捧ごう、今、もう一つの黙示録を

■シリーズシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月10日〜06月15日

リプレイ公開日:2009年07月05日

●オープニング

 ――ある日、やみのカミサマは言いました――
 ――「このセカイは、自分たちでかんりすべきだ」――
 ――それに、他のカミサマたちは、はんたいしました――
 ――だけど、やみのカミサマは、あきらめませんでした――
 ――そして、やみのカミサマと、ごにんのカミサマと、――
 ――白のカミサマの剣をもつ、女の子のたたかいがはじまりました――


『選べ、我が支配を受け入れるか、それとも死か』
(「な、なんだ、こいつは‥‥!」)
 今、自分の首を掴んでいる闇の塊‥‥。
 それにより、今自分の命は尽きようとしている。それは確かな未来。
 もう自分だけの力では、その未来から逃れる術もない。
(「こんな‥‥ことが‥‥」)
 首の自由が利かないため、目だけを動かし、視界の届くかぎり辺りを見回す。
 ほんの少し前まで存在した、自分の部下、同僚、同僚の部下‥‥それはすべて、塵となってこの世から消えた。
 この世界に干渉する力を失ったのではなく、本当の意味での死。
(「人間どもに剣を振るう事なく消えるというのか」)
 北の地での戦い。人間どもに押し返され、その結果散り散りとなった味方を集めた。
 その集まった味方は、今や自分一人。
 集まった中には、自分と同等の中級デビルも何体か存在した。下級デビルの数は、数えるのも面倒なほど。
 それが、突然現れた一体の闇の存在によって容易く崩壊してしまった。
(「精霊の‥‥アンデッド、だと?」)
 抵抗はした。それも、地獄に存在する本来の力を使って、だ。
 しかし、高威力の月の魔法と、高い防御能力に、それを突破して僅かなダメージを与えても、それをあざ笑うかのような再生能力‥‥チェルノボーグと名乗った闇の人型は今、無傷の状態で自分の前に立っていた。
『選べ』
 チェルノボーグの言葉が繰り返される。
 これを拒んだ者は、既にこの世界に存在しない。これを受け入れた者も、もうこの世界に存在しない。
 答えを出さなかった者も、また同様に―――


 数日前に閉鎖された娯楽宿カティナーブ。
 ほんの数日で、そのカティナーブとキエフの間に存在するいくつかの村が消えた。
 元凶は、チェルノボーグと名乗る、人外の何か‥‥。
 漆黒のローブに全身を包み、大鎌を手にした下半身の存在しない巨大な人型。悪魔のようの姿を持つそれは、しかしデビルではないらしい。
 チェルノボーグは、人里を経由しながらも少しずつキエフへと近づいている。‥‥正確には、消え去ったとの報告を受ける人里の位置が少しずつキエフへ近づいているのだ。
 その傾向の元、次にチェルノボーグが現れると予測される村。そこがチェルノボーグのキエフ到達を食い止めるための防衛地点。
 相手がデビルではなくとも、失敗は多くの犠牲を意味する。

 始まったのは、もう一つの黙示録。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4531 ウェンディ・リンスノエル(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec6127 楼 桜麗(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114)/ ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

「今夜で間違いないんだな?」
「ええ、間違いないわ」
 フォーノリッヂで今日の夜に起こる未来を見たシャリン・シャラン(eb3232)が肯定する。
「準備を急がなければなりませんね」
「この前はぁ、突然のデ・ア・イ♪で驚いたけれどぉ」
「ええ、今度は‥‥」
 村の外に集った冒険者達は、戦場になるであろう場所に用意したたいまつやランタンを設置していた。
 夜にしか姿を見せないチェルノボーグに対するには、必要な物。
「で、結局チェルノボーグってのは一体何なんだ?」
「何なのかしらねぇ?」
 実際に立ち会った事のある楼桜麗(ec6127)にオラース・カノーヴァ(ea3486)が尋ねるが、桜麗も揃って首を傾げるだけである。
「このロゼの剣と関係があるのは確かですが」
 ウェンディ・リンスノエル(ec4531)が薄紅色のレイピアを掲げてみせる。
「さてとぉ、こんなものかしらぁん♪」
「持ち込んだ分は全て設置し終わったようですね」
 話をしながら手を動かしている内に、作業も終了したようだ。
「後の時間は夜に備えてないとね」
「眠れるでしょうか‥‥」
 アレーナ・オレアリス(eb3532)が、まだ頭上高くに輝く太陽を、目に手をかざしながら見上げていた。
「無理にでも眠らなければいけませんよ」
「居眠りをしならが戦えるような相手でもないみたいですしね」
 最年長のメイユ・ブリッド(eb5422)が、もう避難も完了し、誰一人住民が存在しない村へと向かい始めると、他の者もそれに続いた。


