戦士と戦い<第一話>

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月22日〜08月25日

リプレイ公開日:2005年08月31日

●オープニング

<エールハウス(林檎亭)>
 ここはキャメロットから歩いて半日ほど離れたエールハウス・林檎亭。
 筋肉質のマスターがつくる料理は、彼がつくったとは思えないほど繊細で、気の行き届いた見た目にも美しい料理はどちらかというと男性よりも女性に受けがよい。よってこの店は知る人ぞ知る名店として、きょうも多くの女性で賑わっていた。
「‥‥たいした名じゃないが、俺は円卓の騎士の一人、アグラヴェインだ。きょうは聖杯を探索する途中で偶然このような店をみつけたが、君のような美女に出会えて幸運だ」
 そんな店内で、ご多分に漏れずエールを掴みながら女性を落とそうとしている男の影が一つ。円卓の騎士として‥‥そして無類の好色かつ好戦的な人間として名高いアグラヴェインである。
 彼は身体に入ったエールも手伝ってか、自分の感情を隠そうともせずに綴っていく。
「円卓の騎士‥‥というと、ラーンス・ロット様と同じ‥‥‥‥」
「悪い冗談だな。問題もあったが、オークニー家はイギリスでも名高い名家。田舎者のラーンス・ロットなどと同じにされるのは心外だ!」
 叩かれた机は強烈な衝撃を受けて飛び跳ね、置いてあったエールが一瞬宙に浮く。感情を露にしたアグラヴェインに驚き、その場から退散する女性を尻目に、アグラヴェインは『アーー!!』と大きな声をあげながら椅子にもたれかかった。
「そもそもの元凶はラーンス・ロットの奴だ! たいした実力も実績もないくせにアーサー王に重用されおって! 近い将来、あいつには俺様の実力を分からせなければならないようだな」
 公然とラーンス・ロットやアーサー王に対して不満をぶちあげるアグラヴェイン。いつものこととはいえ、その二人の実力は誰もが認めるところである。不満を聞く部下たちの心情は決して穏やかではない。
「アグラヴェイン様、まさかラーンス・ロット様に決闘を‥‥」
「たわけっ! たいした理由もなく、負ける可能性のある勝負など挑んでたまるか。あいつは別の機会に‥‥もっと合法的に、集団で倒せるような時にとっておくのだ」
 エールを一気に飲み干すアグラヴェインに、安堵の息を吐く部下たち。アグラヴェインがラーンス・ロットに負けるとは思いたくなかったが、勝てるとは思えなかった。それに円卓の騎士同士が戦い、どちらかが死ぬということはイギリスにとって大きな打撃となっていしまう。
「だがなんにしろ、俺様の力がラーンス・ロットよりも下に見られているということはゆゆしき事態だ。‥‥たまには女以外の気分転換でもするか?」
「‥‥ハッ! 至急ギルドに向かいます!!」
 目も虚ろになったアグラヴェインからの提案を受けて、すぐさま外に繋いであった馬に乗り、ギルドへと走る彼の部下達。
 合法的に強さを示せる機会を――――自分達が上だということを示せる機会を! 彼らもまたアグラヴェインと同じように欲していたのだ。

<冒険者ギルド>
 円卓の騎士の一人、アグラヴェイン・オークニーとその部下六名から、自らの力を高めるために冒険者の猛者と一戦交えたいとの申し出があった。
 場所はキャメロットから歩いて半日離れたエールハウス『林檎亭』の前。時間は夕刻。方法は七対七の乱戦だそうだ。
 武器は真剣を用いて構わないが、使う者は寸止めもしくは刃の腹での打撃にするよう『注意』すること。魔法を使うことは構わないが、範囲が広範に及ぶものや矢の使用は被害が観衆に及ぶ危険性があるため禁止とする。
 また、戦った相手がいかなる負傷を負おうとも、傷つけた者は責任を負わない。

 円卓の騎士と刃を交え、本当の実力というものを経験するまたとない機会である。
 勇気ある諸君らの参加を期待する。

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0970 ゴルス・ヴァインド(50歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

