悠久の終焉【二】
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月09日〜12月18日
リプレイ公開日:2004年12月17日
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●オープニング
<村・教会>
「大いなる審判の時はやってきた。先の騒動で摂理を押し曲げたことに、神は大いにお怒りである。疫病は止まることを知らず、何というべきか恐るべきことに、敬虔なる神の信徒である我らにまで迫ろうとしてきている!」
古ぼけた教会に響き渡る神父の叫び声に、参列者は皆悲鳴をあげる。神の摂理により死ぬ筈であった疫病に犯された者‥‥それが悪魔の介入によって一時的とはいえ生を得てしまったのだ!
悪魔に侵され、魂を交換条件に疫病を治療してもらった男(確証はないがそうに決まっているのだ!)は後日敬虔なる一般信徒によって殺害されたが、それでも恐ろしいことに神の怒りは収まることを知らない。町には以前にも増して疫病が蔓延し、あろうことか信徒にまで影響が及ぶようになってしまった。
「皆よ心して聞いて欲しい。最後の審判の日は既に近い! 我々が楽園へ‥‥神の国へ向かうためにも、まずは悪魔と成り果てた‥‥‥‥疫病におかされし者を切り捨てるのだ!」
『ウオオォオオオ!!』
武器を片手に、激しく賛同の意を唱える信徒たち。
『神の国へ向かう』。その言葉に同意することが自分たちにどのような運命を強いることになるのかも知らずに。
<深夜・教会内>
「今月の上納金はこれだけかい? まったく、毒だって空気からできるわけじゃないんだよ」
「はっ、申し訳ありません。ですが、私が思うにほとんどの者の私財は吸い取った様子。このあたりで終末を迎えるのが上策かと」
「終末かい。‥‥この仕事はもう少し稼げると思ったんだけどね! どうやら冒険者ギルドに目をつけられてしまったようだし、資金と人材拡充のためとはいえこんな仕事とはこれっきりオサラバだ。何より、あんな役柄じゃ私が馬鹿みたいじゃないか!」
「言わないで下さいよ。この仕事が一段落したら‥‥動いていいとの御達しもきています」
地下から流れる二人の会話を‥‥神の裁きの正体を耳にした者はいなかった。
<冒険者ギルド>
あの依頼より暫く経過したが、何かわかったことはあるだろうか?
疫病はみるみる内に伝播していき、最近では一般信徒にまで影響が及んでいる状況だ。しかも何を狂ったのか、武器を振り上げて病に侵されたものを殺そうとする信徒まで最近では珍しくない。
まだ大規模な病人狩りが行われていないが、このままでは最悪の事態が起こる日もそう遠くはないだろう。
さすがに疫病に対して疑問に思う住民も出てきたが、いかんせん数も少なければ実力もない。武器を持ってとある民家に立てこもっているが、それも風前の灯火といったところだ。
‥‥どうにかして、この事件を解決してほしい。
●リプレイ本文
信者の叫び声のために奏でられる伴奏曲のように、町中から届くの火災の音、家屋が打ち壊される音、住民による断末魔の声、力なきものが逃げ惑う悲鳴。‥‥全てのものに耳を傾けて頷く老婆。
「妨害だって? そういえば聞いたことがあるね。排除活動を行っている信者の中に飛び込んで殴りつける奴がいるって‥‥どれ、私がいってケリをつけてくるよ」
神父から報告を受け取った老婆はフードの下に隠れた素顔をくしゃくしゃに崩して微笑むと、信者の熱気に揺れる教会からゆっくりと歩み出した。
