【ドラゴン・インパクト】 選択
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■シリーズシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:19 G 54 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月28日〜10月11日
リプレイ公開日:2007年10月17日
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●オープニング
「ヴォルケイドドラゴンが再確認されて約一月‥‥その間、私達が何もしていなかったわけではないわ」
「‥‥本当よ?」となぜか微妙に視線を逸らし、後に付け加えるギルドの女性職員。
「ドラゴンに傷が癒えるのを待っていた、と言えば聞こえは悪いけれど、手負いのドラゴンを下手に刺激も出来ないから手が出せずにいた、といったところね」
ただでさえ、ドラゴンの中でも凶暴とされるヴォルケイドドラゴン。おまけにすぐ近くには村もあるのだ。
となれば、その対応は極めて慎重にならざるを得ない。
「で、ここで私がこうしていると言うことは‥‥つまり、行動を起こさなければならない時が近づいてきたと言うことね」
それはつまり、ドラゴンの傷が完治しつつあるという事だ。
「監視役として村に派遣している冒険者の報告によると、もういつドラゴンが外に出てきてもおかしくない雰囲気らしいの」
そうなれば‥‥一体何が起こるのか。それは、ドラゴン御本人にしか分からないだろう。
「そして、こちらの対応は‥‥意見が二つあるわ」
「まず一つ」女性職員がそう言って指を一本立てて見せる。
「ドラゴンを打ち倒すこと。やはり、凶暴で強力なモンスターを放置出来ない」
「そしてもう一つ」立てた指が二本になる。
「保護し、元いた巣穴へ帰す事」
意外な対応策が、女性職員から告げられる。
「今までの調査から、ドラゴンが巣穴へ帰れば、現在そこに集うモンスター達はドラゴンを恐れてどこかへ散ってしまうと推測できます」
それは、確証はないとはいえほぼ間違いのない推測だろう。
「つまり‥‥一体一体はさほど強力ではないけれどとにかく数が多いモンスターと、強力だけれどただ一体のモンスター、御することを考えた場合、どちらが御しやすいか」
どちらが正しい、とは言い切れないが、それはつまり後者を否定することも出来ないのである。
ようは、ドラゴンを使って洞窟に住む無数のモンスターを追っ払おうと言うのだ。
「もちろん、ドラゴンの行動によって選べる選択肢は偏ってくるわ」
簡単な話し、ドラゴンが村を襲おうとしたり、巣に帰る気がなかったりするのなら、前者を選ばざるを得ない。逆に、ドラゴンを倒すだけの戦力がなければ、前者を選ぶことは出来ない。
「実際にドラゴンの行動を見て選ぶ必要があるし、けれどドラゴンが行動を起こしてからこっちで悠長に議論している暇もなし」
「だから‥‥」と、女性職員は言葉を切り、
「どちらをどう選択するかは、全て現場の判断にお任せするわ」
そう言って、いたずらっぽく笑みを浮かべる女性職員だった。
●リプレイ本文
「思ったよりも普通だな」
ドラゴンが再発見された山の麓にある村、そこに着いた冒険者達は村を見回し、最初にレミィ・エル(ea8991)が口にした。
「避難とかはしていないんだね」
ドラゴンを発見する前とさして変わらぬ日常を送る村人の姿を見てエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)。
「のんきなものだな、危機感がないのか」
「自分達が実際にその目でドラゴンを見ていないからだろう」
レミィが少々あきれ気味につぶやくと、マクシーム・ボスホロフ(eb7876)がそれを返す。
「これまで、村に何か被害があった事もないですしね」
「そうだね、あんまり危険だって感じないのも分かる気がする」
ウォルター・バイエルライン(ea9344)とエリヴィラがマクシームの言葉に続く。
