【黙示録・紅き夜】嫉妬の夜
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■シリーズシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜02月20日
リプレイ公開日:2009年02月22日
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●オープニング
禍々しき装飾に彩られた、小さな城。
辺りは他に建造物のような物は無く、草木も生えぬその地に異色を添える。
ディーテ砦より少しばかり離れた荒野、そこにそれはあった。
「ラウム様‥‥ディーテに人間が集まっているようです」
「そうか、門を突破されるとは『地獄の門番』が聞いて呆れる」
城の最上階、そこに、二つの影があった。
一つは孔雀のそれのように鮮やかな羽を背に持つ人型。そしてもう一つ、ラウムと呼ばれた長い漆黒の髪を持つ、炎のような赤い色のドレスを着た女。
「その門を突破するだけの力はあるようです」
「はっ、犬を一匹仕留めた程度で何を」
ラウムは幾重にも重ねられた赤い布に身体を横たえながら、その言葉を付き返す。
「しかし人間の力、侮れぬものがあります。私達もディーテへ出陣いたしましょう」
「よい」
「‥‥‥は?」
予想していなかった否定の言葉。
孔雀の羽を持つ人型も、何もラウムに出陣を進言に来た訳ではない。ディーテに出撃する準備が整った、そう伝える意図でこの場に居るのである。
「ディーテにはモレク様がいる」
「はい、モレク様が直々に出陣なさっております。すぐにでも、モレク様に助力を――」
「今ディーテに手勢を向かわせれば、モレク様の力を疑っているとしか取れぬ」
「しかし‥‥それでディーテが落ちてしまっては」
「ふん、それがどうした――あのディーテが人間共に破壊される様も、なかなか見物かも知れぬぞ」
「それは‥‥!」
「もっとも、そんな事には成らぬであろうが」
「‥‥‥‥」
納得しかねる表情を浮かべるそれを見てラウムは唇を歪めると、
「――何も、出陣せぬと言っている訳ではない。まだその期ではない、というだけの事だ」
そう言って、妖しく微笑むのだった。
ディーテ砦の向こうに、城が見える――
そういった情報が地獄に身を置く者達の元へ届いたのは、ディーテ砦での戦が始まった直後であった。
その城は、今の所、大きな動きは無い。とはいえ、それも遠くかすかに見えるその城を視認して得られただけの情報である。
その城にデビルが居るのか、居るならどの程度の数なのか、ディーテ砦へそれを送るつもりがあるのか‥‥そういった、戦況に影響を与える重要な情報は全く無いと言って良い。
そして、それらの情報を得るために――城への調査が開始された。
●リプレイ本文
ディーテ砦の奥、微かに見える謎の城を目指し集まった数人の冒険者達。
土で汚したマントやボロ布で姿を偽装し、ディーテ砦を情勢が冒険者に優勢な方面から大きく迂回して慎重に城へと近づいていったおかげでデビルとの遭遇は極力押さえられたが、戦場真っ只中のディーテ砦はともかく、安定した様子の城に近づくにつれてその効果も限界が訪れようとしていた。
「‥‥何か、来る」
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)の目が捕らえたのは、城から飛び立つ五つの影。
「え? どこ?」
レティシアと同じ馬に跨るアクア・リンスノエル(ec4567)が手綱を操って馬を止めると、レティシアと同じ方向へ目を凝らすが‥‥彼女の目には、それは小さな黒い点にしか映らず、景色と溶け込んで認識出来ないようだ。
「どうしました?」
レティシアとアクアの乗る馬が歩み止めるのを見て取り、同様にマグナス・ダイモス(ec0128)も操っている馬の手綱を引く。
「城から何かが飛んで来る。まっすぐこっちに向かってるわ」
「とうとう見つかっちまったか」
それを聞いて、マグナスの後ろに同乗するリスター・ストーム(ea6536)が表情を曇らせた。
「この距離では仕方ありませんわね」
セラフィマ・レオーノフ(eb2554)が偽装用のマントを取り払う。
「どのような敵だか見えますか?」
「羽のある人型、ね。リスターさんの好きそうな女性型」
「おう、やる気がみなぎるな!」
「男って‥‥あ、あれか」
リスターの言葉に反応しつつ、ようやくアクアの目にも敵の存在が見える距離になったらしい。
その姿は、レティシアが前述した通り、羽のある女性の姿‥‥が、その大きさはシフールほど。
リリス、と呼ばれるデビルである。
「さて、どうするか‥‥」
「まあ、ここは戦うしかないでしょうね」
「そうですわね、大分近づきはしましたけれど、まだ有益な情報が得られたわけではないですし」
「やむなし、か」
リスターとレティシアの二人がそれぞれ下馬し、残ったマグナス、セラフィマ、アクアの三人も馬上で武器を手にする。
そして、もう互いに攻撃の射程圏内に入ろうと言うタイミング。
「うわっ!?」
ハロルド・ブックマン(ec3272)がリリスに対して放ったウォータボムにアクアが驚きの声を上げると、
