覆される者、歪むもの【最終幕】
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■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 69 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月12日〜08月25日
リプレイ公開日:2005年08月23日
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●オープニング
<ゴーヘルド領>
クラック率いる騎馬隊は、ザーランドからの援軍と合流してより勢力を増していた。彼らは周囲の村々を『解放』しながら、ゴーヘルドの住む城へと向かう。
目的はただ一つ。その城の頂に、ザーランドの旗を掲げるのだ。
「お〜〜、人や馬がきれいに並んで‥‥できれば見たくない光景だったぞぃ」
「申し訳ないラシィーム殿。貴殿のようなご老体にまで出張ってもらい、こちらも‥‥」
ギリギリの窮地にまで追い詰められたゴーヘルドが下した決断は、田舎で隠居生活を送っていた老人を担ぎ出すことだった。かつてザーランドとベガンプが争った際に功績を馳せたその老人は、目を細くして故郷の大地に蠢く陰謀を眺める。
「まさか息子を殺し、孫を捨てた仇に救援を要請されるとはおもわなんだが、これも故郷のためと思えば少しは報われるというものよ。最期の戦いの相手がザーランドだということも何かの運命じゃろう」
「騎馬隊はこちらで雇った冒険者の別働隊が抑えてくれることになっている。どれだけ抑えられるやは分からぬが、せめて‥‥せめてアーノルド殿の救援が来るまでは持ちこたえて欲しい。このゴーヘルドも城に残り、せめて士気だけでも上げる所存だ」
遠くを見つめるような老人に、脂肪に覆われた腕を動かして鼓舞するゴーヘルド。ここにきてようやく、彼の瞳にも覚悟が映るようになっていた。
「親父さんを思い出すのゴーヘルドよ。その瞳が一時的なものにならぬことを信じて、今は戦おう。今や剣は握れぬこの身体じゃが、もう一度、もう一度だけ‥‥‥‥ザーランドを退ける力を我に与えたまえ」
震える腕を突き上げる老人。戦いの時は‥‥‥‥もうすぐそこまで迫っている。
<ゴーヘルド領内・クラック側陣地>
「クラック様、ゴーヘルドの城が視界に映りましたぞ!」
「ようやくここまで来たか‥‥」
部下からの報告に、クラックは全身の疲れを吐き出すように大きく息を吐いた。
冒険者からの襲撃を受けて一週間、襲撃につぐ襲撃は、彼らを極限まで追い詰めていた。精鋭と呼ばれし兵士達の顔にも疲労の色は濃く、呼応して集まってきた兵士達は足手纏い以外の存在にはならない。
だが彼らはこの苦しい状況でこうしてここまで戦い続け、勝利し続けてきたのだ。
「よし、近隣の村に入ろう。そこで休息をとり、決戦に備えるのだ」
重くなった右腕を振り上げ、村へと入っていく騎馬隊。彼らを迎えたのは、沿道を埋めた歓声と‥‥‥‥それとは比べ物にならない程の、民家からの睨みつけるような視線の数々であった。
「どうしてだ。俺達はあいつらを救いに来たんじゃないのか? どうして行く先々の村で熱狂的な歓迎を受けない! どうして皆武器をとって戦おうとしてくれない!?」
「クラック様、落ちついてください。‥‥彼らはまだわかっていないのです。ザーランドの素晴らしさを。ザーランドの町を思い返してください。こんな村など比べ物にならないほど隆盛しております。彼らもきっと時がたてば、わかってくれることでしょう」
俯くクラック。もはや今の彼を突き動かしているのは、剣王と呼ばれるその誇りのみであった。
「終わらせよう。この戦いを終わらせよう。‥‥平和を! 平和をつかみとってみせよう!!」
<冒険者ギルド>
「諸君、前回は奮戦ご苦労であった。負けが決まった戦いに赴くのは苦痛だったことであろう。我らからも五部隊が騎馬隊に挑み‥‥そして散っていった。
