【水神の村】予兆
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■シリーズシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月15日〜08月20日
リプレイ公開日:2007年08月24日
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●オープニング
墨を流したようなとろりとした暗闇の中。
苔のにおいの混じった湿った空気が漂っている。
そこに――
いた。
●
「依頼が出ております」
云って、冒険者ギルドの手代は依頼書を掲げて見せた。
「雄太――」
ちらと、手代は傍らに立ち尽くしている薄汚れた童を見遣り、それから続けた。
「この子の姉が行方知れずとなりました。おそらくは人攫いか何かだとは思うのですが、どなたか、村まで赴いてはいただけませんか」
「‥‥」
数人の冒険者が視線を向けたが、それだけだ。
依頼の報酬は鐚銭のみ。そんな端金で動くのは刻と労力の無駄といわんばかりの風情である。
そうと見て取り、手代は申し訳なさそうに童を見下ろした。
その時――
一陣の疾風が吹いた。
その風は手代の手からひらと依頼書を奪い取り――まるで意志あるかのように空を舞ったそれは、やがてのびた手についと掴まれた。
「あっ」
愕然とした手代の前、依頼書を掴んだ手の主は、ふむと書面を覗き込んでいる。
鈴懸に結袈裟。身形は修験者だ。そして、その面は女のように、いや、女以上に美しく。
鬼一法眼である。
そして、もう一人。
鬼一法眼の傍に、これは十三、四ほどの年頃の少女が一人。こちらは町娘風の身形をしている。
「あなたは‥‥鬼一法眼様!」
愕然として手代は声をあげた。
先の依頼で、手代は鬼一法眼の顔を知っている。そして、その人をくったような態度も。
「久しぶりだな」
鬼一法眼が笑った。手代は、どういうわけだか頬に紅を散らし、
「あの‥‥ありがとうございます。それをお返しくださいませ」
「いや」
薄く笑うと、鬼一法眼は小さく頭をふった。
「これは俺がもらった」
「えっ」
手代は息をひいた。
「それはどういう――」
「この依頼は俺が買い取ろうというのだ。俺が金を出せば、受ける冒険者もいるだろう」
「しかし‥‥」
手代には言葉もない。他人の依頼に金を出そうなどとは酔狂が過ぎるのではないか。
「それは真実のことでございますか」
「ああ」
肯くと、鬼一法眼は童の前にしゃがみこんだ。
「俺は名を鬼一法眼という。お前は?」
「おら、雄太」
「雄太か。いい名だ」
立ち上がると、若者――鬼一法眼は再び手代に顔を振り向けた。
「金を出すのは良いが、ひとつ条件がある。この娘――姫子を同行させてほしい」
「同行? それだけでございますか?」
「ああ。姫子を守る必要はない。ただ連れて行き、全てを見聞させること。それだけだ」
「はぁ」
手代は曖昧な答を返した。
牛頭鬼の依頼の時も、鬼一法眼は依頼料を肩代わりした。手代は、その時の事を思い出したのだ。
酔狂者の考えることは訳がわからない。不思議そうに手代が見遣ったその先――姫子と呼ばれた少女がふうわりと笑っていた。
●リプレイ本文
●
「こう暑いと水神も動きたくなくなるやもしれん。神とて感情もあるしの」
そう云う御影祐衣の額には玉の汗が浮かんでいる。それでいて、その立ち居振る舞いに乱れは一切なく。
さすがは、と感心しきりなのは祐衣の友人でもある天乃雷慎(ea2989)である。
と、雷慎が視線を転じた。
その先にいるのは、どこかふうわりとした雰囲気をまとわせた少女だ。名は確か姫子といった。
何なのか。雷慎は気になって仕方ない。
その姫子の事を、もう一人心にとめている者がいた。エジプト生まれの侍、レイナス・フォルスティン(ea9885)である。
彼は切れ長の眼をじっと姫子に向けていた。
抱いた女の数は両手の指の数を遥かに上回るレイナスである。そのレイナスをもってして、姫子という少女は掴みどころがない。
