●リプレイ本文
派手な大立ち回りはそういうことが好きな奴に任せればいい。
俺達の仕事は、気付かれないように動き回ることだ。
●一幕
「うぬぬ‥‥」
「安成さん、そう肩の力を張らなくてもいいでしょう」
町に到着してから早二日。敵は彼らの前に気配を感じ取らせることはあっても姿を見せることはなかった。時間を問わずに警備兵や冒険者に襲い掛かってきたものは、どこから飛んできたかもわからぬ鋭い金属片と‥‥‥‥猛烈な疲れと睡魔であった。
常に神経を張り巡らせている黄安成(ea2253)はもちろん、彼をなだめようとするケンイチ・ヤマモト(ea0760)ですら疲労の色を隠すことはできない。
「‥‥‥‥」
そして、それは事件が起こってからというもの心の休まる暇のなかった警備兵により顕著に表れていた。心労の余り彼らの頬はこけ、足取りは鉛のように重い。
「すまない冒険者の旦那たち、このあたりで少し休んでもいいかな?」
返事も聞かず、路上に座り込む警備兵の一人。安成は一旦咎めようとするが、そろそろ休憩時間が近付いていることを確認すると、警備兵たちに休憩を通達する。
「やれやれ、やっと休憩の時間ですね。短い時間ですが、しっかりと休んでおきましょう」
「ああ、また少したてば警戒の‥‥始まりじゃ」
詰め所に戻ると、すぐさまその場に腰を落として仮眠を取るケンイチと安成。
彼らが眠りの世界に誘われるのに、さほど時間はかからなかった。
『ギャアァァアアア!!!』
『!!!!』
悲鳴の重奏が巻き起こり、眠りの世界から無理矢理覚醒する安成。目をあければ、そこには血塗れになって倒れ、既に動かぬ警備兵の姿があった。
「起きた? 可哀相だね。寝ていた方が楽に死ねたっていうのに。‥‥さあ、残りはあんたら二人だけだ!」
返り血で身を化粧し、奇妙なほど美しい姿で微笑む女。手に握られたシルバーナイフは、ケンイチの喉めがけて一直線に突き進む!
「‥‥寝起きを女性にこんな形で襲われることになるとは思ってもみませんでしたよ」
寝起きで思うように動かない身体を動かし、僅かに急所から攻撃を外すケンイチ。首から噴出した鮮血は、伝わらぬ痛みとは反して彼の意識を根こそぎ奪っていこうとする。
「おおおぉおお!!!」
冷徹にも立ち上がることもできないケンイチへ止めを刺そうとする女に向けて突進する安成。武器を手に取る暇はなかったが、武器なしでは戦えないと言っていられるほど悠長な状況ではないことは、寝ぼけている頭でも十分理解できる。
相手の実力も分からぬ以上、まずは捕縛しようと突き出された彼の腕は‥‥女の身体をすり抜けるように回避された。
「間抜けだね。‥‥女に殺される気分はどうだい?」
胸に突き刺さるナイフ。安成は吐血とともに片膝をつく。
「まだ、まだじゃ。この程度で‥‥倒れてなるものか!」
「ハハッ、諦めが悪いねぇ。あんた女にもてないでしょ!? そんなの流行らないんだよね!」
気力を振り絞り、朦朧とする自らを鼓舞しながら立ち上がる安成。女は侮蔑したような視線を崩さないまま、ナイフを握り締めた。
●幕間
「イグニス隊長〜〜、眠いですよ」
「もう少し我慢しろ。もうすぐ休憩時間だ」
五名の警備兵を連れて、町を練り歩くイグニス・ヴァリアント(ea4202)。休憩時間前で疲労はピークに達しているが、自分に与えられた仕事くらいは完遂しなければならない。
「‥‥ん、どうしたんだマイ坊? 休憩時間はもう少し先だからちょっと‥‥‥‥イグニス隊長!!!」
泣きながら走ってきた子供に耳打ちされ、表情を一変させる警備兵。彼らはすぐさま詰め所へと疾走していった。
●二幕
「チッ、シューラの奴まだ遊んでいるのか。あいつの性格は暗殺というより拷問向きだな。‥‥お陰で派手な大立ち回りをしなきゃならなくなった」
血相を変えて走ってきたイグニスと警備兵を視界に、深い溜息を吐く男。詰め所の入り口に立つと、彼らの進路を塞ぐ。
