争いの序曲【PRELUDE】最終話
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 20 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月25日〜05月04日
リプレイ公開日:2005年05月07日
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●オープニング
ウェインとその勇敢なる部下は、領地境界線上近くの村を荒らしまわっていた山賊を退治した。その報告はザーランド貴族の大部分を驚かせ、民衆を喜ばせた。
だが、一つの限られた集団の喜びは全ての集団の喜びに繋がるとは限らない。
使い古された言葉だが、物事は常に表裏一対。光があればそこには必ず影があるのだ。
<ザーランド議会>
「よくぞご無事にお帰りいただけましたウェイン殿。この度の防衛‥‥」
「防衛? 防衛だとザーラル殿。あれのどこが防衛だというのだ!?」
歓迎の言葉をかけてきたザーラルにいきなり掴みかかるウェイン。
彼は確かに怪しげな集団を撃退はした。だが、それは決して防衛ではない。なぜなら防衛とは、守る対象があって初めて防衛と言えるのだ。あんな人一人いない、墓標ばかりが立ち並ぶものは断じて『村』ではない。『廃墟』それも人工的につくられた廃墟だ。
「お疲れのようですねウェイン殿。‥‥その通り、村が廃墟と化してしまったことは哀しむべきことです。ザーラルの名に賭けてその背後関係を突き止めましょう」
「‥‥‥‥!?」
唇を噛むウェイン。彼とて既に道中にて気付いていた。『村を壊滅させたのが正体不明の集団となっている』ことに。なるほど、確かに言われてみればそうだ。
ザーラルの軍が村を壊滅させるはずもない。一般論でいえば正体不明の集団が壊滅させたと考える方が自然だ。村人は全員死んだわけなのだから証拠もない。
「冗談を言うな、あの惨状は‥‥」
「それ以上喋るつもりですかウェイン殿? 成る程、確かに真実とは重いものです。ですが、それはこのザーランドより重いものですかね。‥‥あなたにもわかっているでしょう。このザーランドが生き残るためには、正当な理由をもって、近いうちに、ベガンプと争い、そして勝たなければならないんです。そのためには私は喜んで真実に蓋をする悪魔になりましょう」
「‥‥‥‥‥‥」
妻、子供、部下、民衆、繁栄‥‥‥‥それらを全て投げ捨ててまで真実を追究することは、ウェインにはできなかった。
「‥‥戦の準備を始めましょう。既に全ては動き始めました。もう止めることなどできないのです」
<ベガンプ・議会>
「来るべき時が来たってことだ。既に『道』は稼動できる状態にある。『志』も用意できた‥‥いや、あちらさんが望んで用意してくれたって言うべきか?」
張り詰めた空気を持つ議場に響くラミア・ダイセンの声。議場にはベガンプの有力者の他にも、各有力者の私兵を統べる者が集まっていた。
「ザーランドは山賊退治と称し、自らの村を壊滅状態に追い込んだ。領民を鑑みぬ蛮行は到底看過できるものではありません。さらにっ、昨今ベガンプの村々が賞金首に襲われていたという事実! それはザーランドの手引きによるものであったという可能性も現れています。これも到底看過できぬ事件であることは言うまでもありません。よって、我らはザーランドとの境界上に兵を配備し、村を『南』の圧制から取り戻す事を決断しました。勿論、敵もそれなりの兵を用意してくるでしょう。‥‥誰か、この名誉ある任務を受ける者はいないのか!?」
続いて言葉を発したのはダイセンの弟・アークである。事実と予測を織り交ぜ、この戦いは必然のものであるということを声高に主張する。彼の声に呼応するように雄たけびをあげる議場全体。我こそはと一番槍の任へ立候補する。
「引っ込んでいろ雑魚ドモ!! ‥‥失礼しました。その任務、このロイド・ウオールが引き受けましょう。先の戦にて『南』に味わった屈辱、是非とも払拭する機会を!」
<冒険者ギルド>
ザーランドとベガンプとの境界線上近くにある村が何者かによって壊滅させられた。
さらに現段階においてその村をベガンプの兵が占拠しているとの報を受けた。ザーランドは各有力者の私兵を中心とする連合軍を結成し、村を征服者から解放する。
今回は冒険者諸君にもその作戦に参加して頂きたい。諸君らの役目は斥候部隊として敵の偵察及び接触した際の戦闘に携わってもらうことである。指揮官は先の戦いでも戦果をあげたウェイン。作戦中は彼の指示に従うこと。
成功条件は敗走せぬことである。報酬は戦果に応じて各人へ支払おう。勇気と腕に覚えのある冒険者の参加を望む。
●リプレイ本文
「何が正しいのか? そんなことなんてもうどうでもいい。今はただ、守るべき家族のために、同胞のために! 亡き友のためにこの刃を振るおう!」
「バルナックさん、あなたの考えは重々理解いたしました。ですが、私はザーランド民のため、戦わなければならないのですよ。‥‥準備に忙しいのでこれにて。任務を頑張ってください」
<廃墟付近>
「ついに敵さんとの正面衝突ってわけか‥‥みんな、あたしが帰ってくるまでせいぜい生き残ってろよ!」
魔法により敵の位置をいち早く察知したチカ・ニシムラ(ea1128)の報告を受けて、ライラック・ラウドラーク(ea0123)は自ら走り後方部隊への報告へと向かう。みるみる小さくなっていく彼女の背中。
そして、目を凝らせば見える敵の陣。
「‥‥これで一段落か。戦争は早く終わってほしいものだよ」
「ああ、そうだな。何しろ村自体がもうないんだ。これ以上引っ張るのも限界だろう」
溜息混じりに廃墟を眺めるアシュレー・ウォルサム(ea0244)とシュナイアス・ハーミル(ea1131)。存在しもしない村を巡って争う二つの巨大勢力‥‥それは彼らの瞳にはいかに映っているのだろうか?