高葉 龍介(ea1745)/ イドラ・エス・ツェペリ(ea8807

●リプレイ本文

●一幕
 林檎亭の前にある、綺麗に刈り揃えられた芝の上には、開店当初まで遡ろうとも記憶にないほどの人が集まっていた。
 もはや周囲はちょっとした御祭りである。屋外にはキャメロットから運び込まれたテーブルが並べられ、林檎亭から途切れなくエールと料理が運ばれる。集まった観客は、これから始まる見世物をさかなに、料理を口に運び、気持ちよく馬鹿げた倍率の賭けにお金を落としていくのだ。

「‥‥模擬戦と聞いていたのだが、それは明日の間違いだったか?」
 人の壁をかきわけて、その中央にいる人物にまで辿り着いたバルディッシュ・ドゴール(ea5243)は、何かを噛み殺したような表情でエールを次々に口へと運ぶその人物へ言葉を放った。
「まさか。きょう、それも今からやるに決まっているだろう。こっちはお前達と違って忙しいんだ。こっちはいつでもできるから、準備ができたら言ってくれ。ハハハ!!」
「‥‥こちらは八人になるが構わないか? それと、治療班の設置と報酬を要求する」
「人数と治療班は構わぬが、これは模擬戦だ。タダで勝負をしてもらえるだけありがたいと思え」
「‥‥‥‥」
 高笑いを浮かべながら、横柄な態度を崩そうとしないアグラヴェイン。ドゴールは無言で頷くと、人込みをかきわけて仲間のもとへとゆっくり歩いていった。
 円卓の騎士と正面から戦う、純然たる戦闘だと彼らは考えていた。負けてくれと言われたわけではない、賭けの対象にされたわけでもない。だが、相手は真面目に戦うつもりはないときている。これでは純然たる戦闘など叶うはずもないのだ。
 ただ一点を除いて!
「‥‥勝利する事をまで捨てたわけではない」
 呟いたドゴールの瞳には、殺意とも取れる厳しい眼光が宿っていた。

●二幕
 人の壁に囲まれ、武器を手に集まった15名の戦士達。
 アグラヴェインとその部下が七名、対する冒険者側は八名。数からすれば冒険者側が有利とも思えるが、冒険者達と対峙したアグラヴェインとその部下は、余裕の笑みを崩すことはない。
「騎士様たち、冒険者程度なら勝てると思ってるんだろうけど‥‥そういう考え方大っ嫌いなんだよね。年端も行かないガキでも、戦い方如何ではそれなりにやれることを見せてやりたいな」
 騎士達を眼前に、力強く言うレイエス・サーク(eb1811)。冒険者たちのほとんども、彼の意見に同意を示し、それぞれ武器を握り締める。
「ゴルスさん、フォンさん、敵は強いですが‥‥よろしくお願いします」
「なぁに、まかしときなって。円卓の騎士だか誰だか知らないけど、ゴルスの旦那とちゃちゃっと片付けてくるからさ」
 シエラ・クライン(ea0071)の魔法によって燃え滾った武器を手に、陽気に返答するフォン・クレイドル(ea0504)。不安がないといえばそれは嘘になるが、自分のパートナーは冒険者の中でも屈指の力自慢、ゴルス・ヴァインド(eb0970)である。うまく隙を作り出すことができれば、勝利の芽も見えてくる。
「さて、あちらも待っておられるようですし始めましょうか。普通に戦って勝てる相手だとは思いませんが、相手の油断を突けば、あたしたちが勝てる可能性もあるでしょう」
 微笑む李明華(ea4329)。彼女の言うとおり、アグラヴェイン達は既に準備を終え‥‥特に作戦などを話し合うこともなく、観客にただアピールばかりを繰り返していた。
「その慢心が命取りになるということを‥‥」
「‥‥熱くなるなドゴール殿。‥‥彼らの態度が余裕なのか、慢心なのかは‥‥否が応でもすぐに明らかとなることだ」
「違いないな。行くぞ!!」
 長寿院文淳(eb0711)からの言葉に握り締めていた拳を緩め、ドゴールは右手を振り上げる。シンプルな開戦の合図に、これまで潜り抜けてきた修羅場を思い起こして眼光を研ぎ澄ます冒険者達‥‥そして、円卓の騎士!!
 歓声が冒険者達の耳に飛び込む中、騎士達は各々の武器にオーラを纏わせ、先ほどまでからは想像もできないような殺気を放った!
「面白い。そうでなくてはここに来た意味はが‥‥なくなってしまう!!」
 猛烈なオーラを刃に纏わせるアグラヴェインを視界に、ドゴールは恐怖からというよりはむしろ嬉しさから、その大きな体躯を盛大に身震いさせた。

