【合混】炎が見える!(第二話)

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 47 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月20日〜07月28日

リプレイ公開日:2005年07月27日

●オープニング

<ザーランド>
「レクア様、ロムン教の軍勢はクラックの騎馬隊が一蹴し、混乱に乗じた放火も食い止めることができました。我が方の完全勝利です!」
 熱の篭った声で報告文を読み上げる執事。だが、当のザーラルはというと椅子の背もたれによりかかったままで、それほど嬉しそうな表情を見せることはない。
「どうしたのですレクア様。これでロムン教の一派は既に壊滅状態になったというのに‥‥」
「その程度のことで小躍りしているようじゃ指導者はやってられないよ。ロムン教は今後も根深く残るだろうけど、脅威ではなくなった。過去になったものに視線を向けるより、もっと現在の懸案事項に目を向けなければならないのさ」
 そう言ってロムン教関連の報告書をつき返すザーラル。極度の合理主義者である彼にとっては、作戦の成功に喜ぶことなど無駄以外の何者でもないのだろう。
「それにしても、今回雇った冒険者達はかなり優秀だったようだね。‥‥ギルドに依頼を出してくれないか? 彼らに名誉ある仕事をしてもらおうと思うんだ。まあいくら彼らが有能だとはいえ、依頼達成は少し難しいとは思うけどね」

<ベガンプ・古城>
「ジーフリド様、外はベガンプ兵によって囲まれました。軍団を指揮しているのはベガンプ一の剣士にして策士であるラミア・アークです。我々も戦いますが、武人らしい最期を遂げるお覚悟だけはされるようにしてください」
「‥‥‥‥なんということだ」
 部下からの報告に頭を抱え、俯くジーフリド。境界線近くの戦いで勝利し、調子に乗って無人の敵拠点を征圧したまではよかった。‥‥いや、正確にはそれが敵の罠であったということに気付くまでは!
 起死回生を狙い打って出れば、ラミア・アーク率いる軍団に敗れ手勢の半分以上を失った。城門は崩れかかっており、そう長くもちこたえることもできない。絶望、逆境、絶体絶命、背水‥‥‥‥言葉を探せばいくらでも見つかるが、大事なのはもちろんそんなことではない。
「援軍が来るまで耐えるのだ。ザーラル殿のことだ、敵の手勢を蹴散らしてくれるほどの大軍隊を‥‥クラックの騎馬隊を連れてきてくれることであろう」
 僅かな希望に望みを託し、ジーフリドは神へ祈りを捧げるのであった。

<冒険者ギルド>
 我がザーランドにおける有力者の一人、ジーフリド殿が敵に囲まれ窮地に陥ってしまっている。我がザーランドはジーフリド殿を救出すべく、即座に援軍派遣を決定した。
 本来ならば諸君ら冒険者に頼むような事項でもないのだが、前回見事な手腕でロムン教の一派を退治してくれた君たちならばと、今回は特別に、君たちに名誉にもジーフリド殿救援のための部隊を指揮してもらうことにした。
 既に諸君らの部隊に編入すべき傭兵40名はこちらで雇い上げた。敵の軍勢は80名程度で、ジーフリド殿も手勢を持っているであろうから互角の戦いはできるであろう。
 それでは、諸君の健闘を祈る!

●今回の参加者

 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ノア・キャラット(ea4340)/ 獅臥 柳明(ea6609