●一幕
「聞け! この家の者の中に疫病に侵された者がいる。よって、家族もろとも悪魔に魅入られし者は滅するのだぁ!!」
狂喜するように武器を振り落としてドアを叩き壊そうとする信者たち。家の中に閉じ込められる格好になった住民の懇願する声が聞こえるが、既に心を失ってしまった彼らにそれが届く事はない。
「この馬鹿どもが〜〜〜〜!!」
この世には夢も希望もないのかと疫病にかかった誰もが思ったその時、何の前触れもなく颯爽とレオンロート・バルツァー(ea0043)が現れる! 彼は信者達を叫びながら殴り倒すと、無力な市民を殴ってしまったという自責の念からか、地面に突っ伏して号泣する。
「考え想像する事を辞め神に縋る貴様らは、既に人として死んでいる事になぜ‥‥グエッ」
残念ながら彼の訴えは心を亡くした市民たちに通用しなかった。彼は武器を持った市民に裸体(理由は彼の生きる道だかららしい)寄ってたかって攻撃され、ゴロゴロと転がりながら逃走していった。
「まったく。どうして私の心が通じないのだ‥‥‥‥ぁ‥‥」
ヒーリングポーションを服用し、ブツブツと愚痴を放つバルツァー。
だが、彼は愚痴を最後まで喋ることも出来ず、背後から迫った闇の中に吸い込まれるようにして‥‥その場に崩れ落ちた。
「冒険者かねぇ。‥‥まあ何にしろ、愚かな奴だよ」
「あ‥‥ぁ‥‥」
ゆっくりと立ち去る老婆の姿をうっすらと視界に、バルツァーは虚空へ手を伸ばし‥‥意識を失った。
●二幕
その頃、町では別の噂が流れていた。
なんでも『ミレニアム教』なる新興宗教が疫病に脅える人々の間で流行っているというのだ。名前を聞くだけで怪しさ万点の宗教‥‥いかに天からも人からも見捨てられた病人たちとはいえ、そんな宗教にかかるはずはない!
それは必然であった。
‥‥彼らが『疫病と言われていたもの』を治療する手段を持っていなかったとすれば。
「私達はあなた様方を救いに来た神の使いです。無償であなた達をお救いしましょう」
依頼主の家から借り受けた奇妙な服(ジャパンにある巫女服とかいうものらしい)を改造したものと、性別をごまかすための詰め物を身につけたキラ・ヴァルキュリア(ea0836)は、神話に登場する女神、あるいは聖女そのままに疫病へ冒されたものへ祝福を与える。
「これは奇跡の水です。これをひとたび服用すれば、すぐにあなたの病気は快方へ向かうでしょう」
キラから受け取った解毒剤を奇跡の水と称し、信者に飲ませるクリフ・バーンスレイ(ea0418)。すると、それまでの苦痛に歪んだ病人の表情がまるで嘘のように回復していったのだ。
「これが我らの起こした奇跡だ。間違いなく神のご加護がある。その証拠にあの者たちの言う神の裁きとやらを一度止めてみせた。できることならあの時みなを救いたかった‥‥本当にすまない。しかし、今ならこの村にいる者達を救う事が出来る!」
芝居のかかった口調で奇跡の水の効力を宣伝し、さらには教会の権威を否定するアレス・メルリード(ea0454)。疫病と暴力とに脅えていた者は自分たちを救ってくれる宗教を目の当たりにして驚喜し、大挙してキラのもとへと押し寄せる。
「そ、そんな。まさかこのような奇跡が実際に起こるとは。これではまるで、神父へ神の加護が届いていないようではないかぁ!!」
対照的に、悲鳴をあげながら逃げ惑う信者たち。風霧健武(ea0403)はこの必然の出来事を大声で叫びながら町中を走り回る。