●本幕(幾重の誤算)
「一人でもやられたならばこちらの負けだと思え! 我らは勝利を収めて当然の立場にいるのだ! 戦場で気を抜けばどのような結果が待っているか、お前達も‥‥!」
「随分といきり立っているみたいだね円卓の騎士様! もしその一人目があんたになったらどうなるか見ものだよ!」
 アグラヴェインの足元に迫るフォンのチェーンホイップ。打撃を与えるというよりは足を絡めとろうとするその動きは、アグラヴェインの言葉を中断させる。
 芝生の一部がめくれあがり、それ以上に大きな歓声があがる。アグラヴェインが軽やかな動きでフォンの一撃を回避したのだ。
「おぬしの相手はわしじゃ。闘士ゴルス参る!!」
 円卓の騎士という絶好の相手を前に、勢いよく突進するゴルス。彼が見せるその姿は、重厚なドワーフの体躯と相まって猛る騎馬のようにも思える。
 振り落とされた彼の一撃はどの観客が想像していたそれより早く、観客からは悲鳴と歓声があがる。刃はすぐさま交錯し、何かが砕けたような、そんな大きな金属音がこだまする。
 ‥‥轟音が鳴り響く中、ゴルスの巨体は‥‥血を吐きながら、空を飛んでいた。切り取られたアグラヴェインの髪が数本大地に落ちるころには‥‥彼の視線は、天を仰いでいた。
「随分となめられていたようだな。‥‥貴様、ここを闘技場だとでも勘違いしていたのか? お前の前に立っている人間は誰か、もう一度目を見開いて確かめてみよ!!」
 棒読みだった台詞は込み上げてきた怒りからか、感情のこもったものとなる。一撃必殺を狙って振り落とされたゴルスの一撃はアグラヴェインによって回避され、オーラを纏った刃は、ゴルスのシールドソードを潜り抜けたのだ!
 円卓の騎士の圧倒的な力に熱狂する観客。対照的に、青ざめる冒険者の面々。
 そうだ、彼らはとんでもない勘違いを犯していたのだ。『油断していたのは自分達自身である』ということに! 最初からこの戦いは仕組まれていたということに!!
「なるほど、噂に聞いた以上の強さだ。‥‥うたいたくなる吟遊詩人の気持ちも分かる」
 騎士達の勇壮さを歌にしようとしていたヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)は、その実力をまさに目の前にして、あわよくば一人くらい道連れにしようとしていた自分の考えの甘さを思い知る。
 技術、筋力、経験‥‥どれを取っても自分より遥かに勝っている。これでは対抗心を燃やす前に、既に勝負など決している。
「ブルー、敵前逃亡は極刑なのです! 絶対に勝つのですよーッ!!」
「‥‥わかっているイドラ。俺は‥‥!」
「ハハ! まさかお前たちみたいな、冒険者の中でも中途半端な位置取りの奴らが俺達に勝てるって思ったわけじゃないだろうな!?」
 ヴルーの恋人であるイドラ・エス・ツェペリからの声援を受け、一度はレイピアを突くヴルーだが、騎士からの逆襲を受けてすぐさまその闘志も消え失せる。すごすごと退場するヴルーに、アグラヴェインとその部下達は声をあげて勝ち誇る。
 誰もがこの戦いの結末を予感し始めていた頃‥‥‥‥予想だにしていなかった身体が一体、大地に膝をついた。
「‥‥中堅冒険者が円卓の騎士に勝ってはならないと誰が決めた? 戦う気がない奴は去れ! 自分の実力も出し切れないで何が戦いだ!」
「黙‥‥れぇ! 貴様らを何のために呼んだと思っている。中途半端に有名で、丁度よく弱い奴らを集めただけの‥‥」
 叫ぶドゴール。不覚をとった騎士は仲間と共に彼に斬りかかろうとするが、その行動はレイエスの矢によって阻止される。
