空飛ぶ葱よ!!【ドッグレース編】
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:3〜7lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 80 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月27日〜11月02日
リプレイ公開日:2004年11月05日
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●オープニング
<某所>
「できた‥‥ついぬぃいいい! できたぁ!!! これこそまさに今世紀最大の、驚愕の、疾風怒濤の、阿鼻叫喚の、天衣無縫の、有職故実の温故知新‥‥ああっ、とにかくすんばらしいいぃいいい!!!」
キャメロットから徒歩で二日程はなれたアトリエで一人の芸術家が雄たけびをあげる。途中からその言葉は既に意味をなしていなかったが、彼にとってみれば‥‥実に数十年に渡ってこのアイテムを開発するために日夜『実験・失敗・試行錯誤・実験・失敗・試行錯誤』を繰り返していた彼にとってみれば、そんなことなど全く気になるはずもない。
笑いたければ笑うがいい! 狂人と蔑むなら蔑むがいい!!
我はついに成し得たのだ!! 長年の発明の成果を! 栄光の果実を!!
愚者ほどそうでない者のことを笑い、罵るものだ。そして我は決してそうはならない!!
さあ、今こそ栄光のこのアイテムを‥‥‥‥天下に晒す時なのだ!!
<数日後・某所>
「これがこの度我が開発した天変地異アイテム、その名も『フライング葱(ねぎ)』である!!」
ついに白日の下にさらされた驚愕のアイテムに感嘆の声があがる。まさか空飛ぶ箒ならぬ空飛ぶ葱とは!? まさにありそうでなかった脅威のアイテム。人類の希望!!
よく見ればフライングプルームを葱の形に(極めて精巧な技巧が施してあるとはいえ)削ってあるだけなのであるが、喜んでこの開発に尽力した助手たちは、自らの目の前にある三本の葱(そう、それはまさしく彼らの目には葱として映っていた!!)を見て目からうろこがぼとぼろと落ちる。
「素晴らしいです先生!!」
「こんな‥‥こんな発明を私は今まで待っていたんです!」
歓声を拾えばきりはなかったが、フライング葱を開発した巨匠(と敢えて表記させていただく)は得意満面の表情そのままにこのアイテムの説明をはじめる。
「まあ早い話が性能はフライングプルームと全く一緒なのじゃが‥‥スピードを落とすとき、上げるときには葱を必ず尻に刺さねばならん。もし止まろうとするならばかなり深いところまで一気に、必ず刺さねばならんのじゃ!」
またもあがる歓声、舞い散る紙吹雪、踊り出す巨匠。既にムードはお腹いっぱいご飯を食べたあとにエールを十杯一気飲みするほどデンジャラスであった。
「さあ、今回の依頼はこのフライング葱の性能を‥‥‥‥!!」
それは一瞬のことであった。フライング葱が置いてある部屋にいた誰もが、最高潮となった雰囲気の中、つい警戒心が薄れてしまった時、三人の賊が襲撃してきたのだ!!
「なるほど、確かに素晴らしいアイテムよ。じじい、このフライング葱は俺達カマバット三兄弟が頂いた!! 返して欲しくば新たな葱を持って地図の場所にくるんだなぁああああぬおおあああ!!」
「ぐあああぁぁあうぬうう!!」
「ぶわがああああぬうう!!!」
侵入した三人の襲撃者は置いてあったフライング葱に勢いよく飛び乗ると、そのまま先端をブスリと尻に刺して、奇声をあげながら逃走していく。
突然の襲撃に呆気に取られてしまった巨匠と助手はただ黙って彼らを目で追うことしかできなかった。
「うぐううぅ!! まさか奪われてしまうとはああぁ! ‥‥おい、何をぼさっとしとるんじゃ! 奥の実験室にもう一本フライング葱がある。それを冒険者に預けて一人ずつやつらをしとめ、フライング葱を奪い返すんじゃ!!」
悔しがるどころかこの状況を楽しんでいるようにすら見える巨匠は奥の倉庫から、最後のフライング葱を持ち出すと、助手を通して冒険者達にそれを託すのであった。
<数日後・冒険者ギルド>
キャメロットから二日程離れた小屋に保管されていたフライング葱がカマバット三兄弟の手によって盗まれた!
