末路とその先【弐】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:5〜9lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月27日〜03月06日

リプレイ公開日:2005年03月06日

●オープニング

<組織・本拠地>
「なるほど。イルザックの奴はディールと同じ道をとったってわけか‥‥‥‥ふざけやがって!!」
 部屋の調度品を次々に壊していく組織の主、ホウラム・アイバン。無理もない、これで主力の大半は組織から離脱し、独立してしまったのだ。そしてイルザックに‥‥あろうことか自分の娘までついていくとは!!
「笑ってみろてめぇら。今や俺は裸の王様だ‥‥笑えって言ってんだよ!」
 ゴトリと音をたてながら武器を持った主に震え上がる配下達。彼らは皆顔を露骨に引きつらせ、直立不動のまま口元を緩める。
「は、はは‥‥」
「何がおかしいってんだよぉてめぇら!!」
 否な音をたてながら命中するアイバンの武器。手に握られていたはずのその武器はもはや彼の手に確認する事は出来ない。
「‥‥いいか。そんなところで笑っている暇があったらさっさとイルザックを追う為の部隊を組織しろ。もう収入なんて知ったことじゃねぇ。腕っ節のきくやつを全員集めるんだ! イルザックにしろディールにしろ‥‥俺の眼の黒い内に好き勝手はさせねぇ!!」
 主からの命令に、部屋で立っていた配下達は一目散に飛び出していく。慌てふためくその様子からは、とてもかつての組織が持っていた威厳などない。
「どいつもこいつもクソッタレだ。御世辞にも人に好かれてる方じゃねぇってのに。‥‥クソガァ!!」
 酒瓶を壁に投げつけ、暴れ回るアイバン。アジトからイルザック討伐隊が出されたのは、それから二日後のことであった。

<冒険者ギルド>
 かつてクロウレイ地方の裏の仕事を牛耳り、私欲を尽くしていた組織の本拠地情報がリークされた。組織の首領・アイバンの首には直接犯じゃないから少な目に感じるかもしれないが、被害者などから40Gの賞金がかかっている。全員で割っても暫く気の抜けたエールからは解放される賞金が入るってのは想像できるよな?
 ‥‥そうだ、お前達の期待通り今回の依頼は最低限その組織の本拠地を壊滅させ、あわよくばその首領の首をとるって依頼だ。本拠地の主力は軒並み留守にしてるって情報も入っている。まだ二十人程度は中にいるだろうが‥‥‥‥所詮は烏合の衆だ。奇襲すればどうにかならない数じゃないだろう。
 見取り図から作戦をたてて、敵を殲滅しろ。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

狩多 菫(ea0608

●リプレイ本文

<組織・拠点内部>
「これが‥‥俺の‥‥‥‥」
 男は腹の辺りを押さえながら、床に転がった数名の部下を見下ろした。

<拠点付近>
「‥‥‥‥」
「どうした風霧。まだ夜明けまでには時間があるぞ。見張りならしておくから休める内に休んでおけ」
 組織の拠点への突入を間近に控え思案顔で空を見上げていた風霧健武(ea0403)に、ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)が起伏の少ない声で話し掛ける。月明かりだけが周囲を照らす状況で、互いに声の主の姿もぼんやりとした輪郭しか確認できない。
「なに、少し見送ってくれた菫への土産を考えていただけだ。眠くて動けないなんてことはないから安心しろ。――マナウス、あんたも寝ないのかい?」
「どうもまだ寒さが堪えるらしくてね。仮眠はとれたことだし、俺はこのまま起きているつもりさ。寝ぼけ眼で依頼に挑むことはしたくないんでね」
 風霧に声をかけられた冒険者マナウス・ドラッケン(ea0021)は黒い衣服を纏い、闇に体を同化させながら眼下に広がる拠点を眺める。石造りの建造物は、木々の間に隠れながら重厚な姿を晒している。それはあたかも小城のようであり、とてもこれからたった八人の冒険者で攻略できるような類の物には見られない。
「組織の本拠地のリークか。ここまで来るといっそ哀れだが、気を抜かずに全力を持って戦うとするか。それが俺の出来る、せめてもの手向けだ‥‥」
 暫くたって、冒険者達は吐く息が白いことに気付き始める。まだ日は昇ってはいないが、夜が明けようとしているのだ。
「さて、割に合わない仕事の気がするがやるか。できれば本当に土産があるとありがたいんだけどな」
 北側につけていたもう一人の冒険者、アルス・マグナ(ea1736)の声を合図に四人は拠点へゆっくりと近付いていった。
 鍵のかけられた扉が音を立てて開かれたのは、それから十数分後のことであった。