「お前達が俺達に勝ってはならない理由だと!? 簡単だ。我らに負けは許されてはいない!!」
 ドゴールが操る槍の長い攻撃範囲を読み、一気に懐に入り込むもう一人の騎士! 攻撃を放ち、上体がうわずったドゴールにその攻撃を槍で払う選択肢は残されていない!
「ならばこちらも簡単だ。‥‥俺は負けようと思って戦いに臨んでいるわけではない!!」
 恐怖心にかられて下がることをよしとせず、ドゴールは腹を据えて前に足を踏み出す! 刃は彼の右足から鮮血を噴出させ、命奪うはずであった敵の一撃を逸らす! 敵は一旦間合いを置こうと、舌打ちを放ちながら後退する。
「‥‥‥‥!」
 そこで彼は気付く。自らの足が何かに絡みつかれたかのように動かなくなっているということを! ドゴールは傷のためすぐさま動くことはできないが、敵は背後から人が迫っている気配を感じ取る。
「アアアアアァア!!!」
「‥‥この俺が、女にやられてすごすご引き下がれるカアァアア!!」
 背後から撃ちつけられる李のナックル! アグラヴェインの部下は、猛烈な衝撃を受けて膝をつくが、言う事を聞かない下半身をすぐさま見捨て、自らの背後で‥‥死に体を晒している李を弾き飛ばす!
「両者とも‥‥退場‥‥ですね。ですが‥‥これで‥‥!?」
 その一部始終を騎士と武器を交えながら見ていた長寿院は、視界に映った‥‥敵と味方の数を見て愕然とする。先ほどの戦いでアグラヴェイン側は二人、冒険者側はゴルスとヴルーロウ、そして李の三人だけが退場したはずだ。
 ‥‥だがそれならば、どうして戦場には自分とドゴール、そしてレイエスの三名しか残っていないのだ?!
「よくやったよ貴様らは。‥‥だが、どれほど貴様らが個人単位で奮戦しようとも、一匹の犬がドラゴンを殺すことなどできぬ!!」
「‥‥!!?」
 わけもわからぬまま弾き飛ばされる長寿院。薄れてゆく視界の中、彼の瞳にはオーラを全身に纏わせたアグラヴェインの姿があった。
「やっと円卓の騎士殿が本気を出してくれたということか。‥‥そうでなくては倒しがいがない! レイエス、援護してくれ!!」
 微笑み、アグラヴェインへと突進していくドゴール。
 この状態においては、もはや冒険者側に勝ち目などない。それならば、せめてアグラヴェインと刃を交え、自らの実力を‥‥‥‥
「馬鹿が! これは決闘ではない。正面から戦う必要などどこにもないのだ!!」
 唾を大地に吐き、全身をオーラに覆わせるアグラヴェイン。レイエスは隙を突こうとするが、背後から敵の攻撃を受け、大地に突っ伏した。
「‥‥一撃程度、こらえてみせる‥‥ぅ!!」
 光の渦に包み込まれ、全身が裂けるような衝撃に襲われるドゴール。先ほど怪我を負った右足からは全身の血が抜けるかと思うほど紅い液体が飛び出すが、彼はそれにも怯む事はない!
 槍を握り締め、せめて一太刀浴びせようと‥‥全身全霊を込めた一撃を放った!!

「‥‥惜しかったな。その怪我でこの俺様に立ち向かってきたことは褒めてやる。‥‥‥‥そして、さら‥‥!?」
「もう勝負はついていますよ。これは一種の模擬戦です。殺し合いではないというお話でしたが‥‥」
「‥‥そうだったな。これにて勝負は終わりだ。我等の圧勝だな」
 自らの身体が浮かび上がっている事に気付いたアグラヴェインはシエラの声に反応して刃を収めると、そのまま大地に落下し、回復薬を服用する。

 その後、林檎亭ではパーティーが開催され、騎士達の勇猛さを歌ったヴルーの行動が評価され、アグラヴェインから少ないながらも報酬が支給されたのであった。