疑【第一話】
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:7〜11lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 14 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月24日〜07月01日
リプレイ公開日:2005年07月05日
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●オープニング
<アーノルド領>
「‥‥‥‥」
『無言』のヨハンはきょうも無言だった。広げられた地図についた戦いの印‥‥それはまだ幾つかしかついていなかったが、次第に激しさを増す戦いの中でいつまでも傍観を決め込んではいられないだろう。
「ゴーヘルドはザーランドの妨害をまともに受けてとても動ける状況じゃない。ベガンプもあんまり派手な行動はとれないだろう。と、なると、次に動いてきそうなのは‥‥おっと、動かされそうなのは東のラサーンに西のコイルといったわけか」
「‥‥‥‥」
仮面を付けし騎士、カイーラの言葉に無言のまま頷くヨハン。もとより戦いなどしたくはない。‥‥だが、ベガンプが生命線を穀物に置いている以上、領地への圧力は避けられるものではない。
選択肢は三つあった。ザーランドと戦うか、ベガンプと戦うか‥‥あるいは不戦を決め込んで、両陣営から過激な嫌がらせを受けるかである。
「こっちは戦いたくないって言ってるのに、どいつもこいつも戦いたがりだな」
領地の境界を決める文書はあっさりと改ざんを許し、かつて交わされた口約束は強引に記憶の端の端に追いやられた。川上で汚いものを流せば川下に被害は及ぶ。風上で物を燃やせば煙は風下に伝わる。
規模は違えども隣同士、反発しあう材料がないといえば嘘になる。要するに問題は、それをどこまで悪意的に拡大解釈できるかということなのだ。
「‥‥で、どうするよ。俺とあんたはこのままラサーンと睨み合うしかねぇ。と、なると西に出てきやがったモンスターは別の奴が退治しなきゃならないんだ‥‥が、兵もいねぇ、人もいねぇ。苦しいところだな」
「‥‥‥‥」
無言でキャメロットを指差すヨハン。どうやら冒険者を雇う腹積もりらしい。
「ハハッ、そりゃ名案だな。奴らならモンスターの方はなんとかしてくれそうだぜ」
<アーノルド領西・コイル領>
「どうしても‥‥戦わねばならぬのですか?」
「わかってくれラミスタ。ザーランドについておる東のラサーンがアーノルドに圧力をかけた今、我らも動かざるを得んのだ。アーノルド殿に恨みはないが、我らにつかないというのでは戦うしかない」
苦しげに俯く領主・コイル。クロウレイ地方全土は既にベガンプかザーランドかの色塗り合戦に否応なしに巻き込まれていた。
中立と言うのは楽だが、どちらにつくかも分からない相手をいつまでも放っておくわけにはいかない。余力のある内にこちらに日寄らせるか‥‥叩かねば。
「人がモンスターに協力する時代ですか? そんな未来が本当に‥‥」
「‥‥モンスターを放置しろとはいっておらん。全てが終わったならば、お前の手で片付ければよいのだ」
<冒険者ギルド>
アーノルド領とコイル領の境から徒歩で一時間離れた洞窟にボブゴブリン戦士とゴブリン戦士が数匹住み着き、近辺の村に悪さを働いている。よって諸君らには洞窟に赴き、モンスターを討伐して欲しい。ひょっとすると他にもいるかもしれんから、それも退治してくれ。
‥‥ただ、情けない話だが諸君らに赴いてもらう場所はいろいろと難しい場所で、ちょっとした嫌がらせのようなものを‥‥村人などではない、不特定の第三者から受ける可能性もある。直接危害を加えられるようなことはないと思うが、所持品などには注意を払ってモンスター退治に赴いてくれ。
●リプレイ本文
<山中>
「‥‥さて、いよいよか。モンスターにしろ、妨害者の存在にしろ面倒な事にならなければいいが」
焚火を囲み、今夜の予定を話し合う冒険者達。未だ実態の見えぬ妨害者から所持品を守りながら、イグニス・ヴァリアント(ea4202)は深く息を吐く。
一概に言うと御幣を招くかもしれないが、村を襲うモンスターというのは人にとって基本的に『害』となる存在である。それを退治しにやってきた冒険者を妨害することなど、容易には考えられない。
「領土問題でモンスターまで野放しにしてちゃ世話はないわね。結局自分で自分達の首を締めているってことがわかんないのかしら」
