幾重のリング【終】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜12月03日

リプレイ公開日:2004年12月03日

●オープニング

 何が正しいのか、そんなことは最期までわかることはなかった。
 あるいは、そんなことなど分からないほうが人間は余程幸せに生きられるのかもしれない。
 正義を持つからこそ考えねばならぬこともある。
 ならば‥‥‥‥

<領主・ゴーヘルド邸>
 領主・ゴーヘルドが子供達を受け入れて数日後、彼がこの日最初に行ったことは信頼厚き配下達を円卓へ招集し、少なくとも表向きには留学に訪れた二人の子供を裁くことであった。
「どういうことか説明していただこうかお二人とも? アーノルド・シュペル君にリーアちゃん。聞けば、諸君らを護衛していた流れの傭兵というのは、あの悪名高き賞金首のグルーダだそうではないか。確かに心強い護衛ではあろうが、君達は余りにも常識というものを知らなさ過ぎる。心痛の極みではあるが、かくなる上は厳正なる‥‥」
 含み笑いを浮かべながら、口を挟むことも許さないままに練り上げられた文面を読み上げるゴーヘルドとその配下達。
「目の前にいるのは年端も行かぬ子供だ。反論の機会など与える必要もなければできるはずもない。証拠は不十分だが、放った密偵から概要は受け取っている。このまま二人のガキの名誉と権利を剥奪し、後継権を領土ごと‥‥というわけですか。何とも浅はかかつ分かりやすいシナリオですね皆さん。‥‥‥‥‥‥続けてよろしいですか? なぜこんな子供が偉そうなことを喋るのかと思われて‥‥」
「口を慎めシュペル! 無礼であろうがぁ!! 子供だと思い多めに見てきたがその言動、明らかに責任能力があったことを意味している。つまり犯罪者をかくまった者として、厳正なる処罰を行わねばならないことになる!!」
 思いもよらぬ少年の饒舌にゴーヘルド達は最初舌を巻き、やがて烈火の如く怒りを発奮させる。赤色を通り過ぎて紫色へと顔色はみるみる内に変色していき、彼の部下は慌てて主人を落ちつかせようとする。

「お言葉ですがゴーヘルド様、無礼なのはそちらも同じではないですか。確かな証拠もなく、アーノルド家当主を君呼ばわりするとは! ‥‥留学は中断、我々は護衛の者が到着次第すぐにでも領土に戻ります。短い間でしたが御世話になりました」
 あっという間に紛糾した会議がまたも荒れるのに、さした時間はかからなかった。

<ゴーヘルド邸・当主の間>
「つまり‥‥アーノルドのガキが当主となるのは防ぎようがないのじゃな」
「はあ、さすがに年齢が年齢となりますので、当主自身が後見人を立てることにはなるでしょうが‥‥残念ながら」
 ゴーヘルドの質問に淡々と答えていた法律家は、主の機嫌が思いのほか悪いことを話の最中に気付くと、取ってつけたように『残念』という言葉を付け加える。
 あれから会議は紛糾し、ゴーヘルド達は事実確認に追われることとなった。走り回る使用人達、最悪のタイミングで飛び込んでくるアーノルド死去の情報! ぐうの音も出なくなる彼とその配下、苛立つほどに滑らかな少年の‥‥領主の口!
 そこからのシナリオは語るまでもあるまい。ゴーヘルドは怒りのあまり円卓に突っ伏し、二人の子供は意気揚揚と自分達の部屋を早くも引き払いに向かったのだ!
「どういたしますか? 邸を出立後に追っ手の者を放たせて‥‥」
「当然だ。あいつらに伝えろ、今度は金を惜しまぬからとびっきりの奴をよこせとな! ‥‥せっかくあの煩わしいベリガールを黙らせることもできたのだ。莫大な利益を目の前にして引き下がることなどできぬ」
 机がけたたましい音を立てながら震え、ゴーヘルドは拳に残る痛みを味わいながら、荒々しく息を吐いた。

