浪漫COME BACK!!【終】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月08日〜02月15日

リプレイ公開日:2005年02月21日

●オープニング

 それではあなたは勇者など存在しないというのか?
 全ての英雄は金目当てか自己満足から事件を解決する方向に行動したとでも言いたいのか?
 ‥‥笑わせるな、私からいわせれば諸君らの考えこそがこの世を乱している要因なのだ。利害関係などで、どうして自分の命を賭けられようか?
 まさか死んだ後に石像を建ててもらう為ではあるまい。
(とある吟遊詩人と哲学者の討論より抜粋)

<クロウレイ・アレブカリフ>
 熾烈を極めた戦いは邪神に心を奪われしルダークの死亡という結果をもってその幕を降ろした。一時は混迷を極めたアレブカリフにもようやく平和な日々が戻り、人々は明るい太陽の下日々精一杯暮らしていく。‥‥そんな当然の日々を人々はようやく掴みかけていたのだ。

 ‥‥あの山に邪神ゲンドムラルと名乗る男が住み着くまでは。

<冒険者ギルド>
 バームとルダークは余りに多くの邪気を持っていた。彼らはどちらも息絶えたが、その邪気は消えうせはしなかった。
 一つになった邪気は姿形を邪神ゲンドムラルそのものに変え、今や『レビルマウンテン』の頂上からアレブカリフ全体を支配するようになった。‥‥その影響力がイギリス全土に及ぶのも時間の問題だろう。
 勇者達よ、最後の戦いだ! レビルマウンテンに赴き、(自称)邪神ゲンドムラルを打ち滅ぼすのだ!!

「‥‥まあ、何はともあれ困ってる人がいるんならいってこい」
 ギルド職員は首をかしげながらも、勇者達へ最後の依頼書を力強く手渡すのであった。

●今回の参加者

 ea0385 クィー・メイフィールド(28歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2634 クロノ・ストール(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3590 チェルシー・カイウェル(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea4665 レジーナ・オーウェン(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6151 ジョウ・エル(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ミオ・ストール(ea4327

●リプレイ本文

 青い空が好きです
 見上げるとすいこまれそうになるような青い空が。
 空からみんな生まれてくるんだと思いました。
(とある少女の日記より)

●序幕
 勇者達は何故これほどまでに強大な敵と戦おうとしているのだろうか?
 今彼らが向き合っているのは強大な力に心乱れた魔術師ではない、権力者でさえない。『強大な力』そのものなのだ。人心を乱すほど強大な力より勇者達の力が強いとはとても思えない。彼らがそれほどの力を持っていたのなら、人々は決して心を乱すこともないであろうからだ。
 この世のものがもし全て神の恵みによるものだとするのなら‥‥それに立ち向かう事は『勇』なのだろうか? あるいは‥‥

●一幕
 それはかつて見ないほど熾烈な戦いであった。大地を黒く塗りつぶすほどの物量で勇者達を待ち受けた邪神ゲンドムラルの配下達と勇者達との戦いは、消耗戦の様相を呈した。絶えることを知らぬ敵を掻き分け進んでいく勇者達。
 だが、そんな彼らをあざ笑うかのように迫る邪神の眷属達。一人、また一人と倒れていく仲間。加勢に加わった七騎士も力尽き‥‥ゲンドムラルのもとへ辿りついた時には、勇者達はたった一人になってしまっていた。

