争いの序曲【PRELUDE】・第三話
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 79 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月06日〜04月15日
リプレイ公開日:2005年04月16日
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●オープニング
「‥‥カズ、聞いてくれませんか? 僕はこの争いが一体何なんだろうと思うんですよ。僕達はベガンプの兵であって兵でない。ザーランドも連合軍は派遣しませんでした。その代理となるような私兵が来ただけです。と、なると僕達は一体何者で、何者と戦ったんでしょうね。戦争とは単純なようですが、その実なんとも複雑なのだなと今更ながらに思ったのですよ。何が正しいのかなんて最初から存在しないんです。僕達は駒として動かねばならぬ存在ですが、生憎僕は大理石でつくられているわけじゃあない。そうなると僕達は一体何なんでしょうね。あるいはこの争いや、正義と同じく最初から‥‥‥‥ねぇ、カズ、聞いてくださいよ‥‥‥‥」
焦土と化した村から離れた洞窟の中で、ロイドは口きかぬ存在となったかつての副隊長へ‥‥無二の親友へ語りかけた。
<ザーランド領・村>
「燕、お前が掠り傷とはいえお前が手傷を負わされるなんて珍しいな。‥‥相手は荒削りだがいい戦士だった」
「‥‥あの傷では生き残れない。もう死んだ奴に興味などない。傷を負ったのは自分の未熟さのためだ。クラック、貴様こそ指揮官に逃げられるとは‥‥恥を知れ」
焦土と化した村で、焼け焦げた家の残骸に座って会話をする二人。
‥‥ウェイン敗走後、その後方につけていたザーラルの私兵二百名は村を包囲し、全てを壊滅した。議会では連合軍派遣の決議が採択されたが、それは『山賊団』が壊滅されたとの報が入る僅か一日前のことであった。
有力者の中には反対の意を唱えようとする者もいたが、『山賊団』を個人が討伐することに承認などいるはずがないという事実の前にあっさりと屈服した。
「そう言うなって。あいつもなかなかのキレ者だったんだぜ」
「‥‥まあいい。どちらにしろ任務は完了した。こんな廃墟に用はない‥‥帰還するぞ!!」
指揮官である燕陽奉の号令で、ザーラルの私兵は帰還していった。
‥‥ベガンプ方面から正体不明の集団がその『廃墟』へ向かっているとの報が届いたのは、彼らが帰還している最中のことであった。
<冒険者ギルド>
「久しぶりだな諸君、ウェインである。先日私の不在が原因で惜しくも村の奪還には失敗したが、我が同胞のザーラル・レクア殿によって賊は壊滅した。今回は汚名を払拭するためにも、再び‥‥村を占領せんと企む賊を倒す任にこのウェインが就いた。敵の人数は凡そ25名。どうやらその集団は『奇跡の水』などという紛い物を病人に売りつけ、私欲を満たす一味のようである。実力は定かではないが魔術師が多いと聞いている。
この度も指揮はこのウェインが執る! ‥‥と、言いたいところであるが、前回のよもやの敗走により我が戦力の大半を失ってしまった。現在いるのは寄せ集めの兵が15名程である。これでは我が輩の高度な戦術についていけぬ! ‥‥と、いうわけで、任せるぞ。‥‥頼む。もうあとがないのだ」
頭こそ下げないものの、嘆願の言葉を冒険者にかけるウェイン。虚勢を張り続ける余裕など、もはや彼には残されていなかった。
●リプレイ本文
荒野を進む二十五名の兵士。
ザーランドの有力者・ウェインは自らの私兵を引き連れて、領内の村を占拠する不貞の輩を成敗しようと進軍を続けていた。
ウェインの軍勢に驚いたのか、既に敵の姿は村にはない。彼は往生際悪く、未だに村の付近に陣を敷く賊に今、決戦を挑もうとしていた。
<村>
「敵を退かせられなかった俺達にも責任はあるとはいえ、自分達の領内の村を廃墟に‥‥か。まったくいい趣味をしているぜ」
かつて村だった場所を歩きながらロット・グレナム(ea0923)は、隣で俯くフィルト・ロードワード(ea0337)へ自虐的に笑いかける。
「村とはよく言ったものだ。ここのどこが『村』だ? 村とは人が住んでいるからこそ初めて村足り得る。こんな‥‥なぜこんな廃墟を巡って争いなどしなければならないのだ」
大地に積もった灰を握り締め、苦々しげに言葉を搾り出すフィルト。かつて村と呼ばれた‥‥不思議なことに人のいなくなった今でも村と呼ばれ続けているそこには、かつて立ち並んでいた住居の代わりに、誰も訪れることのない墓標だけがただ整然と立ち並んでいた。
「戦争は‥‥‥‥起こらなかったんだよね?」
変わり果てた村の惨状に、半ば呆然とするチカ・ニシムラ(ea1128)。ほんの一月前までは確実にそこに存在した人の温もりは、今やその面影すらも感じられない。
「ウェイン卿、あなたにとって争いとは‥‥兵とは何なのですか?」
「‥‥‥‥」
シン・バルナック(ea1450)の問いかけにウェインは即答することができない。
聞いていない。ここはどこだ? なぜ、何故こんな場所を巡って争わなければならない? これで、この情勢で戦争は始まっていないと‥‥少なくとも議会では始まっていないと言っているのか?