「まあ、全ての人が一切合財避難してしまっていては、聞きたい事も聞けませんしね」
言ってキルト・マーガッヅ(eb1118)が笑みを浮かべると、その『聞きたい事』を聞くために、話を聞く人物を探しにかかるのだった。
「ここか、その洞窟と言うのは」
村に向かった冒険者達とは別に、カイザード・フォーリア(ea3693)、レイア・アローネ(eb8106)、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)の三名は、最初にドラゴンが発見された洞窟の裏口へとやって来ていた。
その洞窟の口に、初めて訪れるカイザードが身を乗り出して覗き込む。
「中は急な斜面になっていますから、転げ落ちないようにしてくださいね」
転げ落ちようものならその重みで命に関わってきそうなほど重装備に身を包んだカイザードにシシル。
「しかし‥‥前回訪れたときと変化はないが、どうしたものかな」
辺りに目をやるレイヤ。
洞窟の出入り口周辺には、数箇所ほど地面がえぐられ、数本の木がなぎ倒されている。それ以外に目立つところはなく、それはレイヤの言葉通り前回訪れたときと変化ない。
「洞窟を出、足跡を残し、飛び立つ際に邪魔だった木を何本か倒してしまった‥‥」
と考えれば、この場には特に不自然な様子は伺えないように思える。
「どこまで行けるか分かりませんが、行けるところまで行ってみましょう」
この場に長居しても意味は薄いと感じたか、シシルが促す。もちろん、洞窟の中へ、である。
一方、村で情報収集を行っていたキルトとマクシームは無事に必要な情報を得られたようだった。
その情報とは、以前フェアリーを見に山に向かって戻ってこなかった冒険者のことである。
「人数は三名、装備もどちらかと言えば軽装で、村人にはっきりと『フェアリーを見に行く』と告げていた」
キルトが得られた情報をまとめ、それを口にする。
「ドラゴンの傷はそれなりに深いもののようだったからな、その冒険者が偶然出会って戦闘になりドラゴンに手傷を負わせた、とは考えにくいが」
とは隣に立つマクシーム。
偶然出会ったとするならば、やはり不自然な点がいくつか出てくるだろう。例えば、逃げるだけならば、あそこまでの手傷を負わせる必要もあるまい。
「そうですね‥‥」
けっきょく、謎は謎のまま。
マクシームも村に来る前に独自に調査を行っていたが、それは今回の騒動とはまったく関係のないもののようだった。
そんな考察をしている最中、突然村に甲高い笛の音が鳴り響いた。
顔を見合わせる二人。この笛の意味する事は一つ。
それを裏付けるように、ドラゴンのいる洞窟を監視していたエリヴィラがグリフォンに跨り飛んでくる。
「動き始めたよ!」
空からのエリヴィラの言葉に、キルトとマクシームも急ぎ移動を開始するのだった。
「まっすぐ元いた洞窟に向かっているようですね」
ドラゴンの進む方角を確認しウォルター。
「作った罠は無駄になりそうで何よりだ」
とレミィ。レミィが洞窟と村の間に仕掛けた威嚇用の罠はどうやら発動せずに済みそうである。
「しかし‥‥飛んで行けばすぐ着きそうなものだが」
マクシームがそんなことを言う理由は簡単、ドラゴンはのっしのっしと巨体をくねらせながら、割合ゆっくりとしたスピードで地を歩いて進んでいるからである。
ウォルター、レミィ、マクシームの三人は茂みに身を隠しながらドラゴンを尾行しているが、空からドラゴンを監視しているエリヴィラは目立つ。時おりそのエリヴィラのグリフォンにうっとうしそうな視線を向けるものの、飛んで迎撃しようとするそぶりはなかった。‥‥もっとも、隠れながら尾行している三人もドラゴンに気づかれていないとは考えにくかったが。
「ふむ、そういえばキルトさんがヴォルケイドドラゴンは飛行できない、と言うような話をしていた気もします」
「アレだけ立派な翼を持っているのにか?」
前を歩いているドラゴンの背には、それはもう飛ぶ以外に使用するとは考えにくい立派な翼が生えていたりする。
そのためか、特別詳しい知識を持つわけではないキルトははっきり飛べない、とまでは断言できなかったようである。
