お前の瞳には何が映る?【最終話】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:8 G 66 C

参加人数:10人

サポート参加人数:10人

冒険期間:06月08日〜06月22日

リプレイ公開日:2005年06月18日

●オープニング

<ザーランド領>
「ゴーヘルドは悪性を敷き、民衆を困窮のどん底に陥れている! 僕はそのような状況を到底看過することはできない。ゴーヘルドの悪政に異を唱え、彼に立ち向かおうとする勇気ある『解放軍』を支援することを立案します。ご異議のある方は? ‥‥いらっしゃいませんね」
 ベガンプと未だ断続的に戦闘を繰り返しているザーランドは、悪政を敷き住民を困窮のどん底に陥れるゴーヘルド領へ攻め入ることを決定した。
 ベガンプ寄りの人間から見れば『暴徒』と呼ばれる解放軍を支援するというのが、彼らが挙げた理由であったが、その支援にザーランド最強との呼び声も高い『剣王』クラック率いる騎馬隊を向かわせることからも、ゴーヘルドがベガンプの支援者であるからとの理由が、ザーランドの民衆にとってすらも支配的な見解であった。

<ゴーヘルド領>
「暴動が理由じゃと! そんな言い掛かりが通るとでも思っているのか!?」
「はぁ。当然反発も起こってはいますが、ザーランドは莫大な金を周辺領主にばら撒いたようでして‥‥明確に反対している者は‥‥‥‥残念ながら」
 その報せはゴーヘルドにとってまさに青天のへきれきであった。敵の目的は支援と銘打った暴徒が支配する町の占領なのだろうが、アーノルドとの戦いで疲弊しきった軍では対処のしようがない。
 ゴーヘルドは地図を広げると、目を皿のようにしてそれを防ぐ手立てがないか試案を巡らせる。‥‥そして、彼は苦し紛れにひとつの手法を思いついた。
「ザーランドの連中はこの村を通らねば北部へ向かうことはできぬ! ここに冒険者を陣取らせ、時間稼ぎにあたらせよ。五日間も稼げれば我が軍が背後からザーランドを襲う準備も整おう!」
「し、しかし‥‥そんな危険な依頼を受ける者がいるとは到底‥‥。それに、背後より攻撃を仕掛けようとも‥‥っ!!」
 弱音を吐く部下を蹴り飛ばすゴーヘルド。迷っている暇などないのだ。敵もベガンプの手前、それほど長くは駐在できまい。だが、暴徒どもに下手な希望を与えては自らの生命に関わる!!
「金をばら撒け! 現物支給でも構わん。命知らずの愚か者であれば、受ける者もいるであろう! ‥‥先日拾ったガルシュードの子供も向かわせろ。父親の遺志を継がせるようワシ直々に諭してやったのだ。我が領のために命を捨てさせようと、それは本望であろうからな」

<アーノルド領>
「世話になったなシュペル。‥‥我侭なようだが、少しやり残したことがあるんだ。馬を借りていくぞ」
「いえ‥‥。本来ならこちらこそ恩に報いなければならないのでしょうけど‥‥すいません、もう僕の力では何とも‥‥‥‥。護衛をつかせようにもカイーラを動かすわけには‥‥」
 シュペルと呼ばれた少年の頭上に置かれた手。一年中剣を握り締めるその掌はゴツゴツしていて、柔らかさとは無縁に思える。
 だが、それは同時に彼の愚かとも言える直情主義を支えている部分でもあった。
「気にするな。恩は帰ってきたら存分に返してもらうからよ。幸い勘違いしてくれている奴も多い。今なら‥‥行けるかもしれない」
 数分後、アーノルド城から馬が三騎飛び出した。先頭をはしる男は、手綱を握り締めると、風に言葉を乗せ、一気に戦場へと向かっていった。
「弟子を首にした記憶なんてないんでなっ。行くぞ春菊、レムー!!」

<冒険者ギルド>
「愚かにも暴徒を支援しようとする者がいる。本来ならば直々に我らが鉄槌を下したいところなのであるが、ゴーヘルド様は君たちを大変高く買っている。よってこの極めて重要な任務を君たちに任せようというのだ。傭兵七十名もこちらで用意した。‥‥つまり君たちの中から、総勢八十名にも及ぶ軍団の長を決められるわけだよ」
 あくまでもにこやかに言葉を紡ぐゴーヘルドの部下。だが、今回ばかりはその引きつる口元を完全に隠すことはできない。
「村にある物と人は君達が自由に徴集して構わない。ポーションも一人二個までなら依頼後に支給しよう。君達は敵を五日間村に釘付けにしてくれればいい。‥‥ゴーヘルド様に忠誠を誓えるなら、共に戦おう」