「‥‥我らは何よりも名誉を重んじる。この行為が名誉でないのなら‥‥‥‥」
「そういう話は終わってからでもいいだろう。今は生き残る算段を立てよう。こちらも25名、あちらも25名。数の上では互角だが、正面きって戦えば分が悪い。そこで‥‥」
困惑と動揺、信念、そして保身からか言葉を選びながら返答しようとするウェインの言葉を遮り、作戦の確認を始めるシュナイアス・ハーミル(ea1131)。
討論から生み出されるものもあるだろうが、戦う前に依頼主と仲違いをしても仕方がない。生きていれば帰り道にでも心行くまで意見を交換することもできる。
「‥‥ところでアシュレーお兄ちゃんはどうしたの?」
「奴なら敵陣の偵察に行ったはずだぞ! そろそろ帰ってくるはずだが」
見当たらぬ仲間の姿に首をかしげるチカへ返答するリュウガ・ダグラス(ea2578)。アシュレー・ウォルサム(ea0244)は潜入にも秀でた冒険者だ。さほど心配する必要はない。
‥‥彼らはそう考えていた。
<敵陣付近>
「これは‥‥取り返しのつかないミスを犯してしまったかもしれないな」
木陰に身を隠しながら、アシュレーは流れ出る血を拭いながら自らが囲まれてしまったことを知る。探知系の魔法使いの存在を考えればある種当然のことなのかもしれない。
いかに卓越した隠密技能であっても、ことには不条理なほど脆弱さを露呈する。敵はもったいぶるようにゆっくりと、しかし確実に自分を包囲し、その命を奪おうとしている。
「逃げても無駄か‥‥」
迫る足音。姿は見えないが、樹木を隔てた背後から誰かが確実に自分を狙って近付いてきている。相手は魔術師、恐らくこちらと似たようなタイプだろうが、相手は確実にこちらの位置が分かっている以上、隠れての戦闘は不利。
と、なれば‥‥
「おぃおぃ、せっかく助けに来たのにそりゃないだろ?」
「‥‥失礼しました。キャメロットに帰れたら気の抜けていないエールでも御馳走するよ」
木陰から飛び出しアシュレーが弓を向けた先には、チカの魔法によって彼の危機を察知し、救出にかけつけたライラック・ラウドラーク(ea0123)の姿があった。
<ウェイン側陣地>
「だいじょうぶだったお兄ちゃん?」
「ああ、チカのお陰で助かったよ。‥‥ロット、現状を説明してくれないか?」
「見ての通りだ。相手には射程が短い奴もいるんだろう。敵は攻撃しながらゆっくりと接近している。弓兵の指揮は今のところウェインがとっているが‥‥」
「わかった、迷惑をかけた」
ロットから現状の説明を受けたアシュレーは傷口を抑えながら弓兵と化したウェインの私兵のもとへ歩いていく。彼とシンの友人であるレジエル・グラープソンに弓を指導された私兵は、見た目だけ立派な正規兵に見える。
「戻ってくれて何より。ここは譲ろう。‥‥指揮官が怪我を負っていては士気に関わるぞ」
アシュレーに治療薬を手渡すウェイン。アシュレーは礼を言うと、バラバラに展開していた弓兵に指示を送る。
「怖気づくな、詠唱さえ邪魔すれば魔法は放てず恐れることはない! 生きたかったら矢を放て!!」
既に戦場には‥‥そう、ここは戦場であった。ほんん50名程がぶつかり合う戦場ではあったが、もしこの場に偶然通行人が通りかかったなら、この戦いは『軍勢の小競り合い』と判断されただろう。
十数本の矢が空を飛び、入れ違いに吹雪や稲妻が空を斬る。射程の不利を感じ取った敵は、各射程距離をいかしての射撃戦を試みる。
「放て放てはなてぇえ!! 多少の怪我は回復できる。相手は寄せ集めの集団だ、神罰に勝る恐れなど存在しはしない! 歩兵は敵指揮官を狙え!!」
敵軍の指揮官・ハーノフは部下に檄を飛ばす。この戦いはベガンプに取り入るための大事な一戦だ。そう簡単に敗北することなど許されない。
「俺が、俺達が失敗したせいで余計な血が流れた。そして救える者も、敵も救えなかった。せめて決着は俺達の手でつけよう」
「しゃきっと決めてやるぜ! あんたらの奇跡の水とやらできょうは祝杯だ!」
「チッ、敵歩兵の侵入を許したか。皆、死を恐れるな、死を‥‥!」
彼の視界に陣地に侵入したフィルトとシンの姿が飛び込む。槍を振り回し、声を張り上げるハーノフ。