●リプレイ本文

●序幕
 夜空に鳥が舞う‥‥銀色の毛並みをしたその鳥は、城を変則的な布陣で包囲するアークの軍を一瞥すると、城の後方にそびえ立つ崖の上へと飛翔していった。

「とりあえず装備を渡しておくから服を着た後‥‥」
「構わないわよ。どうせすぐ鳥に変身するんだもの」
 鳥に変身していたクレア・クリストファ(ea0941)は、あっけらかんとした口調で閃我絶狼(ea3991)からの衣服提供を拒否すると、あらかじめ用意していたロープを樹木に結びつけて下に垂らす。
「まあ構わないんなら俺も構わないんだが‥‥」
 装備をバックパックにねじ込み、リ・ル(ea3888)から借り受けたフライングブルームを用意する閃我。ロープの強度を確認すると、呪文の詠唱に入ったクレアを一瞥し‥‥彼女の方向へと疾走する!
「‥‥丸腰の女性を狙って恥ずかしくないのか?!」
「くだらない理由だな。丸腰だろうとお前達が何をしようとしているかくらいは理解できる!」
 クレアへと向けられた攻撃を右肩で受け止める閃我。激痛と、そしてそれ以上の憤怒に顔を歪めながら、抱きつくようにして敵の動きを封じる。
「城に向かってくれ! こいつは俺が片付ける」
「‥‥‥‥」
 無言で頷き、鳥へと変身するクレア。書状をクチバシで挟むと、そのまま城へと急降下していく。
「フン、逃げられたか。城に向かい何をするつもりか知らぬが、諦めることだな。アーク様の策略からは逃れられぬ!」
「くだらないこと言う奴だ――――諦めていないから、ここに立っているに決まっているだろう!!」
 腕を切り落とそうと力を込める敵に足を絡め、左腕で弾き飛ばす閃我。肩から刃がブスリと抜け、傷跡から鮮血が滝のように流れ出る。閃我は武器を強く握り締めようとするが、傷口が予想以上に深く、握り締めるどころか持ち上げるだけでガタガタと震えてしまう。
「これからでも遅くはない、諦めろ!」
「断る! 前回と何ら関連のない依頼だが、受けてしまった以上引き下がれるか!」
 ほとんど感覚のなくなった右腕を犠牲にして男の一撃を薙ぎ払う閃我。ゴロゴロと転がって距離をとると、ヒーリングポーションを服用する。
「怪我がなくなれば互角のつもりか!? 俺は冒険者に負けるほど弱くねぇ!」
「こんなところでつまずくつもりはないっ!!」
 刃を振りかぶる両雄! 防御など考えもせずふり抜いた一撃はそれぞれを弾き飛ばし、閃我とベガンプ軍の男は‥‥‥‥まっさかさまに崖から転落していった。

●一幕<冒険者陣地>
「クレア殿は無事だろうか‥‥」
「クレア? リュウガの旦那の『コレ』ですかい?」
 夜、最低限の焚火を囲んで陣を敷く四十四名。リュウガ・ダグラス(ea2578)は自らの意を介さずポツリと出てしまった言葉に表情を変え、傭兵からの質問には頑として答えない。
「こら、色恋沙汰をあまり追及するのではありません。人それぞれ、秘めたる思いを胸に込めて‥‥」
 そういうことには鈍感なのか、まるでフォローになっていない夜枝月奏(ea4319)のコメントを手で塞ぐセイラ・グリーン(ez0021)。リュウガはというと、ガックリとうなだれたまま動かなくなった。
「ははは、まあ気にするな。この戦いは‥‥‥‥!!!」
 リルが結束を深めるために和やかに場を纏めようとしたその時、周囲を取り巻く森の隙間から、ザワザワと木々が擦れ合う以外の音を‥‥誰もが感じ取った。
「こうも早くこっちの存在がばれるなんてな。しかも囲まれて‥‥‥‥焦らなければどうってことない! 全員焚火を中心に陣を展開しろ!!」
 リルの独白は自らが置かれている立場に覆い潰され、傭兵達は怯え半分、期待半分の面持ちで森を凝視する。
「敵の数は四十人くらいだよ〜〜。ほんとに囲まれてるんじゃなくて、前と後ろにだけいるって感じかな」
 森の中から最初に駆け出してきたのは武装したベガンプ兵ではなく、ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)が発見した敵の全体像を魔法で感じ取ったチカ・ニシムラ(ea1128)であった。チカは乱れる息を整えながら冒険者達に情報を伝達する。
「‥‥だ、そうです。皆さん、仕官と報酬目指して戦いましょう!」
 兵士を鼓舞させる夜枝月。
 戦いは数分の混乱を生み‥‥敵の退却と共に終焉を迎えた。

●二幕
「カハッアアアア!!」
 フライングブルームによって城に着地すると共に、意識が薄れるほどの激痛を発する胸を抑えて転がりまわる閃我。
「やれやれ、俺が片付けるとか叫んでおいて、薄氷の勝利だったみたいね」
 朦朧とした視界に映るクレア。見ればザーランド軍のものらしき服と鎧を装着している。
「‥‥るさぃ。勝っただけ‥‥マシだろう」
 兵士にポーションを服用させてもらい、何とか立ち上がる閃我。クレアはゲラゲラと笑いながら、兵士と共に城内へ歩いていった。


