●リプレイ本文
「本当にこんなところにいるのでしょうか?」
「推測でしかありませんけれど‥‥」
「闇雲に探した所で有益な手がかりは得られないでしょうから」
何気なくつぶやいたメリア・ベレンテレール(ez1116)に、それを返すシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)とウォルター・バイエルライン(ea9344)。
冒険者達が今回調査に向かったのは例の洞窟ではなく‥‥そこからやや離れた場所にある、とある山の麓の村であった。
「あの山が件の山というわけだな」
レイア・アローネ(eb8106)が見上げるのは、村のすぐ隣にある丘のような小さな山。
「洞窟は山を越えた反対側から原生林を進んだ位置になるか」
ざっと地形を頭に描きマクシーム・ボスホロフ(eb7876)。洞窟と冒険者達の今いる村は、直線距離ならそう離れていないが、街道を進むならまったく道が交わらない、そんな位置だった。
「ここでこうしてても仕方が無いし、まずは村の人に話を聞いてみよっか」
「そうですね、メリアさんにももっと詳しいお話をお聞きしなければなりませんし」
まずは情報の収集と整理、とエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)にキルト・マーガッヅ(eb1118)。
「さて、ドラゴンはどこにいるんだろうな」
それぞれが村の各所に散りつつ、去り際にレミィ・エル(ea8991)が呟いた。
「ホント。このまま静かにいなくなってくれるならそれが良いんだろけど」
「そうもいかないんだろうなぁ」と後に続け、軽く困り笑いを浮かべるエリヴィラだった。
「村の中にいる動物からは特に情報は得られませんでした」
そう話すのはテレパシーで村の動物から話を聞いてきたオルガ・バラバノフ(ec0538)。一度散ったあと合流した冒険者達、簡単に互いの成果を報告する。
「やっぱり、山の動物じゃないと分からないみたいですね」
「山の方は‥‥狩猟場になるほど豊かな山ではないようですから、かえって猟師は立ち入らないようです」
「どちらかといえば子供の遊び場になっているようだ、最近のことなら子供のほうが詳しいらしい」
山で仕事をする村人から話を聞いてきたウォルターとレイア、こちらもあまり有益な情報は得られなかったらしい。
「子供か‥‥話は聞いてきたけど、行っても頂上までで、山の反対側までは行かないって言ってたね」
レイアの話を聞いてメンバー最年少で子供とも話のしやすいエリヴィラ、
「山の反対側についてはあまり情報がないようだな‥‥村長の話によると、山の反対側には大きな洞窟があるらしいのだが」
「大きな、とっても縦横の広さはあるが、奥行きはあまり無いらしいし、そこにドラゴンが住んでいるなどという話も聞いたことが無いそうだ」
そして村長に会ってきたのはマクシームとレミィの二人。
「村長は詳しい場所までは知らなかったが、村人に聞けば誰か知っているだろう。知らなくても、探せばすぐに見つかる程度のもののようだ」
「んー、村の人にこの辺りの地図を借りてきたんですけれど、洞窟の位置は載ってませんね」
地図を広げそれらしい場所を探してみるシシルだが、その地図は本当に簡単な地形しか書かれていない物のようだ。
「メリアさんも、山の反対側までは行っていないんですよね?」
「ええ、妖精さんとお会いしたのは頂上の辺りでしたから」
メリアから詳しい話を聞いていたキルトがメリアに確認する。
「直接ドラゴンと結びつくような情報は見つかりませんね‥‥」
村での情報収集をまとめると、そういう事になるだろうか。
「その地図を貸してもらえるか?」
言ってシシルから地図を受け取るマクシーム。
「ああ、ダウジングですね」
マクシームが取り出したのは、小さな円錐の付いた振り子。目的の物がある場所を指し示すといわれるアイテムだが‥‥まあ、ダメ元である。
「ふむ‥‥?」
「お」
「ほほぅ」
冒険者達の口から思わず漏れたのは、振り子がある一点で大きく振れたため。それは偶然か、それとも本当にアイテムの力だったのか‥‥真意の程はさておき、とりあえずその場所に印を置くとふと冒険者達の後ろから声がかかった。
「おや、その場所は‥‥」
「何かご存知なんですか?」
振り返ると、そこにいたのは一人の村人。
「ああ、確か、ちょうど洞窟のあった所だねぇ。子供の頃、大人達に内緒で行った事があるから間違いないよ」
懐かしげに笑みを浮かべながら話すその村人の話に、顔を見合わせる一同。
それは偶然か、それとも―――――
「あ、エリたんあれじゃないですか?」
シシルが指差すのは眼下の地面にぽっかりと開いた大きな穴。
「うん、そうみたいだね」
グリフォンに乗りエリヴィラと山の上を飛行中の二人。空から洞窟の位置を確認するためだ。
エリヴィラはグリフォンの手綱を操ると、歩いて登山中である他のメンバーのいる辺りの上空へと移動する。
「見つかったようですね」
「この地図の位置で間違いないようだ」