諸君らの任務はこのフライング葱を駆使してカマバット三兄弟に一人ずつ決戦を挑み、奪われたアイテムを取り戻すことである!!
今回のターゲットは三男の料理屋、ドリアンである。噂では今まで数十名の少年を‥‥(略)‥‥われたりしてきたなかなかのつわものである! だが、わしはあの葱を誰にも譲るつもりなどない! 何としても取り戻してきてくれ!!
諸君らの健闘を祈る!!
「‥‥あ〜〜〜‥‥‥‥、まあがんばってくれよ」
ギルド職員は依頼書を適当にカウンターの上に置くと、頭が痛くなったのかこの日の仕事を切り上げた。
●リプレイ本文
葱、かつてこれほどスタイリッシュな野菜が存在したであろうか!?
直線的なフォルム、白と緑の絶妙なコントラスト、そして「葱の下は玉葱なのか?」と万人に疑問を抱かせる神秘性‥‥どれをとってもまさに非のつけようがない存在である。
私はその葱にどれほど人生を狂わされたことだろう?
(マホロバム四世・自省の句)
●一幕
「はっはっは! 怖気づくことなくやってきたようだな冒険者どもよ!! だぁが、たったそれだけの人数でこのカマバット三兄弟の末弟、ドリアンを倒せるかな!? 今回のレースは丘と丘の間を、葱でどちらが八周先にまわれるかで決まる。細かいルールは一切なし、レース中の攻撃もアリだ」
ドリアンは無意味に断崖絶壁の上に立ち、冒険者達を見下ろすと、やけに説明的な台詞を吐きつつ身体に纏っていたコートを脱ぎ捨てる! 分厚いコートの下にはこの日のために特注した、尻の部分だけ穴があいた下着が燦然と輝いていた。
「はぁはぁはぁはぁ、まだまだ甘いなぁドリアン!! そんな紛い物の下着では栄光を掴むことなど到底できはしない。キャメロットの英雄・葉っぱ男ことレイジュ・カザミ(ea0448)! 勝利の女神は僕に微笑むのだ!」
天空より声が轟き、ドリアンは驚き空を見上げる。そして彼の目に映るはレイジュの‥‥たった一枚の葉っぱのみでその身体を隠した神々しき姿であった!
「‥‥なるほど、やってくれるぜカザミ。考えれば考えるほど、これだけ葱箒の先を尻に刺すことが要求されるレースにおいて葉っぱ姿ほど適したものはない。まずそのスタイリッシュさ、風を刻む流動性、いざという時の‥‥」
感嘆の声をあげたのはユウ・ジャミル(ea5534)。葉っぱ一枚で葱箒に跨る姿を眼にして大抵のものは変態と罵ることであろう。だが、絶対多数の意見などここにおいては全く重要ではない。何しろきら星のように数多輝く冒険者の中で、この依頼を受けたたった五人に入っている時点で、彼らは『一般人』とか『常識』とか『節度』とかそんな言葉からは大きく一線を画しているのだ。
「お〜〜いカザミ、そろそろ戻ってきてくれよ。第一走者は俺だからな」
ひとしきりの解説がすんだ後で、ぶんぶんと手を振って葱箒(以下、葱と表記させていただく)に跨っているレイジュに声をかけるユウ。するとレイジュもそれに返事をして降下していき‥‥‥‥悲鳴をあげた。
「ぐうおおおぉおおぁああ!!」
恥も外聞もなく悲鳴をあげて大地を転がるレイジュ。どうやら止まるときに葱を少し強く刺しすぎたらしい。
「あ〜〜あ、これはレースの前から大変だね。でもまあどれくらい痛いかわかったんだから結果オーライでしょ」
自らはシフールなので巻き添えをくらうことはあるまいと、あくまで救護班兼野次馬としてのん気にレイジュへ声をかけるのはハーモニー・フォレストロード(ea0382)。手当てを終えると「ピュアリファイで新鮮なお尻になったよ♪」などとわけのわからないことを呟いて葱をレイジュから奪い取り、怯えの表情を浮かべる第一走者のユウへ無慈悲に手渡した。
「待て、一応先端に油を塗っておこう。これで気休め程度はすべりがよくなるかもしれない」
来生十四郎(ea5386)はエチゴヤで購入した油を取り出すと、葱の先端にそれを塗りこんでいく。‥‥‥‥何とも生々しくて嫌な光景ではあるが、例え気休めであろうとも人はそれを支えにして奮い立つことができる。前に進むことができる!
