末路とその先【参】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月21日

リプレイ公開日:2005年03月22日

●オープニング

<クロウレイ地方・某所>
「アイバンが死んだか。‥‥あの化け物でも死ぬ時は死ぬってことだな。気にすることはない、いつだって時代につけいてけない年寄は若い奴に追い抜かされていく運命なのさ。奴は引き際を誤った。だから俺やディールの離反を生んだ。‥‥それだけのことだろう」
 若い者はいつも自らの考えが新たな時代の潮流だと思い込む。それは若さゆえの活力とも言えるだろうが、凡その場合海岸に打ち寄せる小さな一つの波にしかならない。
「そうだろうみんな? あいつが、あの化け物が死ぬなんてことは、それだけしか考えられないだろう?」
 この若者達はその恐怖を知っていた。自分達が大きな潮流だと思い込んでいるものは、この組織はひょっとすると小さな波にしかならないかもしれない。近い未来、まだ航海に乗り出したばかりのこの組織は領主か、冒険者か、賞金稼ぎか、あるいは同族によって破壊されてしまうかもしれない。
 だが、引き下がることなどできないのだ。既に後戻りはできない。賽は投げられた。後ろを振り返っている余裕などあるはずがない。仮に未来に待っているものが絶望であろうとも、自分達は進み続けなければならないのだ。
「HAHAHA! 気にするなイルザック。時代についていけるとか、いけないとか、そんな単純なことでアイバンが死ぬわけではない。要するにヒーはストロングだったが、決定的にカリスマがなかったんだ。実の娘達に見限られるほどな。ミーもヒーのやり方についていけなかったからユーについた。ユーはアイバンやディールより人望があったってことだよ。少しは自信を持ってもグッドだ」
「そうだよイル。あんたはここのトップになったわけなんだから自信を持っていかないと。今はいろんな所でもめごとが起こってるみたいだから仕事は幾らでもあるさ。私たちが言うのも何だけど、堅実にいこうよ」
 怪しいイギリス語でイルザックを励ますギルと、アイバンの娘シューラ。かつての組織に比べれば人数の少なさは拭いきれないが、昔にはなかった自由がここにはある。
「堅実にいくのもいいが、今は派手な仕事をして一刻も早く後援者を発見することだ。アイバンが死んだということは、次のターゲットは‥‥必然的に限られてくる」
 蒼色の鎧に身を包んだ剣士は、浮ついた雰囲気の仲間達を見て軽く溜息を吐くと、奥の部屋へと消えていった。

<冒険者ギルド>
 お前達が前回首領を倒して壊滅させた組織だが、その残党が二派に分裂してまた同じような活動を開始する準備を始めたそうだ。一ヶ所は前回お前達が落とした拠点。そしてもう一箇所はその拠点から三日ほど離れた山の中だ。両方ここから三日だな。
 今回の依頼はそのどちらか片方を殲滅することだ。決定はお前達に任せる。依頼主側からとってみればどちらも残党ということに変わりはないということだな。
 残党だからと甘く見ると痛い目を味わうぜ。今までの調子なら大丈夫だとは思うが、決して気は抜くなよ。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 ゆっくり光を帯びていく闇の中を一人の忍者が慎重に進んでいく。
 男の名は風霧健武(ea0403)、拠点までの罠を感知することを目的に、敵に発見されぬよう慎重に歩を進める。
「二度目か‥‥」
 呟き見るは眼下に広がる拠点。頑丈な石造りの建造物は、以前と変わらぬ姿を彼の前に晒した。そこに至るまでの道には急斜面が続いており、リ・ル(ea3888)が提案した荷車作戦が不可能であったことを改めて確認させる。
「ここまで来れば上出来か。一旦‥‥!」
 拠点を間近に、一旦仲間のもとへ戻ろうとする風霧。‥‥彼の脚に細い糸が絡まり、カラカラと周囲から音が聞こえたのは、まさにその時であった。

