疑【最終話】
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 21 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月12日〜08月25日
リプレイ公開日:2005年08月23日
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●オープニング
<アーノルド領・謁見室>
「ゴーへルドに援軍を送る!? 正気ですかシュペル様!」
「‥‥‥‥」
謁見室に響く悲痛な叫び声。呼び出されたカイーラとヨハンは、それぞれ大声か無言かで態度の違いこそあれども、明確に否定の意志を表明する。
「そのつもりです。もはや戦いに関わらず、傍観を決め込むことも限界にきています。誰かがやらなければならないことなのです」
「だからって、どうしてあんな積もる恨みこそあっても恩義なんて一つもない馬鹿領主を助けなきゃいけないんですか!! 悪いですが全く気が乗りませんね!」
シュペルは冷静に部下を静めようとするが、カイーラの言葉は既に怒鳴り声となっていた。『気乗りしない戦いにはいかない』そんなことを主の前でも平然と叫ぶ部下を持って、ある意味幸せな気持ちになったのか、シュペルは軽く頭を抑える。
「言ったでしょう。誰かがやらなければならない争いなんです。ゴーヘルドが落とされれば、周辺の領は次々と吸収されていくでしょう。そしてそれは我が領とて同じです。‥‥今の状態は決して良いとは言えませんが、最悪でないことも確かです。戦いは終わらせなければなりません。‥‥ザーランドを、そしてベガンプを、退かせなければならないのです」
「ご立派なことで! ですが、ここにそんな兵力と人材があるんですかね! ゴーヘルドと連合でも組んで二つと戦いますか? 断言しますが一週間もちませんよ」
「‥‥‥‥‥‥」
ヨハンは無言のまま暴走するカイーラを抑えようとするが、カイーラはそれを振り払う。領主の蛮行を止めるなら、今しかないのだ。
「ゴーヘルドとは組みます。ですが、それだけではありません。他の領主達も皆吸収を恐れています。コイル殿からですら、今回の状況に関しての書状が送られています。‥‥今のベガンプとザーランドの持つ力こそ、争いを起こしている理由です。この二つを止める事ができたのなら‥‥‥‥良くはありませんが、最悪の状況は免れると思っています」
「理想論ですね! コイルからの書状が嘘で、奴らが攻めてくる可能性は!? そうなったらどうします?」
「その時は‥‥首を差し出しましょう。リーアや諸君らを犠牲にするよりはよほどいい選択です」
迷いのない――よく言えば純真な、悪く言えば夢を見ているシュペルの言葉に、カイーラは反論を断念する。自分は軍人なのだ。主君が死ぬというのなら、死ぬまで付き合うことが仕事である。
「わかりました。だけど俺はいきませんよ。俺はここを守る仕事があるんです。ヨハンの奴にいかせてください」
「ヨハンは駄目だよ。ヨハンの能力は防御戦でこそ発揮される」
「攻めてこないんじゃなかったんですか! 攻めて来ないんなら一緒でしょう。なんにしろ俺は絶対に嫌です!!」
「一緒じゃないと思うんだけど‥‥‥‥やっぱりカイーラに行ってもらいます。カイーラにね」
微笑むシュペル。
‥‥そしてどういうわけか五分後には、納得したカイーラが謁見室から退室していったのであった。
<コイル領>
「コイル様、今こそご英断を!! これを逃しては機などないのです。今こそ攻め、後世に御主の名を残すべきなのです!」
「しかしだな‥‥ラミスタ‥‥‥‥」
ラミスタと呼ばれた男に詰め寄られ、コイルは顔を上げることもできない。過去と現在を顧みれば、どのような行動をとるのが常識的であるのかくらいは誰の目にも明らかであった。
「今を取り、後世にて笑われるおつもりですか! 不義を働いたなら、義によって返すのです!!」
「‥‥ぅ‥‥‥‥」
苦しげに俯くコイル。
結局その夜、彼が決断を下ことはなかった。
<冒険者ギルド>
「君たちに無理を承知でお願いをしたい。一旦アーノルド領へと向かい、五十名の正規軍に二十名の傭兵と合流した後、ゴーヘルドへの援軍となって欲しいのだ。敵はベガンプ一の策士であるラミア・アーク。そしてそれを超えれば剣王と名高いクラックが待っている」
