【黙示録】紅き夜

■シリーズシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月05日〜04月10日

リプレイ公開日:2009年04月12日

●オープニング

 モレクは敗北した。
 同胞である七将軍も、幾らか数を減らした。
 それでも、今なお城よりディーテ砦を眺めるは、何を思っての事か。

 時が来る。
 人間達が再びこの城に現れる事も、そう遠い事ではないだろう。
 今度は、鍛え上げた一本の剣のように、相応の覚悟を持って。
 錆付き、傷付き、刃の欠けた剣を破壊する事は、何も生まない。
 磨き上げ、研ぎ澄まされた刃を砕く事にこそ、悦楽が生まれる。
 それこそ、長い生の過程における、ささやかな喜び。

 
 紅き夜・ラウムは、もう何十年と使用される事が無かった城の玉座にて、ただ時を待つ――

●今回の参加者

 ea6536 リスター・ストーム(40歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb7017 キュアン・ウィンデル(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4567 アクア・リンスノエル(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

若宮 天鐘(eb2156)/ 木下 茜(eb5817)/ 水之江 政清(eb9679)/ ジャッカル・ヘルブランド(ec3910

●リプレイ本文

「来たか」
 王座に座するラウムが呟いた。
 来客を知らせるのは使いの者ではなく、王座の間の扉が開く音。
 そして、その戸を開くのは六人の人間。
「今度は、少しはましな面構えを持ってきたようだな―――」
 ラウムの体が、玉座を離れる。
「それで良い、その顔が絶望に変わる様‥‥‥‥‥‥」
 ラウムがその両手に短い刃を出現させると、さらに両側に一本ずつ宙に浮いた剣‥‥デビルソードが現れる。
「楽しませてもらおう」


「くっ‥‥は、早いっ」
 ラウムの動きを見たキュアン・ウィンデル(eb7017)が呻く。
「追いつくだけでやっとだな、おい」
 その隣でリスター・ストーム(ea6536)も足を止め、そして必然的に手も止まる。
 王座の間を動き回りながらその刃を振るうラウム、その移動速度は人が全力で走る早さと大差ない。
 それが重装備のキュアンであれば、全力で走ったとしても追いつく事はできないだろう。
 しかし、リスターや他の大半の人間であっても、全力で追いついて、それだけで終わってしまうのならば体力の無駄でしかない。
「今は、可能な限りお二人の援護を!」
 サクラ・フリューゲル(eb8317)が止まってしまいそうな足を奮い立たせる。
 移動速度と関係なく攻撃を行えるのは弓を持ったクルト・ベッケンバウアー(ec0886)くらいだが‥‥
「ダメだ、あのスピードで動かれると狙いが定まらないよ」
 そのクルトも、引いていた弓の力を抜く。この状況では、最悪、仲間を射抜きかねない。
 クルトにはもう一つ、スクロールによるグラビティーキャノンという攻撃も残されているが、こちらは弓や以上に仲間を誤射する可能性が高い。
 結局のところ、今はラウムに追いつける役者―――軽装のマグナス・ダイモス(ec0128)とアクア・リンスノエル(ec4567)の二人に、戦況の行方を委ねるしかないのだった。