村の人間からアーノルドとコイルのあつれきを聞いたキラ・ヴァルキュリア(ea0836)もイグニスと同じく息を吐く。敵の敵は味方とはよく言うが、冷静に味方くらい選んで欲しいものだ。
「‥‥さて、愚痴の続きは暫くたってから再開することにして‥‥‥‥今はこいつらを何とかすることから考えようか」
足音を聞きつけ、立ち上がる琥龍蒼羅(ea1442)。けむくじゃらのモンスターにゴブリン戦士とボブゴブリン戦士が洞窟から追いたてられたという情報は村民から聞いた。だが、散り散りになったはずのモンスターがこれほど組織だってやってくるとは‥‥
「何者かの意思が紛れ込んでいると考えて間違いないでしょうね」
「ああ、それもこいつら程度相手にしない程強力な誰かのな」
イグニスは鋭い視覚で敵が既に傷ついていることを確認し、仲間に伝える。情報を頭の中で整理しながら、ルーンソードを構えるクリス・シュナイツァー(ea0966)。
「面倒じゃな、とにかく片っ端から倒せばいいじゃろう」
「落ちつけ。こちらがわざわざ相手に合わせる必要などどこにもない」
ルシフェル・クライム(ea0673)は、ともすれば一人で敵に突進しそうな黄安成(ea2253) を鎮めると、事前の作戦通りに陣形を展開させる。
「‥‥舞い上がれ!!」
焚火を境界線として暫し睨みあっていた緊張は、蒼羅が放った精霊魔法によって一気に傷される。突然巻き起こった疾風は土煙と共にモンスターを包み込み、上空高く打ち上げる!
『!!!!』
何が起こったのかもわからずバタバタと両手足を動かすモンスター達。程なく彼等が落下すれば、既にその場所には間合いを詰めた冒険者達が待ち構えていた。
「一気に決めさせてもらいます!!」
十分な助走から繰り出されたクリスの強振は、屈強なボブゴブリン戦士を一撃の下に斬り捨てる! 鮮血が彼の鎧を紅く染め、肉隗と化したモンスターの一部は急勾配を転げ落ちる。
「掠らせるか!」
もう一匹のボブゴブリン戦士は巨大な棍棒を振り落とすが、それはイグニスの銀髪を僅かにすらす事しか出来ない。あたかも微風に乗り舞っているかのように敵の背後に回りこむイグニス。敵の背中に突き立てられた日本刀は、分厚い筋肉を突き破って液体を滴らせる。
「GUUU!!!!」
しかしボブゴブリン戦士は本能の塊のような雄叫びで痛みを打ち消したのか、そのまま後ろも振り返ることなく棍棒を持ったまま猛烈な勢いで一回転する! イグニスはすぐさま回避しようと試みるが、皮肉にも突き刺さった日本刀が彼の回避の邪魔をする。
「ここは見せ場だろっ!!」
シュナ・アキリ(ea1501)が放った矢は敵の咆哮を引き裂いて、急所に深々と突き刺さる。棍棒は大きく軌道を逸らし、イグニスの頭上を通り過ぎていく。
「さて、とりあえずはここでケリをつけさせてもらいましょうか」
「‥‥戦士の名はダテじゃなかったぜ!」
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)とイグニスの攻撃が交錯し、モンスターは膝から崩れ落ちた。
「やれやれ、どうやらなんとかなったみたいね」
消えかかった焚火に薪をくべながら、戦闘の終了を確認するキラ。陣形が功を奏したのかどうかは分からないが、全員が怪我らしい怪我を負うこともなく決着をつけることができた。
「さて、残りはけむくじゃらなモンスターってわけだな。この調子でサクッと倒そうぜ」
「ああ、そうだな‥‥」
ルシフェルはシュナの言葉に頷きながらモンスターが負って『いた』傷を確認する。この暗がりで見ても確認できるほど真新しい傷口。それが示すものは‥‥
「妨害者がすぐ近くにいるということじゃな。どうする、捕らえるのか?」
「‥‥いや、当初の計画通り残りのモンスターを倒そう。下手に動けば依頼主を不利な状況に追い込むことになる」
蒼羅は黄の意見に首を横に振ると、仲間達を引き連れてモンスターが住まうという洞窟の入り口まで移動する。当初の計画ではここに落とし穴を掘る予定であったが、情報では巨大なモンスターに対して、一個しかないスコップでそれほど効果的な罠は作成できず、危険を招くばかりと判断して罠の設置は断念していた。
「全員、戦いに夢中になって所持品の管理を怠らないようにな。‥‥どうやらいぶり出す必要もないようだ。来るぞ!」
洞窟に響き渡る足音を感知したのか、閉鎖空間を伝って耳に飛び込んでくる先ほどとは比べ物にならないモンスターの咆哮!