いや――
レイナスは慌ててかぶりを振った。今は姫子の正体を探る事より、雄太の姉を探し出す事の方が先決だ。
無意識的に、レイナスは呟いていた。
「人攫いだろうか‥‥」
「そうともいえないのよね」
白桃のような胸元に浮いた汗がどこか淫らで。首を傾げたのはステラ・デュナミス(eb2099)。火水両極の呪を操るウィザードだ。
「子供一人で二日の距離を歩いて依頼に‥‥何か事情がありそうなのよね」
「ああ」
木賊崔軌(ea0592)が肯いた。
飄然と見え、彼は周到だ。雄太に聞こえぬように配慮しながら、彼は続けた。
「親が居て雄太一人が江戸に出るってのもな‥もし結花が親代わりとしても村長辺りがまず動くだろ? どうにも妙な引っかかりが‥な。只の人攫いを疑うにはちぃとばかり――」
ふっと苦笑し、俺も擦れたぜ、と崔軌は自嘲する。
が、シグマリル(eb5073)は笑わない。湖面を思わせる蒼い瞳をきらりと光らせ、
「いや、俺も引っかかるものがあった」
と、云った。
「俺も童である雄太が一人で江戸まで出て、鐚銭で依頼を出した経緯が納得できない。村人の協力、という一点が欠けていないだろうか?」
「村人の協力、のう」
ふうむ、と異形の者が腕を組んだ。河童の磯城弥魁厳(eb5249)だ。彼もまた一人佇む雄太を痛ましげに見遣りながら、
「確かに解せん。大人が一人くらいついてきてもおかしくはなかろうからな」
「そうよ。仮にお姉さんが保護者代わりにしても、まわりの大人が手を貸さないっていうのも変だもの」
ステラが云う。
「その通りだ」
シグマリルの瞳の光がさらに強まった。
「もしやすると、雄太は村人に内緒で江戸まで出て依頼を出したのかもしれん。それならそれで、何故に内緒にする必要があったのかという新たな疑念が出てくるのだがな」
「‥‥」
冒険者達には声もない。
単純な人攫いであると見えたこの一件。その裏に蠢いているどす黒い影のようなものを、鋭敏な冒険者の感覚はこの時感じ取りはじめていたのかもしれない。
と――
大笑が、凍りついたその場の空気を打ち砕いた。一斉に振り向かれた冒険者の視線の先、一人の巨漢がげらげらと笑っている。
虎魔慶牙(ea7767)。その名の通り、虎を思わせる獰猛な男だ。
「何が可笑しい?」
問うたのは八人目の冒険者で。その超然とした相貌は、どこか人間離れすらしている――小野麻鳥(eb1833)である。
すると慶牙はふんと口をゆがませ、
「何だか面白くなりそうだからよ」
「面白くなりそうだ?」
「ああ」
虎が牙をむいたかのように、慶牙の笑みが深くなった。楽しくてたまらぬかのように。
「鬼が出るか蛇が出るか。‥‥いや、出るのはもっと危ねえものかもしれねえな」
●
恐がるのではないか。――そう魁厳は危惧したものだが、子供は珍しいものが好きだ。よほど河童という存在が珍しいのか、実際のところ、雄太はしょちゅう魁厳にまとわりつくことになる。
ステラはほっと胸を撫で下ろした。姉の身を心配し、当初消え入りそうであった雄太の風情が、魁厳への興味で少しは救われたかに見えたからである。
「雄太くん、ちょっと訊きたい事があるんだけど」
ステラが問うと、焚き火の傍で雄太は眼をぱちくりさせた。
「何?」
「お姉さんの事。行方知れずになったって事みたいだけど」
「うん」
雄太がこくりと肯いた。
「フキ取りに山に行ったきり、帰ってこなくなった」
「ちょっと待って」
雷慎が口を挟んだ。
「お姉さんはフキ取りに行って、そのまま帰ってこなかったのかな。他にどこかに行くとか云ってなかった?」
「うん」
雄太が再びこくりと肯いた。するとステラが、そういう行方知れずは村では度々ある事なのか、と問うた。
「‥‥」
雄太が小首を傾げた。
子供には難しい質問だったか。そうステラが思った時だ。雄太が口を開いた。
「姉ちゃんに叱られた。暗くなるまで遊んでいるとイヒカ様に連れていかれるって」
「イヒカ?」
冒険者達はさっと眼を見交わした。
イヒカ? 連れていかれる?