「いかに相手が‥‥あろうと‥‥諦めるわけにはいくまい‥‥」
 口元から滴る鮮血を拭おうともせず、強大な力そのものを睨みつけるクロノ・ストール(ea2634)。全身にどれほどの傷を負おうとも、彼の不屈の闘志は途切れる事はない。
「‥‥‥‥」
 そんな彼を見下ろし、ただ零章にも煮た微笑を浮かべる男‥‥ゲンドムラル。力を与えても与えても立ち上がってくる相手に通常であれば恐怖の一つも覚えていいところなのだが、彼からそういった雰囲気は一切感じ取れない。そう、倒せばいいのだ。何度でも。立ち上がったのなら立ち上がってきただけ。
 立ち上がったものは自らに倒させる喜びを与えるだけにしか過ぎないのだ。
「これで‥‥倒す!! ‥‥蒼克斬(蒼き活く刃)!!」
「無駄だということがまだ気付かないのか?」
 雄たけびと共に一撃を放ったクロノは、攻撃をゲンドムラルの掌で受け止められ、数倍に膨れ上がったような衝撃を受ける。絶叫をあげるクロノ、高笑いを浮かべるゲンドムラル。
「まだ‥‥だ。あきらめるわけにはいかぬ」
「いい顔だ。そうだ、何度でも立ち上がるのだ。お前が立ち上がるからこそ‥‥!」
 冷笑を浮かべたままクロノを見下ろすゲンドムラル。だが、彼はここで気付いたのだ。‥‥自らの額から一筋の紅い雫が流れているということを。
「馬鹿な‥‥そんな馬鹿な‥‥‥‥このゲンドムラルの額にいいぃいい!!!」
 絶叫し、クロノへと襲い掛かるゲンドムラル。剣を杖代わりにし、立つのもやっとに見えるクロノへ、その一撃は無慈悲に迫っていく。
「‥‥俺は‥‥‥‥死ぬのか?」
 高鳴る鼓動、迫る刃‥‥朦朧とする意識の中、彼の体は無意識に動いていた。次の瞬間、クロノの意識は零となり‥‥ゲンドムラルの刃がクロノの側面を通り過ぎていった。
「今の流水の如き動きは‥‥『雲を掴む者』クィー・メイフィールド(ea0385)の‥‥いや、そんなことがあるはずがない!」
 一瞬ダブったクロノとクィーの動きに目を擦るゲンドムラル。だが、さもなくばなぜ攻撃は回避されたのだ? ならば、もしや先ほどの一撃も‥‥
「‥‥!!!」
 何故回避したのか気付かぬままに動くのはクロノの身体。身体から発せられた絶叫は剣に乗り移り、『嵐裂く貴人』レジーナ・オーウェン(ea4665)の鋭さをもってゲンドムラルに迫る!
「何が、何が起こっていると!?」
「‥‥‥‥」
 頬に熱いものをはしらせながらも、力と鋭さを兼ね備えたその一撃を必死に回避するゲンドムラル。剣が唸り声をあげて彼の傍らを通り過ぎていく。
 だが、当のクロノも無言のまま、ただ別のベクトルへ‥‥回避したはずのゲンドムラルのベクトルへと軌跡を変える刃!! 金属同士が激突するような音が木魂し、衝撃を受けたゲンドムラルは自ら距離を取る。
「どういうことだ。奴にあれほどの状況把握能力は備わっていなかったはずだ。まして‥‥間違いなく奴は意識を失って‥‥!!」
 ゲンドムラルの思考が追いつく間もなく飛び込むクロノの一閃! 回避するも、まるでそれを読みきったかのようにまたも軌跡を変更する刃!! ゲンドムラルはここで初めて片膝をつく。
 尚も無言で刃を繰り出すクロノに、ゲンドムラルは屈辱の防衛戦を強いられる。どこに回避しようとも迫る刃‥‥それは間違いなく『全能の賢者』ジョウ・エル(ea6151)のものであった。信じたくもない事実がゲンドムラルの脳裏をよぎる。
 だが、邪神の疑問を打ち払うかのように、どこからともなく耳に入るは『争いを奏でる詩人』チェルシー・カイウェル(ea3590)が奏でる歌!!
「この俺が‥‥いつまでも受け身でいると思うなああぁああ!!」
 言霊の力を帯び、無言の下で振り下ろされる剣を掻い潜り突き出されるゲンドムラルの拳! 腕にはしるは確かな手応え!!
「‥‥‥‥守るものがある限り‥‥諦めないと言っただろう!!」
「‥‥! にぃ、意識が‥‥!!」
 だが、衝撃から飛び出したのは絶望ではなく不屈の闘志であった。ゲンドムラルの眼前で意識を取り戻したクロノは全ての力を剣に込め、邪神を力強く弾き飛ばす。
「私の剣には仲間の‥‥この世界に生きる命の願いが宿っている! 邪神よ、今こそ存在を‥‥」
「ハハハハハ、ヒャハハハハハハハハ!!!!」
 意識を取り戻したクロノの言葉は狂ったようなゲンドムラルの笑い声によってかき消された。