だが、敗北は今回で終わらせるつもりだ。‥‥否、終わらせねばならんのだ。諸君らには今回、ゴーヘルド城の近郊にて騎馬隊を迎え撃って欲しい。周囲はどこまでも続く平原であり、騎馬隊の特性が十分に発揮される場ではある。だが、敵は長き戦いに疲れており、その士気や装備は、歩兵の実力も充実しているとは言いがたい。歩兵200名、騎馬隊40名に渡る大軍隊を、諸君ら9名、傭兵70名、正規兵70名で迎え撃って欲しい。時間を稼げば援軍もくるやもしれぬ。頼む‥‥‥‥未来を‥‥‥‥未来を見たいのだ」
頭を下げる依頼人。冒険者達は立ち上がると、騎馬隊との決着をつけるためゴーヘルド領へと向かっていった。
●リプレイ本文
<冒険者側・陣地>
「やれやれ、壮観なもんだね」
鉄製の煙管を手で覆いながら、雨の中煙を吐く名無野如月(ea1003)。彼女の視界の先には、村に滞在し続けるザーランド軍がいる。
エリック・シアラー(eb1715)は敵を村から追い出そうと交渉に向かったが、その答えは『否』であった。しかも、撤退まで勧告したエリックに対し、現地で採用された歩兵が激怒し、エリックが襲われるという事件も発生した。
結局騎馬隊の兵士が間に割って入って事なきを得たが、敵からの謝罪は一切行われなず、エリックは右腕に傷を負った。
『‥‥‥‥!!』
彼女の背後から――こちらの陣地からは時折敵兵に対して撤退・投降を促す勧告が続けられている。士気の低い一般兵士が少数ながら逃げ出しているとの報告も霞遙(ea9462)や叶朔夜(ea6769)から受けているが、敵が動じる事はない。
「体力が万全なら負ける要因はないということでしょうね。負傷で遅れていた騎馬隊が合流しているとの情報も‥‥本当か嘘かはわかりませんが届いて‥‥‥‥」
彼女の隣に立つエステラ・ナルセス(ea2387)。そして、彼女の言葉が終わった時――大きな動きのなかった敵陣から雄叫びがあがった。考えるまでもない――出陣の合図だ!
「南無八幡大菩薩‥‥照覧あれ、ご加護あれ」
煙を吐き、鉄製の煙管を片付ける如月。既にその中に‥‥火はついていなかった。雨の中に浮かぶゴーヘルド城は、うっすらと‥‥どちらの兵士の視界にも映っていた。
「アリエス様に報告! 敵、進軍を開始しました。歩兵隊のみです。騎馬隊の姿は見えません!」
「そうですか。左右とも敵兵の左翼、右翼を中心に狙ってください。中央に敵を誘導し、戦況を有利にします」
部下からの報告を受け、指令をおくるアリエス・アリア(ea0210)。濡れた髪の隙間から見えた彼の目は、決して折れることのない強い意志を持っていた。
「放て!!」
合図と共に、十数本の矢が雨の中を突き進んでいった。
「小手先の罠は突破され、残るは激突のみか。かような戦には向かぬ能力だが、精一杯戦わせてもらおう!」
「その意気ですね。忍とは本来姿を隠すものかもしれませんが‥‥‥‥稀には全面に出ることも面白い!!」
迫る大群を前に、忍者刀を握り締める叶へ微笑みかける霞。彼女の掌から放たれた炎は雨の中を突き進み‥‥突進する敵を怯ませる。
「かつての負けはすべてこの戦いの、この瞬間のためにあったんだ。確かに厳しい戦いになるだろう。だが、ここを乗り切れば道は開ける。これまでだって何とかなったんだ‥‥今回も、何とかしてやろうじゃないか!!」
『オオオォオ!!』
鳴滝静慈(ea2998)に鼓舞された兵士達は後ろへ通さぬために! 故郷を守るために! 怯んだ敵兵士へと向かっていく。ゴーヘルド側の槍とベガンプ側の槍と剣とが交錯し、戦いは進んでいく。
矢の牽制により中央に集められた敵兵士はゴーヘルド軍に包囲される形になり、徐々に劣勢となっていった。勢いに乗ったゴーヘルド軍は一気にケリをつけようと進軍の度合いを強める。
「‥‥‥‥」
だが、そんな戦況であっても後方でアリエスと共に弓兵の指揮をとるエリックの顔色は優れない。
あの時クラックが彼に見せた剥き出しの闘志、それを正面から受け止めてこんな形になるとは思えない。もしかすると敵は‥‥!!!