 ‥‥出発前日、部隊長となる冒険者の前に現れた傭兵は、半分の四十名に減っていた。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)

●サポート参加者

クウェル・グッドウェザー(ea0447)/ シーン・オーサカ(ea3777)/ カレン・ベルハート(ea4343)/ アルル・ベルティーノ(ea4470)/ 夜枝月 藍那(ea6237)/ マリー・プラウム(ea7842)/ 蓁 美鳳(ea7980)/ ココア・ミルフィーユ(ea8457)/ ブレイン・レオフォード(ea9508)/ 時奈 瑠兎(eb1617

●リプレイ本文

●一幕
 ‥‥村に到着した時、傭兵の数は30名に減っていた。
「残ったのは命知らず・プロ・どうしても金が欲しい者の三種類といったところか」
 溜息にもならぬ溜息を吐き、空を見上げるアリオス・エルスリード(ea0439)。敵の陣営に情報を売ろうとしていた者はリュウガ・ダグラス(ea2578)が排除し、逃げそびれた者はここに至る途中で逃げてしまった。
 情報を集めてくれた冒険者達に、逃げ出した傭兵を説得するなり、新しい傭兵を探してもらうべきだったのかと、今更ながらに後悔が募る。
「『剣王』クラックの騎馬隊は精鋭部隊ゆえに、各人十分に保存食を持ち、回復専門の兵士や食料を大量に持つ従者まで従えているそうです。その数は凡そ60名‥‥20名からというのは依頼主の希望的観測だったようですね」
 時奈瑠兎からクラックの部隊に関する情報を受け取ったレイリー・ロンド(ea3982)は、買収作戦の失敗とできるなら信じたくもない情報を隊長である夜桜翠漣(ea1749)に報告する。
「ありがとうございます。‥‥無駄なお金を使わなかっただけでもよしとしましょう。私も村の人に逃げられてしまいましたし」
 一礼の後、左右に広がる山を交互に見る夜桜。戦いに協力すれば殺される可能性はゼロではない。ゴーヘルドに恩義もない。変わって欲しい気持ちもある。‥‥ならば傍観者を決め込み、山へ逃げるのが一番賢い。なるほど、何とも理路整然とした思考の流れだ。
「この村を戦場にするのですか?」
「ええ、折角人もいなくなったんですから遠慮なく使わせてもらいましょう。最後はこの村を担保に敵を脅すこともできるかもしれませんしね」
 セレス・ブリッジ(ea4471)からの質問へ、誰の家の物かも知らぬ器に溜まった水を飲みながら返答する夜桜。依頼を受けてしまった以上、どんな状況になってもとりあえずは依頼成功へ向けて努力だけは行わなければならない。
 彼女はこれ以上の状況悪化を防ぐべく、残った傭兵達の鼓舞へと赴いていった。

●幕間
「冒険者か、まさか本当にいるとは驚きだな。気分はこれからドラゴン退治ってところか? ‥‥さあ、今から奴らに教えてやろう。俺達はドラゴン程単純じゃないってことをな」

●二幕(一日目/五日)
 クラック率いる騎馬隊がとってきた作戦は冒険者達が予想だにしないものであった。村の近く‥‥矢が届くほど近くに整然と陣を敷き、静観‥‥‥‥そして、数限りない降伏勧告であった。

「一つ! 明日の日没までにこの村を大人しく明け渡すこと。さすれば諸君らの過ちは問わない! これは最終勧告である。従わぬ場合は協力した者どもを皆殺しにし、村を焼き払う! こちらに投降するのなら、手厚くもてなそう!」
 きょう何回目やも知れぬ文章を、大声で読み上げる敵。そして目の前に広がる騎馬隊‥‥冒険者達は屋内に集まり、夜桜に指示を仰ぐ。
「どうします夜桜隊長? 傭兵が動揺しています。また矢を放って‥‥」
「やめておきましょう。これ以上撃っても無駄撃ちになるだけです。何もしなくても時間がこうして稼げているんです。‥‥考え方を変えればこれは願ったり叶ったりの展開なんですよ。本当に村を焼き払えるんなら最初からやっています。相手も『評判』という見えない敵と戦っているんです。この強迫も、評判と折り合いをつけるための交渉にすぎないんでしょう。あるいは、こちらから離反者を出して罠の詳細を知るための‥‥」
 柵の補修を行っていたレジエル・グラープソン(ea2731)に、自分自身を納得させるように言葉を紡ぐ夜桜。
 動揺の効果はまず士気の低い傭兵に影響を及ぼした。ただ不安に思うだけの奴はまだいい。現実から逃避して、士気を高めるのは問題だが制御すればプラスになる。
 一番の問題は‥‥‥‥

