【合混】炎が見える!【第一話】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 22 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月29日〜07月09日

リプレイ公開日:2005年07月09日

●オープニング

<ロムン教・地下祭壇>
「ロムン様からの予言じゃ‥‥‥‥火が、火が見える。邪なる金を扱う町に‥‥ザーランドに‥‥火の手が‥‥」
「ラートマ様、その予言の意味とは!?」
 闇を蝋燭一本だけが照らす中、ラートマと呼ばれた老婆は、教祖であり現人神であるロムンから告げられた予言を信者達に伝える。
「ザーランドは我らを根絶やしにせんとする悪魔よ。数ヶ月前にも、我等の祭殿の一つが天罰を恐れぬ愚か者に破壊された。そして奴らは天罰の影響を受け、争いに巻き込まれた」
 信者から起こる喝采の声。そうだ、奴らは祭壇を破壊したから戦に巻き込まれたに違いない。
「じゃが、それではまだ足りぬ。我らが勇敢な戦士、ハーノフもザーランドの手の者によって殉教した分の天罰を、神はまだザーランドに与えてくださってはおらぬ! 何故か!! それは我等の信心を試す神からの試練だからである! ‥‥火をつけよ、火をつけるのだ。ザーランドの全てを、我等の手で紅蓮の炎に包み込んでしまえっ!!」

<ザーランド>
「レクア様、北より紫の大軍団が‥‥ロムン教の信徒達だと思われます」
「‥‥またか。世の中が興廃すれば人は宗教にしか興味を示さなくなるとは言うけれど、どうしてそんな非合理的なものに手を出すのか僕には理解できないね」
 大きく溜息を吐くザーラル・レクア。邪教と言い捨てるのは簡単だが、死をも恐れぬ行進、そして熱狂的に信じるがゆえに他のものを一切考えられなくなるその凶行は、彼にとっても一つの悩みの種である。
「軍団はジーフリドの弓撃隊とクラックの騎馬隊に任せよう。‥‥これほど大げさに来た敵の進軍は明らかに陽動だ。町の防衛は燕に、警護は‥‥‥‥冒険者と傭兵を雇おうか。彼らにはとにかく徹底的に、怪しい者を捕らえるよう通達を出してくれ」

<冒険者ギルド>
 ロムン教という邪教がクロウレイ地方の一部で幅を利かせている。
 奴らは信者からの布施による収入に加えて『奇跡の水』などという紛い物を売りつけて多額の金を稼いでいる。
 さらに、夜な夜な学識のある者や力に秀でた者を襲い、誘拐しては信者として、資金・人材の両面で大きくなってきている。
 無論我がザーランドはロムン教団を壊滅すべく、これまでも幾多の祭殿を破壊してきたが、奴らの根は思いのほか深く、なかなか壊滅させるまでいっていない。
 今回、諸君ら冒険者に頼みたいことはザーランド北にある町の警備である。事前に捕らえた信者を一人尋問したところ、奴らはザーランドの首都を含む幾つかの町に火を放とうとしていたことを白状した。
 もちろん我々はこれを許すわけにはいかない。町は広いので、二人一組に分隊し、徹底的に警備して欲しい。よろしく頼むぞ。

●今回の参加者

 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

空魔 玲璽(ea0187

●リプレイ本文

●序幕
<町>
 夜‥‥月すらもない夜。
 誰もが眠りこけ、静まりかえるはずの夜だった。
「‥‥‥‥おかしい」
 闇に身を溶かした男は異変を感じていた。人の気配を感じる‥‥‥‥正確にいえば彼は人の存在を感知できる。
「動いているな。情報が漏れたのであろう。神を恐れぬ愚か者が数多くいるということだ。‥‥嘆かわしい」
 歩を早めず、ゆっくりと町を歩く男。己が置かれている状況など理解している。こちらに迫る輩‥‥それは‥‥‥‥
「あや? こんな時間なのに起きてる人がいる?」
 チカ・ニシムラ(ea1128)の声が黒い空に吸い込まれていく。声をかけられても動じることなく、笑顔で振り返る男。
「こんな時間に何を‥‥っ!!」
 掌から飛び出した吹雪に包まれ、声を中断される閃我絶狼(ea3991)。警笛が一度鳴り響くと、彼は吹雪の中ショートソードを引き抜いた!
「‥‥尋問する手間が省けた。一気に終わらせてやる!」
 闇に浮かび上がる剣閃、鮮血。男は肩を抑えたまま背を向けて逃走を開始する。
「っ、浅かったか!」
「絶狼お兄ちゃん、早く追わないと」
 チカの言葉を受け、リカバーポーションを服用した後に男の後を追いかける閃我。だが、敵の速度は存外に速く、二本の武器を持った彼では追いつくことができない。
 ‥‥彼の視界から男の姿が消えるまでに、さほど時間がかからなかった。

