お前の瞳には何が映る?【第二話】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:9人

サポート参加人数:6人

冒険期間:05月19日〜05月26日

リプレイ公開日:2005年05月28日

●オープニング

<ゴーヘルド領>
「まさか‥‥我が指揮をとってまで敗北しようとは‥‥‥‥」
 頭を抱えて、うずくまるゴーヘルド。考えなしに突っ込んだ彼の部隊に待っていたのは、罠と伏兵による余りにも早い敗北であった。
 そもそも指揮経験などない彼が疲れのいえぬ急造軍を指揮すること自体に問題があったのだが、己の置かれている立場を実力と勘違いしている彼の思考は、そんなことを掠りもしない。
「ゴーヘルド様‥‥」
「しばらくアーノルドの小僧を攻めることは諦めろと言うのであろう? わかっておる。‥‥わしも疲れた」
 心底疲れ切ったように溜息を漏らすゴーヘルド。だが、部下の意見はそれで終わりはしない。事態はさらに悪化しているのだ。
「各地にてゴーヘルド様の統治に対する反乱が勃発しております。これまでに鬱積していた不満が爆発したものでしょうが、このタイミングから推察するに、恐らくザーランドの策略であると‥‥」
「こざかしい手を使ってきおって!! ‥‥前回見事補給物資を守り抜いた者達がいただろう。あの者達を中心に集め、最大勢力の討伐に当たらせよ! 成功すれば仕官を保証することもやぶさかではないとな!」
 疲弊しきっている軍を動かせば手痛い被害をくらう恐れもあるどころか、アーノルドやザーランドに隙を見せかねない。戦略においては見通しのきくゴーヘルドは、間髪おかずに部下へ、外部の部隊で事を済ませるように命令する。
「ゴーヘルド様、本当に仕官させるおつもりで?」
「冗談を言うな! どこの馬の骨かも分からん奴らを雇えるものか!! 適当に金でも渡してごまかしておけ。支配階級は被支配階級から金を自由に徴収でき、奴らが我らに絶対の忠誠を誓うなら、そのほんの一部くらいは返す。‥‥これが正しいバランスなのだ」

<冒険者ギルド>
 自らの私欲のためだけに領土の安定を崩そうとする者がいる。
 今回諸君らにはゴーヘルド様の領土で暴れ回り、独立を企てるその集団を殲滅して欲しい。奴らはまともな武器も持たず、完全に寄せ集めの集団ゆえ崩す事は容易いだろうが、困ったことに、同時に領民でもある。くれぐれも相手側に死者を出しすぎぬことだ。
 ただし、同時に集団の責任者には‥‥いや、お前達の役目は暴動を収めることまでだ。奴らは多少みせしめれば、少し暴れるが、その内すぐに恐怖で動けなくなる。前回の依頼よりは余程簡単だ。
 ただ、稀に暴動の背後には大きな組織がついている可能性がある。今回がそうだとは限らないが、最低限度の注意は必要だろうな。
 今回もゴーヘルド様に忠誠を誓えるのなら‥‥共に戦おう。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)

●サポート参加者

リン・ティニア(ea2593)/ ライト・オレンジ(ea4023)/ フィーナ・ウィンスレット(ea5556)/ 小野 織部(ea8689)/ 佐倉 美春(eb0772)/ 荒夜 狂魔(eb1575

●リプレイ本文

<ゴーヘルド領>
 冒険者達はキャメロットを出立するまで、領主ゴーヘルドについてできる限りのことを調べ上げた。
 そこで出てきた情報を集約した言葉を並べるならば必要悪・悪魔・典型的領主・負けず嫌い・強欲家・典型的な領主・上下関係をしっかりわきまえる人・立場によって彼に対する見解は様々であったが、特に地位の高くない人間にとって彼の評価は極端に低い。
「夜桜翠漣(ea1749)と申します。この度はゴーヘルド様にお話したいことがありこの地までやって参りました。この度の依頼達成に際し、これは非常に重要なことなのです。是非謁見の許可をお願いいたします」
「謁見するのは構わない。だが、ゴーヘルド様は多忙なお方でな。次の予約は‥‥‥‥三ヵ月後になるがそれでも構わないか?」
 夜桜の質問をまるで聞いていないかのように事務的な返答をする門番。本当に多忙を極めるために三ヶ月待つというのなら納得もできようが、当然この『三ヶ月』は、心持ち次第で短縮もできれば半永久的に延びることもある。
「ただし、諸君らがゴーヘルド様に絶対的な忠誠を誓うというのなら話は別だ。誠意次第‥‥30から50‥‥によっては、謁見までの時間を短縮することも‥‥やぶさかではない」
「なるほど、つまり一般人と会うつもりはないということか。行こう夜桜さん。時間を無駄にしたみたいだ」
「そうですね。失礼しました。短縮されたところでそれがきょうや明日になるとは思えないですし‥‥行きましょう」
 溜息を吐き、ゴーヘルド城をあとにするアレス・メルリード(ea0454)と夜桜。依頼を受けた自分たちでもこうなのだ。これまで話し合いの場を持とうとした、せめて自分達の意見だけでも伝えようとした領民がどのような扱いを受けていたかは凡そ察しがつく。
「参りましたね。こうなると今回の依頼‥‥‥‥難しくなりますよ」
 急ぎ暴徒が選挙する街へ向かう二人の表情に明るいものはない。説得するための材料の大半は既に失われてしまった。
 せめて『嘘』でも‥‥‥‥今依頼によってキャメロットを離れている彼らに、その思考はなかった。

