ただ目の前の光【終】
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月20日〜10月30日
リプレイ公開日:2004年10月25日
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●オープニング
<山賊・アジト>
数ヶ月前、丘の上に突然出現した山賊団のアジト‥‥日をおうごとに、まるで村が開発されるかのごとく活気を帯び、発展していったその場所では、先日冒険者らとの戦いで傷を負った者たちが憮然とした様子で一人の戦士を取り囲んで議論を行っていた。
「話が違いますぜリゼの旦那。あんな町や冒険者程度、あっしらの敵じゃないって話だったじゃないですか。それがあの町の予想外の抵抗、炎‥‥そして肝心の旦那まで撤退。その上これ以上の支援はできないなんて‥‥‥‥踏んだり蹴ったりですぜ! とてももう一度襲撃なんてできやしません」
「俺も人間だ。傷を治すための一時後退程度する。まだ理解できぬのか? あのまま戦っていればこちらが勝っていた。それに、一度撤退したとはいえ貴様らの大半は傷らしい傷も負ってなどいないではないか! すぐに出撃するぞ‥‥怖いなら全員でだ! わが主の気はそこまで長くはない」
リゼと呼ばれた男は煮えきらぬ山賊達の態度に苛立ちを隠しきれない。あの程度の敗北がどれほどのものか!? 正規兵であったのなら、この装備を持つに足る者達であったのなら、あの冒険者どもであったのなら! すぐにでも反撃に転じ、勝利を得ていたであろうに!! 寄せ集めの者たちとはいえなんと情けない、臆病者の集まりか!
「ですがね旦那、また冒険者の野郎どもがいるってこともありますぜ。‥‥それに、あんたの主ってのは一体誰なんだ? こっちも確実な後ろ盾なしに‥‥‥‥!!」
出撃を渋っていた山賊のリーダー格の男が、背後から聞こえた悲鳴に言葉を一旦止める。そして彼が振り向いた先には‥‥‥‥この辺りの土地一帯を統べる実力者、ベリガールの姿があった。
「愚かなものだな山賊よ。貴様らがどこのだれの支援を受けているのかは知らぬが‥‥我の領土を脅かした罪、その命をもって償えぃ! 冒険者と町人程に負ける貴様等など、所詮我の相手ではないわ!!」
勝ち誇った声で右腕を挙げるベリガール。そして間髪いれず、アジトを取り囲むように配備された彼の私兵45名が現れる。
「ま、待ってくださいベリガールの旦那。そりゃ俺たちはあんたから寝返った。でも、それはあんたが支援費を急に落としたからで‥‥そ、そもそも俺たちはあんたがつくったんじゃないですか!」
逃げることもできず、泣き喚くような悲鳴をあげる山賊。だが、ベリガールは彼らの嘆願を鼻で笑うと、私兵に攻撃開始の合図を送る。
「わからぬのか下衆どもめ。‥‥どちらにしろ貴様等など、反対派を軒並み殺した時点で用済みだったのだ!! 飼い犬が飼い主に牙を向いた報いだ‥‥シネィ!」
怒涛に、津波の如く襲い掛かってくる私兵たち。
「リ、リゼェエエ! あんたのせいだ、あんたの‥‥」
「気付かないのか腑抜け! こいつらもてめぇらと同じ寄せ集めの兵隊だ。人数では勝っている。死にたくなきゃ戦えェ!!」
炎に包まれるアジト。泣きながら武器を引き抜き、命を落とさぬために夢中で戦う山賊達。
だが、そんな彼らの気持ちも空しく、次々と失われていく命。鮮血は大地を彩り、炎にあぶられて嫌な匂いになる。士気の違い、陣形の違いによる山賊達の不利は明らかだった。
崖の上から高笑いをあげるベリガール。これで目の上のたんこぶは解消。地に落ちた自分の評判も改善されるだろう。高い出費になったが、たまにはこんな余興があっても悪くない。いや、まったく‥‥‥‥。
