お前の瞳には何が映る?

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:9人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月03日〜05月13日

リプレイ公開日:2005年05月12日

●オープニング

<クロウレイ地方・ゴーヘルド領>
「ザーランドとベガンプが戦を始めるのは時間の問題か‥‥さて、いよいよじゃな」
 その強欲と拝金主義で知られる領主・ゴーヘルドは激動の様相を呈するクロウレイの情報を耳に、口元を醜く歪める。
 ベガンプと手を組み、穀物を横流ししている領主の一人は彼であった。ようやく馬車一台が通れるほどの細い道を使って穀物を運搬するのにはそれなりのコストがかかるが、彼らはそれ以上の対価を支払ってくれた。
 ‥‥今や彼の兵の武装はベガンプ正規兵のそれと変わらぬものを持っているのだ!
「ようやくアーノルドの小童に一泡ふかせられる時期がやってきたな。この辺りの有力者は皆ザーランドかベガンプかで揺れており、下手に動けぬ。難癖つけてアーノルドの領土を少し奪い取る程度、誰も気に止めぬであろう。さあ、出撃せよ! アーノルドの小童が持っている兵など物の数ではない!! 全てを奪い尽くすのだ!」
 高らかに笑うゴーヘルド。彼の眼下を意気揚揚と進む兵士たち。
「これは負けるはずのない戦、勝つしかない戦じゃ! 勝利報告を待っておるぞ!」

 ‥‥そう彼が叫んだのは一週間前のことであった。

<ゴーヘルド領>
「‥‥どういうことだ?」
 少しでも気を抜けば呑み込まれてしまいそうなほど怒りに満ちた主の眼光に、部隊を率いた将達は顔を上げることもできず、ただ怒りが通り過ぎることを待つ。
「どういうことかと聞いておるのだぁ! 補給路を断たれたから帰ってきただと!? 貴様らよくぞそんなことが言えたものだな!! 食料がないのならその辺りから徴集しろ、そもそも三日程度飯ぐらい抜いて戦えんのか!?」
 急な戦の準備、そして圧倒的な戦力差による慢心は結果として補給路の寸断を生んだ。補給部隊を叩かれたゴーヘルド軍は、村を徹底的に防衛するアーノルド軍を攻めきれず撤退を余儀なくされたのだ。
「あの『無言』のヨハン程度の輩、我が領にもゴロゴロ転がっておるだろうが! 恥を知れ貴様ら!!」
「いえ、違うのですゴーヘルド様。『無言』のヨハンには守る以上の能力などありません。補給部隊を壊滅させ、あまつさえ我々の背後から奇襲を仕掛けてきたのは別働隊です」
 主君の怒りを恐れながらも、敗北するきっかけとなった別働隊のことを挙げる部隊長。炎纏う剣を操る、仮面の騎士‥‥名をカイーラというその男の剣の鋭さ! それは平和と農耕を最大の美徳とするクロウレイ東地区の兵士が太刀打ちできるものではなかった。
「現在アーノルド軍は『無言』のヨハンを指揮官として村前方に展開しているようですが、ここは一旦‥‥」
「黙れ黙れだまれぇ!! ‥‥もう貴様らなど信頼するものか。我自ら打って出よう! 補給部隊は腕利きの傭兵に守備を頼むぞ!」
 拳を握り締めて立ち上がるゴーヘルド。世迷言を本気で叫ぶ主君を部隊長は慌てて宥めようとするが、それは叶わぬ夢と終わった。

<冒険者ギルド>
 アーノルドは我がゴーヘルドの領土を不当に侵害している。我らは再三に渡り彼らと話し合い、第三者に懸案の領土がどちらの所属かについての決定を委ねる機会を設けようとしたが、アーノルドは横暴にもその機会すら持とうとしなかった。
 よって我らは大変残念な決定ではあるが、実力行使によってアーノルドを我等の領土から排することを決めた。
 そこで今回、正義と公正を保つためにも冒険者の諸君に助力を願いたい。諸君らに軍の要である補給部隊を担当していただきたいのだ。補給物資は十数台の馬車に積載してあり、諸君らにはそれを守っていただきたい。
 大変名誉ある責務である。さらには諸君らの功労によっては軍に登用することもやぶさかではない。
 腕に自信のある冒険者よ、集え!

