが普通でない。それなりに荒事に慣れた者の眼だ。
と――
男は眼をむき、鳥のものに似た声をあげた。
その首には一条の紐。闇から飛んだそれが蛇のように男の首を締めあげているのだ。
「くっ‥‥」
男が苦鳴をあげた。
その時、ぐいと縄がひかれ男の身は闇の奥に。
数瞬後、男と入れ代わるようにして闇の中から初老の男が姿を現した。長い顔で、厚い唇をしている。
続いて浪人者らしき侍が姿を見せた。こちらは三十歳ほどで、剃刀で頬をこ削いだようなやつれた面相をしている。
「見張りは始末しやした」
「よし」
頷くと、浪人者はするりと身を入り口に滑り込ませた。
月が水面にゆれる小池を横目に、浪人者は山水庭を突っ切ると母屋の縁側に足をかけた。そのまま上がり込み、灯りのもれる部屋めざし廊下を進もうと――
突如、障子を破って刃が突き出された。
その切っ先を紙一重にかわし、逆に浪人者は抜刀した己の刃を障子に突きたてた。ぐわっという苦悶の声は、浪人者が刃を引き抜くに及んで鮮血と代わり障子を朱に染める。そして――
はっしと浪人者が眼をむけた先――他の障子戸が開き、数人の侍が抜刀しつつ廊下に歩み出て来た。
「――で、その時は目的を果たす前に賊が逃走したのですが」
あらましを話し終えると、札差である大関屋の手代と名乗る男は溜息を零した。
「しかし、その賊の始末をつけたわけではございません。このままでは何時ご隠居様が狙われるかもわかりませぬし、そうかといって用心棒の先生方も頼りにならず‥‥思案しておりましたところ、冒険者ぎるどなら何とかしてくれるかも知れぬと聞き及びまして。それでこちらにお願いにあがったわけで」
「なるほど」
冒険者ぎるどの手代は唸ると、広げていた帳面に視線をおとした。
「それで‥‥その賊とは何者で?」
「わかりません。ご隠居様も命を狙われるような覚えはないとおっしゃられて‥‥」
「ふうむ」
筆をとめると、再び手代は大きな声で唸った。
●リプレイ本文
鈍色の空。
それは地にも広がり。見えぬ道筋はまだ暗々と。
でも。
同じ空でも糺空(eb3886)は白道一筋だ。
「柳お姉ちゃん!」
子犬のように抱きつく。おっと、と抱き返した所所楽柳(eb2918)はきらりと覗いた歯を煌かせ、
「空、久しぶりだな。どうしていた?」
「お寺でおつとめしてた」
「そうか」
こたえたきり、柳は言葉もない。
江戸の大火。紅蓮の凶爪は空の肉親をも引き裂き、まだ年少の彼を天涯孤独の身の上と化させしめている。が、空は頓着せぬ。ただ嬉しげに、
「柳お姉ちゃんと一緒のお仕事だね〜」
「そうだな」
空の手をひいて、柳は己の隣に腰をおろさせる。わずかに身をずらせ、冒険者ぎるどの上がり框に空の場所をつくったのは濡れ光る髪を組紐で縛った優しげな娘。名を流道凛(ea8685)といい、外見とは似合わぬ居合の使い手である。
「ありがと」
「いいえ」
空に微笑み、それからすぐに凛は小首を傾げる。
「それはそうと‥‥此度の依頼の事ですけど。何もないのに命を狙われるなんて、変わった話ですね」
「確かに矛盾しているな」
冷然たる声音でこたえたは雷秦公迦陵(eb3273)だ。血色の瞳をさらに妖しく煌かせ、
「地獄の沙汰も金次第。札差ならば、当然恨みも多く買っているはずだ。心当たりならありすぎてわからぬというところが本音かも知れぬな。まあ何にしろ、そのご隠居様って野郎がとんだ狸であることは間違いあるまい」
「狸ですか‥‥」
頷いた若侍。氷結の眼をした蛟清十郎(eb3513)は冷めた顔つきで、
「おそらくは隠居とやら、何か知っているはずです。それに賊。ただの意趣返しとは思えません」
「では何と?」
「いや、まだそれは‥‥」
清十郎は問うた城山瑚月(eb3736)を見返し、言葉を途切れさせた。瑚月の方はといえば、やれやれと肩を竦めると、
「確かに賊の意図を知る事は重要です」
相手側に狙う理由があるなら、だだ斬り捨てたとしても問題の解決にはならぬ。うちよせる波を防ぐに似て、それは徒労。大本を断たねば、一度や二度襲撃を阻止したとしても結局は同じ事の繰り返しでしかありえない。