「何故皆様はこんなにも悲しい事をするのですか‥‥。この世にはなければよい命、奪ってよい命など存在しません。皆様、今こそ神の名のもとに懺悔しましょう」
「‥‥うああっ、女神様ああぁああ!!」
後光すら差し込みそうなキラの祈りを捧げる仕種に、疫病におかされていた者と数名の教会信者は深々と頭を下げ、神ではなく彼女へ祈りを捧げる。
こうして、イギリス史上に名を残すかもしれない新たな女神が誕生したのである。
●幕間
「はい。これで大丈夫ですよ。でも体力が回復したわけではないので暫く安静にしておいてくださいね」
イギリス史上に名を残すかもしれぬその称号は数時間後、かくもあっさりとサラ・ディアーナにも与えられることとなった。
「本当にありがたい。あなたこそ本当の女神様じゃ‥‥」
「いえいえ、私はただの‥‥ミレニアム教のクレリックですから。そんなのじゃありませんよ」
ぎこちなくミレニアム教の宣伝をしながらも、白い光に包まれながら多数の病人たちを治していくサラの姿はまさしく女神のそのものであった。
「‥‥どうやら治療が必要な方は私たちの想像以上にたくさんいらっしゃるようですね。サラ、あなたはここで治療を続けてください。アレスは残りの奇跡の水を持ってアルテス・リアレイ(ea5898)のもとへ向かってください。起き上がる事もできない病人の方がきっとたくさんいらっしゃるはずです。私は‥‥新たな奇跡の水をつくりに赴きます」
「わかりました。聖女様」
既に病人やミレニアム教の信者でごったがえす空き家の状況を目の前にして、キラは軽く溜息を吐くと、あくまでも上品に退出していく。深々とお辞儀をするアレスと信者たち。‥‥だが、彼がこれから向かう場所は精神世界と程遠い、凄まじく現実じみた場所である。
「さて、何とかしてもう少し解毒剤の援助を依頼主から取り付けないといけないわ。‥‥まったく、種と仕掛けのある聖女っていうのも楽じゃないわね」
慣れない演技の疲労からがっくりと肩を落として夜道を歩くキラ。奇跡の水の正体が高価な解毒剤である限り、それを全額冒険者が負担するわけにはいかないのだ。
「‥‥だけど、ずいぶん落ち着いたみたいね」
高台から町の一部を見下ろすキラ。そこからは、先日までごく当たり前のように存在した殺戮も、放火も、軽べつも、心の病も‥‥全てがなくなろうとしていた。
その様子に勇気付けられたキラは、足取りも軽く依頼主の館へと足を向けるのであった。
幸いな事にこの町に住む依頼主は彼の要望に快く応じ、現在集められる限りの解毒剤と、数本の回復薬を彼に提供したのであった。
●三幕
「これで少しは楽になるはずです‥‥。いえ、お礼なんていりませんよ。恵まれない方に手を差し伸べることが聖職者の仕事ですから」
キラ達とは別行動をとっていたアルテスは手持ちの物とアレスから受け取った解毒剤を用いて病人を治癒すると、感謝の言葉を述べる病人へ優しく微笑みかける。
「いえ、これは不幸な誤解が生み出した悲劇なんですよ。町の人を恨んではいけません。あなたはこれからも一緒に町の人々と協力して生活しなければならないのですから」
彼は病人を襲おうとした信徒達に怒りを燃やす家の主人を諭しながら、家主から出された料理をアレスと共に慎重に口に運んでいく。
「安心しろ。それに毒など入ってはおらぬよ。‥‥いや、入っていたとしてもこれから死を味わう貴様らには無意味なことか!?」
入り口に立った神父の気配に二人が振り向いた瞬間、決して広くはない家の中が吹雪に覆われる。とっさに家主の前に立ち、彼を覆うような防御姿勢をとるアルテス。武器を持つアレス!
