ただ目の前の光(弐)

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 90 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月26日〜10月05日

リプレイ公開日:2004年10月04日

●オープニング

 街が炎に包まれていく。
 山賊達は無差別に、ただ自らの欲求を満たすためだけに火を放ち、人を殺め、街の人々が苦難の末に手に入れた財産を奪っていく。
 その行為にはかつてのように特定の人物を狙うという類のものではなく、無差別に、気が向くままに行われていた。この土地を統べるベリガールは討伐隊を慌てて結成、すぐさま討伐に向かわせるが、冒険者を一蹴し波に乗る山賊団の前に惨敗‥‥‥‥今では討伐隊は領主の邸を守るだけの何ら役に立たない集団となってしまっていた。

「戦うしかねぇだろ」
 ある朝、町の中で一番大きな家に集まった‥‥集まり、戦える者が警護することによって何とか山賊からの襲撃をしのいでいる住民たちは決意を新たにする。
 そもそもの発起人はかつての冒険者・ブレッド。力を得る度に図に乗り、徐々にベリガールの統制がきかなくなった山賊団との決戦を決意する。
「とはいってもこっちで戦えるのは俺も含めて怪我人が二十人程度だ。ベリガールの自警団の増強は一ヵ月後だって聞くし、そもそもそれが動くことなんて期待できねぇ。足りない分は自分たちで用意しなきゃならない。‥‥‥‥もう一度声をかけているところだ。無謀な戦いに首を突っ込んでくれる冒険者にな。俺達の手でこの町を守り通そうじゃないか!」
 ブレッドは傷ついた腕を高らかに突き上げると、守りきる決意のもとに再び剣を取った。

<冒険者ギルド>
「またお勧めはできねぇ依頼だ」
 ギルドの係員は溜息混じりに依頼書を冒険者達の前に提示した。
「依頼主は前回と同じく元冒険者のブレッド。敵は‥‥前回よりも増えた山賊団が60名程度だ。個々の実力はたいしたこともないが、誰かから援助を受けたらしい武装は傷つきはしたもののそれなりに持っているらしい。今回報酬はきっちり出るようだが‥‥‥‥前も言ったが、本来ならこんな依頼は高レベルの冒険者がきっちりと準備を行った上で行うものだ。この前の敗戦を経験して、あるいは報告書を読んでも懲りないっていうんなら‥‥‥もう一度死ぬ気でいってくるか? 無謀な依頼だが人様の命がかかわっていることは確かだしな」
 ギルドの職員は僅かに口端をほころばせると、勇敢な冒険者へ依頼書を手渡すのであった。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1759 シルビィア・マクガーレン(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4890 ラーム・パラシオン(30歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

リース・マナトゥース(ea1390)/ マリー・エルリック(ea1402)/ エルド・ヴァンシュタイン(ea1583)/ バーン・ヴィンシュト(ea6319

●リプレイ本文

「もう少しですね‥‥」
 リース・マナトゥースの声が風の中に消えた中、三頭の馬が蹄の音を高らかに響かせて風を切っていた。
 その上に乗っているのは妙齢の男女であるが、その顔に浮かべる厳しい表情は、四人が遠出の乗馬を楽しんでいるという可能性を根本から否定した。
「負傷者の方は何人ほどおられるのでしょうか?」
 マリー・エルリックは口を真一文字に結んだまま道の先を見据える閃我絶狼(ea3991)とシルビィア・マクガーレン(ea1759)の緊張感を少しでも解こうと、蹄の音にかき消されそうになりながらもできる限り大きな声で彼に話しかける。
「情報では20人程度だったが‥‥それではおさまらないだろうな」
「にかく今は急ごうマリーさん。町についた時にはもう町がなくなっていた‥‥なんてことにならないように」