●幕間
「ハハハ‥‥なんというザマなのだ。邪神ともあろう存在が人間風情に追い詰められるなどな。‥‥だぁが、ここまでが人間の限界なのだ。‥‥‥‥コオアオアアオオ!!」
 邪神が高々と右腕を突き上げた刹那、どこからともなく現れた分厚い雲によって空が覆われる。そして大地のいたるところから幾筋もの暗黒に覆われし何かが飛び出し‥‥邪神を包み込む。
 ‥‥そこにはもう邪神ゲンドムラルと呼ばれた存在は‥‥青い空までも存在はしなかった。

●二幕
「大成功ではないか小僧‥‥貴様のせいで世界征服は三年遅れるだろう。全ての眷属をこの身体に取り込んでしまったからなぁ。『泥の魔王』アレバリムも『荒れ狂う狼』ワーラインダも戻ってこなくなってしまった。‥‥この俺様の完全体の一翼を担うためになぁ!!」
 全ての眷属を吸収したと宣言し、完全体となった邪神は圧倒的な威圧感を持ってそこに存在していた。彼の前には全てが無意味だった。いかに淋麗(ea7509)の信じる心があろうとも、いかにジョウの先見の目があろうとも、いかにレジーナの鋭さを兼ね備えていたとしても、いかにクィーの流水の動きを持とうとも、いかにチェルシーの歌の加護を受けようとも!!
 簡単な理論なのだ。全てを上回る力の前に全てのものは無力化される。全てのものは‥‥存在を‥‥許されない。
「砕け散れえェエ!!」
 振り上げられる邪神の右腕。なす術もなく、ただ吹き飛ばされるクロノ。頭から大地に落下し‥‥全ては終わったかのように思えた。
「ここで貴様らが終わらぬ事などとうに学習済みだよ。‥‥跡形も残らぬほどに消し去ってくれよう!!」
 掌に全ての力を結集させる邪神。集まった波動は留まる事を知らず大きく‥‥どこまでも大きくなっていく。そして暗黒に覆われた空を呑みこむほど大きくなったそれは‥‥‥‥クロノへ向けて放たれた。
「‥‥間に合ったかぁ勇者どもよ!!」
「当然でしょう。ここで滅ぼされるような運命を‥‥幸せだと思えるほど朴訥ではないつもりですわ」
 巨大な衝撃を受け止めるために突き出される十二本の腕! 深い傷を負いながらもクロノのもとへ辿り付いた勇者達は、気力だけで邪神が放った技を受け止める。
「その諦めの悪さは認めよう。‥‥だが、我の力は無尽蔵なるもの也! いかに押し留めようとしても、滝の水を全て受け止めることはできまい。傷つき、己の無力を感じ‥‥倒れるがいい!」
 しかし、完全体となった邪神の力は留まる事を知らない。溢れ出るように降り注ぐ力に、攻撃を受け止めていた勇者達も徐々に傷ついていく。片膝をつき、流れ出る鮮血は大地を紅く染める。闇に覆われた空は、彼らに敗北という現実を無情にも告げようとしていた。
「人間は‥‥神には‥‥かなわないと‥‥!?」
 淋をはじめ冒険者の面々の気力も尽きようとしていたとき、彼らの耳にうめき声以外の音が届いた。言葉でもなく、曲でもない‥‥‥‥歌?
「違う、私じゃない。これは‥‥‥‥この歌詞は‥‥」
 一斉にチェルシーを見る冒険者達にこの歌が自分のものではないことを告げるチェルシー。そして彼女は思案する。どこかで聞いたことがあるような‥‥いや、見たことがあるこの歌の歌詞を。‥‥かつて戦いのあった場所。ルダーク城で見た歌詞を。
『邪神よ‥‥自らで招いた災い。せめて自らの手でもって滅してみせよう!!』