<???>
「お前に依頼だ。メインターゲットは子供が二人、護衛と目撃者も全て排除しろ。手段、場所、経費はいとわない。有能な部下を二人つける。‥‥前回はグルーダ相手にまさかの失態をとってしまった。これ以上の信用失墜は我が組織にとって絶対に許されぬことだ。失敗は許さん、必ず任務を遂行しろ!!」
「てっきり俺はグルーダと戦えると思ってたんだですが‥‥いいんですかい?」
「心配するな。そちらへも手は既に打ってある‥‥」
 ドアの向こうから聞こえてくるいつも通りの依頼要請を受けて、男はやれやれと溜息を吐くと、壁に立てかけてあった巨大な鉄の塊を磨き始めた。

<冒険者ギルド>
 先日諸君らが留学のために護衛した御子息二人が、父親の急死のために国へ戻られることとなった。諸君らには今回も二人の護衛をお願いしたい。
 叔父の邸まではキャメロットから徒歩で三日。叔父の邸から目的地までは子供の足を考えても、あるいてせいぜい二日といったところだ。ただし、途中山道を通らねばならぬのでくれぐれも注意されよ。食料はこちらで用意させていただく。
 よろしくお願いする。


 冒険者達は一通り依頼書に目を通すと、けじめとしてこの依頼を受けることを決断した。

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea0497 リート・ユヴェール(31歳・♀・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2253 黄 安成(34歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3590 チェルシー・カイウェル(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7050 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●一幕
 この世の中に平等なものがあるとすれば、それは太陽と月がもたらす光と夜がもたらす闇だけだろう。どれほど財を尽くそうとも、世界一の力持ちであろうとも、昼夜を決定する摂理を変更することはできないし、夜が嫌いだからと太陽を持ち上げることもできない。
 だれにでも平等に訪れる‥‥そんな夜。
「今夜を無事に明かせることさえできれば、明日は太陽が昇りきる前にこの子達の家に到着することができるだろう。皆、疲れが溜まっているだろうが最後の警戒だ。確実に、集中力を絶やすことなく行っていこう」
 チェルシー・カイウェル(ea3590)と、リート・ユヴェール(ea0497)の膝に頭を乗せて、すやすやと寝息を立てる子供達を右手の視界に入れると、ルシフェル・クライム(ea0673)はテントをあとにして、外の火に薪をくべ、果て無き暗闇を照らすせめてもの灯りをともす。
「あ〜〜、ほんと疲れたよ〜〜〜。ねむっ」
「ヴァレス‥‥お願いだから言ってるそばからあくびを出さないでくれ。こっちまで眠たくなってしまうよ」
 うとうとと頭を垂れながら索敵を続けるヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)に、ルシフェルは苦笑いを浮かべながら一応注意の言葉をかけておく。短い期間ではあったが一緒に一つの事件を解決してきたのだ。彼がどんな考えでその言葉を言うかくらいは理解しているつもりだった。
「この依頼もこれで最後だ。終わったら酒場でエールでも酌み交わそう‥‥」
 微笑みながら仲間へ向けた言葉は、前方の樹木がメキメキと音を立てて倒れこむ音で完全に打ち消された。僅かな光に照らされて、砂煙の向こうから三つの人影が現れる。
「よお、待たせちまったな冒険者の諸君。こっちも三人しかいないんでな、確実に仕事をこなすためにお前達の疲れるのを待たせてもらったって寸法よ」
 轟音によって半強制的に起こされた冒険者達が彼ら三人を取り囲む中、巨大なメイスを片手で持った男は口元を緩める。疲れるのを待ってまでこのような登場をする真意は不明であるが、だからといって目の前の敵を看過することなどできない。冒険者達はそれぞれ武器を構えて臨戦体勢をとる。
「まあまあ、襲撃者の方々。我々としてもここは事を荒げたくないのです。可能ならばこの金塊で手を打てませんかね。まず戦闘ありきではスマートじゃない。ネゴシエイションぐらいは許されてもいいだろう?」
 愚者の石の魔力を送り込み、金塊に見立てて交渉をしようとするキース・レッド(ea3475)。焚き火の光を受けてキラキラと輝くそれに、襲撃者の一人は感嘆の声をあげる。
「OK。実にいい条件だ。‥‥だが、俺たちがあんたらをさっさと殺してそれを手に入れれば二重に儲かるということは考えなかったのか!?」
 交渉と見せかけて確実に有利な位置を獲得しようと試みる冒険者達に業を煮やして、男はキースの提案に対する返答をもって唐突に会話を打ち切ると、巨大な武器を振りかぶったまま一気に冒険者達へ駆け寄る。振り落とされたメイスは、大地が砕けるかのような炸裂音を巻き起こし、交渉決裂と戦闘開始の合図を高らかに告げた。
「あくまで基本は子供達の護衛です。全員防衛線を乱さないように注意してください」
 子供達のすぐそばから指示を送るリート。細い山道ゆえに、山側を背にして戦っていれば防衛線を築くことは容易である。
「残念だったな。こっちの依頼内容はあんたらも含めた全員の抹殺だ! ガキ二人程度、お前たちを殺した後でも十分対処できるんだよ! このイルザック、仕事は完璧に行う主義なんでな、そこんとこ‥‥よろしく!」
「そんな攻撃‥‥受けきってみせるよっ!」
 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)はメイスを振り回すイルザックと名乗った襲撃者の前に果敢にも立ち塞がると、何を思ったのか考えるまでもなく威力抜群である敵の攻撃を鎧の丈夫な部分で受け止める!
「あああぁあああ!!」
 受け止めた周辺から全身へ向けて最大限の危険信号が流れる中、彼女が取った行動は武器への攻撃! ラージクレイモアがメイスを捉え、巨大なメイスは共振現象でも熾しているかのようにグワグワと揺れた。
「この戦法を何回か使えばあの馬鹿でかいメイスも壊せるだろうけど、その前に‥‥こっちが‥‥‥‥」
「下がってくれピアレーチェさん。いかに貴殿でもあの攻撃を何度も受けるのは無茶だ。この者は私が受け持つ!」
 コアギュレイトの効果が思うようにあがらなかったことに業を煮やしたルシフェルは、ガードしたとはいえ強烈な攻撃を受けふらつくピアレーチェを庇うように前線に出る。
「確かお前だったよな。グルーダに可愛がってもらった冒険者っていうのは? もう懲りただろう、さっさと逃げちまえよ」
「愚問だな。私は必ずあの子供達を家まで送り届けてみせる。決して‥‥子供を狙うような下種に屈することなどできぬ!」
 剣と盾を構え、蛮族に立ち向かう神聖騎士さながらにイルザックと対峙するルシフェル。その瞳や切っ先に恐れはなく、ただ護るべき存在のために切っ先を向ける。
「成る程な‥‥だったら俺が、今度こそお前に恐怖を教えてやらないといけねぇなぁ!」
 メイスが蛮族の底力を見せてやると言わんばかりに振り上げられ、神聖騎士を打ち砕かんと大地へ向けて振り落とされた。