「おぃ、どこに行くつもりだ? 武器も持たずに敵陣に突っ込むってんなら‥‥俺が敵の代わりに頭をぶちぬくぜ」
 クオン・レイウイング(ea0714)に弓を構えられ、ピタリとその場に止まる一人の傭兵。
「か、勝ち目がないってことくらいあんた達にも分かってるだろう?」
「わからねえな。俺達は勝ち目があるからここにいるんだ。‥‥逃げずに見てろ、あいつらの持っている余裕くらいすぐに打ち消してやる。そうしたらお前にも、あいつらの残した軍馬を一頭くらいくれてやる」

●三幕(起死回生の策)
 夜になった。敵陣からは時折降伏文書がお決まりのように朗読されるものの、それ以外に目立った動きはない。
 そして冒険者側の陣地では‥‥‥‥
「行ってくる。隊長もその後はよろしくお願いする」
「無理をするなというのは少々無理かもしれぬが‥‥安心なされよ夜桜殿。必ず敵の糧食を燃やしてみせるよ」
「もともとゴーヘルドに命を懸ける筋合いもないしな。無理な時はその時でさっさとずらかるよ」
「これほど危険な仕事は初めてですが‥‥気を引き締めていきますよ」
 アリオス、狂闇沙耶(ea0734)、クオン、レジエルの四名は夜桜に一礼すると、敵陣へと足音を忍ばせながら移動する。敵陣の糧食さえ燃やせば相手は混乱し、こちらの士気は高まる。わけもわからず敵が突撃してくれば、あとは罠とアレス・メルリード(ea0454)とミケーラ・クイン(ea5619)が率いる部隊とで攻撃する事ができる。さらにその隙に敵の食料を燃やしてしまえれば‥‥。
 起死回生の策。勝利できる策‥‥その発見は、彼らの瞳を僅かに曇らせてしまった。

「なに、作戦が間違っていたわけじゃないし落ち込む事もない。普通の部隊なら間違いなく引っかかっていたと思うぜ。その潜入能力、大したもんだな。‥‥だが、先輩としてひとつ忠告させてもらおう。俺達の戦力を‥‥!」
 クラックの言葉を中断させるクオンの矢の一撃! 放たれた矢は闇を裂き‥‥頭の手前で盾に突き刺さった。クオンは梓弓から放たれた矢は魔法の盾でなければ防げないと思っていたが、魔法効果とは魔法しか効かない敵にダメージを与えられるといった意味のものであり、自動命中ということではなかった。
「勘違いをするな。俺達が上、冒険者は下だ。喧嘩を売るなら相手を考えるんだな! 捕らえろ!! 他の三人も逃がすなよ!」

●終幕(敗戦)
 アリオスとレジエルの挑発に乗り、前進する騎馬隊。だが、彼らは罠の存在に気付くとすぐさま後退を始めた。そしてその代価は‥‥余りにも高い。
「夜桜隊長! レジエルが奴らに捕らえられた。それに‥‥」
 傷を負った右腕を抑えながら苦虫を噛み潰すような顔で、陣地に駆け込んでくるアリオス。冒険者と敵が戦っているのか、彼が言葉を紡ぐ間にも金属音は響くが‥‥それもすぐに止まった。
 そして夜桜が出した結論は‥‥
「‥‥全軍進撃します! あの三人を見殺しにはできません。アレスさん、ミケーラさん、よろしくお願いします」
 結論も何も、選択肢など残されていない。敵陣を引き裂き、仲間を助け出すしかない!