「気張って行ってこい、俺の分まで頑張ってくれよ。骨は俺が拾ってやる」
「ああ、行ってくるよクラム。俺は絶対にクラムの貞操を護ってみせる! 葱なんかに負けてられるか!!」
親指を立てて力強くクラム・イルト(ea5147)に宣言するユウ。葱に勝つも何も、葱に対抗心を燃やしている時点で既に敗北が決定しているかもしれない。
「さっさと始めようじゃないかドリアンッ! 俺は、俺は絶対に護らなきゃいけないんだ。そう、クラム(自主規制)はアアァァァア、俺が先にさすんどわぁああアアァアア!!」
閑話休題(作品中に見苦しいところがあったことは素直に詫びたい。15歳の君が使っちゃいけないような用語は程ほどにね。吟遊詩人からのお願いです)
「スタートはほぼ互角ですか。見たところ二人が乗っている葱性能はほぼ同じ。となれば最後に物を言うのはやはり‥‥ここぞという時の思いきりと、信じる物の強さ!」
拳を握り締め、適当きまわりない解説を始めるハーモニー。見下ろせばユウが加速と減速を繰り返し、その度に襲い掛かる激痛に、既にぐったりとしていた。
「ああ‥‥意識が遠くなる‥‥‥‥」
「フエッフェ。ここまでよくついてきたな坊や。だがここは俺の地元、走り屋の名に賭けてここで敗北はできないんだよ。この丘のポイントを知り尽くしているんだぜ!」
いつから走り屋になったのかは知らないが、ドリアンは下着一枚の姿で葱を操り、次々とコーナーを制圧していく。コーナーでの切り替えし、直線での力強い伸び! どれをとっても彼の走りに欠点など見当たらない。
だが‥‥一周目もそろそろ終盤に差し掛かろうとしていた頃、彼はある一つの違和感に襲われていた。
「何故だ、どうして引き離せねェ。俺は最高の走りができてるはずなんだ。なのに‥‥どうしてまだついてこれるんだ!?」
最高の走りができているはずなのに‥‥しかも地元(?)で、ぴったりと後ろにつかれるという屈辱にドリアンは唇を噛む。
「どういうことだ、ユウさんは葱の扱いは初めてのはずだろ?」
「ユウは敵の背後につけた時、信じられない集中力を発揮する。性能で負けていない以上、離される心配はない」
レイジュの疑問に直感で答えるクラム。
そしてその間にも、クラムを護るために自らを犠牲にするユウの精神はドリアンにくらいつき、ついに勝負は数コーナーを残すのみとなった。
「まあいい、インを絞めている限りこっちに負けはねぇ。このままゴールま‥‥なにぃ!!」
コーナーを曲がりながら背後を確認したドリアンは、そこにいるはずのユウの姿がないことに愕然とする!! インからか? そんなはずはない、スペースは空けていない! だとすると‥‥
「先に入れるのは葱じゃなく俺だぁぁぁぁ〜〜〜!!」
「シマッタアあぁあああ!!」
ドリアンの真下を丘ギリギリのところで旋回していくユウ。ドリアンが気付いた時には時既に遅し、既に位置は葱半分ユウに分が有り!!
