空飛ぶ葱よ!【最終決戦編】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2004年12月13日

●オープニング

<カマバット家>
「それで‥‥おめおめと葱を奪われたというのか貴様らはっ! しかも冒険者どもに‥‥‥‥るとはどういう了見だ!!」
 前回冒険者達に脆くも敗退(?)してしまったカマバット三兄弟を眼前に、カマバット家当主・グランパは語気を荒げて叱責する。
「し、しかし父上。我らは心を許しても身体はまだすこ‥‥」
「ええい、そんなことは問題ではないわ! 貴様らの情けなき所業がどれだけ我が一族に泥を塗ったか、考えてみるがいい!!」
 かなり重要な問題であると思うのだが、あくまで「そんなこと」と主張するグランパ。‥‥彼の懐の深さが垣間見えた瞬間と言えるだろう。
「かくなるうえはこのグランパも出よう。冒険者どもに本当の戦いというものを教えてくれるわ!」
「だ、だが親父。そんなこといってももう葱は‥‥」
 カマバット一族最凶の戦士、グランパが出陣を決意したということで全身から脂汗を流す次男・ヘンターイ。彼の口調にはただ絶対的な父に対する畏怖のみがこもっていた。
「‥‥芸術家とは愚かなものよ。自らの作品がどれほど素晴らしく、それが万人に理解できないほど高尚なものであろうとも、ついそれをつくってしまうとは‥‥な」
 含み笑いを浮かべたグランパがマントを取り去ったその中には‥‥‥‥葱が三本と、そして明らかに葱より図太い‥‥‥‥大根が燦然と突き刺さっていた。
「ハハハッ、ハハハハハハッ!!」
「‥‥恐ろしい‥‥余りに恐ろしすぎる‥‥」
 狂ったように笑い声を轟かせるグランパに、三兄弟はただただ恐怖することしかできなかった。

<冒険者ギルド>
 大変なことが起こった! せっかく諸君らが三本の葱を取り返してくれたというのに‥‥新たにつくった三本の葱と、そして‥‥恐ろしいことに新たにつくった大根までも‥‥大根までも奪われてしまったのだ。
 あれが奪われ、悪用されたならとんでもないことになる。‥‥今更だが、そもそも思うに空飛ぶ葱は、我々の手には余るものなのやもしれぬな。
 諸君らに葱三本と大根一本を貸し与えよう! どうか‥‥この一件にケリをつけてほしい。

『疲れたので帰ります。 ギルド職員より』
 ‥‥そこには、もう依頼書しかなかった。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0717 オーガ・シン(60歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea0729 オルテンシア・ロペス(35歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5147 クラム・イルト(24歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5534 ユウ・ジャミル(26歳・♂・バード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

<キャメロット>
「お願いします! ギルドの依頼を受けているのですが、お城のお堀がその依頼を行うのに一番適しているんです。どうか、お堀を使えるよう国王様に許可を頂きたいのです!」
「無理を承知での上奏。されどこの一件により決着をつけることが出来ればキャメロット市民の心の内も穏やかになりましょう」
 キャメロット城の前で、城の役人らしき男を相手にして話している二人の男‥‥名をレイジュ・カザミ(ea0448)、レイヴァント・シロウ(ea2207)という二人の冒険者は、依頼の舞台としてキャメロット城周辺を使いたいと必死に訴えかける。
「うむむ、貴殿らの熱意には感服するが‥‥城を依頼の舞台に使うわけにもいかぬからなぁ。‥‥‥‥一応どんな依頼なのか聞くだけ聞いておこうか」
「はいっ。葱を尻に刺して空をさっそうと飛び回るんです!」
「繰り広げられる死闘はまさに決戦ならぬ血戦! 葱が突き刺さった尻はさぞキャメロット城に合うことでしょう」