依頼人はもう苦笑いするしかないのか、笑いながら――――しかし目はいたって本気で冒険者へ依頼内容について説明する。
「敵はゴーヘルドとの進路上に、五十名の兵を構えて待ち構えることが予想される。兵の力はあちらの方が上だから、互角の戦いはできるだろう。まずそれをどうにかして倒したあかつきには、クラックの騎馬隊を側面から突いて欲しいのだ。‥‥騎馬隊と戦う守備兵が壊滅していた場合? すまん、その場合は臨機応変に対応してくれ」
汗を拭う依頼人。言葉で言うのは簡単だが、それがどれほど難しいことであるかは彼でもわかっている。
「とにかく、アークの部隊を‥‥倒さなくともいい。突破だけはしてくれ。戦場は見晴らしのよい草原だ。罠がしかけにくいだけに、当日の戦術で全てが決まるだろう。そして十名でも‥‥五名でも動ける者がいたならば、ゴーヘルド殿のもとへ向かってくれ。諸君らが声を響かせれば、それは味方兵士の大きな希望となり‥‥歴史を動かすことになるやもしれぬ」
依頼人の言葉を受け、立ち上がる冒険者。
状況は毎回嫌というほど変わっているが‥‥‥‥歴史を動かす戦いに乗らない手はない。
●リプレイ本文
●序幕<ベガンプ側陣地>
「アーク様、偵察部隊より伝令! 敵は突破型陣形にてこちらに向かってきているとのことです!!」
「‥‥そうか、下がってよろしい」
部下からの伝令に、部隊を指揮するラミア・アークは歯ぎしりをする。
敵の陣形を悔やんでいるわけではない。確かに平地で敵の突破を防ぐというのは困難なことではあるが、可能となるように作戦をたててきた。
だが‥‥‥‥なぜよりにもよってこの天気なのだ!?
「アーク様、もうじき敵の姿が見えるころと思われます。御指示を!」
つんざくような雨音に途切れがちな部下の声を耳にしながら、アークは瞳を閉じて天を仰ぐ。考える時間などないだろうが考えるのだ。この豪雨では敵の姿は見えぬ。敵を分断しての追撃は失敗に終わる可能性が高い。
「それならば‥‥‥‥しかないだろう!」
<アーノルド側陣地>
「どうやらうまくいったようだな‥‥」
視界を塞ぐような豪雨を肌に受けてアルヴィン・アトウッド(ea5541)は、その長い髪を雨粒に湿らせながら微笑む。
「天が味方してくれたようですね。もし天気が晴れだったならこうはなりませんでした」
恵みの豪雨とでも言おうか。アルヴィンが変化させた天候は確実にアーノルド軍にとって優位な方向へと戦況を働かせていた。ただでさえ敵は平原での戦闘で戦力を分散しなければならないのだ。この豪雨はその分散した戦力の伝達を鈍化させる上に、こちらの姿までも隠してくれる。
弓兵に伝令を送り、緊張感を保ちながらも夜枝月藍那(ea6237)の表情に悲観の念が篭る事はない。天候に左右される、とても確実な作戦だとはいえなかったが、幸運にも神は彼らを見捨てはしなかった。
兵士や冒険者達の士気は、降り続く雨とは裏腹に上昇の一途を辿る。各人ともそれぞれの部隊に指示を送り、作戦を遂行しようとしていた。
‥‥豪雨の中から敵が――――作戦を捨てたアークの部隊が現れるまでは。
●一幕
「状況が最悪なら、それに向こうも巻き込めばいい! 戦力が互角である以上、乱戦に持ち込めばこちらが負ける要素はない!! 各員とも日頃の特訓の成果を出しつつ‥‥」
豪雨の中から現れたアークの部隊。待ち構える立場の『利』をかなぐり捨てた敵の行動に、アーノルド軍は浮き足立つ。この豪雨が目隠しとなり、敵の奇襲を許してしまう形となったのだ。
「焦るなよ! 敵は遮二無二こちらに向かってきているだけだ。‥‥弓兵構えろ! こいつらに矢の雨も御見舞いしてやれ!!」
叫ぶシュナ・アキリ(ea1501)。どう考えてもこの奇襲は突発的なもの。まともな陣形が組めているはずはない。豪雨に混じって降り注いだ矢は、雨の中に浮かぶ敵へと吸い込まれて、アルヴィンが巻き起こした嵐は、敵の出鼻を挫く。
「戦争の火種というのは何処にでもあって、中々消えないものだな‥‥‥‥作戦に変更はない! こいつらを突破するぞ!」
「中央をこじ開けるんだ! 我等の目的はここではない!!」
叫ぶイグニス・ヴァリアント(ea4202)にルシフェル・クライム(ea0673)。兵を一箇所に突出させた陣形は、全く同じ形を組んだ敵の陣と正面から激突する!