「い、いたんだ‥‥‥」
そんな失礼な事を口にする。
偽装によって目立たないようにしている格好の上、寡黙なハロルドは存在感が希薄らしい。
そんなやり取りをしている上で、ハロルドの放ったウォータボムはリリス一体に直撃し、戦いの始まりを告げたのだった。
リリスの爪による攻撃をリスターがひらりと横に避けると、手にしたスクロールを起動する。
コンフュージョンの魔法が込められたそれはリリスの自由を奪い、そこをセラフィマがレイピアで突いて少しづつ弱らせていく。
一対一ではまず負けそうにないマグナスも、倒してしまわないよう手加減をした攻撃を繰り返していた。
空から二体ほど炎の攻撃魔法を放ってくるリリスがいるが、それはハロルドとレティシアの魔法で対処している。こちらは手加減とは別の都合でハロルド、レティシア共に威力に乏しい攻撃魔法を使用している為、じっくりとした攻防を繰り広げていた。
そんな攻防の最中、リリスの爪をセラフィマが盾で受け止めると、
「よし、捕まえた!」
動きの止まったリリスをアクアが横から鞭で絡め取っていた。
そしてそれは、じっくりとした攻防を終りとし、事実上の戦いの終りとなるのだった。
「わ、わ、私、食べてもおいしくないよ!?」
アクアの鞭で身体をぐるぐる巻きにされ、身動きできない状態で地面に転がされている一体のリリス。
すでに周囲に仲間の姿はなく、自分一人である。
「ふふふ‥‥それでは、ある事ない事、洗いざらい吐いてもらいますわ」
「いや、ない事言われても困るんだけど‥‥」
「まあ、例えウソを言ったり黙秘したりしても、リシーブメモリーがあるから問題ないわ」
「そういう事だ、お嬢ちゃん。観念してもらおうか」
リスターが両手を怪しく蠢かせながらリリスへとにじみ寄る。
「いやぁ〜ん、堪忍してぇー!」
リリスの悲鳴は、地獄の空へと消えていった。
――――都合により、リリスの尋問風景をお見せ出来ない事を深くお詫びいたします――――
そして尋問を終え、
「もうお嫁に行けないっ! うわぁ〜ん!!」
泣きながら何処かへと飛び去って行くリリス。
「‥‥あー、しまった。逃げられた」
そのリリスの後ろ姿を眺めながら、思い出したようにリスターがポツリと呟いた。
「お城の方とは全然別の方に飛んで行きましたから、大丈夫だと思いますわ。精神的なダメージも大きいみたいですし」
仮に城へ戻ったとしても、ダメージが大きくて自分達の情報が漏れる可能性は低いのかもしれない。
「それに、私の魔法であのリリスから得られる情報は全て搾取しました」
もう用済みとばかりにレティシア。
「で、その結果を纏めたものがこれ、と」
そして、ハロルドが書き纏めたリリスから奪った情報の資料を片手に持ったアクア。
女性陣、意外と反応がドライである。
「女性って、怖いですね‥‥」
「えーと、城主の名前はラウム、で‥‥」
そんな男性陣の感想をよそに、アクアがその資料を読み上げ始めた。
〜ラウム様のひみつ集〜
その一『お名前はラウム様だぞ♪』
その二『歳は秘密だ!(うっかり歳を聞くと殺られちゃうぞ☆)』
その三『実はショ●コン(これについては私もどーかと思う)』
その四『鴉の姿に変身する事もあるの☆』
その五『アンドロアルフェス様(←呼び難い。『アンアン』とか『アルアル』に改名してくれないかな‥‥)が側に仕えてるぞ♪』
その六『お城に居るたくさんの軍団を指揮するのだ!(でも今回はまだ様子見らしい。アルアル様はがっかり)』
その七『お城の右側に勝手口があるの。とっても便利♪』
〜おわり〜
「‥‥‥‥この文中の『♪』とか『☆』とかもハロルドが書いたの? かわいらしく?」
『ツッコミ所そこ?』
読み上げ終わったアクアの第一声、それに数人が声を重ねる。
当のハロルド本人は一人輪から外れて読書に勤しんで我関せず、と言った様子である。
「違うだろ、あれだ、『その一』はいらねーだろ。タイトルで分かるんだし」
「それもそうだけど‥‥それよりもまず、字数がぴったり二百字なのよね? リシーブメモリー十回分」
「数えたの!? 今読み上げたのを聞きながら!?」
レティシアの高い知性が、それを可能にしたのかもしれない。
「冗談はともかく‥‥必要な情報はそれなりに揃ったような印象ですね」
「潜入に使えそうな出入り口も分かりましたわ」
「城の右側か‥‥」
冒険者達(ハロルド以外)が顔を上げて城の方に向き直る。
城の方を眺めながら、しばし視線を右往左往させると、
「城の右側って‥‥」
「どっちから見て右側だよ!?」
件の勝手口にたどり着くには、二分の一の確立に賭ける事になりそうである。
その叫びが城まで届いた‥‥訳ではないのだろうが、
「まずい」
目に入った城から飛び立つ影。
先ほどと同じくリリスのようだが、その数が何倍もある。
「これは‥‥逃げた方がよさそうですね」
「ですわね、せっかく情報を得ても持ち帰らなければ意味がありませんわ」
「それじゃ、乗って!」
五人が馬に跨り、ハロルドはパタンと読んでいた本を閉じると魔法の箒を手に取る。
「とばすよ〜♪」
リリス達の追撃を振り切りながら、冒険者達は自分達の拠点へと戻って行くのであった。