彼の思考が循環していたその時、大地を揺るがすような騎馬の咆哮が彼の耳を揺さぶった。
●本幕<剣王と呼ばれる存在>
「皆も承知のことだと思うが、この戦いに正義はないかもしれない。‥‥だが、負けて正義は貫けぬ! 負けることは断じて正義などではない!! もとより我らの焼き討ちより始まったこの戦よ! 過程の悪は、将来の正義となろう!! 誇り高きザーランドの騎馬隊よ、今こそ‥‥‥‥貫こう。あの城を、腐った統治者を滅し、せめてもの義を貫こう!!」
村から出たクラックは、ここまでついてきた自分を入れて『50騎』の騎馬隊員へ演説を行う。傷ついた者、既に騎馬を持たぬ者もいるが、その志は何よりも高く、誰もが常に戦うことへ誇りを持っている。この部下のためにも‥‥自分達は勝たなければならない!!
「我等の前の煩わしいものは、歩兵達の貴い犠牲をもって既に取り払われた! 行くぞ!! 栄光を‥‥勝利をこの拳に握り締めんことを!」
騎馬兵はクラックへ敬礼すると、ゴーヘルド側の陣地へと‥‥全てを賭して、一気に突撃していった。
「‥‥っ!! 来るぞ! 槍を構え直せ!」
「急ぐんだ! あいつらの突撃をまともに受ければ、ひとたまりもないぞ!!」
乱戦の最中、無理だとはわかっていても部下に槍を構えさせるように命じるフィル・クラウゼン(ea5456)とベナウィ・クラートゥ(eb2238)。中央に引き寄せるための作戦で敵の歩兵を追い込んだまではよかったが、そこにできた一種の隙を騎馬軍団は突いてくる!
高鳴る咆哮と地響きは、否が応でも彼らに危機感を与えた。
「堪えるぞ! 少しでも長くこいつらを止め‥‥!!」
如月の声は突進してきた騎馬の群に飲み込まれる。エステラはヘブンリィライトニングを放つが、それでも突撃は止まることはない。騎馬はまず敵の歩兵を通過し‥‥そしてついにゴーヘルド軍の前衛と激突した! あっという間に敵陣深くまで入り込む騎馬隊! ゴーヘルド軍の陣形を崩し、乱戦へと移行させる。
「クラック! どのような大義名分を掲げようと、大地を蹂躙し、武力での解決を試みるというのならそれは只の侵略だ! どうしてそれが分からない!?」
「侵略を悪と決め付けるからそのようなことが起こるのだ! 私欲は必ずぶつかり合う、そしてそれを話し合いで解決することなど、もとより不可能なのだ!」
果敢にも下馬して戦う剣王・クラックへと向かっていく鳴滝。彼が突き出したナックルはあっさりと回避され、かわりに返答と共に猛烈な一撃が彼の横腹に打ち込まれる!
「違うな! 戦いの果てにあるものは結局講和だ。戦って、何もかもを失ってから話し合いの貴さに気付くくらいならば、最初から何故話し合いを選べない!?」
「詭弁だな! そのような奴は敵が襲ってくれば逃げればいいなどと世迷言を言うのだ!!」
エリックが放った矢はクラックの剣に切り落とされる。よもやの事態に、驚きを禁じ得ないエリック。クラックは矢をつがえる敵を切り伏せようと足を動かし‥‥上空より降りてきたイカヅチに包まれた。
「逃げるために持つ力を使わないことは情けないことですが、ただ力だけを振り回すのは愚かなことです。それを‥‥」
「‥‥だからどうしたぁ! 最初からこの戦いの盤は設置されていたのだ。我らはその中の駒! 駒が打ち手を倒すことはできぬ。‥‥ならばどうする? 駒は目の前の敵を倒し、倒されぬようにするしかない!」
光の中から浮き上がるクラックの姿。攻撃が効いていないはずはないが、彼が放つ眼光を見てしまったエステラはその身を縮み上がらせる。クラックの突進に、ベナウィとフィルはエステラを守ろうとクラックの前に立ちはだかる。
「エステラさんっ、すぐに‥‥ぃ!」
文字通り『弾き飛ばされる』ベナウィ。雨に濡れた地面に叩きつけられた彼は、ずるずると滑り、地面にめりこんで止まった。格の違いすぎるクラックの動きに、フィルは斬りかかることができない。
「一歩退くか‥‥実力差を考えれば悪くはない選択だろうな。‥‥だが、中途半端な恐怖心は死を招くものとなる!!」
「何を‥‥!!」
向かってくる剣王に防御姿勢をとるフィル。だが‥‥決して腕に覚えがないわけではない彼の防御が児戯に感じられるほどのスピードで、剣は彼の脇腹を引き裂いた!