「‥‥‥‥ベリガール殿とお見受けした。我の名は‥‥ガルシュード・ロメリス。そのお命、我が主のために頂戴いたす!!」
‥‥‥‥戦いは、リゼと呼ばれていた戦士の一振りによって、予想外の結末を迎えることとなった。
<冒険者ギルド>
「よう、あんた。また例の町から依頼が届いてるぜ」
冒険者ギルドを訪れた冒険者を見ると、ギルドの職員は依頼書を提示する。
そこには依頼内容と共にかつて冒険者が訪れた町が徐々にではあるが再建されようとしているという事実が記されていた。
あれから山賊の襲撃もなく、町では復興作業が順調に行われていること。負傷者も冒険者達の手当てによって経過が順調だということ。ベリガールの警備隊が増強され、近々討伐に行くということ‥‥。
「それで、今回も一応有事に備えてあんたらに警護を頼みたいってことなんだ。‥‥俺が言うのもなんだが、ずいぶん成功が見える依頼になってきたな。あとはお前たち次第だ。興味があるなら行ってこい」
●リプレイ本文
「‥‥何かパッとしねぇ天気だな。雨でも降らねえといいんだが」
アジトへと通じる道を歩きながら、ルクス・ウィンディード(ea0393)はどんよりとした空を見上げて肩をすくめる。雨が降ると足場はぬかるむし、火計は使えないしといろいろ不利な条件が降りかかってくる。
「そうですね。雨が降ると火を使おうにも‥‥‥‥!」
「安心しな。もうアジトには燃えるものなんて残っていやしねぇよ」
突然、冒険者の周囲に広がる森がざわめいたかと思うと、そこから青銅色の鎧に身を包んだ男、リゼがエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)目掛けて飛び出してきた! 声を上げる間もなく弾き飛ばされるエルド。冒険者達は完全に予想外の敵からの奇襲に、慌てて自らの武器を引き抜く。
「まさかそちらから奇襲とは‥‥やってくれるなぁ若いの!!」
「奇襲はそちらの常套手段だろう? こちらも手を選んではいられないんでな‥‥いまさら卑怯とは言わせん!」
間髪いれずに道の奥から襲い掛かってくる十五名の山賊達! シャルグ・ザーン(ea0827)はリゼの突進を力任せに何とか受け止める。
「リゼ、あんたがいるから余計な戦いが増える。ここで倒れてもらうよ!」
「俺はここでお前を止めてみせる!!」
鍔迫り合いはリゼにとっていわば敗北。死角から一気に刃を突き出すのはアリア・バーンスレイ(ea0445)、アレス・メルリード(ea0454)。獰猛な切っ先はリゼの身体に突き刺さらんと、その勢いをみるみるうちに増していく。
「この程度の攻撃が防げないようで主のもとへ帰れるものか!!」
だが、その行動はリゼの予測範囲の出来事であった。リゼはかかったとばかりに口元を緩めるとジャルグの太刀を素早くさばくと、アリアの攻撃を左腕に受けながらも残る右腕をアレスの顔面へしたたかに打ち付ける。
だが、その際にできた隙を見逃すまいと、アリアはさらなる一撃を繰り出そうと試み‥‥ギリギリのところで踏みとどまった。いかに絶対的に有利な状況とはいえ、一対一でかなうような相手なら最初から三人でなど立ち向かっていない。
「待て、深追いはやめるのじゃ! 三人で戦い続けていればいつかはこやつの防御も崩れる! 二人とも慎重になるのじゃ」
「ええ、わかってる。傷は何とか負わせたわけだしね‥‥慎重に‥‥」
「大丈夫だ‥‥‥‥俺もまだやれる」
一旦リゼと距離を置き、体勢を立て直す三人。リゼは自らの肩口についた傷の深さを確認するためか、左手を顔付近まで持ち上げ‥‥小瓶を地面に投げ捨てた。
その小瓶の中身は確認するまでもない。冒険者であればおそらく皆知っているもの‥‥リカバーポーション!
