末路とその先
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 64 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月06日〜02月13日
リプレイ公開日:2005年02月16日
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●オープニング
組織の衰退は最早誰の目にも明らかであった。
かつて組織の一員であったディールの引き抜き事件は組織から数多くの戦力とそれ以上の仕事を奪っていった。本来ならば儲けどころであったはずの二大勢力の対立にも乗り遅れ、現在をもってしてもバックアップを取り付けられていない。
それだけならまだしも‥‥‥‥力の弱った組織に待っているのは、かつて虐げていた者達からの報復である。
<クロウレイ地方・某所>
「親父、南の拠点からも連絡がねぇそうだ。どうやらまた制圧されたようだぜ」
酒を片手に笑いながらアジト陥落を報告する男。男の目の前には、かつて隆盛を誇った組織の首領の姿があった。
「そうか‥‥それで、どうしてお前はこんなところで油を売っているんだイルザック!?」
「そうがなるなよ親父。‥‥おっと、実の父でもないのに親父と呼ぶのは不満かい? ホウラム・アイバンさんよ」
アイバンと呼ばれた首領の声にも、たじろぐことなく酒をあおり続けるイルザック。小刻みに震える首領を横目で見ながら、イルザックはさらに続ける。
「そりゃ俺が行けば少しは事態もよくなるかもしれねぇがな。それ以上改善することはねぇよ。臆病者ばっかりの同胞さんに囲まれて、ついでに十数人の冒険者にも囲まれて、一人メイスを振るう健気な俺‥‥そんな泣けるストーリーは俺にはにあわねぇんでな」
「‥‥命令に従えないということか?」
首領の傍らからゴトリと音がする。音を聞き取ったイルザックはさすがにおふざけが過ぎたかと、額から脂汗を流しながら言葉を発した。
「そうじゃない。少しばかり考え方を変えようって言ってるんだ。幾つもある拠点で守ってたんじゃあそりゃ戦力も分散する。‥‥だったら、襲ってくる奴らに対抗する特殊部隊を作ればいいって話だよ。もちろん俺を隊長にしてな。なあに、十人もよこせとはいわねえ。ギル、アスラニアそれにあんたの娘のシューラさえ部下にしてくれて、時間を半年くらいくれれば、この組織を復興してみせるさ。‥‥悪くねぇだろ?」
イルザックは酒をテーブルの上に置くと、恐れるべき首領の動向を伺うのであった。
<クロウレイ地方・某町・集会所>
「みんな、今日集まってもらったのは他でもない。奴らをこの町から追い出す算段を立てるためだ。忌憚なき意見を述べて欲しい」
町の実質的なリーダー格である元冒険者のブレッドは集まった住民を前に、以前からこの町に住み着き、ことあるごとに上納金という名の収奪と暴力、時には暗殺までも行ってきた『組織』をいかに追い出すかについての会議を始める。
「ああ‥‥わしは絶対に私兵を出さんからな。やつらもまだ完全に力を失ったわけじゃないんだ。しっぺ返しがあっても‥‥‥‥ああ、万一の時は守ってやるさ」
住民から一斉に送られた避難の視線に、態度を緩和したのはこの町の有力者・ベリガール。かつては強欲な人物だったらしいのだが、最近ではすっかり気の弱い人物になってしまったらしい。
「‥‥よし、それじゃあこの依頼は冒険者に頼むということでみんな異議はないな?」
会議はスムーズに進行し、ギルドに蛮族壊滅の依頼として申請することで一応の決着をみせるのであった。
●リプレイ本文
●一幕
「フフ‥‥はじめまして。町から派遣された交渉人です。そちらの景気はいかがですか?」
町から一時間ほど離れた小屋を訪れた水野伊堵(ea0370)は、とびきりの笑顔(と、少なくとも本人は思っている)と挨拶の言葉小屋の外で芝刈りをしていた男へ贈った。
「‥‥‥‥!!」
男は『町から派遣された交渉人』という単語に驚いたのか、返答することなく駆け足で小屋へ駆けていく。バタンとドアが閉められた刹那、外まで聞こえてくる小屋の中の慌てよう。『ついにここにも‥‥』とか『早く逃げよう』など凡そ裏の仕事を扱っていた人間の言葉とは思えないような台詞が冒険者達の耳元に届く。
「なんだ。何の用だ?」
数十秒後、小屋から先ほどの男を含めて六名が冒険者達の前に歩み出してきた。一応のリーダー格らしき男が先頭に立ち、冒険者達に虚勢を張りながら質問を投げかける。
「これは勧告なのだが、町への不当な圧力をやめこの地から出て行ってくれないか? 拒否されると否が応なしに力技で始末しなければなくなるのだが、そうなると双方それなりの被害が出ることは間違いない。俺達としてはそれも馬鹿らしいため、こうして勧告から始めているのだが、どうだろうか?」
いきなり本題を突きつけたのはアルス・マグナ(ea1736)。決裂を全く恐れはしない‥‥むしろ決裂を望んでいるかのようなその口調は、奇妙なほど淡々としていた。
「俺達がここを明け渡せばそれ以上の要求はしないんだな?」