「‥‥お前、腕に自信はあるか? 依頼期間中、ゴーヘルド様に忠誠を誓えるか? この二点がクリアできるなら、ともに戦おう」
 依頼に興味があって集まった冒険者を前に、役人らしき男は笑顔を絶やさぬまま、冒険者に語りかけた。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)

●サポート参加者

シャルグ・ザーン(ea0827)/ セシリー・レイウイング(ea9286)/ ブレイン・レオフォード(ea9508)/ ティッチ・ミレフィ(eb1305

●リプレイ本文

●序幕
 数十台の馬車がガタゴトと揺れ、それを護衛するよう周囲に冒険者と傭兵が陣を敷く。
 この一部隊‥‥軍の中でもかなり重要なポイントを占める『補給部隊』に一介の冒険者であり、さらに女性である夜桜翠漣(ea1749)が抜擢されたことは極めて異例と言える措置であった。
「そろそろ斥候が敵とぶつかった頃かもしれませんね‥‥‥‥何か情報は?」
「はい、隊長! 今のところ何の情報も入っていません!」
 だがこれまで数々の修羅場を潜り抜けてきただけに、冒険者が彼女に寄せる信頼は厚い。レジエル・グラープソン(ea2731)の明朗な返事も、それを物語っていると言えよう。
 傭兵にも同様のことは言えたが、冒険者から傭兵に寄せられる視線は疑いによるものばかりであり(結果としてそれにより二名の不適合者を発見することはできたが)、激励がなかった分、指揮官である彼女のことを一概に信頼しきっているとは言えなかった。
「まあ夜桜、周囲の視線は気にしない方がいい。お前も私も用兵に関しては素人だからな。最善のことを尽くせばそれでいいはずだぞ」
「そうあって欲しいんですけど‥‥なかなか現実は厳しそうです」
 隊長である夜桜の隣に寄ってきたミケーラ・クイン(ea5619)は、彼女に激励の言葉を送るが、夜桜の表情は晴れない。
 それもそのはず、この軍はまるで素人が率いているかのように統率がとれておらず、前を行く主力部隊の兵士が時折こちらに紛れ込むこともある。隊列はいつもバラバラで、細い道ではすぐにつっかえる。これで敵に奇襲を仕掛けられたらと考えると‥‥素人考えでもどうなるかはわかりきっている。
「‥‥こんな状態だからこそ、私たちにこんな仕事が回ってきたのでしょうけどね」
 夜桜と共に溜息をつくのはセレス・ブリッジ(ea4471)。『一部隊の隊長!』なるほど、確かに異例の大抜擢だ。だが、異例の大抜擢などというものは本来、抜擢する側が余程追い詰められた状況にでも陥らない限り起こりはしない。
 今回の抜擢はゴーヘルドの暴走という原因をもって成されたが、暴走は大抵いい結果を生み出しはしない。急造の軍は統率もとれておらず、先の戦いからそれほど期間も経過していないことから怪我人も多い。
「辛い戦いになりそうじゃな‥‥」
「そうですね‥‥なんていつまでも部隊長が溜息をついているわけにもいきませんか。‥‥さあ、気を抜かないでいきましょう皆さん。前回と敵が同じ戦法を使ってくるとしたら、そろそろ来るはずです!」
 狂闇沙耶(ea0734)からの言葉に一瞬伏目がちになるものの、自らが隊長である事を思い起こして馬車の音に負けないよう、大きな声を張り上げる夜桜。傭兵を含む部隊員たちも彼女の声に合わせて大きな声をあげる。
 部隊長としての初陣の時は‥‥‥‥それから数時間後に訪れた。

●幕間
「もう前の方じゃ戦いは始まってる。ヨハンのことだ、今回もうまく守ってくれるだろう。俺達の役目はあの補給部隊を叩くことだ!」
「カイーラ、私は中央付近を攻めよう。お前は前方より願う」
「ああ、くれぐれも突出はするなよ。派手にぶつかりゃ派手な被害になる。こっちは相手にある程度の打撃を与えれば十分なんだ」
 崖の上に隠れていた男達は、魔法によって敵の到達を察知すると‥‥一気に補給部隊めがけて襲撃を開始した。