「クレア殿、貴女は粘り強い人だな。だがどのような説得をされようと、この私は部下を見捨て逃げ出すことなどできない。レクア殿の書状にしてもそうだ。現状を報告する義務だと? 奴はあくまで富裕者であって私の主君でもなければ上司でもない。下劣な、命令にもなっていない指令に従う必要があろうか?」
 城に入った後の閃我とクレアにはもう一つ大きな仕事が残っていた。それは古城にたてこもる軍の大将・ジーフリド『だけ』を城から脱出させるというものである。
「この作戦はあなたの部下を見捨てるものではありません。勝利のためにどうしても必要なものなのです。ジーフリド殿の部下を大切に思う気持ちは分かりますが、これはあくまで作戦のためなのです。ここに残っては、かえって部下の命を無駄に‥‥」
 ここまで言葉を紡いでクレアは言葉を止める。
 いや、正確に言えば止めざるを得なかったと言ったほうが正しいだろう。彼女を見下ろすジーフリドの視線は刃のように鋭く、とても敵軍に敗戦を喫した将のそれとは思えない。
「なるほど。‥‥ならば問おう、クレア・クリストファ殿。貴女はこの城に残り、部下の最後の一兵が逃げ延びるまで、死に絶えるまで奮戦できるとここで誓えるか?」
 当初、『ジーフリド以外の兵士が命を落とすことやむなし』と考えていた冒険者達からすれば論外とも言えるジーフリドからの提案。
 だが、この言い知れぬ重圧を受けてクレアは悟ったのだ。自分はこれから冒険者ではなく、古城に追い詰められた覚悟ある兵士を指揮する者になるということを。相応の覚悟を持たねばならないということを!
「‥‥はい! 夜駆守護兵団団長の名誉に賭けて、戦い抜いて見せましょう!!」
「よろしい。諸君も聞いたな。‥‥我らも然り、この者達もレクアに見限られた者の集まりよ! だが‥‥叶うならば、騎士として恥ずかしくない形で、また会おう!」
 退出するジーフリド。敬礼する兵士達。跪いたまま動かないクレア。呆然と一連の動きを眺めていた閃我。
 戦いは既に始まっており、冒険者もそれに交わった。
 最早退く道など残されてはいない。残されるは‥‥戦い、生き残るのみ!!

●幕間
「アーク様、奇襲作戦は成功いたしました。敵は出鼻を挫かれ、退却した模様です。我が軍の被害は軽微! ‥‥ですが、本当に追撃せずともよろしかったので?」
「陣が伸びれば敵に突かれる原因となる。我らは陣形的には絶対的に不利な状況に置かれているのです。せっかく追い詰めたジーフリド殿に逃げられてしまっては惜しい」
 部下からの報告を聞き、満足げに頷くラミア・アーク。これで援軍も思い切った手には打って出られまい。
「並びに、崖の上にいたフォードからの報告なのですが‥‥‥‥」
 だが、彼の笑顔も続いての報告によってかき消された。奇跡的に生き残った部下から寄せられた情報によって、また一つ不確定要素が追加されたのだ。

●終幕
「諸君らに誇り高き月と、崇高なる夜の恩寵を! 撃て!!」
「怯むな! あとは攻め切るだけだ!」
 戦いは突然に、敵が城に作成してあった抜け道から侵入してきたことによって始まった。城内は乱戦となり、金属音が至るところで響き渡る。

「ジーフリド様、ここは危険です。お退き下さい!」
「あなたは既に無茶な突撃で部隊の半数を失いました。同じ失敗を繰り返すつもりですか!? 自らの命の重さを‥‥」
「黙れェ!! ここまで連れだった者達を置いて逃げるなど死ぬにも勝る恥よ! 貴君らは恋人を置いて逃げるか? それと同じことよ!」
 レイリー・ロンド(ea3982)と夜枝月の制止を振り切り、敵陣へと突っ込んでいくジーフリド。夜枝月はジーフリドへ怒りを覚え、レイリーはサリュ・エーシア(ea3542)の手を引いて彼の後を追う。

