【ドラゴン・インパクト】 眠れる竜
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■シリーズシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 92 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月03日〜04月11日
リプレイ公開日:2007年04月14日
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●オープニング
「あのぉ、それで、どうして私はここに呼ばれたんでしょうか‥‥?」
冒険者ギルドの一室。そこにある椅子に座っているのはキエフにある貴族の娘、メリア・ベレンテレールだった。
突然の冒険者ギルドからの招きに、常にマイペースなメリアも少なからず困惑しているようである。
「一月ほど前になるんだけど‥‥‥」
メリアの前に座るギルドの女性職員がメリアへ話を切り出す。この二人は、依頼を通じてもう何度か顔を合わせている。
「一匹のクエイクドラゴンによって村が一つ、無くなったわ」
そのドラゴンに対しても冒険者ギルドは事態を収めるための依頼を出したが、結果は‥‥このギルド職員の口にする通りである。
「その事件を受けて、今現在ギルドが把握している他のドラゴン‥‥つまり、しばらく前にあなたが遭遇したボォルケイドドラゴンに対しても警戒を強める、と言う結論が出たの」
「そうなんですか‥‥」
メリアは以前、そこにドラゴンがいるかもしれない、と聞いてメリア自身が冒険者の協力を得て探索に出かけ、幸か不幸か本当にドラゴンを発見してしまった。その時はただ遠巻きにドラゴンを眺めるだけに止まり、そのドラゴンは今もその場所にいる可能性が高い。
「えーと、それで、結局私は何のために‥‥?」
メリアは剣が振れる訳でも魔法が使える訳でもない、いたって普通の一般人である。‥‥頭の中は、一般的とは言い難いかもしれないが。ともかく、ドラゴンと対峙して何かが出来ると言うことは無い。
「貴女には、冒険者たちを洞窟の入り口まで案内してもらいたいの」
ボォルケイドドラゴンを発見したのはとある洞窟の奥であり、メリアと冒険者の一行が以前に洞窟へ向かった時は洞窟そのものを発見するのにもそれなりの手間と時間を使っている。洞窟の入り口の場所を知っている者がいるのであれば、その分の労力を抑えることが出来るだろう。
「なるほど〜、そういう事ですか」
ようやく納得した様子でメリア。胸の内の引っ掛かりが無くなり、いつもの様子に落ち着く。
「そういう事でしたら、私も協力します」
「そう、良かったわ‥‥」
メリアの快諾に、ギルドの職員も一安心、と言ったところだろうか。
「今回の依頼内容はドラゴンの様子を確認するだけだから。今回の報告次第で、今後の対応も決まるわね‥‥それでは、よろしくお願いします」
「はい、任せてください♪」
最後に口調を正して軽く頭を下げるギルド職員に、楽しげな口調を返すメリアだった。
●リプレイ本文
木々の生い茂る山を分け進む冒険者たち。
道などないその行程は、おおまかな方角と微かな獣道、そして案内人であるメリア・ベレンテレール(ez1116)の記憶を元に進められ‥‥
「えーと、次はこっちですね!」
「そっちじゃないって、まったく逆だよ‥‥」
記憶を元に進められる、はずだった。
自信満々に指を刺すメリアの道案内を、以前メリアと一緒に洞窟へ行ったエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)がすぐさま訂正し、一行はエリヴィラの言葉に従いメリアの指差した方と真逆の方向に歩みを進める。
「エリヴィラが居てくれて助かったな‥‥」
レイア・アローネ(eb8106)が心からそう呟くと、他の者も揃って大きくうなずく。
「案内されて、逆に洞窟から遠のきそうで御座るからなぁ」
うなずきながら磧箭(eb5634)がしみじみと。
「ここまで来るまでも、洞窟に関して何も情報が得られなかったからな」
「この辺りは人も少なくて、洞窟の存在自体がまったく知られていないみたいです」
マクシーム・ボスホロフ(eb7876)の言葉に、エリヴィラが答える。
「それで案内人がこれでは‥‥期間全部を使っても洞窟の入り口にたどり着けたか怪しいものだ」
エリヴィラが居なければ割と現実的に起こりえそうな結果を想像し、レミィ・エル(ea8991)。