「フィルさんっ! ‥‥これでもっ!」
「ちぇすとぉぉぉ!!!」
声もなく倒れるフィル。アリエスは悲鳴を噛み殺して矢を放ち、如月はそこでできた隙を突こうと刃を振り上げる! 矢がクラックの右肩に刺さり、振り上げられた日本刀は雄叫びと共に雨粒を上から一刀両断にする!!
「これで‥‥終わりです!! ‥‥!」
さらにエステラが右腕を高々と突き上げれば、天が彼女に‥‥ゴーヘルド軍に味方し方のように、上空から一筋の、しかし強力な光の筋がクラックを包み込む!! エステラはその直後に他の騎馬兵に斬りつけられたが、倒れながらも彼女はこの依頼の成功を確信する。
「やった‥‥‥‥のか?」
豪雨の中、敵と刃を交えながら目を凝らす朔夜‥‥いや、敵味方関係なく誰もが一点を見つめていた。剣王と呼ばれた存在が、円卓の騎士に匹敵するとまで言われた実力を持っているクラックが‥‥‥‥
「まさか‥‥‥‥‥‥」
「‥‥どうした? 夢でも見ていたのか?」
光の中から現れたのは、全身を血に染めた‥‥鬼神の如き表情を持った剣王であった。血に染まった剣は、雨にうたれて小刻みに震えながらも躍動しようという闘志を忘れはしない!
「化け物かお前はあぁ!!」
「違うな。胸を貫かれようとも動く者がいるように、私もまた‥‥動こう!」
叫び、クラックへ矢を斉射するように指令するエリック。矢はつがえようとした瞬間に‥‥敵兵の襲撃を受けて放たれることなく大地へ落下していった。
「一気に突破する! 城めがけて‥‥進め!!」
「ここを‥‥通してたまるかぁ!」
クラックと背後の城の中間点に立つエリック。ここまでくればどの道あとなどないのだ。城が、守るべき対象が背にある以上、手に持ったものが弓だろうと相手が剣王だろうとそんなことを言っている場合ではない!!
「よくぞここまで戦った! お前の名前、この俺の剣に刻んでおこう!!」
「そんな賛美など不要だ、戦いは‥‥勝敗のみで決する!!」
激突する両者! 勝敗は一瞬で決する。何故動けるのかもわからぬ男の剣は、尚も立ち塞がる男を弾き飛ばす!!
勝利を手にした剣王は、突破の指令を出そうと口を開き‥‥‥‥言葉をつぶやいた。
「オオォオオオ!!!」
「‥‥ポーンがビジョップを討つか‥‥‥‥とんでもない珍事だ」
鳴滝の拳を受け、雨の中ゆっくりと空を跳ぶ剣王。雨が彼の鮮血を洗い流し‥‥彼は動かなくなった。
「や‥‥た‥‥の‥‥」
「動じるな! 我らの指令はまだ終わっていない!! 動ける者は突破せよ! そうクラック殿は仰せである!!」
鳴滝の脳天を剣の柄で殴った騎馬兵の一人は、嘆くように、しかし力強く戦場に叫び声を轟かせた。後方から大きな発光が起こり、十騎程度の騎馬が戦場から抜けていく。
「いいぞ、行ける!! ジーフリドの爺さんに嫌味を言われなくてすまなさそうだ!」
駆け抜ける騎馬、みるみる近付いていくゴーヘルド城。既に視界には、ゴーヘルド領の命運を賭けた戦いが行われている様子が見て取れる!
さらに北からは援軍らしき騎馬の軍勢が!! その騎馬隊の先頭を走っていた重装備を身に纏った男は、彼らの前で止まると開口一番、こう叫んだのであった。
「アーノルド・シュペル様の命を受け、ゴーヘルド殿への援軍として来ました。あなた達をここから先に通すわけにはいきません!!」
「‥‥舐めるなよ田舎兵士が。我らは誇り高き、クラック様率いる騎馬隊だあぁああ!!!」
十の騎馬は傷だらけの五の騎馬へと、自らの誇りを賭して突進していった。