<東口>
 冒険者の襲撃は‥‥いや、襲撃されたということ自体が彼らにとっては青天のへきれきであった。彼らは予想だにせぬタイミングの予想だにせぬ襲撃に浮き足立ち、満足な戦闘も行わぬまま冒険者に背を向けた。
「逃げようなんて考えが甘いんですよ!」
 その背中に突き刺さる日本刀。勢いよく飛び出した鮮血が水野伊堵(ea0370)の身体に朱の化粧を施す。悲鳴をあげながら壁に寄り掛かるような姿勢で絶命する組織の人間。
「クク、これはまさしく『殲滅』戦ですねぇ。‥‥ヨシ! とてもいい気分ですよ」
 口元にこびりついた血を舌で拭い取ると、彼女の表情は初恋の人に巡り合ったような恍惚の表情へと変貌を遂げる。彼女は刃に頬擦りしながら、左手の扉を蹴破る。
「て、てめぇらあぁあぁ!!」
 ドアが破られた途端に、彼女達へ向けて投げられるナイフ。投擲手は余程動揺していたのか、ナイフの軌道は大きく逸れて壁に突き刺さる。
「せめて命中するように投げて欲しいな。‥‥俺達は正義の味方じゃないんだ。たった一つの武器を投げられて、お返しするほどお人よしじゃないぜ!」
 振り落とされる先ほどとは違う日本刀。再び響いた悲鳴と共に飛び散った血飛沫がレイリー・ロンド(ea3982)に降りかかる。鬱陶しそうに右手で嫌な匂いのするそれを拭おうとするレイリー。
「おおぉおお!!!」
 部屋の奥の壁が唐突に開き、ナイフを構えた男が二人、奇声をあげながらレイリーに襲い掛かる。
「おお‥‥ぉ‥‥にたく‥‥ぃ‥‥」
「どうだ、これが冒険者の力だ! ははは、哀れな殿方たち!! 死んだ悪党だけがいい悪党だわ!!」
 だが、バタバタとした彼らの攻撃など場数を踏んだ冒険者にとっては問題にもならない。伊堵が前に出て一人目を地に這いつくばらせたころ、レイリーの刃もまたもう一人の人間を捉えていた。倒れる敵を目に、刃を振り回しながら狂喜する伊堵。
「右手の部屋にはもう誰もいないようじゃ。‥‥この者達にまともに戦う気はないようじゃな。先ほど右手の扉から賊の一員らしき人間が出てきたが、我が輩を見ると広間の方向へ逃げていったよ」
「クク、逃げ場は塞いでいるというのに控え目な方ですね。逃げるのなら‥‥」
 呆れ顔のシャルグ・ザーン(ea0827)へ伊堵が微笑みながら言葉を投げかけようとした時‥‥‥‥通路の先から誰かの悲鳴が聞こえた。
「どういうことだ? 我が輩達より先に他のグループが入れるとは‥‥」
「決まっているじゃないですか。きっとこの先の広間に素敵な方がお待ちなんですよ」
「‥‥ふぅ、わかりきっていた話だがいよいよか」
 この先に待っているであろう首領に三者三様の思いを述べながら、三人は広間へと歩を進めていった。

<西口>
「‥‥うん、無理だ。つーか最初からこの計画には無理があったな」
 扉をグラビティーキャノンの連発で何とかこじあけたアルスは、自分の役割である『出入り口を使用不能になるまで破壊』が、実行不可能であることを確信する。丈夫な石造りの壁面は彼のグラビティーキャノン程度ではびくともしない。もし仮にこの入り口が木製であったとしても、入り口が使用不能になるほど破壊する前に彼の魔力に限界が訪れていたかもしれない。
「さて、どうしたもんかな。ここを空にするわけにも‥‥」
「そこをどいてくれえぇぇえ!!」
 完全に狂った予定を前にアルスがぼんやりとこれからのことを思案していると、右手の扉がけたたましい音をたてて開き、組織の人員と思われし数名が悲鳴をあげながら迫ってきた。
「いいよ。どうぞどうぞお通りを。あんたらラッキーだね」
 あっさりと組織の人間を逃がすアルス。直接戦闘能力を持たないアルスに数人の敵を止めることは不可能であっただろうし、下っ端相手に勝ち目はなく命を落とすかもしれない血みどろの戦いを挑む趣味はなかった。全員抹殺するという計画は狂ってしまったが、計画が狂ったことは何も今に始まったことではないのだ。こういう時は臨機応変に限る。
「‥‥広間にでも顔を出すかな」
 やれやれと溜息を吐くと、彼は中央の広間へと続く通路を進んでいった。

<南口>
 悲鳴は連鎖するように続いていく。激痛の余り、頭を抑えて転げ回る人間に巨大な刃が突き刺さる。逃げようとした者には背中から刃が突き刺さる。勇敢にも剣を手に取った者は‥‥‥‥格の違いを思い知らされながら、この世から旅立っていった、
「逃げるなよっ! 折角俺があんたら全部面倒見てやるんだぜ。最期くらい往生際をよくするもんだぜ!!」
 口元を歪ませ、巨大な刀身を叩きつけるオラース・カノーヴァ(ea3486)。彼の前に立ちはだかった最後の―――正確には彼の後ろの出口から逃げようとした最期の人間は、猛烈な衝撃に白目をむいてその場に倒れた。
「‥‥チッ、ろくな奴もいなけりゃろくな物も置いていねぇ。これでも元は巨大な組織かよ」
 敵を葬り去った後左手の部屋に入り調度品の物色を始めた彼であったが、期待していたようなものはなく、オーラスは新たな敵を求めて中央広間へと歩を進めていった。