●一幕
「側面から敵さんの出現だ。数は‥‥‥‥三名、全員弓を装備しているぞ!」
 ミケーラの鋭敏な視覚が敵の姿を捉える。武装した三名の兵士は、崖の上からこちらめがけて矢を放ってくる。
「ヘッ、下手糞な矢だぜ。そんなのが当たるかよ! 隊長さん、たった三人くらい一気に蹴散らしちまいましょう」
「‥‥目的は敵の殲滅ではありません。このまま進軍速度を速め、可能ならやり過ごしましょう」
 側面をつかれたという事実に隊は一瞬動揺したものの、夜桜の指示により敵を無視して進軍を開始する。ここは仮にも補給部隊である。もしやの時には回復薬の備えくらいはある。
 傭兵達は皆夜桜の弱腰とも思える選択にいい顔はしなかったが、数分後にはそんなことを考える余裕もなくなった。
 ‥‥仮面の騎士・カイーラとその部下六名による、前方からの襲来である!

「まさか奇襲を許すとは、敵もさるものというところか。‥‥だが、これから取り返してみせる! 弓を打てる者は弓を構えろ!」
「お前達を死地に誘う死神は黒衣の狙撃手だ。冥土の土産に覚えておけ!」
 警笛が高らかに鳴り響き、前方からの敵の襲来を告げる。
 敵の襲来を受け、傭兵達に伝令すると共に自らも矢をつがえるアリオス・エルスリード(ea0439)とクオン・レイウイング(ea0714)。傭兵は仮面の騎士の登場に動揺を隠し切れないものの、手を震わせながらも矢をつがえ、敵の襲来を待つ。
「続け続け続けェー! 矢を恐れるな! 懐に飛び込めば奴らは何もできやしない!!」
 対するアーノルド軍は、軽装備ながらも盾を構え、クオンやアリオスの矢により傷を負いながらも痛みを堪えつつ、弓兵主体の夜桜隊へと突進する。
「無理に出るな、敵を引き付けろ! 間違っても引いてくるクオンやアリオスには当てるなよ。‥‥時間を稼ぐだけでもいい、この局面を乗り越えろ!」
 友人でもある夜桜の初陣を敗戦で終わらせてはならぬと、傭兵に檄を飛ばすレイリー・ロンド(ea3982)。自らもオーラを日本刀へ纏わせ、徐々に大きくなってくる敵の足音へ耳を傾ける。敵の襲来は間近。前方部隊は後方援護が中心‥‥つまり、援軍がくるまで自分一人が前衛を引き受けなければならない。
「引け、お前達の戦いに正義がないってことくらいわかってるだろうがぁ!」
「‥‥正義とかそんな御託はいいんだ。さっさと指揮官には退場を願うぜ!」
 騎士とは思えぬ気迫で突進するカイーラへ向け、クオンが矢を放つ! 鎧の隙間目掛けて吸い込まれるように直進した矢は、直前になってカイーラの体を貫いたかのように‥‥通り過ぎていった。
「やはり一筋縄でいくような相手じゃないか。‥‥だが、ここは闘技場じゃない。集団戦闘ならこちらに分がある!」
 アリオスとクオンに目配せをして、果敢にもカイーラへ単身突撃していくレイリー。
 激突する二人のナイト! 二つの剣! オーラと炎!! 飛び散るは汗と鮮血、舞い上がるは砂埃とか微かに口から漏れる悲鳴!
「金銀髪の狙撃手を狙え! 奴らさえ抑えれば俺がこいつに負けることはない!!」
「‥‥っ、言ってくれるじゃないか」
 共に脇腹から血を滴らせるレイリーとカイーラ。‥‥だが、カイーラの脇腹には先ほどまで矢が突き刺さっていたのに対し、レイリーの脇腹にあるのは鋭く深い切り傷であった。歴然とした力の差に顔をしかめる、次の一手を思案するレイリー。

「ここから先へは‥‥進ませぬぞ」
 レイリーの思案が手詰まりへと移行しようとしていたその時、彼の後方で沙耶が召還した大蝦蟇が弓兵を守るように現れる。突如出現した化け物に恐れおののくアーノルドの兵。
「私の魔法を受けてもらいましょう」
「専守防衛‥‥我は味方を守る盾となろう」
 さらに、合流した中衛要員であるセレスの魔法が矢で傷ついた敵に決定的とも言えるダメージを与え、狙われた弓兵と敵兵との間にはミケーラが立ちはだかる。数においても完全に劣勢に立たされた敵は、皆指揮官の顔を伺う。
 ‥‥そう、指揮官カイーラの。
「中途半端な自信で近付くな! 援護を中心に、徐々にダメージを与えていけ! ‥‥私は深き森、夜桜翠漣。この隊の指揮官をしています。あなたは‥‥‥‥」
「退くぞ! もう十分引き付けた!!」
 勝利を確信し、仮面の騎士へ降伏を求めようとする夜桜の言葉を打ち消すかのように、仮面の騎士は信じがたい言葉を周囲に轟かせる。
 ‥‥彼の言葉を肯定するかのように、後方からけたたましく警笛が鳴り響いてきた。