●二幕
「‥‥そうだ、戦う前にお前に聞いておきたいことがあったんだ。‥‥その面じゃあ無理かもしれないが、女を抱くのは忘れなかったか? 2度と抱けなくなるんだからよ」
「死に台詞としては余りにも惨めだな。‥‥まあお前たち冒険者など、その程度だろうがな!」
 アラン・ハリファックス(ea4295)の挑発的な台詞に感情が沸点を超えたのか、二人の襲撃者は相次いでアラン目掛けて突撃を敢行する。
「Hey baby! Come and get me! ‥‥!」
 水の如く、型を持たないたたずまいで、敵の攻撃をステップを踏みながら回避しようとしたアランであったが、もとより回避は得意なほうではない。受けに回った彼に二人の襲撃者の攻撃が命中し、彼は反撃することもままならず後退を余儀なくされる。
「少し下がって回復でもしておれ」
「ははっ、少し見栄を切り過ぎちまったかな。まあお前のそういうところは嫌いじゃねぇけ‥‥あたらねぇよ!」
 これ以上敵の増援はないと踏んだのか、子供達の近くで周囲を警戒していた黄安成(ea2253)と、ヴァレスが相次いで襲撃者へと向かっていく。アランと同じく直接攻撃に特化したタイプの黄はともかく、回避の能力を特化させたヴァレスに襲撃者の攻撃は命中しない。
 攻撃は空しく風を切り、ナイフの攻撃をこつこつと繰り出される展開に、襲撃者は苛立ちを隠しきれない。
「っ‥‥! 待て、俺も戦う。まさかこの俺が、無様に醜態を晒したままで終われるか!」
 空の容器が焚き火の中に投げ捨てられ、戦いの列に大槌を振りかぶったアランが加わる。
 そして戦いは、徐々に冒険者側の優勢へと傾いていった。

