【もう一つの黙示録】行こう、今、休息に
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■シリーズシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月12日〜04月17日
リプレイ公開日:2009年04月21日
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●オープニング
それは冒険者ギルドの、依頼の一覧が示された掲示板‥‥の、横に存在していた。
〜〜娯楽宿『カティナーブ』〜〜
山をまるごと利用した娯楽宿、カティナーブ。
大自然の育みが疲れた身体も心も芯から癒してくれます。
・バーニャ
当宿の自慢の施設!
大人数でも余裕の大部屋! ファミリー向けの中部屋!
そして恋人向けの小部屋!(バーニャ内での行き過ぎた行為はご遠慮ください)
各種取り揃えています。もちろん貸切。
・山の頂にある岩に突き刺さった伝説の剣(かも)、岩から抜く事が出来ればプレゼント!(チャレンジ1回1G)
・山を流れる川の清浄な水の滝、打たれれば精神力向上間違いなし!?(脱衣所の使用料1日50C)
・急勾配な山道コース、体力作りに最適!!(無料)
ギルドの紹介状があれば宿泊費がお得に!?
キエフからの送迎馬車あり。
道中も安心。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最近リニューアルオープンしたという、娯楽宿、その広告である。
山の中腹にあるというその宿は年々一般客の足が遠のき、このたび、冒険者をターゲットとした宿としての再スタートを計画した。
‥‥のだが、いざオープンという時期、それは始まった。
デビルとの戦い、地獄からの侵攻―――冒険者の多くはそちらに向かい、遊んでなどいられない、そんな状況である。
そのせいで、カティナーブはせっかく冒険者向けに建て直すも、そのメインターゲットを掴めずにいた。
だが、デビルとの戦いが長期化する今、冒険者にも休息は必要になってくる。
今、この時だからこそ、カティナーブを訪れるのも良いのではないだろうか‥‥?
それは、冒険者達の、『一時の』休息。
ギルドの紹介状があれば料金が割引になるらしいので、行ってみたい冒険者はギルドの職員に申し出る事、だそうな。
●リプレイ本文
『いらっしゃいませ!!』
「へぇ〜、きれいな所ねぇ」
「出来たばかり、との事でしたからね」
娯楽宿カティナーブ。
此度訪れたのはシャリン・シャラン(eb3232)、ウェンディ・リンスノエル(ec4531)、楼桜麗(ec6127)の三名である。
「あんた達、大丈夫?」
『だいじょーぶー』
シャリンが連れてきた二匹のフェアリーへと振り向く。
道中は馬車を使ったとはいえ、馬車が来られるのも山の麓まで。山の中腹にあるカティナーブへは、自分の足で山道を登るしかないのだ。
整備された道とはいえ、疲れはする。
もっとも、シフールであるシャリンと精霊であるフェアリーの二匹は自然の中こそ過ごし易いのかもしれないが。
「それじゃ、早速のんびりしましょうか♪」
今はもう夕方、今からでは大した事は出来ないが、せっかくの時間は有効に。
桜麗は荷物を宿の人間に預けると、さっさと中へと入っていく。
そして、宿の案内を回り、軽く汗を洗い流し、食事を済ませるとあっという間に初日の夜は更けてしまったのだった。
次いで、次の日。
丸一日自由な時間の有る今日。
ウェンディと桜麗は、昨日はさらっと済ませた宿自慢のバーニャへ足を運んでいた。
「さあ、がんばりますよっ」
そのバーニャに入るなり、ウェンディは一糸まとわぬ姿で握りこぶしを作っていたりしていた。
「気合入ってるわねぇ〜」
「当然です。少しでも減らさないと!」
同じく一糸まとわぬ姿の桜麗がその横で笑う。
が、当のウェンディは大真面目である。
ちなみに、言うまでもないかもしれないが『減らす』のは乙女共通で永遠のテーマであるアレである。
「そぉお〜? あんまり気にしなくても良いんじゃなぁい?」
「それは痩せてる人だから言える台詞ですっ」
言って、桜麗の体型に一通り目をやると、ウェンディの視線が一点で止まる。
そう、ウェンディが視線を向けるのは、桜麗の胸元。
「(あんな大きい余分な物が付いているのに‥‥!)」
ちなみに、自分のそれはそれほど大きくは無い。そういった意味では、自分に有利と言えよう。