「ともかく」
それまで黙していた平山弥一郎(eb3534)がふっと眼を開けた。
「守るにせよどうするにせよ、情報が少な過ぎますね。情報を得て、先を読み手を打つ事で憂いを断つ事が出来るのですから」
「とはいえ、大関屋は口を割るまい」
と吐き捨てるかのように迦陵。
「だろうな。化けの皮がはがれるまで、狸は正体を明かさぬものよ」
と、皮肉に嗤う鎖堂一(eb4634)の両の眼はぴたりと閉じられている。その手には唯一の頼りとするかのように仕込杖が一振り。
若い頃眼病を患った為に光を失ったとは本人の弁だが、その身から時折立ち上る剣気はとても常人のものとは思えない。
と、一が顔をあげた。見えぬはずであるのに、立ちあがった迦陵に面をむける。
「おや、あんた、どこに行くつもりだ」
「冒険者は確かに何でも屋だが、金を積まれて走狗となるほど落ちぶれちゃいない。俺は忍びだ。影は影なりのやり方でやらせてもらうさ」
云い捨てる迦陵の姿は、気配とともにすぐに白日の中に溶け消えた。
●
「――こんにち、は‥‥」
ぺこりと頭を下げると、おずおずと空が柳の背に隠れた。
その前で脂ぎった老人が一人。ねっとりと絡みつくような視線を空に這わせ――大関屋隠居、久兵衛である。
「冒険者、じゃと」
「ああ」
柳は頷くと、
「護衛をやらせてもらうことになった。気に入りの楽士を使用人として雇った――というようにでもしてもらおうか。あと、守る以上はこの屋敷に住まわせてもらいたい」
「かまわぬ。部屋はくさるほどあるによって」
「それは助かります」
柳に代わって口辺をわずかに綻ばせたのは弥一郎である。彼にはめずらしく、見開いた眼に薄い光を宿らせつつ、
「ところでひとつ尋ねたい事があるのですが‥‥先の襲撃の際、どれほどの人死にが出たか。また用心棒はどこから雇われか。この二点について」
「それを訊いて、どうするのじゃ」
「いや、用心棒に紛れて賊が忍び入らぬかという用心のためです」
「ほお」
久兵衛の眼が細められた。
どうやらこたえるつもりはないらしく、剣呑な色を含んだ視線を弥一郎にそそぐ。弥一郎はといえば、その毒針の先のような凝視もどこ吹く風といった風情である。
と、咳きひとつ。続いて第四の冒険者、瑚月が口を開いた。
「では、俺からもお尋ねしたい。ご隠居殿が狙われている事、お身内の方達は御存知か」
「知っておる。それが、どうかしたか?」
「いや、札差という生業、なかなかに諍いの火種は燻っておりましょうから、もしご存知であるなら、当然自身にも用心棒を雇っておられるのかと案じ――」
「ふん」
久兵衛が口をゆがめた。
「そこの侍もそうじゃが、余計な心配はせぬが利口じゃ。お前達は黙って儂を守っておれば良い。それより――」
久兵衛は蛇のものに似た眼をじっと空に据え、
「その子――空といったか。その子も、この屋敷に住み込むのか」
「うん、そうだよ」
こそ。栗鼠が様子を窺うように、柳の背から顔半分を覗かせて空がこたえれば。
ニンマリと。久兵衛がどす黒い笑みを返した。
「鼻持ちならぬ奴」
奥座敷を出るなり、瑚月が苦々しげに呟いた。
人を人とも思わぬ為人。いけ好かない。
が、それよりも。
――やはりあの隠居、狙われる覚えがある。
そう瑚月は読んだ。即ち――身内の護衛に気を配らないという一事は、裏を返せば襲撃者の意図を察しているという証しでもある。
「確かにそうですが‥‥」
弥一郎にも不審の念は強い。
あの隠居の態度。灰色というより、どっぷりと黒に染まっている。
「しかし、善悪はともかく‥カラクリは解明してこそ、ですからね」
「そうだな」
肯首する柳の眉間に翳り。
空にむける久兵衛の目つき。嫌な予感がする。
●
「で、どーなんだ?」
どちらかといえば端正といえなくもない。それ故に抜き身の刃のような印象の面をむけて問う清十郎に、男は白けた顔で蕎麦につけた箸をとめた。
男の名は佐助。米問屋の手代だ。
「し、知らねえよ」