<教会>
「聞きましたか? 昨日閃我さんとチカさんが敵を発見したらしいですよ」
 巡回時間を終え、やれやれと宿舎に腰をおろすレイリー・ロンド(ea3982)。常に巡回を行っている以上、情報の伝達はどうしてもゆっくりになってしまう。彼は幾重にも噂を重ね合わせ、ようやく昨日起こったことを理解することができた。
「取り逃がしてしまったみたいだけどね。他にも幾つかボヤ騒ぎはあったみたいだけど、みんな防げているみたい」
 住人から貰った紅茶をすすり、レイリーにもたれかかるようにして返答するサリュ・エーシア(ea3542)。緊張感から解放されたからか、それともレイリーが隣にいるからかは分からないが、彼女の表情は安堵に満ちている。
 掌を合わせ、指を絡ませるだけで温もりと幸せを感じられるということ。同じ時間を共有するだけで喜びを感じられるということ‥‥‥‥二人だけのこの時を、二人は言葉を交すことなく感じていく。
「君に渡したいものがあるんだ‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 教会の中で、木戸の隙間から月が見える中、無言で頷くサリュの指に指輪を通そうとするレイリー。風が通り過ぎる中二人は微笑み‥‥‥‥四方から連続して響いた警笛によって依頼に引き戻された。

●一幕
「どうなってるんだ! ‥‥こいつら、正気なのか?」
「町に火をつけようって時点で正気じゃないでしょ。一つだけ言えるのは、依頼内容は既に『警戒』から『戦闘』に変化したってことだね」
 目の前で起こった光景に驚くリ・ル(ea3888)と、舌打ちするジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。町の住民が放火に注意を払い、不審者を冒険者が追い立てればそう簡単に放火などできるはずもない。ゆえに放火を企てたロムン教は町の拠点をも引き払い、話し合いを始めた。
「火がつかぬはずがない! 予言は守られる。予言は実行される!!」
 そして結論は驚くほどあっさりと導き出される。『予言が外れる』わけにはいかないのだ。それは自分たちのそんざいを否定されることになる。よって皆武器を持つ、住民を襲う、冒険者を襲う‥‥理性的に考えれば、その結末などわかりきっていようとも。
「数はざっと十人。ほとんどが素人みたいだけど‥‥これは早く混乱を沈静化させないとまずいねぇ」
 矢が紫のローブに身を包んだ男を捉え、男はその場にうずくまる。ジョセフィーヌは弓を手に持ったまま、避難係をお願いしていた住民のもとへと走っていった。
「やれやれ、恋人作成にはちょっと雰囲気が険悪になってしまったな。‥‥というより、この状況下でカップルになれる奴はいるのか!?」
 チェーンホイップで信者を転倒させ、毒づくリル。振り向けば敵のリーダー格らしき男が剣を構えてこちらに向かってきている。
「‥‥まあいい。そういうことはこの騒動を解決してからゆっくり考えるか」
 一合で地面へと叩きつけた敵を見下ろしつつ、リルは住民の安全を確認するために持ち場を奔走していく。
「どうしたんですか!?」
 そこに手を繋いだまま現れるレイリーとサリュ。リルは脳裏に過ぎった先ほどの言葉を打ち消すと、二人に状況を説明する。
「なるほど、それなら‥‥‥‥急ぎましょう!」
 鼻を刺すような匂いに気付き、彼らが空を見上げればそこにはうっすらと立ち昇る黒煙があった。レイリーとサリュはリルにこの場を任せると、黒煙の立ち昇る方向へと走っていった。