救いようのない愚者か、あるいは冷酷無慈悲の合理主義者か。
「結局は戦争の片棒担ぎか‥‥ま、初めからある程度解って受けてはいたけどな」
だが、同時にロット・グレナム(ea0923)は思う。自らもこの争いに加わっているという事実を。個人であれば愚考を断罪する事は容易である。その個人を罰するなり襲い掛かるなりして二度とその愚かしい行為をさせないようにすればいいのだ。
だが、それが集団になれば話は違う。良心と常識は理屈によって新たなものへと造り替えられ、新たなものが創出される。その中で生きる者はその常識に呆れながらも‥‥それに従うのだ、従ってしまうのだ!!
「これまでの私達の戦いは‥‥」
表情と感情を覆い隠す仮面を装着したまま、意味の通らぬ言葉を紡ぐシン・バルナック(ea1450)。もとより止めようのなかった争い、その渦の中で一介の人間である彼らは無力そのものであった。
両手で渦の外に掻き出ようとしても、渦の流れはいつも速く彼らの努力を押し流してしまう。彼らに残された選択肢は‥‥大人しくその渦に呑まれるか、無駄と知りつつもそれを理解しようとせず、懸命に両手両足をバタつかせることだけだったのだ。
「どこだろうと俺達がやることは変わらない。距離を取り、本隊が来る前に敵の背後に回り込むぞ」
「そうだな。まずは命あっての物種だ。愚かに正面から突撃することもあるまい」
「お前に言ったわけじゃないが‥‥まあいいだろ。行くぞ」
同意するウェインに眉をひそめながらも、敵陣と距離をとるよう提言する空魔玲璽(ea0187)。どんな依頼であれ己は敵を滅するのみ、敵意のない人間と無意味に争い、状況を不利にするほど彼は馬鹿ではない。
「やったぁ。それじゃあもう少しゆっくりしてよっ、アシュレーお兄ちゃん」
「ははっ、そうだねチカ。前のお礼もあることだし、少し‥‥‥‥!」
チカに抱きつかれたまま、温和な表情を浮かべていたアシュレーの眼光が突如として鋭さを増し、前触れもなく放たれた矢が荒れ果てた森の中を飛んで行く。
「ぅぁ!」
耳に届く僅かな悲鳴。それはとある事実を冒険者達に提示した。有利だと考えていた戦況は、ここにきてやっと五分に持ち込めたということを。
「どの道、衝突は避けられないということか‥‥」
「当たり前だろぉ。こいつは戦争なんだぜぇ」
傭兵の耳障りな声がフィルト・ロードワード(ea0337)の耳に届く。
戦争‥‥争い‥‥‥‥概念では分かっていようとも、未だ本物を味わった事はないそれに、彼は僅かな時間思考を這わせるのであった。
両軍の衝突は、本隊到着間近の半日後に起こった。
<戦場>
争いは射撃戦から始まる。それで決定打が出ないと分かると、一段落した時点でどちらからともなく相手陣地へ突撃するのだ。両軍とも本隊が混じれば、その突撃はさらに頻繁に行われるようになる。
何のために?
‥‥そんなことを今更聞くのか?