「ああ。二度とここに帰ってこないと約束してくれるのなら俺達はそれ以上の要求はしない」
「‥‥少し考えさせてくれ」
マナウス・ドラッケン(ea0021)からの返答に、ひそひそ声で相談を始める組織の人員たち。これだけ無茶な要求をされているにも関わらず話し合いが行われている時点で、彼らの力が見る影もなく衰えてしまっているという事が容易に推察できる。
もっとも、実力的にも知名度的にも名の通っている冒険者相手に勝ち目のない戦いを仕掛けないということはある種賢明な選択なのかもしれないが。
「わかった。ここは明渡そう。‥‥ただ、一応俺達は勇敢に戦ったってことにしてもらえないか? 田舎にかえるにしても‥‥‥‥その、ハクってものが欲しいからな」
「それは構わない。俺達の依頼はお前達をここから追い出すことだからな」
リーダー格らしき男の何とも情けない提案を、表情を変えぬままに即答するゼディス・クイント・ハウル(ea1504)。織の男達は安堵の溜息を吐くと、「荷造りをするから」と言い残して小屋へ引き返そうとする。
「待て。荷造りをすることは構わないが、その前に後ろに控えている三人をどけてくれないか? さもなければ、交渉が無意味になるだけではなく、その三人の命も保証できない」
「‥‥‥‥何のことだ?」
先ほどバイブレーションセンサーで感知した後方に控える四名の排除を要求するアルス。だが、組織の人員は驚いたような表情で彼を見る。
数秒後、冒険者の後方から、シャルグ・ザーン(ea0827)の叫び声が聞こえた。
●二幕
「あ〜〜あ、まさかあっさりと折れるなんてねぇ‥‥。多少予想はしていたが、なんとも情けない部下を持ったもんだ」
「‥‥なるほど。親玉の登場というところか」
再度に渡る警告に一切動揺することなく、ただ巨大なメイスを抱えて歩を進めていく男に只ならぬ雰囲気を感じ取り、ロングソードを握り締めるジャルグ。考えるまでもなく相手は一撃必殺型の戦士。こちらも防御がそれほど得意とはいえない以上、相手の攻撃を待っているわけにはいかない。
「がああぁぁあああ!!」
枯れ草に覆われた大地を踏みしめ、一気に男との距離を詰めるジャルグ。オーラでその肉体を覆い振り上げた両腕の筋肉を隆起させ、男目掛けて一気に振り落とす。
「‥‥っぅ!!」
想像をはるかに凌駕したジャルグの剣戟に男の表情は一変する。飛び散った血液に男は苦痛から顔を歪め、ジャルグは確かな手応えを得ようとさらなる一歩を踏み出す。
「ヤロオオオ!! フザケヤガッテエェエエ!!」
「そんな大ぶりな攻撃が‥‥命中するとでも思っているのか!?」
予想外の一撃を受けた男の瞳が瞬時にして血走り、考えなしにジャルグへと突進する。巨大なメイスは大地を揺らすほどの衝撃を与えるが、あたらなければ意味はない。直線的な攻撃はジャルグに見切られ、逆に強烈なカウンターを男は浴びる。
「とどめじ‥‥!」
確かな手応えと大きくよろめいた敵に好機を掴んだと見るや、ジャルグは武器を握り締め‥‥脇腹にはしった鋭い痛みに視線を新たな敵へと移した。
「落ちつけイルザック。お前の実力ならたいした相手ではないはずだ。‥‥あまり失望させるなよ。お前がリーダーなのだからな」
「すまねぇなアスラニア。‥‥お陰で目が覚めたぜ」
ダーツを投げ、よろよろと立ち上がる仲間を一瞥するアスラニアと呼ばれた剣士。眩むような蒼で統一されたその凛とした出で立ちは、彼が闇に隠れた組織の一員であることを忘れさせる程の存在感を持っていた。
「穏やかに済ませようとしているのに‥‥どうやら痛い目を見なければわからないようだな。『誇り高き炎帝』と詠われしこのレイリー・ロンド(ea3982)が相手になろう」
「面白くなってきたじゃん。俺はオラース・カノーヴァ(ea3486)。あんたの実力がど程度かしらねぇけど‥‥せいぜい楽しませてくれよ」
姿を現した敵に臆することなく距離を詰めていく二人の冒険者。余程腕に自信があるのか、三名とも攻撃的姿勢を崩そうとはしない。
『!!!』
三者の誰も距離を取らなければ、その先にあるものは激突である。大きさこそまちまちであるがそれぞれ自分の愛剣を構えた三人は一斉にそれぞれの方向へ飛び掛る! オーラスのジャイアントソードが大地を叩き、死角から飛び込んだ膝蹴りが彼を弾き飛ばす。振り向いたアスラニアに迫るは既に刃を振りかぶったレイリー! 振り落とした日本刀は鎧の小手で薙ぎ払われ、最小限のダメージしか与えることができない。そして次の刹那、男がカウンター気味に突き出した刃がレイリーの右足を鋭くえぐった。
「‥‥なるほど、只者じゃあ‥‥ないな」
ヒーリングポーションを服用し、レイリーは息一つ切らしていない剣士を再度睨みつける。
「やめておけ。別段お前達に危害を加えるつもりでここに来たわけではない。避けられる戦いで命を失うのは愚かなことだと思わないのか?」
「依頼を達成するのが冒険者の仕事だぜ。組織の人間目の前にして引けるかよ! マナウス、援護を頼む!」
余裕をみせつけるような敵に痺れを切らしたのか、オーラスは再度ジャイアントソードを構えて突進する。流水の如き動作で攻撃を回避しようとする敵の動きを確実に見極め、武器めがけて渾身の一撃を振り落とす!