「何をやっている! こんなところでくじけるような貴様らではあるまい?」
 ルダーク‥‥いや、聡明な頃のルークの声と重なるようにして現れたのは七騎士。彼らの力では到底払う事の出来ないはずの邪神が繰り出した攻撃はラブラスによって‥‥ラブラスに宿った何者かの力によっていとも簡単に振り払われる!!!
「そっか‥‥力を貸してくれたんだね、ルィーラ。そしてルーク‥‥‥‥さあっ!! みんな勝利の歌を唄いましょう!! この大地に、キャメロットに、世界に! 私たちがここに、『私たち』がここに生きていたという存在を刻むために!!」
 かつて城で見た歌は協奏曲となり、勇者達の覇気を歌詞にして演奏される。重い傷から立ち上がり、武器と己の信念を掲げる勇者達。彼らは皆口を曲に合わせて動かしながら、剣を振るう。
「そっか。勘違いしてたな。人には勝てんのやない‥‥人だから、勝てるんやな。答えを求める人だから! 人も、世界も答えを見つけるまでは、決して滅びることはないんや!」
 クィーのクレイモアは彼女の銀色の髪と相まって輝いて見えた。‥‥いつの間にか空は晴れ渡っていたのだ!
「わたくしの心が折れぬ限り、この剣も絶対に折れないのです。その邪悪な魂を貫くまでは!!」
 友の存在、力を感じ取ったレジーナは、まるで翼が生えているかのように飛び上がり、邪神を上空から貫く!!
「麗‥‥この戦いが終われば‥‥‥‥」
「はい。‥‥二人で‥‥‥‥」
 手を取り合い、互いに信じ合う二人の放った魔法は絶対防壁を誇るはずの邪神の鎧を貫いた!!
「馬鹿な‥‥嘘だ嘘だ嘘ダうそだウソダウソダアアーアアアーー!! なぜこの邪神が、完全体となった俺様が‥‥なぜ、何故だあぁあ!!」
「わからないのかゲンドムラル‥‥いや、この世の邪なる存在そのものよ! この世界はお前を必要としていないことを!」
「フザケルナ! そんなことがどうしてお前にわかる!? 世界が俺を必要としないのなら、この俺が世界を変えてみせるまでぇェ!」
 仲間の加護を‥‥この世界の加護を受けて立ちはだかるクロノへ叫ぶ邪神。彼の絶叫は、一度晴れ渡りかけたその空を再び覆い尽くそうとする。
「気付かないの? あなたがどれだけ雲で空を覆っても、その先には必ず空はあることを! あなたもこの世界の一部に過ぎないの。そして、世界を覆そうとしているあなたを‥‥すべてを奪おうとしているあなたを、この世界が許すはずがない!」
「世界が許さないだと? なにが、何がだアァァ!! 俺がしようとしていることの何が間違いだというのだ?! 力に物を言わせて奪い取る。その当然の原理を‥‥‥‥ナ!!!」
 叫ぶチェルシー。絶叫するゲンドムラルと呼ばれた存在。

 ‥‥彼が見上げた先には、金色に輝く剣を振りかぶったクロノと‥‥‥‥その剣に光を与える青紫色の空があった。邪神が拳で迎えうとうとした最中、クロノはゆっくりと、そして微笑むように口を動かした。

「簡単なことだ。‥‥この世界は青い空なしでは生きていけない。生きる全ての者の希望と、喜び‥‥それを奪える者なんて、どこにもいるはずがないんだ」
 『世の光をもたらさんとする勇者達にご加護を‥‥』それは勇者達を見送ったクロノの妹、ミオ・ストールが発した言葉だった。


 その言葉が邪神以外の神に届いたのかどうか‥‥私には知る由もないが、全てを成し終えた者たちは‥‥確かに輝いて見えた。

 完