「卑怯だとは言わせん。‥‥さあ、かかってこい小僧に小娘におっさんよ!!」
全身から覇気をみなぎらせ、三人と対峙するリゼ。冒険者はそれぞれ武器を構え、目の前の強大な敵に‥‥‥‥震えた。
「後衛がいなくなれば戦闘は一気に有利になるはずだ!」
「やらせるか! こいつらを仕留めるんだ!!」
山賊とスニア・ロランド(ea5929)の掛け声が交互に響き、森の中は一気に乱戦模様となった。数と装備に上回る山賊達ではあるが、その実力は冒険者に及ばない。
ゆえに乱戦は接戦、消耗戦の様相を呈していた。
「いち‥‥ニッ! さんしいのォ‥‥五ッ!!!! ‥‥っ、敵が多い!」
夢中で山賊へ武器を突き出すルクス。だが、前衛が彼とスニアとブレッドしかいないのでは後衛への攻撃を防ぐことなどできない。仲間を護りたい気持ちと目の前の敵を確実に倒さねばならないというジレンマを背負い、ほんの僅かな間であるが集中力が乱れる。
「冒険者あぁあ、倒れろ!」
偶然か、それとも必然か‥‥最も重要なことは事実として山賊がその隙を突き、ルクスへ背後から突撃を敢行する! 慌てて振り向き、槍を振りぬくはルクス。
しかし、既に間合いの内に入られた敵に、長いリーチを誇る槍は本来の力を発揮できない。ルクスは咄嗟にバックステップを踏んで致命傷こそ逃したものの、脇腹から血を流しながら大地に倒れこんだ。
「ルクスさん!」
仲間の負傷に慌てて駆け寄ったのは藤宮深雪(ea2065)であった。彼女はその優しさからか武器を持たぬまま、自らの身を呈して仲間を護ろうと試みる。
「‥‥てめぇ‥‥そんなに死にたいんなら‥‥っ!!」
予想外の行動に面食らったのは誰よりも武器を振り落とそうとしていた山賊であった。武器は数秒間振り上げられたまま天を指し、彼の腕が炎にあぶられるまで動くことはなかった。
「Absolute Order(我が意のままに舞い踊れ火霊)! ‥‥あのまま寝ているとでも思ったか。Hire bin itch(我此処に在り)! この炎恐れぬのならば、皆纏めて掛かって来いっ!」
リース・マナトゥースの手当てを受けたエルドは炎を操りながら山賊達を牽制していく。その炎には直接的な殺傷力を持つほどの威力はなかったが、いかんせん士気が上がろうとも寄せ集めは寄せ集めである。山賊達は自らに襲い掛かってくる炎に恐怖し、どうしても及び腰になってしまう。
「さぁさぁ! 命が惜しくなければかかって来い! この知る人ぞ知る風魔法使い、ジョセフ・ギールケ(ea2165)がお相手しよう!」
そしてひとたび相手が及び腰になってしまえば非力な魔法使いといえども接近戦を有利に進めることが可能となる。『知る人ぞ知る』と自分で言っていては仕方ないが、ギールケは自らの言葉に頬を赤らめながらもシルバーナイフを突き出していく。
「知る人ぞ知る男か‥‥‥‥悪いがしらねぇよ!」
追い詰められ、自棄になったように斧を振り回す山賊。その攻撃はことごとく空を斬り、逆に銀色に輝くナイフが彼の腕へと突き刺さった。男は激痛に悲鳴を上げながら逃亡していく。
「『知る人ぞ知る男、恐るべし!』 ‥‥ってところか?」
「エルド、ちょっとその言い方は気に入らないが‥‥まあよしとしよう」
敵を一人退けたギールケはエルドの言葉に軽く応対すると、次なる敵へと向かっていった。
‥‥‥‥大粒の雨が森の中に降り注ぎ始めたのは、それから間もなくのことであった。
「そんなものか小僧に小娘におっさん!! その程度の力で俺を倒せるとでも!?」
三名の冒険者を相手にたった一人で戦い続けるリゼ。挑発と奇抜な戦法、周囲の樹木を徹底的に利用し、一対一の状況を作り上げていく。
「小僧じゃない! 俺はアレス‥‥アレス・メルリードだ!」
「それなら言ってやろう小僧! 貴様程度の未熟な腕では、奇跡を起こすことなどできないのだ!!」