 ‥‥二人の要求は瞬時に却下された。

<草原>
「ごめんみんな。キャメロット城を使うのは無理だったよ‥‥」
「ぐむむ、キャメロットの役人は無能者ばかりか!」
「仕方あるまい。だがお前達の勇気はきっと後世に残ることになるさ」
 草原に座り、がっくりとうなだれるレイジュとシロウの髪をクラム・イルト(ea5147)は両手で優しく撫でながら、棒読み極まりない慰めの台詞を読み上げる。それにしてもこの崇高なる葱依頼に城を使わせないあたり、まだまだキャメロットの役人達にも常識を見る目は残っているということであろう。
「レイジュさーーん。対決のこと宣伝してきたよ。やっぱり最終決戦は人の多いところでやらないと盛り上がらないよねっ」
「看板も立てたし、整理券もつくったわ。これでどれだけギャラリーが来ても大丈夫よ」
 決戦前の宣伝を担当したチップ・エイオータ(ea0061)とオルテンシア・ロペス(ea0729)が意気揚揚と仲間のもとへ戻ってくる。最終決戦を宣伝するという行為自体に疑問を感じない事もないのだが、こと葱に限って言えばそれは正しい事なのだろう。
 宣伝が効いたのか、それともキャメロットには物好きが多いのか、草原には通行人と区別がつかない程度にパラパラと観客が集まり始めていた。
「よーしっ、クラムにいいとこを見せてやるんだ。きょうも俺の隆嗣君(某所に装着されたアヒルのハリボテ)は元気いっぱいだ!」
 早くも褌を脱ぎ捨て、極所のアヒルを誇示して自信たっぷりなのはユウ・ジャミル(ea5534)である。過去二回の葱大戦をもって大きく成長を遂げた彼は、葱を優々と尻へ突き刺すと、空へ舞い上がって試運転がてらに旋回を楽しむ余裕をみせる。
「む‥‥‥‥いかんっ、ユウ! すぐに降りてくるのじゃ!!」
「えっ‥‥‥‥ぐああぁぁああ!!」
 何の前触れもなく、空中遊泳を楽しんでいたユウの後方から葱が接近し、既に満杯オーライな彼の尻へ深々と突き刺さる!! オーガ・シン(ea0717)の制止も虚しく、ユウは悲鳴をあげて草原へ落下していった。
「うぅ、クラムの‥‥(略)葱でも大根でもなく俺の‥‥」

●幕間
 吟遊詩人から最後のお願いです。この報告書は未成年の方も読まれます。ぶっ飛ぶのもほどほどにしましょうね。

<再び草原>
「我らとしても名を広めるために報告書は発行してもらわねば困るのでな。‥‥一番の危険因子を挨拶代わりに破壊させてもらった」
 うっすらと汗をかいた腰を誇らしげに突き出しながら現れたのは、カマバット三兄弟とそれを束ねる一族の主・グランパ! グランパは葱と大根からズブリと音を立てて飛び降りると、怒りに眉を釣り上がらせる冒険者達を睨みつける。
「ぐっ‥‥俺はただ‥‥‥‥クラムの‥‥には俺が‥‥」
「いい、ユウ。お前はもう喋るな」
 クラムの厳しい突っ込みがユウの掲載禁止用語を塞ぐ。ユウは愛する者の手によってがっくりとその場に倒れこんだ。
「ユウさぁあーん!! どうして‥‥どうして判り合えたのにまた戦わなきゃいけないんだ! 憎むべき敵は他にもっといるはずだろう!?」
 チップの尻に葱が突き刺さり、悲痛な表情と悲鳴が空に轟く。怒りと悲しみからか、それとも激痛によるものか、少年の瞳にはとめどない涙が溢れていた。
「いかんっ! 今のチップは怒りに我を忘れておるっ。それにあの三兄弟は確か‥‥年下との対戦を得意としたはずじゃ。このままではチップは存在を‥‥食われるぞ!」
「言われなくともっ! チップ君、焦ってはいけない。そもそも君の進むべき道は‥‥そちらあってはならないのだああぁぁあ!!」
 血相を変えて叫ぶオーガとシロウ。真っ赤に染まったシロウの葱が空気を切り裂き、今まさに三兄弟の魔手に落ちようとしているチップ目掛けて疾走する。
 空中で五本の葱がけたたましい音を立てながら交錯し、局所からあふれ出る鮮血は大地を染めた。
「分かり合えたはずなのに、本当は戦う意味なんて見出せていないはずなのに‥‥どうして自分を裏切ってまで戦うの? 本当にそれでいいの?」
「お前達は今の父に言われるがままに従うのが正しいと思うのか‥‥本当の葱道を極めたければこちらに来い!!」
 数からいっても、そして尻の強度を見ても冒険者の不利は否めないはずの勝負であった。しかし、チップやシロウの魂の叫びが心の奥から発せられる度に、カマバット三兄弟の動きがみるみるにぶくなっていく。
「何をしている一族の戦士よ! 何のためのお前達は葱を持った!? 相手を完膚なきまでに蹂躙するためだろうがぁ!!」
「だ、だけど親父、もしかしたらこの葱は‥‥戦うためだけのものじゃないのかも‥‥」
 冒険者達の迷いなき心の声に疑問を感じた三兄弟はついに動きを止め、その場で頭を抱え込む。未だ感じた事もない感情への恐怖‥‥今や三兄弟の心の中はそれで満たされていた。
「心配することないよ。その気持ちは‥‥きっと正しいから」
 頭を抱えたまま動かない三兄弟を優しく抱きとめるチップに、三兄弟は少年の胸に顔をうずめたまま、声をだして泣きじゃくった。少し離れた場所からそのかくも美しい光景を見ていたシロウも感激の余り目頭を抑えながらうんうんと頷いてみせる。いつしか草原の一部を埋め尽くすほど集まっていた観客からは、オルテンシアの煽りによって暖かい拍手と歓声が巻き起こり、冒険者とカマバット三兄弟の間に芽生えた愛‥‥友情を祝福した。