「誰だお前は、どけぇ!! ‥‥ぇ‥‥‥‥」
男の横を通り過ぎようとした警備兵二人は入り口まで辿り着くことなく大地を舐める。男の手に握られた刃は返り血を浴びて、鈍く、そして紅い形相で冒険者達を睨みつける。
「俺が隙をつくる、お前たちはその間に詰め所の中に入れ。‥‥中にも敵がいる可能性がある。油断するなよ!」
詰め所の中から聞こえてくる悲鳴に目を見開き、男へと直進していくイグニス。彼の腕に握られた二本のナイフは、それぞれ別の生き物であるかのように不規則な軌道で迫り、男の額から一筋の紅い糸をほつれさせた。警備兵たちはその隙を縫って一気に詰め所の中へと走っていく。
「どこの誰か知らないが、大人しく法の裁きを受けるんだな。もうすぐ仲間がここに来る!」
「イグニス・ヴァリアント‥‥知っているぞ」
火花が飛び散り、金属音が町全体に響き渡る。イグニスが握った二本のナイフは、一本の刃によってがっちりと受け止められた。
「長く戦うつもりなどない!!」
「奇遇だな! 俺も長く戦うつもりなんてなかったんだよ!」
力任せに弾き飛ばされたイグニスは片膝をついて着地すると、こちらへ突進してくる男の刃を睨み据え、距離を測る。敵は一撃必殺を狙っているのか、武器を上段に構え、大振り気味に振り落とす!
「‥‥悪いな。武器で受けるだけの素人からは‥‥卒業したんだ!」
十分に武器を引きつけてから、足ではなく身体を動かす。唸り声が耳をつんざき、刃が頬のすぐ横を通り過ぎる。吹き付ける風は熾烈だったか、それは自信を確信へと変化させる。
足で大地を弾き、銀髪をなびかせながら側面に回りこむ。握り締めたナイフは一つの点を狙うわけではない。それぞれに違う感覚をはしらせて‥‥相手の急所を!!!!
「お‥‥ぉ‥‥‥‥」
「惜しかった。‥‥しかし、浅かったな」
アスラニアは左腕に止血のための布を結びつけると、大地に接吻をしたイグニスを見下ろす。握り締められた刃はゆっくりとイグニスへ近付き‥‥唐突に離れた!
「ようやく表に出てきよったか。影でコソコソやってる奴なんていけ好かないね〜」
「お前の凶行‥‥ここまでにしてもらおう」
シュナ・アキリ(ea1501)が放った矢が男の背後の壁に突き刺さり、出来た隙を見計らってルシフェル・クライム(ea0673)がイグニスを確保する。
「イグニス、無理に前に出るなよ。クリス達がくるまで距離をとり、防御に徹するんだ。シュナは援護を頼む。‥‥この人数で囲めば、負けることはない」
「ああ、そのつもりだ! こいつの鼻っ柱をへし折ってやるぜ」
ルシフェル達と同行していた警備兵も一緒になって、男の周囲をぐるりと囲む。男の背後にあるのは詰め所のみ。その詰め所にも先ほど三名の警備兵が突入したのだ。もうじき戦いが終わって‥‥‥‥
「あらら、アスラニア。こんなに残ってたの? 意外〜」
「‥‥誰のせいだと思っているんだ」
だが、詰め所から出てきたのは安成とケンイチ、そして数名の警備兵ではなく一人の少女であった。血塗られたナイフを構えた彼女は、あっけらかんとした表情で冒険者達の前に現れる。
「中にいた奴らはどうした‥‥」
怒りを噛み潰したようなルシフェルの質問に、悪魔のような笑顔のみで返答するシューラ。
「‥‥かまわねぇ、こいつらを殺すぞ!!」
「殺されるのはどちらか、まだわかっていないようだな!」
いきり立ち、仇うちを決行しようとする警備兵の背後に突如現れる武装した男達。囲んだと思い込んでいた冒険者達は、ここにきて囚われた鳥のように、逃げ道をふさがれた格好になった。
「ハハハ、惨めなもんだねあんた達も。このまま‥‥‥‥!!」
「‥‥おぃ、お嬢‥‥少し調子に‥‥‥‥乗りすぎじゃと思うぞ。‥‥女に優しい‥‥ワシでも、少しばかり‥‥‥‥逆鱗に触れたぞ!!」
勝ち誇り、笑い飛ばすシューラの足首を掴む紅い腕。背後から掴む事に成功した安成は、ここまできて弱音をはく身体を一瞬で殴り飛ばし、シューラを地面に投げつけた!