ちなみに、そのキルトはドラゴンが元いた洞窟の正面入り口へと向かっているためこの場にはいない。
「まあ、何はともあれ、触らぬ神にたたりなし、このまま無事に移動を終えてくれることを祈りましょう」
「歩いてきているのか?」
洞窟の裏口でドラゴンの到着を待っていたレイヤとカイザード。
連絡係として二人の元へやって来たエリヴィラの知らせを聞き、レイヤが首をかしげた。
「うん、だから到着にはけっこう時間がかかるかも」
「そうか‥‥まあ、こればかりは待つしかないな」
「そっちは何か分かった?」
今度は逆にエリヴィラが洞窟の調査を行っていたはずの二人に尋ねる。
「ああ、血痕を何箇所か見つけることが出来た」
と簡潔に結果を述べる。
「岩肌が濃い色をしているからな、薄暗い中では『ある』という前提で注意深く探さなければ見つけきれないだろう」
「そっか、じゃあやっぱりドラゴンが傷を負ったのは洞窟の中だったのかな」
「ドラゴンの血だと決まったわけではないが」と付け加えるものの、やはり状況を考えるとその可能性が高い。
「じゃあそろそろ戻るよ‥‥あ、シシルは?」
情報交換を終え、空へ上がろうとするエリヴィラが思い出したようにその場にいない人物のことを尋ねる。
「ああ、表口のほうへ回ったよ」
その回答を聞くと、エリヴィラを乗せたグリフォンは空へと上がって行った。
そしてその二日後。
「エスコートはここまでか」
洞窟の裏口からその中へと潜って行くヴォルケイドドラゴンを見送る一同。
道中、ドラゴンの移動スピードから時間はかかったが、特に問題らしいことは発生しなかった。
「洞窟の中までついて行くのは危険だしね」
「‥‥ん?」
見送る一同の中、レミィがふと自分達以外の視線を感じ森へと振り返る。
「馬‥‥いや、ユニコーン?」
レミィの言葉に、他の冒険者も森へと視線を向ける。
「あ、本当だ」
そのユニコーンは森の中からまっすぐ洞窟の入り口を見つめ、冒険者達のことはまったく眼中に無い様である。
だがそれも短い間のことで、すぐに森の奥へ消えてしまった。
「元からここの森に住んでいるものだろうか?」
「おそらく、そうではないでしょうか」
しばらく話を交えつつ森の奥へ視線をやっていたが、ドラゴンは洞窟の奥へ消えユニコーンも森の奥へ消えた今、ここに留まる理由も無くなり、冒険者達はとりあえずは村に帰るのだった。
さて、ドラゴンが洞窟の中へと入ってしばらく後、洞窟の表口のほうはと言うと‥‥
「ストーム!」
「アイスブリザード!」
とこのように、シシルとキルトのウィザード二人が洞窟の中からわらわらと出てくるモンスターを掃討にかかっていた。
モンスターは普通に考えればドラゴンから逃げてきたと思われる。
「や、やっぱり二人じゃつらいなぁ‥‥」
「モンスターがそれほど強力でないのが救いですが」
「いえ、その分数が多いのであまり救いにはなっていないかと」
状況のほうは二人が愚痴っている通りであり、あまり特筆すべき点はない。
キルトがストームの魔法で敵を遠ざけ、その間にシシルがアイスブリザードで攻撃。
そんなことを何度か繰り返した後、シシルが突然ポツリとつぶやいた。
「あ、もう魔力が無くなりました」
「‥‥魔法使いの悲しい宿命ですね」
そう言うキルトももうそろそろ限界である。
「という訳ですから、ここは速やかに退散しましょう」
元より二人も洞窟から出てくるモンスター全てを仕留めようとは思っていないだろう。中にいるモンスターの数は、ひかえめに言って『すごくいっぱい』いるのである。
「そうですね、それなりに数は減らしたと思いますし」
二人が洞窟の入り口付近に目をやれば、そこには累々とモンスターが重なり合っている。まったく動かないモノもいれば、まだピクピクと動いているモノもいる。
「わ、次が出てきましたね」
「行きましょう」
さらに洞窟の奥から這い出てくるモンスターを確認するや否や、二人は背後の森へと退散した。
その後、冒険者ギルドに報告を行った一同はギルド職員から依頼した仕事の完遂を告げられた。
依頼側の望む結果が得られたため、これ以上仕事として依頼する必要性がなくなったのだ。
こうして、一連の事件は一応の幕を閉じることになる―――――。