「‥‥愚かなり‥‥わが一族の恥さらしどもよ。かくなる上は、我が手でこの場を貴様らの墓標としてくれるわ!!」
 男たちの友情を称えるかのように降り注ぐ陽光の下へ振りかざされし魔道具『フライング大根』がグランパの尻に装着される。グランパの油が乗った筋骨隆々の肉体が躍動し、絶望を撒き散らさんと五本の葱へ突進する!!
「まさか、このプレッシャーはああぁあぁあ!!」
 ‥‥次の瞬間、五人の悲鳴が草原を覆い尽くした。

<やっぱり草原>
「脆い、脆い、脆すぎるぞ! 貴様らの力とは‥‥愛の力とはその程度のものか!?」
 草原の上に突っ伏したまま動かない五人の戦士と、彼らの尻へ痛々しく刺さった葱を眼前に、グランパは顔を両手で押さえて笑い始める。自分とて一族三人を変えた力に興味がなかったわけではない。‥‥だが、蓋を開けてみればこの程度だ!!
「フッ、やはり多くの人生経験を積んだ我には通用せぬ理念ということだな。貴様等程度が‥‥!!」
 自らに津波のような勢いで襲い掛かってきた殺気に倒れているはずの五人へ向き直るグランパ。‥‥だが、そこには既に力なき五名の姿はない! 彼らは互いに相手の身体を支えあいながら、未だ衰えぬ闘志を秘めてグランパを睨みつけていた。
「なぜだ‥‥なぜ‥‥」
「わかっておらぬようじゃなグランパよ。人は憎しみだけを背負っては強くなれんのじゃ。そう、我らは‥‥‥‥」
「葱を使う事によって、愛し合う喜びを覚えることができたんだよっ!」
 周辺の草がザワザワと音をたて、疾風に乗って葉っぱがはためく。グランパが驚き、その風に乗った声の方向にいたのは‥‥大根を刺したレイジュ!! いろいろな意味で恐れを知らぬその突進は動揺から覚めぬ敵を弾き飛ばす!

「葱は決して殺し合いの道具なんかじゃない。葱は‥‥愛し合うためのものなんだ!!」
「詭弁を言うな! 葱が兵器として存在する限り、この世界は何も変わらぬ! 憎しみの連鎖は途切れる事はなく、平穏な世の中は絵空事から抜け出ることも出来ぬのだぁ!!」
 二つの大根が激音を立て、葱の数倍はある先端が互いに突き刺さる! 苦悶の表情を浮かべる両者! 流れ落ちる鮮血!!
「僕は耐える男レイジュ、キャメロットの平和を守ってみせるんだ!」
「その平和が詭弁だというのだ! この葱が、大根がっ、褌が‥‥生を受けた存在がある限り欲望は尽きる事はない。大根を振りかざして平和を訴えようなど‥‥‥‥反吐が出る!」
 息を荒げながら前進するグランパ。シルエットの重なった二人の鼓動がシンクロを繰り返し、気迫の塊は言霊となって大気を震わせた。
「それなら‥‥そんなことにしか葱が使われないなら‥‥‥‥僕は葱も大根もいらないっ! 全てをこの戦いで終わらせてみせる!!」
「笑わせるな小僧! 一度得た力を、葱という強烈な力が封印できるものかあぁぁあ!!」
「できるさっ! 僕達は争うために‥‥こんなことをするために生まれてきたんじゃないんだから―――――!!」

 二人の意志と気概、そして冒険者と観客の祈りとが交錯する中‥‥全ては光に包まれた。


●余幕
 風に揺られてゆらめく煙が、ゆっくりと青空に吸い込まれていく。

 少年の願いも虚しく、戦いはついえることはなかった。
 今この瞬間も世界のどこかで大小問わず争いは起こり、人々に苦しみや悲しみを与えている。

 だが、葱を用いた陰惨な戦いは、この煙の主である彼らの願いを受けて、二度と歴史上に現れる事はないだろう。
 ‥‥そうあることを切に願いながら、彼らは草原をあとにしていった。

●ピンナップ

レイジュ・カザミ(ea0448


PCパーティピンナップ
Illusted by 藤乃宮月都