「知らぬはずがなかろう。米問屋と札差は何かと繋がりが深いはず」
「近頃大関屋に賊が押し入ったようなのだ。似たような事件が他にもなかったのか」
「知らねえったら」
清十郎の手を振り払い、佐助は事件の事を問うた一を睨みつけた。そのまま逃げるように席を立つと手代は蕎麦屋から姿を消した。見送る二人の冒険者のうち、最初に動いたのは一であった。
「勿体ねえ」
手代の残した猪口に手をのばす。その傍らでは清十郎が音もなく立ちあがっている。
「気をつけるんだぜ。俺達はどうやらとんだ貧乏籤を引いてしまったみたいだからな」
「貧乏籤を引くのは何時ものことだ」
応えると、ゆるりと酒をあおりはじめた一を残し、清十郎はもまた蕎麦屋を後にした。
●
「うーん」
頤に人差指をあて、凛はやや困惑した態だ。
何故か。
手に入らない。情報が、である。
久兵衛屋敷の者が口がかたいのは当然として、買出しの手伝いと称しての聞き込みにおいてもそれは同様で。
常ならば凛が微笑むだけで、砂糖に蟻が群がるが如く男どもがあつまり得たい者はすぐさま入手できるのだが、此度は少し様相が違う。どこにあってもあたりさわりのない返答が返ってくるだけだ。
あまり長居はできぬと凛が踵を返した時。
「娘さん」
「はい?」
声に振り向いた凛の前。初老の男が立っている。
長い顔に厚い唇。どこか剽げた面相だが、炯とした眼光はこの男の只ならぬ事を示している。
「わたくしに、何か?」
腰の霞刀にそろそろと手をのばしつつ、凛が問うた。
彼我の距離。この間合いであれば、彼女の抜刀術は容易に効力を発揮する。
「いえ、ね」
男がわずかに後退った。凛の間合いの外に。そして続けて、
「大関屋の事を調べていなさるようですが‥‥どちら様で?」
「はい‥‥」
一度躊躇い、凛は隠す事をやめた。
「冒険者です」
「冒険者?」
男の眼に怪訝な色が浮かんだ。そうと見てとり、しかし凛は何気ないふうを装い、
「大関屋さんについてお詳しいご様子ですが、恨んでいる人とかにお心当たりはございませんか?」
「恨み?」
男は陰鬱に笑った。
「それを知りたきゃ奉行所にでも行くことですね」
「奉行所?」
凛の柳眉がひそめられた。
奉行所には確か――
●
奉行所には清十郎、弥一郎、瑚月がいた。
他に札差を狙う類似な事件がないか。襲撃時に出た怪我人はどうなったか。
町では拾いきれぬ噂以上のもの。具体的な絵図の断片を求めての事であったのだが‥‥ここでもまたあたりは同じだ。
見えぬ糸にからめとられているような。あるいは泥の中でもがいているような。苛立ちにとらわれながらも、さらに瑚月はおす。
「盗賊というわけではなく、大関屋にかかわる小さな諍いや町人等の刃傷沙汰も含めて知りたいのです。また何処ぞの御家中などが絡んでいるような事があれば――」
「だから知らんと云っているだろう」
対応に出た同心はにべもない。その様子は面倒であるというより、触れたくないものに蓋をするかのようで。
「では、そろそろお暇仕ろうか」
埒があかぬと弥一郎が目配せすれば、不承不承清十郎と瑚月が頷いた。
「あの同心、何か知っていますね」
「そのようですが‥‥しかし、今の我らにそれを引き出す術はありません」
重い溜息を瑚月に返し、弥一郎は黙りこくったまま歩を進める清十郎に眼を転じた。
「どうしました?」
「いや――」
はっとして清十郎は足をとめた。が、すぐに再び足を踏み出すと、
「ふと考えていたのです。あの魔性の者達の事を」
「ははあ」
弥一郎もまた慨嘆する。
彼と清十郎との縁は不思議に深く、清十郎の云うあの魔性の者達については弥一郎も心覚えがあったのだ。
平織虎長暗殺、江戸大火。そのすべての背後で暗躍する魔影。刃すら通じぬその者の一人の名は蔵人と知れているが――
「が、奴らではない。奴らなら、こんな手は使わない」
一人合点すると、何かから逃れようとするかのように清十郎は足を速めた。その後姿を眺め遣りつつ、弥一郎は薄墨のような不安が胸に去来するのを覚えた。