「受けるなアスラニア! その一撃は‥‥!」
「フフ、ジャルグさん一人ではご不満のようなので私が御相手いたしますよ。他の方に目をかけるよりも、ご自分の心配をなさっては?」
加勢に入ろうとしたイルザックの進路を伊堵の愛刀であり心の恋人でもある『堕龍』が塞ぎ、血を噴き上がらせた刹那、金属が砕けるような音が木魂しアスラニアの剣が真っ二つに折れる。
「どう‥‥!!」
「なるほど、見事な手際だな!」
剣破壊のために大ぶりとなった剣戟の後に生じた隙を見逃さず、ナイフをオーラスの右腕に突き刺すアスラニア。ついでそのナイフを胸元に向けようとしたが、それはマナウスが放った矢によって阻止された。
「コイツラアァァア!! ‥‥作戦変更だ、ここでコロシテヤル。ギルッ! 出番だ。臆病者と一緒にこいつらをひき殺してやれ!」
アスラニアの舌打ちをイルザックの叫び声が覆い尽くし、その声に呼応するように戦馬の蹄音が冒険者達の耳に飛び込んでくる。
「HAHAHA! キャメロットの蒼狼とはミーのことよ。低脳な冒険者どもよ、この槍の錆にしてやりましょう!!」
蹄音の先に現れたのは重装備で身を包んだ馬と男であった。ギルと呼ばれた男は風霧健武(ea0403)の投げた手裏剣とマグナスが射た矢を鎧で受け流すと、一直線に小屋とその目の前にいる冒険者へと突進していく。
「俺が防ぐ。お前達は魔法制御に集中してくれ」
暴走馬車の如く向かってくる騎馬へ果敢にも立ち向かう風霧。忍者刀を構え、それを力を込めて突き出す。
「HAHA!! 正気かジャパニーズNINJA」
怪しいイギリス語と共に槍が風霧を貫き、鮮血が噴水のように吹き上がる。風霧は身体を捻り、致命傷だけは避けると吐血しながらもヒーリングポーションを服用し、何とかその場に踏みとどまる。
「下がっていろ健武。‥‥凍えるぞ!」
「HA――!!!」
ハウルの掌から吹雪が巻き起こり、ギルとその馬を包み込む。しかし、一人と一匹は吹雪などまるで効いていないかのごとく、再度突進を試みる。
「馬鹿の一つ覚えの突進は‥‥狙いやすいんだよ!」
アルスが高速詠唱で魔法を唱えた直後、重力が反転したかのようにギルと馬とが宙に浮き上がる。そして魔法の効果が切れて重力が元に戻った直後、一匹と一人は大地に叩きつけられる。
「GU!! ‥‥イルザック、ロシナンドが足を負傷した。ミーはそろそろ潮時だと思うんですがね」
「チッ‥‥最悪の船出だぜ。俺達の組織のよぉ‥‥」
「愚痴を言っても未来は開けまい。奴らを甘く見ていた以上、非はこちらにある。潔く撤退することが上策だ」
馬の負傷に悲鳴をあげるギルの声を受け、それぞれの局面で戦っていたイルザックとアスラニアもその場から撤退していく。
「みんな、追うのはやめておこう。どうやら奴等の目的は村ではなく俺達と‥‥どういうわけか組織の人間にあるようだからな」
撤退していく三名と一匹の敵と、何が起こっているのか分からずきょとんとした様子の組織の人間に、マナウスは何とか依頼が達成できそうだという安堵と、どうやら根の深そうな事件に首を突っ込んでしまったようだという事実から、声にならない溜息を吐くのであった。
‥‥その日のうちに組織の一員だった男達は町をあとにし、今後はベリガールが率いる警備兵が取り締まりにあたるようになった。町から組織の影響力は一応という形ではあるが排除されたのであった。