「‥‥月がきれいですね」
 呟いたのは誰だったか。
 しかし彼らを包むのは、月の明かりではなく、
「周りの明かりが無ければもっと風情があるんだろうが」
 昼間に用意した、たいまつやランタンの明かりである。
 既に明かりの外は暗闇に覆われ、夜の‥‥闇の、時間である。
「来ます―――」
 闇を従える、強力な気配。
 それを感じるのは、二度目の事だ。

『選べ、我が支配を受け入れるか、それとも死か』

 空中の一点に闇が集まり、集まった闇が形を作る。
「現れましたね!」
 六人が構える。
『選べ、我が支配を受け入れるか、それとも死か』
 しかし、現れたチェルノボーグは向けられた武器を意に介さず、言葉を繰り返す。
「答えは‥‥決まっているわよぉん♪」
「ええ、アナタの言う支配や管理、そんなもの私達には必要ありません」
 桜麗とウェンディの二人が代わり代わりに応える。
『当代の聖戦士よ、やはりそれが答か』
「聖戦士‥‥?」
「‥‥‥‥」
『ならば、我も応えよう、以前と同じように』
 チェルノボーグの月色の目が細められ、その両手に大鎌が出現する。
『我に従わぬは、死、あるのみ』
「そんな簡単に死んでたまるかってーの」
「そうそう、と、いうわけでぇ〜」
「滅ぶのはアナタの方です!」