メリアは確かに一度洞窟まで行っているが、慣れてない山の一点を正確に案内するには全く経験が足りなかったようである。
「今のところ、ドラゴンが通ったような痕跡は見当たりませんね」
ウォルター・バイエルライン(ea9344)が一瞬足を止め辺りを見回し、ドラゴンの痕跡を探す。
「まだ洞窟の奥でお休みしているんでしょうかー?」
「だと良いんだけどね、下手に外をうろつかれるよりは」
と、並んで歩くメリアとエリヴィラが言葉を交わしながら、
「ドラゴン、か」
それを後ろから話を聞いていたレミィがなにやら昔を懐かしむように呟いた。
「ドラゴンと渡り合えると言うほど思い上がっては居ないつもりだが、やはり一目見てみたいものだ」
ドラゴン、と言う生き物はどこか他のモンスターとは違うものがあるのか、レイアは憧れに近い感情も交えてそう意気込む。
「む、アレが入り口で御座るかな?」
話をしながら歩くうちに到着したらしく、磧が前方に洞窟の入り口らしきものを発見した。
「思ったよりも大きいな‥‥」
ドラゴンでも簡単に出入りできそうな入り口を見てマクシーム。
「入り口付近にも、特に目立った痕跡はありませんね」
「まだ洞窟の中に居る、と言うことでしょうか」
改めて洞窟の入り口を観察するエリヴィラとウォルター。その言葉通り、入り口の辺りを見ても特に木が倒れたりと言った痕跡は見当たらない。
「ここまで来たら実際に確かめるしかないだろう」
レミィの言葉に、さっそく中へ‥‥と行きたい所ではあったが、そこはドラゴンが居るかもしれない洞窟。洞窟を前に冒険者達はしばし休憩を取り、準備を整えるのであった。
「では行くとしよう」
「お願いします」
洞窟の入り口で休息を取った冒険者達。偵察として先行する役をレミィとマクシームが担当するため、まずはその二人が行動を開始した。
「気をつけて下さいねぇ〜」
「う、うむ」
気力も整ったところに笑顔で緊迫感ナシのメリアの見送りを受け、危うく気が抜けそうになるが、それは何とかこらえるレミィとマクシームだった。
「前に来たときは洞窟にはドラゴン以外に何も居なかったで御座るよな?」
洞窟に入っていく二人の背を見送りながら、磧がメリアとエリヴィラに尋ねる。
「入り口近くにラージバットが数体いたくらい‥‥でした」
「大きい蝙蝠さんですね」
それに二人が答え、
「ラージバットか‥‥面倒だな」
そう言うレイアだが、ラージバット自体はたいした脅威ではない。ただ空のモノに対する直接的な攻撃手段がない者にとっては空を飛ぶものは強弱に関わらず『面倒』であり、レイアの言葉も純粋な意味での『面倒』である。
「居ても少しだけだと思いますから、何とかなりますよ」
経験者談。
「それはさて置き、そろそろ頃合でしょうか?」
話を遮りウォルター。後発組みも、そろそろ出発の時間である。
「ならそろそろ行くとするか」
「あら? お二人が帰ってきましたよ?」
いざ出発、という所でメリアが洞窟から出てくる二つの人影を見つけ声を上げた。
「何かあったで御座るかな」
「戻って来た‥‥という事はそういう事でしょう」
話が出来る距離まで歩み寄り、レミィとマクシームが皆に中の様子を伝える。
「ラージバットがいたな」
簡潔にレミィが回答。
「今回もですか‥‥」
「まあ、飛んでいても少数なら何とかなるで御座るよ」
「そうだな。で、数はどのくらいだ?」
先ほどの会話の流れから後発組。そして数を尋ねられた先行組みの回答はと言うと、
「ざっと、十五体ほどといったところか」
『‥‥‥‥』
「わぁ〜、今回はたくさん居るんですね、蝙蝠さん」
マクシームの返した厳しい現実に、気まずく沈黙する後発組だった(メリア一名を除く)
「良いお天気ですね‥‥」
木々の隙間から垣間見える空を見上げ、メリアが静かにティーカップを傾ける。
辺りに広がる紅茶の香りがまた緩やかに流れる時を実感させる。
「あら?」
テーブルにカップを置いて木々を眺めていると、かすかな視線を感じ、メリアが自身の座っている椅子の下を覗き込む。そこにはいつの間にか一匹の小さな野ウサギがちょこんと座っていた。
「貴方もいかがです?」
笑顔でお茶を勧めるメリアだったが、話しかけると小さな野ウサギは茂みの中へと逃げていった。
それをしばし残念そうにしていたメリアだったが、テーブルに置いたカップを手に取り口を付ける。それで気を取り直したのか、元ののんびりした表情に戻り、
「のどかですね〜」