●二幕
「信者を見捨ててまで火をつけたいか‥‥陳腐なもんだな、お前たちの信じるものは!」
「違うな、皆自らの意思で殉教しようとしている。お前たちなどにはわからぬものなのだよ。ロムン様の教えはな」
 絶叫とともに刃を振り落とす夜枝月奏(ea4319)に対し、家に火を放った男の声は抑揚がなく、まるでこちらを哀れむようにも聞こえてくる。刃と刃が交わり、両者とも傷を負って一旦距離をとる。
「我は夜駆守護兵団団長‥‥邪教無に還るべし。永劫の追撃者の名に賭けて標的は、必ず追い詰める!」
 その間合いをクレア・クリストファ(ea0941)が唱えたミミクリーは強引に破壊し、トールの十字架を打ちつける。
「邪教だと!? 違うな、お前達は知らないだけなのだ。ロムン様の偉大さを、真理とはなんということなのかを! 見ろ、炎は燃え盛った。いずれこの町を覆い尽くすであろう。我らを妨げしザーランドは神の業火に焼かれるのだ!!」
「黙れ、こっちはお前達の教えなんて聞きたくもねぇんだよ!! 燃えるのは‥‥そっちの方だ」
 徐々に大きさを増していく炎を背後に叫ぶ男。時間がないと悟り、炎を剣に纏わると間合いを自ら詰める夜枝月。男はカウンターを狙い、眉間目掛けて長い腕を伸ばす!
「‥‥浅いんだよッ!!」
 額から派手に鮮血が流れ出し、彼の言葉とは裏腹に夜枝月の視界を塞いでいく。だが、夜枝月に躊躇などない。敵の姿が見えなくなった今、この一撃で止めを刺さなければ勝ち目などない。誰か他の存在ではなく、自らの力量を信じて彼は炎纏う剣を振りぬいた。
「やめるんだ夜枝月さん。もう決着はついた。サリュに治療させるからその場から動かないでくれ」
 確かな手応えを感じた後にも刃を下ろそうとしない夜枝月に、駆けつけたレイリーが言葉をかける。夜枝月はガチガチに固まった指を一本ずつほぐしていくと、視界を塞ぐ血を拭おうともせず、その場に腰を降ろした。

●三幕
「誰かと思えば‥‥昨晩も会ったな。決着をつけるためにわざわざ舞い戻ってきてくれたのか?」
「戯言だな。決着など大いなる予言の前では意味を成さない。貴様らがどうあがこうとも、既に決着はついているのだよ」
 三名の敵を眼前に、チカの前に立ちながら何とか時間を稼ごうとする閃我。相手が予言だの言っている間にチカが魔法を詠唱することができれば、この局面を有利に展開することができる。
「そういうな、こっちは‥‥やるつもりだ!!」
「わかってねぇな、決着は既についてるって言ってるだろぉ!」
 突進してきた敵の武器めがけて攻撃する閃我。激しい金属音と共に武器がいななくが、破壊までには至らない。逆に男が突き出した刃が閃我の腹に刺さり、激痛と共に彼は片膝を突く。
「とどめだ。この吹雪に‥‥れよ!!」
「ええぇーい!!」
 後方で呪文を詠唱していた信者の掌から魔法の雪が飛び出すのよりも早く、信者を貫くライトニングサンダーボルト。攻撃を受けてバランスを崩した信者の掌はあらぬ方向へ向き、吹雪は閃我から逸れる。
「グッ、これしきで‥‥‥‥」
「諦めるのだな! お前達の予言は潰えた。空を見てみよ!」
 体勢を立て直し、高速詠唱を行おうとした信者の首筋につきつけられるリュウガ・ダグラス(ea2578)の日本刀。セイラ・グリーン(ez0021)に持ち場を預けて応援にかけつけた彼は、尚も戦う意思を見せようとする三名の信者に空を見るよう諭す。
 視線を空に移せば、消火作業がうまくいったのか先ほどまで黒かった煙はいつしか薄くなり、白く‥‥そして徐々に透き通るほど薄れていった。
「大人しく法の裁きを受けよ。返答次第では‥‥この場で手を打たなければならない」
「‥‥‥‥ハハハ‥‥‥‥シネ‥‥ェ‥‥‥‥」
 自らに掌を向けた男を切り伏せるリュウガ。残る二名の信者は勝ち目がないと見たのか、背を向けて町から脱出しようとする。
「残念。あんたらが燃やそうとしたものの大きさを‥‥噛み締めな」
 屋根の上からジョセフィーヌが放った矢は逃走しようとしていた二人の背を打ち抜き‥‥‥‥結果として冒険者達はこの二名を含む十数名の信者を捕らえ、依頼を達成したのであった。

●余幕
「ご苦労であった。この犯罪者どもの身柄は我がザーランドが引き受けよう。諸君らのように有能な冒険者は今後も大歓迎だ。是非ザーランドの依頼を受けて欲しい」
 翌日、ザーランドから派遣されたらしい役人が信者の身柄を引き受け、冒険者は帰路につく。炎は灯ることなく、予言は煙のように消えていった。ザーランドへ向けて南下していた集団も、クラック率いる騎馬隊に一蹴されたらしい。
 ザーランドはロムン教を壊滅すべく本格的に動くと言っているが、その動きはどこか鈍い。‥‥そう、何か、大きな出来事が起こる前触れのように。