<ゴーヘルド領北部・酒場>
「ほんと、あの時はひどい目に遭ったんですよ。援軍は来ない、敵は数十人でこっちを囲むで‥‥ほんと、僕も命からがら逃げてきたんですから」
 暴徒――――少なくともゴーヘルドにはそう称されている領民たちは、この地を支配していた有力者を追い出して民衆が支配する土地をつくり出していた。
 その響きの何と甘美なことか! 自らの力で得た物はすべて自分のために用いることができるのだ。民衆は日々の生活に喜び、きょうも酒場で酒を酌み交わす。
「そりゃあ難儀だったな若いの。だがここに来たからには安心だ。もうテメェ勝手な考えだけで人をゴミ扱いする奴はいねぇ。思う存分骨休めしていきな」
「はい。ありがとうございます。‥‥ところで、ここを仕切っている人って誰なんですか?」
 アリオス・エルスリード(ea0439)は、自らが演じる純朴な青年の苦労話を酒の種に集まった男たちに首謀者を聞き出そうとする。
「ああ、大将ならここにはいねぇよ。なんでも貴族崩れのお偉いさんらしいんだが、ベガンプとの仲をとりもってくれるって話だ。ベガンプが後ろ盾につけば、先代と違って、無策に奪いたいだけ奪うゴーヘルドも手が出せないって寸法よ!」
 さも自分の手柄のように得意げに話す男たち。その根拠のない自信がどこから来るのかは分からないが、彼らにとってゴーヘルドの統治は到底堪えられるものではなかったのだろう。彼らは根拠のない自信を信じ、この上なくうまい酒に酔う。
「そうですか‥‥‥‥」
 酒を飲みながらも、アリオスの表情は笑っていなかった。

「‥‥そんなところだ。率直に言って、話し合いでの解決は難しいだろうな」
「そうなのか。じゃができることなら暴力で解決はしたくないのぅ」
 美酒に酔いしれた者達が明日の仕事に備えて眠りにつく頃、集落の外れで狂闇沙耶(ea0734)がアリオスの得た情報を受け取っていた。聞けばきくほど、調べれば調べるほど湧いてくる領民への情。
「だがこのまま放置すればこいつらはタダでは済まない。今後のためにも‥‥‥‥!!」
 闇夜の静寂を奪う一筋の太刀を受け、激痛に歪む頭を抑えるアリオス。暗闇の中より何の前触れもなく現れた襲撃者は、無駄な言葉を発することなく止めとなる一撃をアリオスへ振り落とそうとする。
「この俺を‥‥なめるなよ!!」
 金髪が闇の中に浮かび、クオン・レイウイング(ea0714)の放った矢が襲撃者の腕を捉える。武器を引き抜く冒険者二人と、腕に刺さった矢を引き抜く襲撃者。
「わりぃなアレス。こいつを尾行してたんだが助けに入るのが少し遅れた」
「‥‥三対一では勝ち目はあるまい。おとなしく知っている情報を吐いた方が身の為じゃぞ」
 矢を襲撃者に向けるクオンと、闇夜に武器を溶かす沙耶。だが襲撃者は誰の目から見ても圧倒的に不利な状況に置かれているにも関わらず、武器を降ろそうとはしない。
「ふん、少し痛い目をみねぇと‥‥なぁっ!!」
 揺れる木造の屋根。跳躍した新たな賊の一撃は、クオンの頭を的確に捉える! 弓を握り締めながらも、クオンの意識は朦朧とする。
「なるほど、随分と大した『裏』だな!」
「助太刀するぞ! こいつらを捕らえなくてはなっ!」
 夜間の襲撃に特化したかのような敵の滑らかな動きにアリオスは自嘲的な笑みを口元に蓄えながら、クオンを助けるための矢を放つ。ミケーラ・クイン(ea5619)と敵の刃が交錯し、火花が飛び散る中放たれた矢は襲撃者の胸もとに突き刺さり‥‥間髪いれずに引き抜かれる! 
「浅かったようじゃな。ここはわしが‥‥」
「二人とも、ここは退くぞ! この集落の奴らにみつかって、下手な誤解を招いたら終わりだ」
 追撃に向かおうとする沙耶を、朦朧とする意識の中制止するクオン。これほどの敵が二人に増えた以上、迅速に捕らえることは不可能である。下手に騒ぎを大きくすれば、明日以降の説得に大きく響くことになる。
 冒険者達は直接戦闘を避け、一旦仲間達のもとへと移動したのであった。