「全員怯むな! 盾の影に隠れていれば矢は当たらないぞ!! ‥‥よし、後退だ。全員即座に抜刀!!」
 馬上から放たれる敵の矢を受け止めていたミケーラ率いる部隊は、彼女の声に合わせてアリオス率いる部隊の後ろまで後退し、抜刀する。両陣営の矢が飛び交う中、戦いは始まろうとしていた。
「いよいよだ。父親の死について知りたいなら死なないことだな」
「うるさいんだよっ! お前こそ下がっていろ。死なれちゃきけないだろぉ!!」
「お前なんかに言われるとはな。まあいい‥‥生きるぞ!!」
 槍を構えさせ、敵の襲来に合わせるアレス。彼の傍らで荒い息を放つルインは、両手をガタガタと震わせながら敵との接触を待ち焦がれる。
「槍とはつくづく小賢しい奴らだ! 退くな! 進め! もう俺達の勝利は決まりきっている!! 素人の槍や矢なんかで死ぬなよぉ!!」
 軍馬は矢を身体に受けながらも疾走し、馬上からの槍とアレス達の槍とが接触する。大地に倒れる軍馬、飛び散る鮮血、悲鳴とともにうずくまる傭兵。戦局は一気に乱戦へと突入する。

『‥‥強いっ!』
 驚き目を見開くミケーラと騎馬隊兵士。一兵士の実力とは思えぬ強さ、冒険者とは思えぬ強さ‥‥心のどこかで見下してきた相手の実力は、互いを驚嘆させる。
「援護するぞミケーラさん! ‥‥受けよオオォオ!!」
 リュウガの日本刀は猛烈な力の後押しを受け、敵目掛けて一気に加速する! 両腕に浮かび上がった血管は‥‥敵のカウンターを受け、ゆっくりと引いていった。
「シマッ‥‥」
「もらったぞ!!!」
 リュウガを屠った敵の表情には喜びどころか焦りが浮かぶ。既に死に体となった兵士に、ミケーラの一撃を受け止める余裕は残されていなかった。
「どうだ‥‥ぁ‥‥」
「悪いな。騎士相手ではないので背中から攻撃させてもらう」
 目の前の敵が落馬する姿を眺めながら、ミケーラの意識も‥‥徐々に薄れていった。

「キエエェエエエ!!!」
「なんだいあの狂った御坊ちゃんは。‥‥いい、俺が行こう。あいつくらいは殺してもいいだろう」
 狂ったように武器を振るうルインを眺め、馬を動かすクラック。いかに鋭くとも、単調な攻撃を受けることなど彼にとっては造作もないことである。
 突き出した槍は‥‥あっさりとレザーアーマーを貫いた。
「‥‥ほら、死ぬのは‥‥‥‥そっちだって‥‥言っただろ。身体が強くても‥‥心が強くないと‥‥強くなれないんだ!!」
 身体を張ってルインへ向けられたクラックの一撃を受けたアレスは、感覚のなくなった左腕を顧みず、虚を突かれた上に未だ体勢を立て直せぬクラック目掛けて鋭い一撃を放つ!!
 舞い飛ぶ数本の毛髪! ‥‥その向こうに光る、喜びに満ちた瞳。
「ヒハハ、今のでお前命を無くし‥‥にぃ!?」
「おぃおぃ、ちょっと見ない間に変わりすぎじゃないのかルイン?」
 下馬したクラックが『剣王』たる理由を見せようと振るった刃は、炎纏う刃に受け止められる。松明に照らされた銀色の髪は紅く見えた。
「お前も‥‥喧嘩を売る相手くらいわきまえやがれぇ!!」
「‥‥っ、生憎俺は国に喧嘩を売られてるんでな、イチイチお前なんて相手にしてらねぇんだよ!!」
 再度振り抜かれた刃は銀髪を鮮血で紅く染める。確かな手応えに微笑むクラック。‥‥だが、銀髪の男がひとたび前のめりに倒れれば‥‥彼の視界には、武器を構えたルインにアレス。そして‥‥‥‥‥彼らの瞳に映る無防備な自分の姿があった。

●余幕(一騎打ち)
「わたし達が資材などを徴収し、村はとても疲弊しました。掲げた正義の名の下に、少しの間だけでも手伝いをして貰えないでしょうか?」
「黙れ。この程度を疲弊とは言わん。やることが中途半端なんだよ」
 深手を負い、みすみす三名の逃走を許したクラックの表情に、もはや油断はない。強引に会話を終わらせると‥‥無謀なる敵大将へ向けて刃を振り落とした。

 ‥‥勝敗は、僅かな間に決した。


「俺はレイリー・ロンド。‥‥無礼を承知で貴君に決闘を申し込む!」
「失せろ、お前達などに興味はない。次があれば全員殺す‥‥それだけ覚えたら去れ。正義の名の下に、今回だけは許してやる!」
 クラックは夜桜を庇うレイリーと視線を合わせることなく、騎馬隊を連れて村を通り過ぎていった。


 五日経過しようともゴーヘルドは軍を動かすことはなかった。
 依頼人は冒険者達に回復薬だけを放り投げるように手渡すと、大きく溜息を吐きながら立ち去っていった。