●幕間
「全員後方へ! ‥‥最初から前方は囮だったわけですか‥‥‥‥」
「そういうわけだ。悪いな、こっちはさっさと退かせてもらうぜ」
 慌てて後方へ走る夜桜隊。笑いながら撤退していくカイーラ隊。局地戦では夜桜に軍配は上がったものの、これではまんまと敵の策に乗せられただけになってしまう。
 冒険者達は急いで後方へと走るが、見えてきたのは後方部隊ではなく逃げ出した傭兵という有様だった。
「できることなら使いたくはなかった手なんですが‥‥使わざるを得ないようですね。‥‥頼みましたよ、レジエルさん」
 懸命に走りながら、自らが策を託した仲間の名前を呼ぶ夜桜。
 ‥‥そう、戦いの勝敗はまだ決してはいなかったのだ。

●終幕
「敵襲ですぜ! 数は15! ‥‥ひえぇ、無理だーー!!」
 冒険者の制止を無視して恐れおののき、逃走を開始する二名の傭兵。レジエルとアレス・メルリード(ea0454)は、傭兵と同じように恐れおののく馬を必死に制御する従者を背後に、自らの数倍もの敵と戦うことを迫られたのだ。
「さて、アレスさん。馬車の後退準備はしていましたが‥‥どうやら間に合いそうにありませんね。傭兵達も浮き足立ち、残った者も使い物になるかどうか疑問です」
「‥‥ああ、俺たちだけならまだしも、馬車を守りながら戦うのは‥‥‥‥不可能に近いな」
 冒険者の増援が来る前にケリをつけようと、もはや考えなしに突進してくる敵を視界に、レジエルとアレスは直接戦闘での勝利を諦める。
 結果を見るまで分からないとはよく使われる言葉だが、この状況下で正面から戦えば結果など決まりきっているのだ。敵はこちらを無視して馬を切りつけ、補給物資の輸送を困難にさせて意気揚揚と撤退していく。‥‥そんな未来は誰であろうと簡単に予測できる。
 ならば、彼らが今とるべき選択肢は何なのか? まさか降伏ではあるまい。かといって直接戦えば勝つどころか時間稼ぎも難しい。
 それならば‥‥
「勝利のためになら、多少の犠牲はやむを得ないでしょう。‥‥アレスさん、従者の方に連絡を!」
 レジエルの指示を受けてアレスは従者へ合図を送り、道を塞ぐように二台の馬車を配置する。馬を馬車から切り離し、急いで逃走する従者。
「怯むな! 道をふさがれたのなら乗り越えていけ!!」
 すぐにでも決着をつけたい敵は、道をふさがれようとも怯むことなく突進する。
「抑えきれそうにないのなら‥‥火矢を!!」
 敵の先頭が荷車に飛び乗ろうとしていたその時であった。褌を結びつけ、油をしたたらせた矢が食料を積んだ荷車に命中したのは。
 すぐさま炎をあげて燃え盛る二台の荷車。それほど長くこの炎は続かないだろうが、それでも十分だ。最初から‥‥時間を稼ぐためにこの策を練ったのだから。
「‥‥ぐぬぬ‥‥‥‥っ、退けーー! ヨハンを信じ、急ぎ彼らの援護に回るのだ!!」
 即時勝利が潰されたことを知り、理由をつけて撤退していく敵軍。

 ‥‥補給部隊は、二台の被害を出したものの、ほぼ最高の形で任務を遂行することができたのであった。

●余幕
 冒険者達の勝利も虚しく、ゴーヘルドはアーノルド軍相手にあっさりと敗北を喫した。
 ゴーヘルドは著しい活躍をみせた夜桜に軍への仕官を勧めたが、それも夜桜本人が断った事により流れた。

 結果としてゴーヘルドは周辺にその脆弱さを露呈したこととなり、今後の勢力図においてかなり苦戦を強いられることが予想される。