「こいつ、まだ‥‥‥‥!」
「すいません、遅くなりました。鎧はこういう時に邪魔ですね」
最後の力を振り絞ったかのようにその場に倒れた安成へアスラニアは剣を振り上げたが、それは重厚な鎧を身に纏ったクリス・シュナイツァー(ea0966)が突き出したルーンソードによって受け止められた。
「夜枝月さんは怪我人の治療を、セリアさんは僕の援護をお願いします。‥‥ここで、この場所で決着をつけましょう!」
クリスとセリア・アストライア(ea0364)そして夜枝月藍那(ea6237)の加入により、戦局は一気に冒険者側へ引き戻される。クリスは回復薬を安成に与え前線を強化し、それをセリアがサポートする。夜枝月の回復魔法は多くの警備兵を戦線に復帰させ、警備兵の詰め所周辺では、にわかに乱戦が展開されていった。
●終幕
「人の命を奪うことは決して罪なきことではありません! なのに、どうして‥‥」
「うるせぇっ! そんな方便で生きていけるほど今の世の中は平和じゃねぇってことだよ!」
セリアの細身から繰り出されるワスプ・レイピアをギリギリのところで受け止める男。まだ割り切れていないのだろうか、その言葉尻には微かにためらいの色が漏れる。
「‥‥そこだぁ!!」
そして、戦場においてためらいは命の危険を及ぼす。シュナから放たれた矢に対し、回避行動をとるのが遅れた男は、腹に刺さった矢を引き抜こうともせずその場に倒れこんだ。
「クソッ! 急造の部隊じゃこんなものか? シューラ、お前が余計な‥‥」
「この期に及んで仲間を咎めるのですか!?」
アスラニアの会話を中断させるクリスの一撃。受け止められはしたが、アスラニアは攻撃を受けることによって両腕の機能を一瞬失う。
「そこまでだ。この剣は悪を決して見逃さない!」
「悪や善など、勝手にお前の価値観に人を巻き込むな!」
ルシフェルの盾がアスラニアの視界を塞ぎ、側面から狙い済ましたようにクルスソードが直進する! だが敵はそれを回避することを断念し、鎧の頑丈な部分で受け止める。
「いや、貴様は悪だ。そうでなければ‥‥お前に殺されていった警備兵はどうなる!?」
「あんただって今まで何人殺してきたのさ。そういうのを自己中って言うんだよ! ‥‥アスラニア、もう退くよ。目的は達成したんだ」
ルシフェルの頬を掠めるナイフ。彼が一瞬躊躇した間に、アスラニアは間合いから脱出すると、仲間達を放棄してそのまま逃走していった。
すぐさま追跡を試みた冒険者たちであったが、あまり多くの人数を派遣すると警備兵に被害が及ぶ危険性があることから追跡を断念し、代わりに賊の多くを捕縛することに成功した。
賊は領主に引き渡され、今後は背後関係などの尋問を受ける予定だということである。