 前回味わった苦い経験を胸に抱き、閃我とシルヴィアは馬の手綱をしっかりと握り直した。

●一幕
「おう、あんたらよくきてくれたな。そうか、四人だけ‥‥‥‥」
「また会えて光栄だブレッド。俺たちはあくまで先行部隊だ。あとから十名ほど援護にくるから安心してくれ。‥‥‥‥歩きながら話そうか。ここにいるマリーとリースは回復魔法が使える。俺は怪我人のためにヒーリングポーションを持ってきた。重傷者に使ってくれ」
 たった二人の冒険者を目の前に落胆するブレッドの会話を途中で区切り、まずは冒険者側の情報を提示する閃我。マリーとリースをすぐさま治療に向かわせ、シルヴィアは動ける人員を集めてボロボロになった防護壁の修復に向かう。そして彼自らは自費で用意したヒーリングポーションを十本近く、採算など関係ないと呟いてブレッドに手渡す。
「それよりそっちの状況はどうなっているんだブレッド? こっちが聞いた情報だと三日に一度襲撃があるようだが、次の襲撃はいつになりそうなんだ?」
「ああ、恐らく今日か明日あたりにはありそうだ。ベリガールの部隊は相変わらず動く気配すらみせねぇし、これまで家を守ってきた柵も壊されたままだ。人数も減ってきてる。満足な武器もこっちは持ってない‥‥‥‥すまねぇな、悪い条件ばかり並べちまって」
「気にするな。だから俺たち冒険者がきたんだよ。今度こそ連中に一泡ふかせてやるさ」
 今日、最悪今日である! 閃我は自信に溢れた言葉を放ちながらも、その脳裏ではさまざまな思考が高速回転を始めていた。明日でギリギリ、きょうなら確実に仲間は間に合わない。
「ただ、できるなら‥‥‥‥」
 当然のようにいきなり訪れた窮地に、閃我は呟かざるをえなかった。

●二幕
 神とは心が洗われるような奇跡も起こせば、時に極めて悪趣味な偶然もひき起こすものである。閃我の祈りが天に届くことはなく、その夜二十数本の松明が彼らの視界に現れた。
「性懲りもなくきやがったか!! いいか、明日になれば残りの冒険者が来てくれるそうだ。きょうはここにいる『18人』で守りきるぞ!!」
 ブレッドの声が情報より六人減った戦士達へ力強く響き渡る。手に握られたロングソードはよほど手入れがされているのか、この連日の戦闘に巻き込まれても刃こぼれ一つしていない。傍らには不安そうな表情で子供がしがみついていた。
「安心していい。お前たちは絶対にこの俺が守ってみせるさ。‥‥ブレッド、俺は最前線で戦う。マリーは後方援護を。シルヴィアは最終防衛線を頼む! ‥‥これ以上やつらに好き勝手させてたまるか!」
 武器を高々と掲げ、ブレッドを含む数名の戦士と共に突進していく閃我。金属音と馬がいななく音は町じゅうに響きわたり‥‥町の随所で激しい戦闘が巻き起こった。

 ‥‥敢えてこの戦いを詳しく描くのはやめておこう。市民たちは閃我の一騎当千を思わせる奮戦ぶりもあり、何とかきょうも敵を追い返すことはできた

 そう‥‥‥‥きょうも、いくつかの家と‥‥‥‥尊い人命を犠牲にして。

●幕間
「この戦いの中、仲間を追悼することを愚かと言うだろうか? だが、これだけが俺たちに残った人としての誇りなのかもしれない。‥‥ただ、今は追悼の意を込めておくってやろう」
 防護壁を修復する作業すら中断され、丁重に埋葬された三名は笑みを浮かべたまま土の中へと潜っていった。