「あんたが指揮官か。その首、このシュナイアスが貰い受ける!」
「無理無駄無策無謀ォ!! ここが我が陣だということを忘れるな!」
シュナイアスの攻撃をがっちりと受け止めるハーノフ。味方の援護を受け、シュナイアスを弾き飛ばす。
「‥‥ぬぅ、こうなれば俺自身が指揮官を討つしかあるまい! 続け続けぇぃ!!」
彼は重装備を揺らしながら、部下を引き連れて敵陣へ進んでいった。
<ウェイン側陣地>
「神命に従いし蒼き聖獣の一撃、その身でしっかりと受け取れ!」
ウェインを背に焦ってか、リュウガの攻撃は大振りとなり敵に受け止められる。敵は唇を引き締め、歯ぎしりと共に槍を突き出す。
「風の刃よ、我に仇成す物を切り裂け!」
チカが放った風の刃が敵の背を切り裂き、リュウガの喉に突き刺さるはずであった先端がぶれる。
「オオォオオ!! ‥‥ハァッ‥‥‥‥」
武器を突き出したまま隙をさらけ出した相手に、命を落とす極限状態から解放されたリュウガの一撃が再度振り落とされる。返り血を浴び、昂ぶった気持ちと呼吸を整える。
「ウェイン卿、下がってください。この相手は‥‥」
「無駄無謀ォ! 器が、才覚が違うのだ!! 神力を受けしこのハーノフ、貴様如きに止められるものではないわぁ!」
ウェインの眼前にまで接近した敵指揮官を食い止めるシン。重装備とは思えないほど機敏な攻撃を、シンは重厚な盾で必死に受け止める。
「威力と射程ならそこらの魔術師に遅れは取らない‥‥特に、詐欺みたいな真似しか出来ない奴にはな!」
「‥‥詐欺ではない、神託だ!」
「俺にとっちゃあどっちにしろ魔術師の面汚しってことなんだよ!」
ロットが放つ稲妻がハーノフの背後から襲いかかり、鎧の塊にも見える相手指揮官を怯ませる。
「これで‥‥!」
「無駄だと言っているだろうガァ!!」
その隙を見逃すまいと一歩踏み出したシンの胸元に突き刺さる槍。身体を貫かれ、歩みを止めるシン。
「‥‥まだ、まだ‥‥まだいけない。遣り残した事が‥‥‥‥死ねない!!」
脅威の精神力で大地を力強く蹴り飛ばし、崩れかかった体勢を立て直すシン。振り抜いた刃は、ハーノフの肩口に命中した。
襲い掛かった激痛に悲鳴をあげ、その場に倒れこむハーノフ。
「殺せ‥‥ここで‥‥」
「‥‥私は‥‥‥‥!!」
シンは敵を殺すことをためらう。寝転んだまま、最後の力を振り絞り槍を突き出すハーノフ! 装飾された剣が突き刺さり、鎧に身を包んだ男は槍を落として絶命した。
「御手柄だなシン殿。この者は賞金首として手配されていた気がする。しかしまったく、決着はついていたというのに諦めが‥‥」
「!!!!!!!」
脂汗を拭いながら笑顔で話し掛けてくるウェインに、シンはただ言葉を飲み込み、拳を握り締めて答えるしかなかった。
<敵陣>
「ほらほら、どこ狙ってやがる!?」
敵の攻撃をことごとく回避するライラック。
指揮官の死亡に敵は大きく動揺したものの、未だに勝負を捨てず攻撃を仕掛けてきていた。
「足元がぐらついてるぜ! オオォオ!!」
鎧の上から日本刀を浴びせてぐらつかせると、ライラックは相手の腰を両腕で締め上げると、何と重厚な鎧に身を包んだ相手を持ち上げ、投げつける! 地響きがするように揺れる大地。
「よっしゃあぁぁ‥‥あ! っ、少しは喜びに浸らせろってよ!!」
拳を突き上げ、喜びを表現するライラックに向けられる刃。彼女は日本刀を拾い上げると、彼女的には空気が読めない敵に向けて不平を言いつつ、戦いを再開した。
「シュナイアス、ここは粗方片付いた。あとは距離を置いて攻撃を仕掛けてくる連中の征伐だ」
「ああ。‥‥しかしこいつら、勝ち目はないのに降伏勧告に応じようとしない」
諦めることなく立ち向かってくる敵を排除したフィルトとシュナイアスは、後方から魔法攻撃を仕掛けてきていた敵を撃退すべく、そちらへ駆けていく。
‥‥彼らの視界に、血で全身を染めた空魔玲璽(ea0187)が映ったのは、それから間もなくのことであった。
「‥‥どこに行くのかは知らないがこっちは終わったぜ。‥‥‥‥前回のやつらはいなかったがな」
戦いはウェイン側の勝利に終わり、『村』は賊の手から解放された。
‥‥この勝利は‥‥‥‥何を生み出したのだろうか?