決して聞き捨てにはできぬ言葉である。
「そのイヒカとは、何だ?」
押し殺した声音でシグマリルが問うた。それに対し、雄太は再び小首を傾げたのみである。
「‥‥ねえ」
ややあって、雄太がステラの顔を覗きこんだ。
「お姉ちゃん、帰ってくるかな?」
「雄太くん」
思わずステラは雄太を豊かな胸で抱きしめていた。雄太の眼に、声に、たまらぬ怯えを感じ取ったからだ。おそらく雄太は泣き出したいのを懸命に堪えているのだろう。
その時、雄太の髪をくしゃりと撫でつけた者がいる。――雷慎だ。
雷慎はにっと微笑むと、
「おねーちゃん達が何とかして見せるから、心配しないで♪」
と、告げた。
約束。
その重みを十分に知る雷慎の言葉は夜を震わせ、雄太の魂をも震わせ――
雄太は唇をぎゅっと噛み締め――その眼から涙が溢れ出した。そしてステラの胸に顔を埋め、嗚咽をもらしはじめた。
その雄太の髪を引っ張る者がいる。驚いて顔をあげた雄太の前に浮かぶのは、羽の生えた小さな男の子で。
雄太の眼が輝いた。
「ガキはあれで良いんだ」
水無月と遊ぶ雄太を見遣りながら、慶牙はふっと笑った。素直に笑い、素直に泣く。子供に堪え忍ばせる事など、決してこの世にあってはならぬのだ。
その時、慶牙の脳裡を二つの面影がよぎった。暗殺者として育て上げられた、哀しき宿命の二人。
「奴ら、どれほどの事に忍んできたのか‥‥」
確かさやかといったなあ、と呟き、慶牙はぴんと雄太の依頼料である鐚銭を指ではじいた。それは夜の空にはねあがり――
ぴしり、と手で掴みとめた者がいる。
崔軌。彼は月の光のように眼を光らせ云った。
「こいつは失くしちゃいけねえ」
崔軌は手を広げ、鐚銭に視線を落とした。
大人にとっては大して意味のない代物だ。が、雄太にとって、それはどれほど貴重なものであるか。
鬼一法眼よ、あんたは間違ってるぜ。崔軌は思う。
俺達は銭の為に命をはるんじゃねえ。それに宿る想いの為に命をはるんだ。
ふふん、と。
あるかなしかの笑みをうかべ、冒険者達のやりとりを耳に、麻鳥は一人わずかに顎をあげた。
その透徹した瞳に映っているものは何か。ただ麻鳥は闇に半身を隠し――。
●
わからない。
村長の返答は一言で云ってしまえばそういうことだ。麻鳥の問いにも、のらりくらりとした態度で要領を得ない。が、結花の失踪に対して村人が何もしてくれなかったという雄太の言から、その村長の態度は予想の範疇であった。
「なんせ結花がどのような理由で行方知れずとなったかわからぬものでな。それで手をこまねいているというところなのじゃ」
村長は云った。皺深い顔にはほとんど表情はない。
「なるほど」
麻鳥がこたえた。が、村長の面に据えた氷の視線は動かさず、
「ところで、この村に神隠しが起こった事はあるか?」
「神隠し?」
「そう。イヒカという名を聞いた事があるが」
「何?」
ぎろり、と。初めて村長の面に表情が動いた。
「イヒカなど聞いた事もない」
「ふーん」
雷慎が声をもらした。そしてニッと笑うと勢い良く立ち上がる。
「じゃあ、もうここには用はないね。あとは僕達で勝手にやらせてもらうよ」
「では」
と、麻鳥もまた立ち上がり――ふっと足をとめた。
「もう一つ尋ねたい事がある。近くに水浴びできそうな場所はあるか?」