冒険者達はあくまで冷静に陣形をとり、最低限のダメージでの勝利を目指す。
『UUUUU!!!!!』
洞窟の中より駆け出してきた毛むくじゃらのモンスター‥‥その姿は強大で、十分な姿勢から立ち向かう冒険者達にも僅かな恐怖感を与えた。
‥‥そう、例えその姿が全身鮮血に覆われていたとしても。
「どういうことなの!?」
「落ちついてください。今はやるべきことをやるだけです! 傷ついているとはいえ、油断してはいけません!」
悲鳴にも似たキラの声を打ち消すクリス。この状況では咄嗟に結論など導き出せぬ状況だが‥‥目の前に牙をむいた敵がいる以上、それを看過することはできない!
「ガアァアア!!!」
接触際に黄の拳がモンスターにめり込むが、黄は逆に突進力に負けて体ごと、盛大に弾き飛ばされる。
「私に力を‥‥‥‥貰うぞ!」
指輪に祈りを込め、血塗れの敵に刃を振り落とすルシフェル。だが、敵はそれを受けても倒れず、毛とその下の筋肉に覆われた右腕を高々と持ち上げる。
「もういっちょいくぞ!」
「ああぁああ!!!」
しかし、いかにモンスターが強靭だろうとも所詮は単体。突き上げた腕はシュナの放った矢に貫かれ、クリスの気合いと共に放たれた刃は‥‥防御しようとした腕を戦意ごと切り落とした!
悲鳴をあげ、大地に転がるモンスター。冒険者達は一息ついたと、皆安堵の表情を浮かべる。
「‥‥まだだっ! 奥から来るぞ!!」
ほんの一瞬流れた空気を打ち消すイグニスの叫び声。鋭敏な彼の視覚は、ギリギリのところで‥‥‥‥全てが手遅れになる少し前に危険を仲間へと報せた。
「いったいどうしたん‥‥!!」
闇を裂くイカズチを受けて言葉を中断するクリス。洞窟の奥から出てきた正体不明の集団は‥‥モンスターのそれとは違い、しっかりと磨かれた武器を持って冒険者の前に現れた。
「どうするんだっ、ここまできて‥‥」
「向かってこられて背を向けるわけにはいかないわ。いろいろ問題はありそうだけど‥‥戦いましょう!」
小太刀を構え、敵の襲来に備えるキラ。謎の集団は誰が突出することもなく、列を成して冒険者達へと迫っていく。
「一体どこの誰だかは知らないが、こうなれば正体を明かさせて‥‥こんな時にか!?」
蒼羅は掌より突風を放とうとしたが、いかんせん彼の実力では高速詠唱を用いて魔法が成功する可能性は五分五分である。呪文は失敗し、魔法は本来の効果を発揮しない。
「そんな未来が正しいとは思えなかった。‥‥だが、我らが限られた土地に根を張っているということもまた事実! 一気に正面から突破しよう!」
「何をわけのわからないことを‥‥ぉ‥‥」
イグニスは敵の攻撃を先ほどモンスターの一撃を回避したのと同じようにかわそうとするが、敵はまるで彼の行動を予見していたかのように攻撃を合わせ‥‥彼の意識は徐々に遠ざかっていく。
「もらったああァアア!!」
「‥‥‥‥」
イグニスに一撃を浴びせて隙を晒した敵へと迫るルシフェルの刃!
だが、それも無言の内に回避されてしまう。瞬間移動でもできるのかと錯覚するほど、一瞬にして目の前から消えた敵に、ルシフェルは呆然とすることしかできない。
「‥‥なるほど。利あらずといったところですか‥‥‥‥皆さん、道を開けましょう。僕達の依頼はモンスター退治です。こんなところで人同士争うためのものでは‥‥断じてありません!」
相手の実力、状況、そして全く感じられぬ殺気から、クリスは道を開けるように冒険者達へ通達する。道を開けぬまでも、その場に立ち尽くす冒険者達。
そして謎の集団は‥‥正体を明かすことなく彼らの傍らを通り過ぎていった。
‥‥帰路にて、冒険者達は一連の顛末を依頼主に話したが、依頼主はただただ冒険者達に己の見込み違いを恥じて頭を下げ続けるに留まり、冒険者達はキャメロットへと帰還していったのであった。