●三幕
「さあ、団体さんのお出ましだぜ。四十くらいか? ‥‥嬉しいじゃないか。二十じゃちょっと物足りないと思ってたんだよ。‥‥なあみんな?」
 荷車の後ろに身を隠しながらパトリアンナ・ケイジ(ea0353)は、今しがた通り過ぎていく敵の集団と、こうこうと松明が灯る町とを交互に見て口の端を緩ませる。
 その表情には、予想外に多い敵の数に対する恐れなど微塵も感じられない。
「当然だ。前回の借りはしっかりと返させてもらわないとな、けじめとして。‥‥さあ、そろそろ頃合だ」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)はこの日のために大量に調達した矢をゆっくりと弓の弦にかけ‥‥‥‥たっぷりと油にひたした鏃(やじり)に火をつけた。
 そして待ちきれないとばかりに街路から飛び出し、今にも町を襲わんとする山賊たちへあらんかぎりの力を込めて紅く輝くそれを解き放った!!
「今度はやつらに痛い目を見せてあげないとね!」
 マナウスの矢があらかじめ用意してあった干草に突き刺さり、ぶすぶすと音をたてる。冒険者の予定とは少し違ったが、そんなことも言っていられない。アリア・バーンスレイ(ea0445)をはじめとする冒険者達は一斉に物陰から飛び出すと、予想外の方向からの攻撃に浮き足立つ敵目掛けて一気に突撃していく。
 瞬く間に静けさは吹き払われ、周囲を叫び声と金属音が支配する。冒険者の弓から矢が回収などまったく意識せずに放たれ、町からもブレッドを先頭に戦士たちが一気に駆けてくる。
『っつ! これは罠か‥‥‥‥てめぇら、引き上げだ。ここは一旦‥‥!!』
 賊頭の目の前が深紅に染まり、ついで猛烈な熱気、馬の狂乱した声が五感に轟いてくる。炎がエルド・ヴァンシュタインやバーン・ヴィンシュトの魔法によって次々に干草に灯り、賊はあっという間に逃げ場を失った。
「ペナントでも火種になるもんなんだねぇ。‥‥逃げるなんてゆるしゃしないよ。あんたらには採算を度外視した冒険者達の恐ろしさをしっかりと知ってもらわないとね!!」
 パトリアンナが放った矢がまたしても干草を発火させ、馬に跨った賊はその機動力を失う。大半の者は馬を見捨て、意外にも冷静に武器を抜き放ち、冒険者と対峙した。
「どうやら背後に何ものかがついているって噂は本当みたいだね。‥‥あんたらに武器を与え、訓練までほどこしているのはどこのどいつか、退治ついでに吐かせてやるよ!」
 賊と対峙したパトリアンナはその屈強な肉体をいからせると、敵へ突進していった。


「‥‥我こそはシャルグ・ザーン(ea0827)! 死にたい輩は前に立つがいい!!」
燃え盛る火の中、ザーンは必死にジャイアントソードを振り回す。賊は武器で受けるのが無理と判断するや否や、屈強な防具でその一撃を受け止めようとする。
「ぬおぁおおお!!」
 鈍い音が響いたのも束の間、ザーンの渾身の力を込めた一撃が、敵の防御などもろともせずに巨体を弾き飛ばす。荷車の車輪が豪快な音をたてて壊れ、賊は気絶した。
『隙だらけだぜぇ、おっさん!』
 だが、乱戦模様での全力攻撃は諸刃の剣である。ジョセフ・ギールケ(ea2165)と対峙していた賊はひらりと身を翻すと、まだ呼吸も整っていないザーンの腹部へしたたかに一撃を浴びせる。
「まだ、若い者に‥‥!!」
 ザーンは脅威の精神力と体力で悲鳴をこらえ、歯を食いしばりながら武器を構え直し、体を捻りながら敵の攻撃を受け止める!! 舌打ちがザーンの耳に聞こえ、次なる一撃を振りかぶる人影が視界の端に映った。
「賊よ、その続きは‥‥地獄の亡者と楽しみなさい!!」
 振り落とされた剣がザーンの命を奪わんと振り落とされた刹那、カマイタチのように振りぬかれたスニア・ロランド(ea5929)の一撃が賊の右腕を切り落とした。賊は悲鳴をあげてその場で転げ回る。
「大丈夫? ここまできたら後は気力の勝負よ、何としてもこの戦い、勝ちましょう!」
「‥‥無論だ!」
 自らの半分ほどの歳であろうか? 彼の視点から見れば小娘からの声援に、ザーンはリカバーポーションを口に含みながら立ち上がった。