奇襲と待ち伏せが相殺しあい、あっという間に敵味方入り乱れる両軍。豪雨の中耳に入るのは怒号と悲鳴、肉が裂ける音に‥‥誰かが倒れる音。
「ハアアァアア!!」
雨粒と共に敵を切り落とすルシフェルのクルスソード。倒れた敵の先には‥‥どこまでも広がる草原が見えた。
「よし、突破できるも‥‥っ!!」
「どちらへ行かれるおつもりです? 戦場なら後ろ、あなたの敵ならここにいますよ」
顔面から鮮血を流しながら泥水の中に倒れるルシフェル。刃を構えたラミア・アークは、今も手に残る確かな手応えに顔を綻ばせる。
「貴様‥‥容赦はしない。している暇もない!」
「それが正解ですよ。戦場で相手に情けを持つことは命に直結することです。果たして‥‥あなたにわかりますかね!?」
側面から斬りかかってきたイグニスの一撃を回避するアーク。底に薄い金属の針があしらわれた彼の特注の靴は、滑りやすくなった足下の軟弱な地面に強烈な一撃を与える。
足の筋肉を隆起させ、低い体勢から飛び掛るアーク。先ほどの攻撃で上体が起き上がってしまったイグニスに、その一撃を回避する余力は残されていない!
「‥‥‥‥イオォ!!」
弾き飛ばされ、右脇腹に熱く滴り落ちる液体を感じながらも、イグニスは気力でその場に踏みとどまる。息を荒げながらも、手にしたナイフは未だに相手を倒そうという行為をやめようとはしない。悲鳴をあげる情けない身体に鞭を打つと、イグニスは雄叫びをあげながら敵へ突進していく。
「その気力は見事と言いましょう。ですが実力差のある相手を前に正面から向かっていくとは!」
「ガアァアア!!」
間合いの外から振り落とされるナイフ! 巻き起こった衝撃波は、地面から水を巻き上げながらアークへと迫っていく。
「甘いと言っているじゃないですか、この程度が回避できないとでも‥‥‥‥!!!!!!」
「甘かったのは‥‥どっちかな?」
回避を試みたアークの視界に映る騎馬‥‥クリス・シュナイツァー(ea0966)の駆る騎馬とその部下が、自分にではなく、ゴーヘルド領へ向けて進んでいく!! 突破されたとこに愕然とするアークと、笑うイグニス。
アークの引きつった顔は―――――すぐにいつもの紳士的な微笑へと変化していった。
「見事と言っておきましょうか。‥‥ですが、この程度の突破を許しているようでは、策士の名が廃るというものでしょう!」
豪雨の中で、騎馬のいななく音が聞こえる。イグニスが驚き音の方向を見れば、伏せていたベガンプ兵がクリスの後を追いかけていた。
「これは‥‥」
「何処を見ているんですか!?」
イグニスにできた隙を見逃さず、刃を振り上げるアーク。イグニスは舌打ちを放つ間もなく、攻撃を回避しようと身を躍らせるが‥‥ぬかるんだ足場は彼の身体を刃の間合いから出ることを許さない! 引き抜かれた刃の跡からは噴水のように鮮血が飛び出し、雨水と混じって大地へと落ちていく。
「オォ‥‥ぉ‥‥‥‥」
「ごきげんよう。あなたの名前、結局分かりませんでしたがそれもいいでしょぅ!!」
「どこを見ている!?」
背後から振り落とされたルシフェルの攻撃に回避が遅れるアーク。背中に傷を受け、アークは怒りの形相で先ほど倒したはずの敵を睨み据える。
「貴様‥‥! ‥‥その女とウィザードを殺せ!!」
「面倒事は嫌いな質なんだが‥‥まぁ、関ったからには最後迄ってな!」
「同感だ。例え、この命を危険に晒すようなことがあろうとも、おいそれと退くわけにはいかない」
ルシフェルに斬りかかろうとしたアークの背中を切り裂く矢と風の刃! 感情を露にしたアークは絶叫しながら、部下に抵抗を続ける冒険者の始末を命じる。
ひとしきり叫んだ後、アークは自らを睨み据える視線に気付いて、目を伏せた。
「なるほど、回復役がいたわけか。ヒーリングポーションはリスクが大きすぎるし、リカバーポーションでは治せない傷が多い。‥‥お前『達』が復活した理由はそういうことか」