「勝負はついた、降伏したまえ。どんな魔術を使ったのか知らないが、ジーフリド殿を脱出させ、あまつさえ寄せ集めの部隊で我が軍とまともに戦った君の手腕には感心しているんだ。リル君、是非君にはこちらの依頼を受けて欲しいんだよ」
「男にナンパされるなんて心外もいいところだ! せめて場所くらいわきまえろ!!」
 勝利を確信したラミアは微笑みながらリルと刃を交える。冒険者と傭兵の軍は既にラミアの軍に押し切られ、敗走を始めていた。
「部下を見捨てず、最後まで戦おうとするその胆力も‥‥ジーフリド!?」
 背後から敵が迫ってきたことよりもその人物に驚き、思わず攻撃を受けてしまうアーク。気概だけで生きる騎士・ジーフリドの噂は聞いていたがまさかここまでとは!
「ジーフリド殿! 早く逃げろ! いつまでこんなところにいるつもりだ!?」
 他兵士に食い止められ、ジーフリドの助けに入れないリル。その間にも、アークはジーフリドの刃を弾き、首筋に一撃を打ち込もうとする。
「これで‥‥させない!」
 サリュが放ったホーリーを受け、僅かに逸れるアークの切っ先。距離を取るジーフリド。怒りに震えるアークは、その刃の向きをサリュへと変える!
「‥‥あんたが何者かなんてのに興味はないが、この人を傷つけさせることだけは許さない!」
 攻撃を受け、胸元から血を流しながらもアークへ切りかかるレイリー! アークは歯をギリリと噛み締めて距離をとらざるを得ない。
「弓の極意は‥‥どんな状況下でも気配を消し、一撃必中の狙いを定めること!」
 そして畳み掛けるように彼に放たれるジョセフィーヌの矢! 矢を肩に受けたアークは、部下に囲まれながら指揮をとるため古城の方向へと歩いていく。
「待て! あの人を包みし大いなる父の御加護を無駄にさせないためにも、お前をここから先に通すわけにはいかん!」
 そんな彼の前に立ちはだかったのはリュウガであった。逃げ遅れたのか、傷だらけになり、敵に囲まれた状況でも彼の瞳から闘志が消えることはない。
 アークは最初驚いた表情を見せていたが‥‥やがて天にも届くような笑い声を響かせた。
「ハハハハ!! まったく、前にも言ったが、今回の件で本当に君たち全員を引き抜きたくなったよ。‥‥だが、残念だったな。後ろを見ろ! 城に掲げられし旗を!!」
 アークが指差した方向‥‥古城では、ベガンプの旗が風にゆれて大きくなびいていた。
「これが最後の警告にしておこう。次に敵としてまみえたなら、いかに君達が優秀な人材でも、生かしたりはしない! 覚えておくんだな!!」
 リュウガの脇を通り過ぎるアーク。‥‥リュウガは、拳を握り締めたままその場から動くことが出来なかった。

●余幕
<古城>
「クレア様、閃我殿。ここは我らが食い止めます! どうかフライングブルームにてお逃げを! 崖のロープをつたえば逃げることも叶うでありましょう!」
「だけど、私は‥‥」
 撤退につぐ撤退でいよいよ追い詰められた城内の兵士達は、冒険者である二名に撤退するよう告げる。だがクレアはというと、ジーフリドとの約束を思い出してどうしても及び腰になる。
「あなたは軍人ではありません。ここで死ねば犬死となりましょう! 脱出してジーフリド様に‥‥我等の仇を討ってくれとお伝えください。‥‥美しき隊長に栄光あれ! 私は騎士としてあなたを守るために戦い、散りましょう!!」
 突撃していく兵士達。響き渡る金属音と耳に残る肉が裂ける音。クレアはヒュルケンと名乗った彼のもとへ向かおうとしたが、それは閃我によって止められた。
 フライングブルームが夜の空に舞い‥‥古城は完全に陥落したのであった。

<元冒険者陣地>
「みんな逃げたみたいだよ。私たちも早く逃げないと」
「わかっているチカ! ‥‥逃げるぞジーフリド殿。貴方は最後までよく戦った!!」
 リルは城が落ち、呆然とするジーフリドを駿馬に乗せると、彼と共に強引にその場から退却していったのであった。

 ザーランドに到着した冒険者は賛辞の言葉をもって迎えられ、成功報酬を受け取ったのであった。