そんな全然慰めにならない事を思い、二つの意味で‥‥しかも相乗効果となって、殊更ウェンディを凹ませる。
「あらん? ‥‥羨ましいのぉ?」
「そ、そんな事はありません!」
ウェンディの視線に気が付いた桜麗がからかう様に口にする。
「ふふぅ〜ん?」
そのからかうような視線のまま、桜麗が小さく口元に笑みを浮かべた。
「くっ‥‥やはり、あの力を使うしかないようですね」
「何してるのん?」
なにやらごそごそとランプのような物を取り出したウェンディの手元を桜麗が覗き込んで来る。
「部屋の温度を上げるためにイフリーテを呼ぼうかと」
「‥‥死ぬわよ?」
さすがに、これ以上バーニャの温度を上げれば死なないまでも気を失うくらいはするだろう。
「うぅ‥‥‥‥」
ウェンディが呻きながらしぶしぶそのランプを片付ける。
そんなウェンディの様子を―――というか、ウェンディの体型をまじまじと観察する桜麗。
「ふ〜ん、余分なお肉なんてぇ付いてないじゃい」
などと言って、確かめるようにウェンディの全身をペタペタと撫で回し始めた。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと、くすぐったいですっ」
そしてウェンディはその感触に身を捩じらせながら抗議の声を上げる。
「ふふふ‥‥くすぐったいだけかしらぁん?」
桜麗がいたずらっぽく笑うと、さらにその手をウェンディの身体に滑らせていく。
「ほ、他に何が‥‥はぅっ‥‥ひぁっ」
「ほんとぉ〜にぃ〜?」
「ほんと、にゃ、あっあはっはははははっっ」
その日、カティナーブにウェンディの笑い声が木霊した。
「まったく!」
「いい汗がかけたでしょぉ?」
桜麗のくすぐりから解放されたウェンディは脱衣所で服を着ながら不機嫌を表すものの、桜麗の方はどこ吹く風、笑いながら持参した浴衣に袖を通す。
桜麗は平常だと派手な洋服を身に着けていたが、宿のお風呂上りは浴衣、というジャパン人の拘りから浴衣を持参している。
「限度という物がありますっ」
「(イフリーテを呼ぼうとする方がよっぽど限度越えてると思うけど)」
というツッコミは、桜麗の心に止めておくとする。
「桜麗はこれからどうしますか?」
着替え終わるとウェンディが桜麗にたずねてくる。
「そうねぇ〜、桜麗は‥‥」
その問いに桜麗が答えようとするとした時、
「(あらん?)」
背中に何かが引っかかったような感触がして、首を曲げて後ろを見るが‥‥特に何も無い。
「どうかしました?」
「なんでもないわぁん♪ ん〜と、桜麗は少し散歩でもしてこようかしら」
「そうですか。私は部屋で休む事にします」
「笑い疲れましたから」そう付け加えて軽く桜麗を睨むと、二人はそれぞれの方向へ分かれていった。
一方、ウェンディがバーニャで笑い転げていた頃。
「あんた達ついといで☆」
シャリンは妖精二匹と共に、山の中を飛び回っていた。
そうして飛び回っていると、木々を抜けてすっと視界が開く。
「ここが頂上かしら?」
『かしら〜?』
そこは確かに山で一番高い場所であったが‥‥その向こう側はなだらかな下り坂ではなく、切り立った崖になっている。
緑が途絶え、硬くなった土が剥き出しになったその先端には、大岩が一つ‥‥。
「これが宿の案内にあった『でんせつのけん』ってやつ?」
その大岩には、宿の宣伝通りに剣が突き刺さっていた。大岩の横にはそれである事を示す立て看板もあるため、間違いは無いだろう。
「凝ってるわねー」
『ね〜』
その剣とは薄紅色をしたレイピアで、野晒しにされているにはきれいな状態である。
そんな宿の名所の一つを通り過ぎ、崖伝いに飛んで行くと、今度は重い水音がその耳に届いてくる。
見えてきたのは、その崖を流れ落ちる川の水。
「きれいな水ね、あんた達も飲んでみなさい」
シャリンが羽を休めてその水に口をつけると、まねする様にフェアリー達もその水を口にする。
その滝はそれほど高くは無いが、その清らかな水は宿の謳い文句以上であろう。
「ん〜?」
『ん〜?』
しばし羽を休めた後、滝の上でシャリンが何かを考え始める。その横で、フェアリー達も主人の仕草を真似ていた。
どうもシャリンはその滝を元に、新しい踊りを考えているらしい。
「よ〜し!」
そうして試しにフェアリー達といろいろ踊ってみている内に、シャリン達の時間は楽しく過ぎていくのだった。
夕方に到着し、一日過ごすと、次の日の朝には出発する。
二泊三日といえども、カティナーブで過ごす時間はとても短い。
しかし、その短い時間でも、三人の中に何かを与える時間であった事を、三人の背を見送る宿の人達は信じるのであった。