「言ったはずだ、手加減はできないし、する余裕もないと。一度倒され、もう一度立ち向かうことは卑怯かもしれないが‥‥俺達の戦いはここで終わるわけじゃないんでな」
藍那の治療を受け、アークの背後に立つイグニス。背後から斬りかからせまいとアークの部下が彼の前に立ちはだかるが、長くはもちそうにない。
「我等の狙いはザーランド。目的は果たした。これ以上は互いに疲弊するのみ、引いては貰えぬか」
戦場に響くルシフェルの声。アークは髪に絡みついた水滴を手で払い除けると‥‥背後のイグニスまでもが感じられる殺気を全身から解き放った。
「笑わせるなよ‥‥‥この俺を‥‥‥‥舐めるなアアァアア!!」
猛烈なオーラを纏うアークの刃。牙をむいた策士に、ルシフェルとイグニスは武器を持つ拳を強く握り締め、雄たけびをあげながら突進していった。
●終幕
「止まれ! 貴様らをこれより先に進ませるわけにはいかない!!」
「‥‥ッ、そろそろ逃げるのも限界ですか!?」
背後から迫ってきたベガンプ軍騎馬隊は逃げるクリスとその部下との距離を詰めていく。
このままでは追いつかれてしまうと判断したクリスは手綱を操ると、騎馬を転進させ、敵と向き合わせた。
「騎馬突撃で俺とやり合おうとでも!? 冒険者風情が随分といきがったものだな!」
「ここを突破しなければここまできた意味がないんです。‥‥これが虚勢かどうか、その目で確かめればいいでしょう!」
ランスを構える両者。相手の胸の高さに突き出されたその得物は、馬上突撃でこそその真価を発揮する騎士の誇りとも言うべき武器である。二人は目の中に入り込む雨など気にも止めず、ただ武器を相手の胸へと向けて、騎馬を操っていく!
縮まる距離、微動だにしない両者! さらに縮まる距離!! 先に‥‥クリスが動き、その槍を照準めがけて突き出す!!
『‥‥!!!!』
外れる両者の思惑! クリスのランスは盾に受け止められ、敵のランスはヘビーヘルムを落とすだけに終わる。両者は仕切り直しとばかりに再び距離をとると、ランスを構え直した。
「騎馬突撃の最中に矢とは‥‥卑怯なことをしてくれますね」
「ほざけ、ここは戦場だ。流れ矢の一本に当たることが怖いなら、最初からこんな場所にくるな!」
「なるほど、そういわれるとその通りだという気がしてくるから不思議なものですね」
解き放たれた金髪を小手で払い、敵を睨み据えるクリス。腕に突き刺さった矢を引き抜くと、大地にそれを投げ捨てた。
「‥‥‥‥‥‥」
クリスの一連の行為を、黙って見る敵兵士。これまで戦ってきた敵とは少し違うその立ち振る舞いに、クリスは僅かに口元を緩ませた。
「ご主人‥‥もう一度‥‥お会いしましょう」
不思議と集中力が高まっている感覚がする。周囲では突破したアーノルド兵士とベガンプ兵士が戦っているが、騎馬突撃には介入しないつもりらしい。
奇襲、奇策、豪雨‥‥いろいろあったこの戦いだが、こうやって一対一の戦いで結末を迎えられることは‥‥
『悪い話じゃない!!』
同時に叫び、突撃する両雄、二つの騎馬!! 退きはせぬ、避けはせぬ! それはこの馬上突撃を行う上で最低限のルールだ! 自分は黙って相手の胸にランスを突き出し―――――――勝負を決めんと欲する!!!
「よかった。どうやら‥‥蹴られずに‥‥すみそうです」
胸に刺さったランスと‥‥倒れた敵兵。クリスはランスを胸から引き抜くと‥‥‥‥馬に全体重を預けて、数名の部下と共にゴーヘルド領へと進んでいった。
●余幕
「アーク様、敵兵の殲滅に成功しました。撤退した兵への追撃は行わず、こちらの‥‥」
「見れば分かる! それより早く行くぞ、残存兵の中で動ける者は集まれ!!」
動ければまだ追撃は行える。アークは動ける兵士を纏めると、ゴーヘルド領へと移動していったのであった。