●一幕
「すまない‥‥敵に察知されてしまった」
「気にするなって。相手は腐っても裏の仕事を受けていた奴らだ。一度陥落された拠点に罠をしかけないほど馬鹿でもないだろ。‥‥どうやら俺たちを待ち構えてるようだぜ」
 西入り口近くの木陰でバイブレーションセンサーを用いて敵の動きを察知しようとしていたアルス・マグナ(ea1736)は、扉の向こうから僅かに感じ取れる震動から敵の位置を把握する。
「さて、扉越しにってわけにはいけねぇか!」
 アルスが次の一手を打とうと扉に近付こうとした時、拠点へと繋がる扉が僅かに震えたかと思うと、息をつぐ間もなく一気に開いた!
「健武、一旦下がってろ!」
 迫り来る男へ立ち向かうは何と直接戦闘能力を持たないアルス! ウィザードが前面に出る展開に面食らう男たちを尻目に、アルスは敵との距離を確実にはかっていく。
「‥‥お?」
 組織の一人が素っ頓狂な声を出す。地面の踏ん張りがきかない‥‥いや、これは‥‥‥‥。
「おおぉおお!?」
 彼が『空に向かって落下している』と気付いたのは、魔法の効果が切れて彼が地面に落下する数秒前のことであった。男はそのまま地面に倒れこむ。
 倒れた敵へたたみかけるようにグラビティーキャノンを打ち込むアルス。敵はその場に倒れたまま動かなくなった。
「どうっ‥‥!」
 勝利を確信したアルスが片手を突き上げようとした時、彼は何者かによって弾き飛ばされた。肉の裂ける音が彼の耳へ微かに届き、アルスは地面に激突する。
「仲間をむざむざやらせるわけにはいかないからな」
「それで捨て身か‥‥」
 音もなく忍び寄ってきた敵に寸前のところで気付いた健武は、自らの身体を犠牲にしながらもアルスの背後から打ち込まれるはずであった攻撃を阻止する。武器を突き出し、敵との距離をとる健武。
「やらせるかって言ってるんだよ!」
 距離を置いた健武の側面から響く金属音。見れば先ほどアルスに倒された『はず』の男が刃を構えて立っていた。
「そこそこやるようだが、俺たちまで倒せると思ったのがお前達の敗因だ。素人の分際で手を出すところじゃねぇんだよここは」
「‥‥そういう台詞は決着がついてから言え!」
 あくまでこちらを素人扱いしてくる敵に痺れを切らしたように、アルスの魔法が再び敵を打ち抜いた。

●二幕
「お前は見たことがあるな。確かシャルグ・ザーン(ea0827)だったか。それにもう一人もどこかで‥‥」
 シャルグとリルの前に立ちはだかった三名の賊は、二人が冒険者の中でも指折りの実力者であることを知っても尚、自信に満ち溢れた表情を崩さない。彼らは言葉で二人の注意を逸らしながら、確実に有利な位置を取ろうとする。
「無駄口叩いている暇もネェみたいだな。‥‥知らないなら教えておいてやる俺は蒼天二刀流ファイターのリ・ル。リルでいいぜっ!」
 敵の包囲網が完成する寸前、それに気付いていたリルの口元が僅かに綻び、彼の右足が力強く大地を蹴り飛ばす。
「シャルグッ、少しの間二人を頼むぜ。俺はこいつをさっさと倒して‥‥!」
「誰が誰を倒すって?」
 響く金属音はリルの攻撃が受け止められたことを告げる。二本のナイフで攻撃を受け切った男は、リルの眼球目掛けて鋭い刃を突き出す!
「『俺』が『お前』を倒すに決まっているだろ!」
 頬から鮮血が飛び散り、ナイフが切り裂いた空気がリルの耳に風斬音となって届く。考えるよりも先に再び大地を踏みしめたリルは、攻撃手段を使いきった敵に強烈な一撃を打ち込む。
「なるほど。冒険者にしちゃなかなかやるようだな」
 弾き飛ばされた男の周囲に容器が幾つか転がり、重傷を負ったはずの敵は傷を気にすることなく起き上がった。
「‥‥っ、これだから人間相手の戦闘は気乗りしねェんだ」
 今も手に残る手応えとは裏腹に無傷のまま立つ敵に、リルは脂汗を流しながら舌打ちを放った。

●三幕
「‥‥ひゃっほう! どうやら南側は大当たりのようですねオラースさん。まさか金貨の詰まった袋が二つも自分から歩いてきてくれるなんて」
「ああ、だいたいわかった。‥‥イルザックはどうした?」
 自分の体内から湧き出てきた血と一緒に回復薬を飲み込む水野伊堵(ea0370)。オラース・カノーヴァ(ea3486)は目の前の敵と武器をぶつけ合いながら、かつて出会った賞金首・イルザックの名を問う。
「イルザックは強い。だが、勘違いをするな。俺たちはそのイルザックを倒すために組織された集団だ」
「‥‥っ、なるほどな。ただ、一応言っとくとこの俺も手強いぜ!」
 斬撃の感触を腹部に感じながら、ロングソードを振り落とすオラース。敵はその一撃を武器で受けようとするが、ロングソードは大きく彼から逸れ‥‥かわりにオラースの肘が鋭い凶器となって襲い掛かる!
「なめた真似をしてくれるな!」
「マズ一人!! ‥‥がぁ!」
 眉間から僅かに出血した男は、怒りに任せてオラースへ突進する。
 だが彼が一歩踏み出した刹那、伊堵の放った衝撃波が彼を貫いた! もう一人の賊の攻撃を受け、弾き飛ばされながらも伊堵は右拳を突き上げる。
「‥‥女、何が可笑しい」
「なぁに、あなたという強敵に会えたことが少しばかり嬉しいのですよ」
 弾き飛ばされず、全身から盛大に出血しながらもその場に踏みとどまった敵の声に、伊堵はただ微笑みながら返答するしかなかった。