魔を追う若者の身が、逆に魔に魅入られているかのように思われて。
●
ちょっと恐い。
でも頑張らなきゃ。
そう思い定めた空こそ健気。とっとと勝手の方を手伝うかと見えれば、次には用心棒達にお茶を運ぶ。
「あっ、お菓子忘れちゃった」
頭をかくと、えいっと一声。空のかざした掌の下に饅頭が現出した。
「わ、わっぱ。い、今のは何だ?」
さすがに愕然としたものか、用心棒の一人が掠れた声で問うた。
その時――
「誰ぞ、いるか」
奥から響く。久兵衛の声だ。
「そこに空がいるようじゃの。ここに連れて来い」
「承知」
用心棒のうち、最も殺伐とした雰囲気をまといつかせた浪人――江川左衛門が立ちあがり、空の手を掴んだ。
「来い」
同じ刻。
柳の姿は庭先にあった。屋敷全体を見回り、今は庭の立地を調べているところである。
すでに弥一郎とともに用心棒との対面を済ませ、彼らの技量の程は見分し終えていた。そこから得た結論は――襲撃者、侮るべからず。
そして、また同じ刻。
迦陵の姿は埃臭い闇の中にあった。
そこは屋敷の天井裏。ちょうど久兵衛のいる奥座敷の真上である。
日のあるうち、彼は商人仲間等に聞き込みをかけていたのだが、誰もがあまり拘わりあいになるのを避けたがっているという印象を得たのみで、他の冒険者同様さしたる情報を手にすることはできず――よって直に久兵衛にあたることにしたという訳である。勿論、影からではあったが。
●
「こっちへ来い」
久兵衛が差し招いた。
空はわずかに戸惑ったが、意を決したように久兵衛の元へとことこと近寄っていく。
「ここに座れ」
「う、うん」
久兵衛に抱かれるように空が腰をおろした。その様子は一見、仲睦まじい孫と祖父のようであるが。
しばらくして空が身を強張らせた。最初、空の頭を優しく撫でていた久兵衛の手が、やがて空の身体をいやらしくまさぐりはじめたからである。
たまらず空が潤んだ瞳をあげた。
「お、おじちゃんは何で狙われてるの?」
問う。
それは久兵衛の意識をそらす意味もあるが、この場にあっても柳の役にたちたいという彼の可憐なまでの想いに触発された行動で。
が、久兵衛はニヤリと口の端を吊りあげたのみで。さらに手を蛇の舌のように空の身に這わせる。
「じっとしておれ。金ならいくらでもやるほどに」
「や、やめて」
空の口から悲鳴に似た喘ぎがもれた。
ぎりっ。
歯が軋り鳴った。
節穴から部屋内部を見つめる迦陵は、天井板をぶち破って飛び出そうとする己を必死になって抑えつけた。
それは彼の人並みはずれて強靭な自制心の賜物であるが。が、同時に彼は己の忍びとしての性をこの時ほど呪ったことはない。
眼下。久兵衛が空に何をしかけているのかは明白だ。そうと知り、しかし忍びは動くことはならぬ。心はいつも刃の下。殺すことこそ忍びの本懐。されど――
握り締めた迦陵の手の爪が、肉を破り血を滴らせ――。
刹那。
障子戸がわずかに割れ、すうと差し込まれた仕込みが戸を開け放っていく。
「な、何じゃ、お前は!?」
「按摩で」
こたえると、仕込みの主――一はするすると歩み寄り、空の懐に差し入れた久兵衛の手をがっしと掴んだ。
「ご隠居。屋敷のものものしさといい、あんた、ただの隠居じゃねぇだろ」
ぐい、と。一は空の身から久兵衛の手を引きはがした。
「俺の按摩も特別だ。楽しんでくれ」
寝静まった屋敷の内。
行灯の灯りに濡れて、江川左衛門が嘲るように笑った。
「按摩如きに邪魔されて久兵衛殿がおとなしく引きさがるとは」
「ふん。使えるうちだけのことじゃ。岡田源太郎を始末すれば、もはや用無し。あの空という童、攫ってでも儂のものとするわ」
呪うが如く。そう宣言した久兵衛の面は悪鬼のようにてらてらと赤く――。
が、彼らは知らぬ。ひたすら穏忍に徹した炎眼の忍びが、彼らの唇の動きを読んでいることに。
「どうした?」
「ううん」
何でもない、と。こたえる空であるが、その身は正直だ。
ともにある寝屋。柳の手の中で、空の身体は瘧にかかったように震えている。
何があった、空?
柳は己の不安が的中したことを確信した。