「ちょっと、何か話が違うくない!?」
 まるで、ラウムの三本目と四本目の腕によって振るわれているかのように動く二本のデビルソードの内、一本を鞭で弾き返しながらアクアが叫ぶ。
「俺に文句を言われても!」
 返すマグナスも両手に持った盾と剣でラウムの二刀を防ぐが、その言葉には焦りが見える。
「くっくっくっ、仲間割れか」
 一方のラウムは、二人を相手に二刀‥‥いや、四刀を振るい、まだ余裕を見せる。
「まさか! まだまだこれから、絶対に倒すんだから!!」
 アクアがラウムの腕を狙って鞭を振るうが、それは容易く避けられてしまった。
「望む結果を叫ぶだけなら、子供にも出来る事」
 ラウムが哂うと、手に持った刃の一方がアクアの左腕を浅く薙いだ。
 サクラの魔法による加護が無ければ、その傷はアクアの行動力を奪い、それだけでこの戦いの結果を決定付けていただろう。
「ただ望んでいるのではない! そうなると信じて戦うのです!」
 マグナスがデビルソードの一刀を盾で押さえ込みながら、もう一方に構えた剣はラウムへと突き入れる。
 その剣はラウムの身体に傷を付けるも、ラウムの行動を鈍らせるには程遠い。
「ふっ、ならばその言葉、試してみようか」
 ラウムがマグナスの剣を刃で弾く。
 もう一度、剣を振るわんと切っ先を返し、ラウムへと一歩踏む出した瞬間、マグナスの足元から炎が生まれた。
「くっ!?」
 その炎はマグナスを包み込み、ダメージは無いものの、それは著しく視界を遮る。
「きゃっ!」
 自分の間近に出現した炎に、アクアも同時、驚きの声を上げるが、それよりも‥‥
「ぐっ‥‥あ゛っ」
 炎が消えた先にあったのは、ラウムの刃が腹に突き刺さったマグナスの姿。
 その刃はマグナスの纏った強固な防護を突き破り、深く突き刺さっている。よく見れば、その刃には見慣れた光‥‥レミエラの光が浮かんでいる。
「っ、この!」
 とっさに、アクアが鞭を振るう。
 が、それは二本のデビルソードに遮られ、ラウムまでは届かない。
「決したか‥‥?」
 ラウムがつまらなそうに呟いたとき、
「――――ぉ!!」
 盾を捨て、自分を貫いている刃を持った腕を掴み取ると、マグナスがその剣でラウムの身体を切り裂いた。
「!?」
 デビルソードが向きを変え、体当たりをしてマグナスを突き飛ばす。
 マグナスの身体はラウムから離れ、地に倒れるが‥‥
「開いた!!」
 先ほどまでラウムへの道を遮っていたデビルソードがマグナスへと向かった瞬間、アクアが隠し持っていた聖なる力を持つ杭を取り出すと、その尖先をラウムへ向けたまま、体当たりをするかのようにラウムへと突き刺す。
「ぐっ、キサマ‥‥!」
 ‥‥アクアの振るっていた鞭で、ラウムを傷付ける事は出来ない。その鞭は魔力を持った業物だが、ラウムを傷つけるには魔力が足りないのだ。
 故に、ラウムはとっさの状況でアクアを軽んじた。それが、アクアに対する致命的な隙を生んだ。
「離れ‥‥ろ!」
 ラウムが二刀をアクアへと振りかざす。しかし‥‥それは肩に突き刺さった一本の矢によって遮られ、アクアに振り下ろされる事はなかった。
「ふぅ、ようやく追いついたぞ‥‥っと!」
 リスターがその鞭でデビルソードの一本を捕らえると、振り回してラウムの側から引き離す。
「大丈夫ですか!?」
 サクラがマグナスを中心にホーリーフィールドを展開すると、リカバーでマグナスの傷を塞ぐ。
「多少狂ったが、これで予定通りだな」
 そして、キュアンが盾を構えてもう一本のデビルソードを力任せに押し離し、ラウムとの間に割って入った。
「そうだね、ようやくスタートライン、かな?」
 アクアがそう言ってラウムから一歩離れると、もう一本の聖なる杭を取り出す。
「このまま押し切ります!」
 アクアと立ち代り、マグナスの治療を終えたサクラが前に出るとラウムに向かって剣を一戦させる。
「甘いわ!」
 サクラの一撃がラウムに届くより早くラウムが叫ぶと、ラウムの正面に暴風が生まれた。吹き飛ばされる事はなかったものの勢いの鈍ったサクラの剣は、容易くラウムの刃によって止められてしまう。
「もう一本!」
 片腕の塞がったラウムにアクアが聖なる杭を突き出すが、
「同じ手は食わぬ」
 その杭はもう一方の刃で半ばから切り落とされてしまった。
「そう甘くは無いか‥‥」
 切り落とされた杭を投げ捨てると、アクアは再び鞭を構える。
「クルトさん、援護をお願いします!」
「任せてっ」
 一方、一度後方へ追いやられたマグナスが傷の回復を確認して立ち上がると、投げ捨てた盾の代わりにダガーを抜き放つ。
 そして、クルトの放った矢を追いかけるようにしてラウムへと距離を詰めた。
「ふん‥‥、しぶといな」
 ラウムの二刀とマグナスの二刀が火花を散らす。
 だが、ラウムの言葉にも余力が無くなって来ている。今も突き刺さったままのアクアの杭が、確実にラウムの力を奪っているのだ。
「ラウム! 貴方の誇り、折らせていただきます!」
 マグナスの二刀を捌く隙を付いて、サクラが今一度その剣を振るう。
 ラウムは避けようと身体を動かすが‥‥。
「こっちも忘れないでねっ」
 腕に絡まったアクアの鞭に動きが引きずられ、ついにその一撃を避ける事が出来なかった。
「ぐ、あぁぁぁ!」
 その一撃に、ラウムの怒声が玉座の間へと響き渡る。
 続くマグナスの攻撃、叫びながらもラウムはその攻撃を防ごうと刃を返すが、不十分なそれはマグナスの力を相殺する事が出来ず、ラウムの手から刃が零れ落ちる。
「っ! これで‥‥最後!!」
 その零れ落ちたラウムの刃をアクアが空中で拾い上げると、その刃でラウムの身体を深々と刺し貫いた。
「く、あ、ぁ‥‥‥‥‥‥おのれ、オノレ――――!!」
 ラウムの、断末魔。
 それは城を駆け巡ると、ラウムの身体は意外なほどあっさりと、その紅き衣を残して塵となり消えていった。
 そして、ラウムの振るっていた二本の刃が乾いた音を立てて石畳の上へと落ちる。
「倒した‥‥のか?」
 ラウムが消え去ると同時、二本のデビルソードも何処かへと消えていってしまった。
 それを見送ると、キュアンとリスターの二人もラウムの消えた場所へと駆け寄ってくる。
「おそらく‥‥」
 主を失ったとはいえ、ここは未だデビルの城の中。気を緩める事は出来ない。
 安堵するのは、人の地に戻ってからとしよう。
 それが、ほんの僅かな彼らへの報酬なのだから‥‥。