 ロゼの剣を構えたチャージングでウェンディの身体が一直線にチェルノボーグの身体へと突き刺さる。
『効かぬな』
 それをチェルノボーグは防ぐ事すらせず、動きの止まったウェンディへと大鎌振り下ろした。
 ウェンディはロゼの剣を引き抜いて体勢を整えると、ロゼの剣とは反対の手にある蒼い篭手でその大鎌を受け止める。
「続けていくわよぉん!」
 初撃で一気に加速したウェンディのすぐ後ろに追いついていたのは、疾走の術で加速した桜麗。その姿は分身の術で幻影を作り、チェルノボーグを惑わす‥‥はずだったが、
「わぉ!?」
 妖剣を構え、術の力を借りて高く飛び上がった桜麗を、チェルノボーグのムーンアローが正確に本物の桜麗を貫く。
 体勢を崩された桜麗だが、空中でくるりと一回転すると足から地面へと着地した。
「くっ、傷が‥‥塞がる!?」
 注意が桜麗へと向いた隙に、自由だったロゼの剣を振るいチェルノボーグを切りつけ、その反動でチェルノボーグと距離を取ったウェンディ。
「再生する暇を与えなければ!」
「そういうこった!」
 真正面から向かったウェンディと桜麗の二人とは違い、散開してチェルノボーグの後方に左右で分かれた位置取りをしていたオラースとアレーナ。
 グリフォンに跨り空中を疾るオラースと、地上を行くアレーナ、その二人が、真上から見れば互いの位置を変えるような形で左右からチャージングを放つ。
『無駄な事を』
 アレーナが向き直ろうとする隙、その一瞬でアレーナの身体がシャドゥボムの爆発に包まれる。
「こんのぉ‥‥やろぉぉ!!」
 頭を狙い戟を振りかぶるオラース、それをチェルノボーグが構わず大鎌を振るおうとするが、
「させません!」
 高くで振りかぶる大鎌をウェンディのソニックブームが軌道を逸らし、振り下ろされた戟がチェルノボーグの頭を捉える。
『ぐ‥‥ぉ‥‥』
「このまま一気に!」
「いくわよぉん♪」
 そして、レジストマジックでシャドゥボムの爆炎を退けたアレーナが地上を走り、再び跳んだ桜麗との連続攻撃。
『ガ‥‥オォォォ!!』
 それは、チェルノボーグが初めて発した叫び。
 その叫びと共に、大鎌を一閃‥‥その一振りの衝撃で冒険者達はいとも簡単に弾き飛ばされてしまう。
「ちっ‥‥!」
 グリフォンから振り落とされたオラースが地面に叩きつけられた痛みをこらえながら体勢を起こす。
「い、いつつ‥‥」
 同じく、跳び上がっていた桜麗も叩きつけられた地面から体を起こすが‥‥
「桜麗!?」
 その身体が大鎌によって引き裂かれている。浅いようだが、傷口が広い。
 ダメージを受けた桜麗を、シャリンの連れた風の精霊がすばやく回収して後方のメイユの元へ。
「大丈夫ですか?」
「まだまだ平気よぉん」
 リカバーで回復させると、他の者も一度メイユの元へと集う。
 この場にはホーリーフィールドが張ってあるため、多少の攻撃は気にしなくてもいい。
『ぐ‥‥我に従わぬは‥‥死、あるのみ‥‥』
「なぜ‥‥」
 なぜ、そうまで世界の支配にこだわるのか。
『我以外の五精霊、そしてベロボーグのやり方では、デビル共が存在せずともいずれ世界はバランスを崩し、崩壊する』
 五精霊、チェルノボーグの力である『月』以外の『火』『水』『土』『風』『陽』を司る、チェルノボーグと同等の力を持つ精霊達。
「ベロボーグ‥‥?」
『キサマ達は、『慈愛神セーラ』と呼ぶ』
「セーラ様!?」
『ヤツは、その力を宿した剣を人間に与え、五精霊と共に我を滅ぼした』
「その剣が‥‥この『ロゼの剣』、なのですね」
『ヤツラは世界を監視するのみ‥‥ただ見ているだけだ、世界が崩壊する事を』
「世界が崩壊する‥‥」
「誰がそうなると決めた?」
『長く世界を監視していれば、考えずとも分かる事だ』
「あなたは‥‥信じる事が出来なかったんですね、『世界』を」
『信じる‥‥?』
「そんな事も忘れてしまった‥‥心の荒みきった闇の神にも慈悲の光が差さんことを」
『愚かなる者よ、荒み、穢れ、光も闇も侵すのがお前たち人間だ、そしていずれは世界そのものを』
「愚かな人間が嫌いか?」
『好嫌は無意味、愚かであるから、我が管理する、世界を存続させるために」
「それが、お前の目的か」
『その為に‥‥我に従わぬものには、死を』
「話し合いで解決できるような事でもないようねぇ〜」
「そんじゃ、再開といくか」
 それぞれが、再び武器を構える。
「私達は世界と共に進んで行ける、それを今、アナタに証明しましょう!」