「いい加減、シネエェェ!!」
玲璽の拳が兵士の鎧を貫く。体から噴出した鮮血は、彼の体から噴出すそれと混じって気味の悪い色となって地面に滴り落ちる。
「ハアッ、ドウダ‥‥」
朦朧とする意識。だが、それとは反して昂ぶることしか許さぬ感情。気分を紅潮させなければ、常に精神を破壊衝動に委ねねば、この場所を乗り越える事などでき得るはずもない。
「シネェエエ!!」
背後から聞こえる自分とは違う声。反応できぬ身体、力が抜け、崩れ落ちる身体‥‥‥‥追撃は‥‥‥‥どういうわけかコナイ。
「意識を強く持て玲璽! 敵は倒した。早く回復薬を飲むんだ!」
「悪い‥‥‥‥かして‥‥くれ」
暗い視界の向こうから聞こえてくるフィルトの声。かすれるような声で、回復薬を要望する玲璽。フィルトは残り少ないポーションを玲璽に飲ませ、回復させる。
「‥‥どうなってるんだ。敵味方入り乱れてもう何がなんだか分からねぇ」
「こちらもだ。俺たち自身分散した事が失敗したな。組織的に戦っていれば‥‥いや、今言う事ではないな」
遮蔽物の陰隠れ、互いに持つ僅かな情報を交換する二人。
彼等が持つ情報は決して多くはなかったが、ただ一つだけ確信できる情報があった。『先行部隊は最初から捨てられていた』ということを。
『最後まで戦場に残る事、退かないこと』とはよく言ったものだ。つまり依頼主は最初から冒険者(と傭兵、並びに)ウェインを常に最前線で戦わせ、逃走と撤退を許さない心づもりだったのだ。
「チカやアシュレー、ロットは大丈夫か。‥‥一応ウェインの野郎も」
後方で戦っていようとも、これだけの乱戦になればそこはいつしか前線になる。依頼主にはめられたと分かれば、次に心配するのは仲間のことだ。
「駒‥‥なるほど、駒か。動き方を決められたのなら‥‥せめて自分の意思で戦おう!」
物陰に隠れるようにしていた冒険者を発見し、けたましい声を出して武器を振り上げる若者‥‥『敵』へ、フィルトは飛び掛っていった。
「まさかこれほどの長期戦になるなんてね‥‥っ!」
アシュレーが放った矢は前衛で戦うリュウガ・ダグラス(ea2578)の頬を僅かに掠め、敵の命を刈り取る。当面の敵を倒す事ができたと言うことに安堵すると、途端に傷み始める右腕の傷。
「大丈夫アシュレーお兄ちゃん? よかったらチカの分を使って。リュウガお兄ちゃんも使わないと‥‥」
「すまない。どうやらリカバーポーションでは‥‥無理なようだ」
いつ終わるとも知れない戦いに、チカの厚意とヒーリングポーションを受ける二人。目下に敵はいない以上、ここで撤退することも一つの選択肢かもしれないが、まだ戦う仲間がいる以上、自分達だけ退くことはできない。
「なんとか他の奴らと連絡をとる手段はないものか! 伝令に行った様子では、ザーランドの連中は俺たちを使い捨てるつもりだぞ!」
本隊に伝令に行ったリュウガに与えられた『命令』は最後まで敵と戦い続けることであった。既に半日近く戦い続けている彼らにこれ以上の戦いは不可能である。回復薬も底をつきかけた今、残された手はそう多くない。
「皆と合流し、ここから撤退しよう。もう傭兵も逃げたんだ。依頼成功は命に代えるものじゃない。彼らの選択肢が正しかったってことさ」
アシュレーは二人を連れ、戦場で生きているやも分からぬ他の仲間を捜索する。
鋭敏な彼の目は人が支配する空間の中、仲間の姿を追い求めた。
「どうしたのアシュレーお兄ちゃん?」
「‥‥‥‥!」
様子の変わったアシュレーを見てチカが小首を傾げる中、彼は言葉を発せぬまま矢を弓につがえた。
<戦場>
「まさかあんたと戦うことになるなんてな。‥‥嬉しいぜ、ここいらで一つ勲章がほしいと思っていたんだ」
「深追いするなよシュナイアス。援護は俺に任せて、絡めとるように戦うんだ」
目の前に現れた敵‥‥血塗れのロイドを前に、シュナイアスとロットは拳に汗を滲ませる。こちらはウェインも数に入れれば五名。相手は三名‥‥実力差を考えても、勝てない数ではない。
「油断するなよ貴様ら。ロイドの後ろにいるのはラミア・アーク、クロウレイの権力者ダイゼンの弟で凄腕の剣士だ。ロイドはこのウェインが引き受けるゆえに貴様らは残る二名を抑えるのだ」
「‥‥次から次へと冗談みたいに強い敵が出てくるもんだな。悪いが名声を貰う機会は俺のものだ。あんたは後ろで見物でもしてろ。‥‥シン、アークって奴は任せた!」
オーラを纏い振り落とされた刃は火花をたてて受け流される。攻撃が完璧に受けられた事実に、彼は改めてたちの悪い冗談のような敵の強さを確認する。
「戦場での信念や理想は無意味だ。君のような人こそが戦場の英雄になるんだろうな」
「お褒めに預かり光栄だな! ‥‥英雄の称号、あんたを倒した後なら喜んで受けよう!」
ロイドが落とした刃は魔法のように、回避することを許さぬスピードで迫る。もとより回避など捨て、その一撃を鎧で受けるハーミル。彼の身体に千切られるような衝撃が駆けめぐり、ついで繰り出された攻撃は彼の意識を根こそぎ奪い取ろうとする。
「‥‥なるほど。実力差を考えた上では最も正しい選択肢だ」
「ああ、そうだろうナアッッ!!!」
ハーミルの右足が地面を力強く蹴り飛ばし、崩れかかった膝を強引に伸ばす。握力を欠落したかに思えた指先は主人から命じられた『一撃』に応えるべく普段以上の力を発揮し、クレイモアはその重量感を感じさせない速度で迫り‥‥主に害を成そうとする敵・ロイドを渾身の力で弾き飛ばした!