 ‥‥‥‥既に干草に引火した火は消えようとしていた。


『どけ女! ここまで俺らをコケに‥‥!!』
「その先など聞くまでもない! 提案するのならもう少し現実的なものにするのだな!!」
 シルヴィアのレイピアが冴え渡り、壁を突破してきた賊の左肩を貫く。賊は悲鳴をあげて大地の上を転がりまわり‥‥‥‥一瞬の隙を突いて馬に飛び乗った。
『ハハッ、せいぜいこいつに弾き飛ばされやがれ!』
「愚かな‥‥傷ついた馬にまたがり虚勢を張るとはな」
 重力の波がシルヴィアの腕を掠め、賊とその馬を貫く! 突然の重圧に襲われた一人と一匹は成す術もなく転倒した。
「責任は‥‥‥‥全うする」
 ラーム・パラシオン(ea4890)は非戦闘員が逃げ込んでいる家の前に陣取ると、徐々に収束を向かえつつある戦いを厳しい表情で眺めた。

●終幕
『っく、こんなはずでは‥‥‥‥』
「どうやら賊の中でもあなただけは違うようね。流派は‥‥私と同じコナンかしら? とても寄せ集めの賊の一員とは思えない。やっぱり背後に‥‥」
『黙れ小娘ぇ!!』
 賊の中でも一人異彩を放つ、どこか高貴な血筋を思わせる男はアリアの言葉を最後まで聞くことを拒否し、烈火の如き気迫から振り落とした一撃で彼女を弾き飛ばす。
『何もかもは貴様などに関与できるところにはないのだ! 己の無力さを‥‥!』
「させないよ。今回は負けないって決めたんだから。あなたは‥‥俺たちがさらに上にいくための糧になってもらう!」
『‥‥面白いじゃないか小僧。俺はお前みたいな奴が一番嫌いなんだ。自らの実力も知らず、ただ憧憬のみで俺に傷をつけたならどうなるか、その身をもって味わわせてやろうじゃないか』
 男はアレス・メルリード(ea0454)が投げつけたナイフを腕から引き抜いて炎の中に放り投げると、口元に笑みすら浮かばせて大剣を握り締める。アリアとアレスの二人‥‥いや、彼に狙いを定めるマナウスとパトリアンナを合わせれば四人の敵に囲まれているというのに、その表情は余裕に満ち溢れている。
「この思いは憧憬じゃない! 絶対にこの手に掴んでみせる!!」
 男の言葉に激昂したアレスは正面から男へ突進する。そして男もまた、その一撃に合わせるようにして大地を踏み鳴らすようにアレスへと疾走していった。
 あっという間に縮まる敵と味方の距離に、マナウスは眉をしかめパトリアンナは弓を手放す。動く標的、しかも味方の近くとなれば狙いにくさは通常の比ではない。
「アアアァアアア!!」
『ヌガアアァアア!!』
 両者の剣は掛け声と共にあっという間に交わり‥‥‥‥アレスは炎燃え盛る干草の中まで弾き飛ばされた。マナウスは眉をさらにしかめ、慌ててアレスの救出に向かう。
「その怪力はお見事。‥‥でも、その後は隙だらけだぜ旦那!」
 パトリアンナは男の背後を取ると、スープレックスを狙って両腕にあらん限りの力を込める。‥‥‥‥だが、男は浮き上がるどころかぴくりとも動こうとしない。直感的にパトリアンナが危険を感じ取った時には既に遅し、肘鉄が彼女の脳天に命中した。
『憧憬で勝てるような時代は‥‥』
「隙だらけよ!」
 アリアの剣が男の腕を切り裂き、男はそちらに向き直る。傷を負ってもその様子は相変わらずの余裕。なぜなら四人いた敵は既に二人しか‥‥‥‥。
「憧れも‥‥‥‥持てない奴が‥‥‥‥何を偉そうに言っているんだぁ!!」
 それは誰もが予想していなかった出来事だった。炎の中から飛び出してきたのはアレス・メルリード!! その身体は火の粉を振り撒き、剣は強大な壁を貫いた!
『‥‥っ、まさか‥‥‥‥』
 傷口を押さえて逃走する男。他の賊も男の撤退が分かるや否や、武器を放り投げて逃走していった。

「よくやった!」
 呆然と大地に横たわるアレスの視界にマナウスの笑顔と、自らにかけられる水とが映った。