「近くに小川があるが、この暑さで枯れておる」
「なるほど。確かに水神が動きたくなる村のようだ」
麻鳥の面に冷笑がよぎった。
村長宅を出たところ。じりじりと照りつける陽光の下で雷慎は麻鳥の耳元に口を近寄せた。
「そうとうの狸だよね、あの村長」
「そうだな」
答える麻鳥の声音はあくまでも冷徹だ。そして麻鳥は村長宅までついてきた姫子の方を振り向いた。
「姫子‥‥くるか?」
問うた。が――
麻鳥の眼がいぶかしげに細められている。
彼の視線の先、確かにいたはずの姫子の姿はなく。代わりに――
ひらり、ひらり、と。
一匹の蝶が舞っていた。
●
「わからん」
村人が答えた。
これで何度目だろう。ステラの口から大きな溜息が零れた。
村人の反応はいやに冷淡だ。いや、冷たいというより、どこか諦観のような雰囲気が感じられた。
何か知っている。ステラは思った。
時をおき、先ほど尋ねた村人の後を追うべく、ステラは歩を進めた。ステラとの接触の後、村人がどのような行動を起こすか知りたかったからだ。
が、ステラは慌てて足をとめた。何故か――
視線。
そう、ステラは視線を感じたのだ。おそらくは村人のものらしい視線を。
――どうやら杞憂じゃ済まなくなったようね。
待ち受ける暗鬱な結末を予期し、ステラの海色の瞳が暗く翳った。
●
舞う。
風の中、透明の羽を広げて飛翔する一尺ほどの女の子の姿はまさにそうとしか言い表せず――それは真夏の昼下がりに現出した夢のようだ。
やがて小妖精は木漏れ日に消えるかのように、すうと地に――一人の男の肩に降り立った。
「すまなかったな、去夜」
小妖精――去夜を労うと、男――崔軌はニッと笑みを浮かべた。
「雷坊、狙い通り、来たぜ」
「そうだね」
肯いた雷慎の眼前、木陰からひょっこりと顔を覗かせている幾つかの顔がある。
子供だ。村の子供達が去夜に引き寄せられて来たのであった。
「よお、坊主達」
崔軌が手をあげた。
「どうやら去夜を見られちまったようだな。――おし、坊主らだけの秘密とおっちゃんの秘密教えっこしねぇか?」
「‥‥秘密?」
木陰から子供達が姿を見せた。
「そうだ。但し‥大人にゃ内緒だ」
崔軌が片目を瞑ってみせた。
後は雷慎の独壇場だ。
去夜が飛び回り、それを雷慎が子供達と一緒に追いかける。ひとしきり汗とはしゃぐ声が飛びはねた後――
「ねえ」
子供達を前に、雷慎が問いかけた。
「結花さん、皆知ってるよね」
「うん」
子供達が肯いた。
「その結花さん、最近どこかで見かけなかったかな? いなくなっちゃったらしいんだけど」
「イヒカ様に連れていかれちゃったんだぜ」
腕白そうな男の子が口を開いた。
「イヒカ様?」
「そう。父ちゃんが母ちゃんと話してた。結花姉ちゃんはイヒカ様に連れていかれちゃったんだって。でもこれは内緒だから――あっ!」
慌てて男の子 が口を押さえた。すると雷慎は大丈夫とばかりに微笑んで、
「心配しないで。大人には話さないから」
と安心させ、
「で、そのイヒカ様って何なのかな?」
「知らない」
男の子が答えた。すると別の男の子が身を乗り出して、
「おいら、知ってるよ。この村の井戸が枯れないのはイヒカ様のおかげなんだ」
「井戸!?」
はっとして崔軌と雷慎は顔を見合わせた。