言ってもう一口、カップに口を付けようとしたところで、洞窟から出てくる人影に気がついた。
「皆さんお帰りなさいませ」
「た、ただいま‥‥」
メリアの迎えの言葉になんとか返事を返す。
洞窟から出てきた冒険者六名は皆、怪我はないようだがお疲れの様子である。
「ラージバットは全部退治してきた」
「疲れたで御座るがな」
発見したのが洞窟のすぐ入り口とあって、メリアを外に残しラージバット退治に向かった冒険者達。
結果はご覧の通りである。
弓を使うレミィとマクシームは空を飛ぶラージバットにも普通に攻撃出来るが、そうはいかないのがエリヴィラ、磧、レイア、ウォルターの四人。空に逃げられると剣では手の出しようがなく、あちらが攻撃しに降りた所を迎え撃つか、レミィとマクシームが打ち落としたモノにトドメを刺すか‥‥磧は龍飛翔で飛び上がり低く飛んでいるラージバットに拳を叩き込んでいたが、やはり届かなかったり当たっても浅かったり、といった具合である。しかもあちらの攻撃は簡単に回避出来るのが妙にストレスの元となる。
「あれだけの数になるとやはり大変ですね」
「だがこれで先に進める」
「私も洞窟に入れますね♪」
一人待っただけあり、メリアにはようやく、といった感じで笑顔で喜ぶ。
「‥‥‥‥ところでメリアさん。ティーセットはともかく、そのテーブルと椅子はどこか」
「ではさっそく参りましょう皆さん!」
テンションの上がるメリアにエリヴィラの疑問は届くことがなく、メリアに釣られて一同は再び洞窟へ。
「もう何も出ないといいのだが。特に空を飛ぶ種類のモノは」
その願いは、半分届き、半分は大いに裏切られた。
洞窟を進む一行。
そこはさながら低級モンスターの見本市と化していた。
「あ、大きい蜘蛛さん」
「グランドスパイダーだな」
メリアが指を刺し、レミィが数えると。その数、ざっと十。
「角のあるトカゲさん」
「あれはホーンリザードですね」
またメリアが指を刺し、それをウォルターが数えると、その数、ざっと二十。
「えっと、ゴブリンさん?」
「体が大きいからホブゴブリンだね」
首をかしげながらのメリアをエリヴィラが正し、その数えると。その数、ざっと十五。
「あれは見た事があります。そーどふぃっしゅです♪」
「いや、正しいのだが‥‥」
メリアがうれしそうに名前を上げ、それを反応に困ったような表情を浮かべながらマクシームが肯定する。地面をピチピチと跳ねるそれを、とりあえず冒険者達は見なかった事にした。ちなみに数一である。
「次はジェルで御座るよ」
「え? どこですかー?」
メリアが辺りを見回すが見つけることが出来ず。
「ジェルで御座る」
なぜか断言する磧。しばらく歩いた後、磧の言葉に反応したかのようにクレイジェルが現れた。数は‥‥地面と同化しているために良く分からなかったが、とりあえずたくさんだ。
「大きなネズミさんですー」
「ジャイアントラットか‥‥」
メリアが指を刺す。レイアがうんざりしたように答える。それはもう、数えるのが面倒なくらいの数が居た。
「一体どうなっているんでしょうね、この洞窟は‥‥」
「前回来た時とずいぶん様子が違いますね‥‥」
ここまでに出会ったモンスターを思い返す。今回はモンスター退治が仕事ではないため、そのほとんどをまともには相手にはしなかったし、間々に休息を入れながらの行程なので、今のところ大きな怪我をした者は居ない。疲れはするが、それも休息を入れながらなのでたいした影響はない。
「でも、そろそろドラゴンが居た空間に出るはずです」
エリヴィラの言葉に皆が気持ちを引き締める。
そして、一行は一際広い空間へと出る。そう、以前ドラゴンを目撃した場所へ――――
「‥‥やはり、居ないで御座るか」
その空間は、ただ空間があるだけだった。
ボォルケイドドラゴンの姿などどこにもない。
「推測通り、ドラゴンがこれまで会ったモンスターを洞窟から遠ざけていたか‥‥?」
『ドラゴンを恐れて、他のモンスターが洞窟に近寄らない』という推測は以前からあったものである。それは、現状を省みればドラゴンの存在が洞窟からなくなったという推測にも繋がる。
「でも、まだ奥があるようですよー?」
メリアが奥を指すと、そこには確かに道が続いているようであった。
「さて、どうしたものか‥‥」
これ以上奥に進むには、いろいろな意味で準備が足りない。体力も物も、そして時間も。特に時間は融通が全く利かない。
「‥‥一度、戻りましょう」
冒険者達は、心残りをその洞窟へと置き、踵を返すのであった。