地上にいるメンバーは空のグリフォンを見つけると、手で大きく丸を作るシシルを見て地図を広げ現在地と目的地を調整。
「やはり、本来のドラゴンの棲家はこちらで、あっちの洞窟は暖かいが故の冬眠場なんでしょうか‥‥」
山を歩きながら、ここまでにも話した推測を口にするキルト。
「その割には、村でまったくドラゴンの話が出てこないのが気になりますね」
「うまく棲み分けが出来ていた‥‥にしても、この距離でまったく話が無いのはな」
ウォルターやマクシームもそれに加わるが、どうにもスッキリとはいかないようだ。
まだ何か‥‥パーツが足りない。
「なかなか動物を見かけませんね」
話の中、辺りを見回すオルガ、動物がいれば村のときと同じようにテレパシーで情報を聞けるのだが、
「狩場になるような豊かな山ではないようだからな」
ということは、生息している動物はそう多くは無いだろう。
「‥‥もしくは、何らかの理由で山から離れているのか」
しばらくそういった話を交えつつ歩みを進め、山の頂上を越え下りになると洞窟の位置も近づいてくる。
手にした地図ではもうすぐ近く、といった所で、レイアが連れているフェアリーに頼んで最後の位置調整。空へ飛んでいったフェアリーが戻ってくると、フェアリーは「あっちー」と指を刺す。
フェアリーの指差した方向へ進むと、それはすぐに見つかった。
洞窟の入り口、そしてその横に待っているシシルとエリヴィラの二人。
「お疲れさま」
「いえ〜、あちらの山に比べれば楽でしたから」
迎えるエリヴィラの言葉に、言葉通り平気そうな笑顔で答えるメリア。
「確かに、縦横は広いな」
洞窟の入り口を見てレミィが口にする。
「縦横は向こうの洞窟よりも広いようですね。その分、奥行きは無いらしいですけれど」
「村で聞いた話によると、子供の足でも簡単に奥まで行って帰って来られるくらいの距離らしいからな」
事前に得られた情報によると、そんな感じの洞窟である。
「では行くか」
期待と、不安と、それぞれがそれぞれの感情を抱え、目の前の洞窟へと足を踏み入れる。
「すみません、先に答えを言ってしまうようですが‥‥います、奥に。大きな何かが」
キルトがそう言ったのは、洞窟を進み始めてすぐの事だった。ブレスセンサーに‥‥反応がある。
「当たりを引いたか?」
「おそらく。でも‥‥」
反応の大きさが、事前に聞いていたドラゴンの大きさとほぼ一致する。が、キルトは先の言葉を少々濁らせ、
「大きさの割には、反応が弱い気がします」
「寝ているとか?」
「どうでしょうか‥‥」
その可能性はあるのかもしれないが、キルトもハッキリとは答えきれない。
「それはともかく‥‥メリアさんはここで待っていたほうが良いね」
と、付き合いの多い分、過去に一番メリアの行動で迷惑していそうなエリヴィラ。何が起こるか分からない以上、安易にメリアは同行しない方が良いだろう。
「仕方ないですねー」と、残念そうな表情を浮かべつつ、ここはメリアも素直に従うことに。
「では、念願の対面、と行くか」
キルトのブレスセンサーを頼りに、いきなり鉢合わせしないよう慎重に先へと進む。無駄に縦横が広く奥行きが無いため身を隠す場所にも困るのだが、それは『奥にいる大きな何か』にも同様のことが言える。
それは、これまでの時間を考えると、あまりにあっさりと見つかった。
「間違いないか?」
「うん、あっちの洞窟で見たのと同じだと思う」
逸る気持ちを胸に‥‥だが、『それ』の前で、うかつな行動は取れない。両手を挙げて喜ぶわけにも、いかない。
前に一度会ったことのあるエリヴィラが確認を取る。『それ』は、間違いなく以前あの洞窟にいたヴォルケイドドラゴンであった。
「でも、前はあんな傷だらけでは無かったですよね?」
同じく二度目の対面になるシシル。
眼前のドラゴンは静かに‥‥力なく座しているが、その身体は以前に見られなかった傷があちこちにある。それにはまだ完全に癒えていないものも多い。
「ブレスセンサーに反応があるということは、生きてはいるのでしょうけれど」
「テレパシーには反応が無いので、今は眠っているのかも知れません」
それぞれ魔法を使うキルトとオルガ。そして言葉通り、死んだように眠るドラゴン。
「しかし、目的は達した」
推測は外でも出来る。マクシームのその言葉の先にあるのは『長居は無用』。
概ねその意見に反論は無く、一同うなずくと静かに立ち去ろうとするが‥‥そう何度も自分に向けられた気配を見逃すほど、手負いの生物は鈍くない。
冒険者の立ち去る気配に、さっきまでの『静』とは対照的に突然大きく威嚇の声を上げると身体を大きく震わせるドラゴン。
「ちっ、急げ!」
もはやこそこそ移動している暇は無い。舌打ちすると全力で走って逃げる。と、ふと一瞬オルガが足を止めた。
「え?」
「早く!」
「は、はいっ」
近くにいた者がオルガの手を取ると引っ張ってその場を退場。
ドラゴンとテレパシーで繋がっていたオルガ、去り際に聞き取れたドラゴンの、言葉。
『赦さぬ‥‥赦さぬ‥‥あのモノ‥‥!! 戻る‥‥我が巣へ!!』