●三幕
「話が違うな。確か『優秀な部下』ってふれこみだろ? お前たちなんだそのていたらくは!」
「戦いの途中に‥‥どこをむいてるのよっ!」
 ピアレーチェは部下二人を叱責するイルザックの側面に素早く回りこむと、一撃必殺を狙ってラージクレイモアを一気に振り抜く!!
「悪いな、俺の触れ込みは間違っていねぇんだよ。お前たちをここで仕留め‥‥しつこいんだよてめぇ!」
 振り抜いた先に敵の姿はない。重量級の武器を持ちながら、驚異的な身体能力を見せる敵にピアレーチェは防御姿勢をとることもできず、側面から聞こえる敵の言葉と‥‥そしてルシフェルの叫び声に耳を傾ける。
「はああぁぁああ!!」
「っ‥‥あいつらがしっかりしていねぇせいで!」
 痛む足をひきずりながら、クルスソードをただ勢いに任せて突き出してくるルシフェル。
普段ならばこれほどさばきやすい攻撃もないが、仲間との連携が崩れた今、彼にはキースの弓とチェルシーの魔法が降りかかろうとしていた。それらを警戒しながらの戦いでは、こういった攻撃の方が、不可読みしてしまう分かえってたちが悪い。
「終わりじゃよ!!」
 さらに側面からナックルを握り締めて襲い掛かるは黄! 金属は彼の頬を掠め、皮膚を赤くはれ上がらせる。
「あーーー! うざってぇ!!」
 メイスを突き出し、黄をルシフェルの方向へ弾き飛ばすイルザック。苛立っているのか、先程まで笑みすら浮かべていた表情も、眉間に幾重にもしわを寄せた険しいものとなっていた。
「撤収だ、これ以上やってられっか! ‥‥嫌ならここで勝手に死ね!!」
 遅々として進まぬ作戦に業を煮やしたのか、イルザックは自棄になったように仲間へ撤退を指示する。彼はともすれば抗議の意を唱えようとする仲間を一喝すると、山の斜面をあっという間に下っていった。

「‥‥へっ、どうだ。‥‥追い返してやったぜ‥‥らく‥‥しょうだ」
「その割には‥‥お互い‥‥傷が深いよな。‥‥まあ、結果はでたからいいけどな」
 バッタリと倒れるアランと座り込むヴァレス。いつしか薪の火は消えており‥‥代わりに東の空からかくも大きな灯火がのぼろうとしていた。

●終幕
「いつもひとりのつもりでいた。周りのひとを突き放してばかりいた。私がかわったのはいつからだろう? ひがくれるまでおしゃべりをして、一緒のテーブルを‥‥‥‥」

 チェルシーの歌が広い部屋に響き渡る中、子供達の即位式が行われる。参列者の中には年端もいかぬ子供の後継に眉をしかめる者も多いが、これより先は彼らが歩むべき道である。恐らくは勇敢なる冒険者が出てくる類の問題ではないだろう。
「今更ですが‥‥あなた達には感謝してもしきれないほどの恩ができましたな。‥‥このお礼は‥‥」
「なぁに。俺達は冒険者だからさ、気に入った依頼があればいつでもどこへでも飛んでいくぜ。これからこの領地をどうしていくかはあいつら次第だが、厄介事が起こったら遠慮なく言ってくれ。‥‥できれば報酬つきだと本当にうれしいんだけど」
 りりしい子供達の姿に破顔する執事に、ヴァレスは冒険者としての心得を、ほんの少しだけ話してみせる。依頼を成し終えた後の達成感も、冒険をする上での醍醐味であるのだから。

「願いが叶うなら、同じ空の下いつか巡り会おう。そう、きっと私達は未来もつながっている‥‥‥‥そう思う」
 竪琴の音色と歌声はゆっくりと音量を落としていき、やがて‥‥会議室に静寂が訪れた。