「へへ、ちょっと格好よすぎたかな‥‥あとは‥‥任せ‥‥」
「任せておけユウさ‥‥いや、友よ! お前の志、この十四朗しかと受け取った!!」
局部から血を流し、がっくりと崩れ落ちたユウを腕に、ぶわわと男泣きをする十四朗。‥‥レースはまだ始まったばかりだ。
●終幕
「ふぅ、敵ながらなかなかやってくれるぜドリアン。奴はもう四周目だろ? よく集中力が落ちないもんだ」
レイジュは二周ほど走ると、やれやれと葉っぱで汗を拭う。先ほど走り終えたユウと痛みの感じ具合が違うのはセーブして走っていたからか、それとも経験が豊富だからか‥‥それは恐らく後者であろう。
「少し離されてしまったか。十四朗がどこまでもってくれるかだが‥‥」
腕組みをしたままレースを見守るクラム。交代にどうしても手間取ってしまい、レイジュは健闘も空しくドリアンに引き離されてしまったのだ。
「交代をスムーズにしないと勝ち目はない‥‥‥‥か」
レイジュは葉っぱを定位置に戻すと、この勝負を勝つための策を思案しながら十四朗を見守るのであった。
「後は逃げ切るだけだ。‥‥俺はプロだ。勝てる勝負を落とさないのが勤めだ!」
ドリアンは背後からプレッシャーを感じながらも無難にレースを運んでいく。結果としてそれが十四朗に徐々に差を詰められる原因となったが、やつらは最低もう一回は交代のためにピットインしなければならないだろう。そうなれば差は決定的になり、冒険者の敗北は揺るがない。理論上は間違いなくそれで勝てるはずだ。
差がなくなり、ぴったりと後ろにつけられた状態となってもドリアンの顔から余裕の色は消えない。
「くっ、このままでは‥‥‥‥」
十四朗も限界を超えた葱テクニックを見せているが、どうしても追い抜くことができない。コーナーを絞められ、ユウが使った下まで警戒されては手の出しようがない。
「どうする? ここで‥‥こんなところで俺は終わってしまうのか? 友の叫びに応えることもできずに、こんなところで」
「十四朗さん聞いてくれ、僕に作戦がある! 今の状態だととても交代している時間はない‥‥だから、低空で飛んでくれ! その葱の先端を俺に刺して飛び降りてくれないか!? そうすれば時間のロスは限りなくゼロに近付くはずなんだ」
諦めかけていた十四朗の耳に、レイジュの声が身振り手振りを交えて届く。高速の葱を尻に刺す‥‥いかにレイジュとはいえ死にかねない荒業だが‥‥賭けるしかない!
「そうなると、俺がここで抜いておかないとな!」
「何をふざけたことを。そんなことができてたまるか! インも絞めた、下も上も抜かせない。どこから抜くというんだ!?」
先ほどまでの焦りに満ちた表情を一掃し、笑みすら浮かべる十四朗。ドリアンは「抜かれることなどありえない!」と叫びながら、さらに葱をインに寄せる。
「‥‥それが命取りだ! インに寄りすぎた葱に外から体を浴びせれば‥‥道は開ける!!」
「な‥‥!! ぐあああぁああ!!」
衝突する葱と葱! 肉体と丘!! ドリアンは悲鳴をあげて丘に激突し、急激に減速する。前に出るは十四朗! あとは交代に成功するのみ!!
「さあカザミ、覚悟はいいな?」
「もちろんだ! いつでもこいやぁ!!」
‥‥‥‥すべてがゆっくりに思えた。歓声を送るハーモニー、親指を立てるユウ、腕組みをしたまま微笑むクラム。
そして、葱とレイジュは一つになった。
依頼はこうして達成された