●
ぎくりとしてレイナスは聖剣アルマスの柄に手をかけた。彼の知覚は巨大な肉圧をとらえている。
熊か? いや――
樹間からぬっと姿を見せたのは熊ではなく虎――慶牙であった。
「おっと、物騒なモン抜かないでくれよ」
「そっちこそ、脅かすな」
レイナスはアルマスの柄から手をはなすと、
「どうだ。何か見つかったか?」
と問うた。すると慶牙は首筋の汗を拭いながらかぶりを振った。
「だめだな。村周辺を歩き回ってみたが、めぼしいものは何も。まあ井戸がたくさんあったんで、喉が渇かなくてすんだのがせめてもの救いってとこだな」
「井戸か‥‥」
レイナスが呟いた。
その時、慶牙とレイナスの眼前をひらりと蝶が舞って過ぎた。妙な違和感にとらえられて慶牙とレイナスが眼を瞬いた一瞬後の事である。
草薮を分けて、一つの影が姿を現した。それは麻鳥と共にいるはずの――姫子であった。
慶牙とレイナスが掴みかけた事実に気づいている者がもう一人いた。魁厳である。
彼は最初、二匹の忍犬――ナラヅケとヤツハシをつかい、結花の匂いを追った。が、臭跡が途中で途切れたのだろう、その追跡行は長くは続かず――よって魁厳は雄太を己の身にくくりつけ、大凧を飛ばせたのであるが。
村全体を空中から見渡し、魁厳はすぐに異常な事に気がついた。
井戸の数。
「‥‥ずいぶんと多いのう」
思わず声をもらす魁厳の琥珀色の眼が、この時きらりと光った。
村近くの林付近。そこに一際巨大な井戸が見える。
「雄太殿、あれは何じゃ?」
「氷井戸」
「氷‥‥井戸?」
「うん。長様じゃない者はいっちゃいけないんだよ」
●
むくり、と。
慶牙は身を起こした。
雄太の家。結花と二人暮らしである故、今、その家の住人は雄太一人である。
隣で眠っている雄太を見下ろし、それから慶牙は改めて感覚の糸をのばした。
触れるものは虫の声、風のそよぎ――不穏なものはない。
と――
慶牙の眼が剣呑な光をおびた。
彼は感覚はとらえたのだ。異常な風の流れを。
そう。
確かに風は疾った。村を吹きぬけて。
それは時に景色に溶け込み、時に陰に潜み、日中ひたすら陰から村人の様子を窺っていた――シグマリルである。
――村人の幾人かは、村の者に接触する冒険者をそれとなく監視し、その後村長まで注進に及んでいる。動くとなれば‥‥
そう見込み、シグマリルが張っていると――
深更。村長が動いた。
闇の中、シグマリルは音もなく村長を追った。そして幾許か――。
木陰に身を伏せると、シグマリルはパラのマントで身を包んだ。村長が足をとめたのを見とめた故だ。そこはシグマリルには知る由もないが、魁厳が見出した氷井戸の前であった。
――ここは?
そうシグマリルが思った時だ。村長の口から声が流れ出した。
低く、高く。微妙な韻律のついたその声音は、まるで何かの呪のようであった。
無論、その呪が何を意味しているかシグマリルにはわからない。ただ、彼はその呪の中に何度も出てくる一つの言葉がある事に気づいた。それは――
イヒカ!
その刹那の事である。シグマリルはびくりと身を強張らせた。
彼の獣並みの感覚に突き刺さるものがある。息すらつまる超濃密な瘴気。
カムイラメトクであるシグマリルなればこそわかる――
それは神の息吹であった。