耳を覆い尽くすような雨音の中、剣を構えて突っ込んでいく二人の剣士。だが、リゼは剣による正面からの打ち合いを拒否して身を翻すと、剣の柄をアレスの顔面にめりこませる。その場に崩れ落ちるアレス。‥‥そして彼の頭上には鋭い刃が用意されていた。
「やらせるものかぁ!!」
「‥‥いい気迫だ小娘。それだけわかりやすく来られると‥‥無視できないよなぁ!」
アレスを殺そうと思えばそれはできた。だが、アリアが全身から放つ殺気はリゼの防衛本能を強烈に刺激し、振り落としかけていた刃を彼女の元へ向かわせる。雨音の中飛ぶ火花。リゼは冷静に剣の腹で攻撃をさばくと、泥を含んだ前蹴りをアリアの腹部へ向け‥‥‥‥その足を地面に戻した。
「足を狙ってくるとはみみっちい野郎だな」
「あんたを仕留めるのは俺じゃない、誰かが仕留めりゃ良いのさね。弓の引き手は仕留めることに拘っちゃあだめなのさっと」
マナウス・ドラッケン(ea0021)とリゼが振り上げていた足の延長線上の樹木にはマナウスが放った矢が深々と突き刺さっていた。厄介な存在にリゼは挑発を行うが、生きている年数の賜物か、マナウスはそれを軽くながしてこちらが掴み始めた戦局の流出を食い止めた。
「その通り、お前を倒すのは我が輩である!! 倒れろおおォオオ!!!」
リゼが舌打ちを放つ間もなく、視界の端からジャルグが突進してくる。相打ち覚悟のその気迫とそれが生み出す迷いなき切っ先は、風と雨音を切り裂いて絶叫と共に繰り出される!!
「やるな‥‥お主‥‥‥‥」
リゼとジャルグの身体が交錯し、鮮血が雨に混じって大地へ落ちる。両者とも深手は明らかであった。‥‥だが、いつしか水溜りとなった土へ崩れ落ちたのは、強大な敵との死闘に満足し、口元へ笑みすら浮かべるジャルグ一人であった。
「暇を与えたらまた回復されるぞ! アリア、アレス‥‥いけええぇ!」
ジャルグが倒れ、土の上にたまった水が楕円状に飛び上がる。叫ぶマナウス、駆け寄る深雪。‥‥そして、視界を水滴に濡らしながら剣を構えるはアリア・バーンスレイとアレス・メルリード。
「あと二人だ!! さあ、次はどっちがやられたい!? 未熟さに似合わぬ信念は火傷のもとだぞ!!」
「リゼエェエエ! あなたがいくら強くても‥‥私に護るべき人がいる限り‥‥‥‥負けない!!」
「自分がまだまだ未熟だってことぐらい十分わかってるさ‥‥でも、だからこそっ! いつか自分の実力の無さに後悔しないために、俺は強くなるんだあぁ!!」
‥‥視界が歪む。こんな時まで強がってしまうのは生まれながらの気性の荒さのせいか。山賊達の声が聞こえなくなった。皆敗走したのか。驚くことはない‥‥予想できていたことだ。
わかっているはずだ。わかっていたはずだ。‥‥‥‥自分は、最後まで信念を曲げず生き通すことになることを。
「アレスよ、アリアよ‥‥才覚豊かな若者よ‥‥‥‥最後に明かそう。我の‥‥名は‥‥ガルシュード‥‥ロメ‥‥リス‥‥‥‥」
武人は最後に自らの名を名乗ると、安らかな顔を蓄えたまま‥‥その生涯を終えた。
<翌日・ベリガール邸>
「私が捕らえた山賊があなたとの因果関係について話しております。それについて何か御存じではありませんか?」
別行動をとり、逃走した山賊を捉えることに成功したシルビィア・マクガーレン(ea1759)はベリガールとの謁見を果たすと、他の冒険者が見守る中、一人の貴族を問い詰める。
「そんな記憶はないな。世迷言であろう」
「その通りかもしれませんね。‥‥ですが、あなたが何者かに狙われているということは事実でしょう。今は善政を行って少しでも恨みを減らすことが得策だと助言いたします。‥‥そうでない場合、我々の口は軽いですよ?」
知らぬ存ぜぬを決め込むベリガールであったが、いかんせん相手が領地を救った英雄となれば分が悪い。ベリガールはリゼに襲われた記憶に体を震わせながら黙って頷くしかなかった。
こうして、一つの町と山賊との戦いは幕を閉じたのであった。
‥‥幾つかの謎と、一人の武人の死という結果を残して。