●翌日
「先代はそれなりの領主でしたが、ゴーヘルドの統治下になり、趣味としか思えない建造物を建築するようになって、領民の負担は一気に増えたそうです。配下にはかつてロメリスという有能な戦士がいたそうですが、今は戦死しています‥‥私が調べられたのはこのくらいです」
「ギルドに来ていた依頼人は何があっても口を割ろうとはしなかった。あの張り付いた笑顔と、ゴーヘルドへの忠誠が演技だということは分かった。‥‥しかしどうやらあちらの考えは、細かい事などしないで力で解決しろということみたいだな」
 近隣の村とキャメロットで情報収集にあたっていたレジエル・グラープソン(ea2731)とレイリー・ロンド(ea3982)が得た情報が部隊長である夜桜に伝えられる。
「ありがとうございます。この情報は次以降にゴーヘルドから依頼が来たときに役立つでしょう。‥‥まあ、当面の問題はどうやってこの暴動を静めるということですが」
 情報は集まれど、何ら事態は好転せずという状況に夜桜は頭をポリポリと掻いて次なる一手を考える。
「民衆は熱しやすく冷めやすい。煽動している奴を捕らえたら、事態は収まらないかな?」
「そうなればいいが潜在的に不満がある以上、扇動者の一人や二人抑えたところで事態は収拾できないだろうな」
 ミケーラの希望的観測も、これまで集まった情報を整理すれば打ち消さざるを得ない。
「どうします夜桜さん? 部隊長はあなたです」
「‥‥‥‥」
 レイリーからの問い掛けに無言で周囲を見回す夜桜。このまま説得に及んだのなら完全に暴徒を静めることは不可能だろう。だからといって実力行使に出たのなら‥‥‥‥
「暴君と同じ方法をとって、領民ではなく皆さんの信頼を失うわけにもいきませんからね。力は必要最小限に抑えて、できる限り説得する方向でいきましょう。‥‥沙耶さん、最初はお願いしますよ」
「わかった。任せるのじゃ」
 状況は違えども、悪名をかぶるくらいならば少しでも信じた道を進む方が余程ましである。
 ‥‥暫くした後、ゴーヘルドの使者を名乗る夜桜達に向かってきた暴徒の前に、沙耶の大ガマが現れた。

<村外れ>
「貴様、そこで何をしている?」
 暴徒と冒険者が村の一点に集まる中、その場所を離れたリュウガ・ダグラス(ea2578)は村を出ようとしていた男を呼び止める。
「‥‥いぇ、情けない話ですがこれから厄介なことになりそうなのでここから逃げようと思うんですよ。キャメロットなりにいけば人もたくさんいますから、隠れる場所もあるでしょうからね」
 村を出ようとしていた男は笑顔を絶やさないままリュウガへ理由を説明し、足早に村を出ようとする。
「なるほど、嘘はついていないようだな‥‥行き先以外はな!」
 日本刀を振りかざし、男へ向かうリュウガ。肉が裂ける音が二人の耳に届き、流れ出た血液は地面にポタリと落ちた。
「ばれていましたか。よくぞ‥‥見抜いたものですね」
「挙動とローブの下の刃を見れば‥‥誰にでも分かることだ!」
 ともに脇腹を押さえ、言葉を交わしながら距離をとる二人。
 リュウガは力で勝るものの、決定的なスピードでは劣っている。『先に動いた方が不利になる』という思考が二人の頭に消えることなく浮かび続け、刃を持ったリュウガと敵はにらみ合ったまま動こうとしない。
「リュウガさん、そいつは‥‥」
 一種奇妙なバランスを保っていた状況は、アレスの加入によって一気に崩壊する。敵は迷うことなくリュウガに背を向け、尾行されることも恐れず一直線に駆けていく‥‥‥‥ザーランドへ向かって。
 ‥‥その後、リュウガとアレスはしばらく男の後を追ったが、結局捕らえることはできなかった。だが、道中の情報収集により、男がザーランドに入ったことは、間違いない情報として彼らに飛び込んだのであった。

 暴徒は夜桜らの必死の説得により多くは解散したが、それでも一部の者たちは相変わらずの気性の荒さでこの地を占拠すると主張し、譲らなかった。
 冒険者達には規定より少し少ない報酬が支払われ、とりあえずこの一件は‥‥この一件だけは一応の幕引きを迎えたのであった。