「残念じゃったのう。もうこの町に用などはないのじゃが、ワシらを馬鹿にした者を放っておくわけにもい‥‥!!」
「そっちも残念だったな。奇跡の水にはもう何種類かあるんだよ!」
先程キラから受け取ったリカバーポーションの瓶が投げ捨てられ、雪煙の中からアレスの剣が飛び出す! 切っ先は神父のローブを掠め、敵の額を僅かに切り裂いた。
「グッ! なにが奇跡の水じゃ、そこいらで売っているものであろうがぁ!!」
神父の体が青く淡い光に包まれた刹那、彼の右腕から巨大な水球が飛び出した。反射的に剣で受けようとしたアレスは、水の塊の直撃をくらって家の中に弾き飛ばされる。
「‥‥貴様ら、この恨みいつか晴らしてくれるぞ!!」
騒ぎを聞きつけて集まる人の足音に神父は舌打ちを響かせると、冒険者達に背を向けていずこへ逃走していった。
●終幕
「神父様はどこですかっ!? 奇跡の水の正体は? 私達はどうなってしまうんですか‥‥これじゃあ、何のために寄付をしたんだかっ!」
教会の中でも位が高いものへ、他の信者と共に掴みかかるシーナ・アズフォート(ea6591)。前回の依頼で10Gもの大金を教会に寄付してしまったせいか、『寄付』のところにやたらと力が入っている。
多額の寄付をした敬虔な信者であるシーナの教会への離心ぶりを目の当たりにしたほかの信者たちは皆浮き足だち、余りにも脆い結束はあっさりと砕けた。立場の高い者は皆糾弾され、破壊対象は病人の家から教会へとうつっていた。
「もうこんな教会にいられませんっ!」
ついには埒もあかぬ答弁に終始する教会を見捨て、人々は昨日今日できた新興宗教へ走っていく。恐怖で人を縛っていた宗教の‥‥当然過ぎる最期であった。
シーナと共に大挙して教会から出て行く信者たち。それを止めようとする者もいることはいるものの、数の勢いにはとても適わない。彼らはなす術もなく‥‥どさくさに紛れて立ち入り禁止の地下へ潜り込む二人の信者の姿を認めることもできず、人の波に押し流されるしかなかった。
<地下>
「時間がないわよ健武! ここに怪しいものがあることは間違いないんだから、裏帳簿や隠し金庫もろもろ全部見つけ出して、全部白日のもとに晒さないと気がすまないんだからっ!」
「もちろんだ。この事件の黒幕‥‥忍者の名に賭けて暴いてみせる」
地下へ続く階段を駆け下りていくアリア・バーンスレイ(ea0445)と風霧。実験書類、寄付名簿などが引っ張り出されては宙へ投げ出されて落下し、それに合わせて二人も一気に地下室を進んでいく。
「この扉を開ければっ! ‥‥‥‥!!」
鼻を刺す強烈な異臭と、目の前に転がる屍‥‥恐らくは信者のものとみられる屍の数々に彼女は思わず腐臭のする木の壁によろよろと倒れ掛かる。
「なんなんだここは。とても教会の地下にあるような代物とは思えない。反感を持った信者を殺したのか、それとも‥‥」
風霧は露骨に眉をしかめながら調度品、拷問器具の類を物色していく。触ることもためらうほど汚れたそれらを彼は一つ一つ物色していく。
「おやおや、人の趣味を調べるなんて趣味の悪い御坊ちゃん達だねぇ。‥‥いいさ、少し惜しいがあんたらはそれと一緒に燃え尽きな!!」
老婆のしゃがれた声と同時に突然入り口から松明が投げ出され、木でできた壁と考えたくもない油とにあっという間に引火する。
「‥‥あんまり甘く見ないでよお婆さん。私はこんなところで燃え死ぬつもりもなければ、こんなことをしたあなたを見逃すつもりもないっ!!」
躊躇することなく炎の中に身を投じるアリアと風霧。燃え始めたばかりの炎の壁を超えることは意外に容易く、彼女達は声の主を追って地下室を進み、階段まで一気にたどり着いた。
「二人とも大丈夫ですか!? ‥‥この教会はもうすぐ燃え落ちます!! 急いで脱出してください!!」
だが、そこで聞こえたのは老婆の声ではなく、二人の救出に赴いたシーナの声であった。老婆の事情は知らないが二人の知らぬ事情を知るシーナは、二人の手を引くと、燃え落ちようとする教会から脱出した。
‥‥住民たちを縛り付けていた教会は炎に包まれ、焼け落ちた。依頼は幾つかの謎を残しながらも町の救済という任務を達成し、一応の成功を迎えた。
冒険者達は町の者達から感謝の言葉と見送りとを受けると、キャメロットへ帰還していった。