「都合よく一気にぃ〜とはいかないものね!」
「けれど、再生も無限ではないはずっ」
 戦いは、初戦と似たような事を二度繰り返していたところであった。
 つまり、冒険者の連携でチェルノボーグにダメージを与え、それをチェルノボーグが払いのけ、両者共に回復をする。
 決定打に欠けるのだ。
「そうねぇ、桜麗もそろそろ‥‥」
 桜麗が紅い篭手を装備した右手を構え、
「出し惜しみは無しでいくわよぉん♪」
 構えた桜麗の右手が高温を発し、紅く染まる。
「えぇーーい!」
 篭手の力でヒートハンドを発動した右手がチェルノボーグの身体を掴み取り、その身体を抉る。
『なん、だと‥‥!』
 それは、これまでとは声色の違う‥‥驚きに近い叫び。
『この力‥‥』
 まだ熱の残る自分の体。それは、チェルノボーグが良く知る者の力。
『そうか、『炎ノ』、自身の力を宿す武具を用意していたのだな、我に対抗するため‥‥』
 どこか呆然と呟くチェルノボーグ。
 ―――決定打を、見つけた。
「ウェンディ!」
「ええ!」
 桜麗の呼びかけに、ウェンディが応える。
 二人がチェルノボーグから間合いを取り、
『させぬ!』
 大鎌は届かない、なれば魔法で二人を止めようとする。しかし、
「それはこっちの台詞だ!」
『オノレ‥‥!』
 オラースの戟が、アレーナの刀が、同時に身体に突き立てられ、チェルノボーグの魔法は阻まれる。

 
「炎の神、炎帝よ」「氷の神、氷王よ」
 桜麗が右手の紅い篭手を、ウェンディが左手の蒼い篭手を、
「私達に‥‥」「力を!」

『(私達の力、再び『闇』を封じるために―――)』
『(貴女達に託しましょう―――)』


 ウェンディの左手が、蒼い冷気の魔力を宿す。
 桜麗の右手が、紅い灼熱の魔力を宿す。
 その二つの手が重なり‥‥
『我が目的のために‥‥!』
 チェルノボーグが、二人を止めるべくシャドウフィールドを発動する。
「無駄です!」
 だが、その魔法はメイユのニュートラルマジックで打ち消され‥‥チェルノボーグと、片手に神とも言うべき精霊の力を宿した二人の間に、障害は消え去った。
「やれ!」
『ヤァァァ!!』
 紅と蒼の軌跡を残し、チェルノボーグに、二人の手が突き立てられる。
『グッ、オノレ‥‥『炎ノ』、『氷ノ』、また我の邪魔をするのか‥‥過去と同じように!!』
 二人の手がチェルノボーグの身体を、冷気と灼熱で蝕む。
 そして、
「チェルノボーグ‥‥これで、終わりです!!」
 ウェンディの右手に握られた、ロゼの剣が深々とチェルノボーグの喉元に突き立てられていた。
『ガ‥‥ア‥‥アァ』
 苦しげな声。
『ア、アァァァァ!!』
「なに!?」
「キャッ!!」
 チェルノボーグから発せられた力を受け、再び引き剥がされる冒険者達。
『‥‥‥‥』
「ダメか‥‥!?」
 チェルノボーグは、まだ消滅してはいなかった。
『クックックッ‥‥』
 低い、哂い。
「ならば、何度でもやってみせましょう」
 冒険者達の意思は折れない。
 しかし、それはもう既に。
『ベロボーグよ、これも‥‥イヤ‥‥違うのであろうな‥‥』
 それは、誰に向けたものでもなく。
『良いだろう、人間よ』
 チェルノボーグが、初めて‥‥初めて、真っ直ぐ冒険者達を見ていた。
『我は滅びぬ、しかし、此度の戦いで力を使いすぎたようだ』
「‥‥‥‥」
『我は再び、封印の地で眠りに付く事にしよう』
 あの、長きに渡りロゼの剣の存在した場所へ。
『眠りにつく間、その力で、我の目的に邪魔となるデビル共を滅ぼし尽くすが良い』
 自分が支配すべき世界を壊す存在、デビル。
 それはチェルノボーグにとっても相成れない存在。
『その後、我は再び復活し、世界を支配する‥‥』
「それは‥‥」
『その時を、待とうではないか―――――――』
「‥‥」
「勝った、のでしょうか」
「どうかしらねぇ」
 全員が、チェルノボーグの消えた空間を見つめたままだった。
「どちらにしても、私達『人』がやるべき事が、また増えたようではあります」
 次にチェルノボーグが復活する時がいつなのかは分からない。
 その時に、今回と違う答を見つける事が出来るであろうか。
 それは、その時になってみなければ分からない事である。