●四幕
「どーせ守るんだったら野郎よりやっぱ女性だよな‥‥しゃーないけど‥‥」
 骨がミシミシと砕けるような音を聞きながら敵の攻撃を受けるマナウス・ドラッケン(ea0021)。四方に分かれた冒険者の中で唯一拠点の中で戦闘している彼らは、強力な敵に押し込まれつつあった。
「消えろ!」
 マナウスの後方からゼディス・クイント・ハウル(ea1504)が魔法の吹雪を放つ。掌から放たれた雪は敵を包み込むが、マナウスが立ち上がるや否や、その吹雪の中から敵の繰り出した刃が飛び出してくる。
 吹雪の中から飛び出した敵の刃はマナウスを通り過ぎ、ゼディスの肩口に突き刺さる。
「‥‥マナウス、重要なのは見切りだ。無理を押して殺されれば迷惑がかかる」
「‥‥ッ、この辺りが限界か!」
 ゼディスの進言を受け、アイスチャクラを投擲して撤退を図るマナウス。だが、敵はそうはさせまいと、既に満身創痍のマナウスに止めを刺そうと追撃する。
「‥‥‥‥ぅ‥‥」
 組織の男が握り締めた刃がマナウスの胸に達しようかとしていた時、その刃はゆっくりと軌跡を床へ向ける。弱々しい男の声が通路に響き、ドサリという音と共に動かなくなった。
「すまぬな。敵が思いの他手ごわく遅くなった。西にはリルが向かっている。‥‥もうじきじゃ」
 ここまで走ってきたのか、息を切らせた様子のシャルグは片膝をついたマナウスへ手を差し伸べる。
「ああ、早くこの依頼にカタをつけてエールでも飲むか」
 マナウスはシャルグの手を取って立ち上がると、未だに戦が続く他の仲間のもとへと走っていった。

●終幕
「砕けろぉ!!」
 オラースが振り抜いた刃が敵の日本刀に命中し、日本刀は鈍い音をたてて砕ける。金属片を視界に、表情をほんの一瞬和らげるオラース。
「勝ち誇るのは早すぎる!」
 武器を砕かれた敵は素早くナイフを引き抜くと、オラースの喉笛めがけて突き出す! 攻撃を終え既に死に体となったオラースはその一撃を回避することはできない。
「やらせるわきゃあないでしょうがぁ!」
 ナイフが喉を貫く間際、他の三名と同じく既に血塗れとなった伊堵の体当たりが賞金首を弾き飛ばす。組み付かれ、武器を落とし、抱き合うように敵とゴロゴロと地面を転がる伊堵。
「オぁァアア!!」
「‥‥まだ生きてたのかよっ」
 既に構えも何もあったものではない。オラースは転がる伊堵を救出に向かう事もできず、血を滴らせながら突進してくる敵に向き直る。
 既に両足は地面を踏みしめているのかどうかも分からない。額から流れた血液で視界も塞がり、敵の姿はぼんやりとしか見えない。
「ここまでくりゃぁ‥‥適当にやるしかネェダロ!」
 自棄になったように叫ぶオラース。しゃがみ、敵の胴目掛けて繰り出すは回転の力を味方につけた、極めて攻撃範囲の広い一閃!! 確かな手応えに、オラースはただ武器を放さないよう、残った握力でロングソードを握り締める。
「ごわぁ‥‥ッ‥‥こらえたぞ。‥‥ハハ、これでお前も‥‥おしまいだ」
 だが、既に何も見えない中彼の耳に届いたのは死刑宣告にも等しい賞金首の声! 最早なす術もないオラースは自らに訪れるであろう一撃に恐怖し――――最期の時を待った。
 ‥‥それは、彼が敵はあの言葉を最期に既に絶命していることに気付くまで続いた。

『もらったぁああ!』
 一通り寝転んだ状態での殴り合いが済んだ時、組み合った冒険者と賞金首は人数に不釣合いな、たった一本の武器めがけて飛び込む! 文字通り命を賭けた競争は当然のように一瞬にして決着を迎え、一方が握り締めた日本刀はもう一方を切り伏せた。
「私の‥‥恋人は‥‥‥‥一途なんですよ」
 倒れて動かなくなった賞金首を眼下に、伊堵は自らの武器に接吻し‥‥倒れた。


「飲め、伊堵。勝利の乾杯だ」
「‥‥ああ、これは‥‥今一番飲みたかったものをよくご存知で」
 オラースから差し出されたヒーリングポーションを口にした伊堵は、徐々に近付いてくる仲間達の声を背に、依頼が達成されたことを知ったのであった。

●終幕
 シャルグの発案によりかつての組織の拠点は、また拠点とならぬようこの地域の有力者が警備することとなった。
 依頼者は本拠地の完全なる陥落をもって組織の壊滅とみなし、冒険者への一連の依頼はこの依頼をもって、とりあえず終わることとなった。