「な‥‥!?」
信じられないといった声を出すアーク。
‥‥それは、冒険者が放った渾身一撃を受けて尚も立ち上がった部下への賛辞の言葉として贈られたものであった。
「‥‥ええぃ、怯むことなどない。あやつは既に虫の息ではないか。悪いがこやつの首、このウェインが横取りさせてもらうぞ!」
猛然と突進するウェイン。制止しようとするシンとハーミルの声は届かない。突き出された槍は既に意識を失ったロイドを捉える。
勝ち誇るウェイン、意識を取り戻すロイド。
握られる刃。抜けぬ槍。逃げろと叫ぶシン。サンダーボルトを放つロット。
踏みとどまるロイド。眼光に恐怖するウェイン。彼に迫った刃は‥‥‥‥喉を裂いた。
‥‥人が、死んだ。
「‥‥カ‥‥ズ‥‥どうやら‥‥‥‥ぅ‥‥だ‥‥‥‥」
胸に大きな傷を浮かべ、背中に一本の矢を受けたロイドは、一足先に旅立った友人へ‥‥駒ではなく人として言葉を贈り‥‥‥‥終わることのない旅へと出た。
「クレイモアを持った奴を狙え! 奴はもうまともに動くことはできない!」
アークの命を受け、もう一人のベガンプ兵は満身創痍で動くこともままならないハーミルへ迫っていく。振り上げられる武器、噴出した血は‥‥赤い髪を紅く染めた。
「おくばせながら真打登場だぜ」
右腕をおさえ、地面を転がるベガンプ兵士。ハーミルと兵士との間に入ったライラックは回復薬を服用すると、ハーミルへバックパックから取り出した同じ物を投げ渡す。
「ロイドにしろカズにしろ、感情に流される無能な部下を持った私は不幸なものだ。‥‥だが、戦況はベガンプ側が優勢だ。‥‥そこでどうかな君達、私の下で働くつもりはないか? 特に君だ、シン・バルナック君。ハーノフを倒した君の実績を私は高く認めている。部隊に入るのなら月に30Gは出してもいい」
「そうか、あの副隊長も‥‥金銭はいらない。部下になってもいい。ただ、この何も生み出さない無益な戦いをやめてくれるのなら‥‥‥‥」
シンが言葉を紡ぐ間にも、周囲に冒険者と兵士が集まる。
それは彼へ虚しく‥‥戦いを避けることなど最初から不可能だったと通告した。
「本気で言っているのかい? 君達『戦士』は戦うことが仕事なんだ。その君が戦うことを放棄してどうする。君たちは戦場の駒として、黙って仕事を遂行することが‥‥」
「こんな血まみれのチェス台でゲームをすることが望みか!? 俺達は皆‥‥貴様に命令されて台に上がるわけではない!」
アークの言葉を遮り、刃を放つはフィルト。振り落とされた刃は虚しく地面に刺さり、彼は大地に叩きつけられる。
「悪いがここで君たちとこれ以上戦うつもりなどないんだ。‥‥次回はぜひ、こちら側の依頼を受けてくれたまえ。君たちならば誰でも厚遇するよ」
部下に囲まれ、冒険者の前から姿を消すアーク。徐々に撤退を始めるザーランド側の軍が、この戦いが終わりに近付いている事を示していた。
「こんな戦いに最後まで付き合う筋合いなんてどこにもない。さっさと‥‥戻ろう」
玲璽は自らの足元で絶命しているウェインとロイドをほんの一瞬だけ一瞥すると、仲間と共に戦場から脱出したのであった。