<北口>
「‥‥‥‥‥‥いけるぜ」
 広間へと続く扉の前で聞き耳を立てていた風霧は、東側から届いた仲間達の声を聞き取ると、マナウスとゼディスに合図を送り鍵の開いた扉を蹴破る。
 広間には数名の部下を従え、微笑を崩さぬまま冒険者を待ち構える首領・アイバンが‥‥‥‥いるはずだった。

<中央広間>
「よぉ、ようこそ俺達の秘密基地に。‥‥これで六人か。南にも一人‥‥西は‥‥‥‥どう‥‥かな。まあ‥‥知ったことじゃ‥‥ねぇだろうが」
 北口から飛び込んだ三人が目にしたのは、同じく部屋に突入したばかりの伊堵、ジャルグ、レイリーの三名と‥‥‥‥数名のかつての部下の屍に囲まれたアイバンの姿であった。石像にもたれかかるように掴まっていた彼は、己の体から流れ出る鮮血で衣服と石像を囲む水を染めながら、力ない言葉を冒険者達へ送る。
「貴殿は仮にも組織の頂点に立った男じゃ。そこに転がっている輩にそれほどの手傷を負わせられるとも思えぬが」
「ジャルグ‥‥だったか? ご名答‥‥だ。そこのレイリー‥‥と、風霧‥‥あんたらがじっ‥‥と見てるこの石像。実は手‥‥が引き抜けて‥‥な。そうすると上半身が倒せて、空洞から秘密の‥‥部屋にいけるようになってるんだよ。俺はそこで寝ていたんだがな‥‥いやぁ、なさけねぇもんだ。信頼していた手下どもに寝込みを襲われる‥‥なんてよ」
 冒険者達のことを知っているのか、名前を挙げながら自らがこの状況に至った過程を話し始めるアイバン。ゆっくりとした彼の言葉が終わる頃、アルスとオラースも広間に突入してきた。
「フフ、かつてはクロウレイの裏社会を牛耳った闇の帝王にそのような事件が起こったとは‥‥。さぞお苦しいことでしょうねぇ」
「だろ? だが、ここまでくると俺‥‥はこれが俺の‥‥力を‥‥持った人間の末路だ‥‥と思って‥‥満足してるんだぜ。あんた‥‥らもその身体‥‥についた紅いの‥‥見ると力を持ってるんだろ。ククク、あんたらの末路を‥‥見れないの‥‥が苦しみだな」
 伊堵からかけられた言葉を受けて、よろよろと自力で石像の周囲の水から出るアイバン。背中に手を回し、冒険者達をにらみつけて交戦の意思を見せる。
「準備は言いようだな。‥‥では一夜限りの手向けの宴を始めよう。なぁに、お代はその命で十分だから安心して参加すると良い」
 ワスプ・レイピアを握り締めるマナウス。相手は満身創痍の首領一人。こちらは場数を踏んだ冒険者八人‥‥負けるはずのない戦い。誰もがそう思い、どう止めを刺そうかと考えながら武器を手に取る。
「クク、参加し‥‥ろだとよ――――――大人には敬意を払えよ小僧ども!!」
「‥‥ガァ!!!!」
 それは想像すらできなかった事態であった。間違いなく瀕死の重傷を‥‥生きていることすら不思議なほどの傷を負っている者が床を蹴り、跳躍したのだ。しかもそのスピードは、この場にいる全員が生まれてから今までに経験したそれを遥かに凌駕する!
 遠巻きからの直線的な攻撃だったにもかかわらず、回避する間もなくマナウスは腹部に衝撃を受けて表情を歪める。
「いい武器だ‥‥ろ。布に石や鉄をつめただ‥‥けのもんだが、結構威力‥‥あるんだぜ。かく‥‥せるしな」
『‥‥‥‥‥‥!!』
 武器を手に、残る冒険者の方を向くアイバン。彼の目には‥‥‥‥自らに飛びかかってくるゼディス、風霧、伊堵、ジャルグ、オラースの姿が‥‥ひどく大きく見えた。
「クク‥‥いい‥‥ぞ。よく見ておけ‥‥小僧ども。これが力を持‥‥つってことだ。人を‥‥殺すって‥‥ことだ。お前達にも‥‥末路の時はくるんだからよぉ!!!!」
「その時は‥‥その時だ。さっさと終わらせてやるよ!」
「俺達は――――――お前と同じ道を辿りなどしないっ!!」
 アルスが放ったグラビティーキャノンがアイバンに命中し、体勢を立て直したマナウスのレイピアが他の冒険者の刃と共に突き刺さる。彼の首筋から噴出した鮮血は‥‥‥‥雨のように冒険者達へと降り注いだ。

 ――幾多の武器に彩られ、かつてクロウレイ地方の闇世界を牛耳った男・アイバンはその生涯を終えた。

 依頼は成功し、キャメロットに帰還した冒険者達には賞賛の声と賞金とがおくられたのであった。