【聖人探索】戦士と戦い<第二話>

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月10日〜09月18日

リプレイ公開日:2005年09月20日

●オープニング

 ――それはオクスフォード候の乱の開戦前まで遡る。
「王、ご報告が」
 メレアガンス候との戦端が開かれる直前のアーサー王を、宮廷図書館長エリファス・ウッドマンが呼び止めた。
 軍議などで多忙のただ中にあるアーサー王への報告。火急を要し、且つ重要な内容だと踏んだアーサーは、人払いをして彼を自室へと招いた。
「聖杯に関する文献調査の結果が盗まれただと!?」
「王妃様の誘拐未遂と同時期に‥‥確認したところ、盗まれたのは解読の終わった『聖人』と『聖壁』の所在の部分で、全てではありません」
 エリファスはメイドンカースルで円卓の騎士と冒険者達が手に入れた石版の欠片やスクロール片の解読を進めており、もうすぐ全ての解読が終わるというところだった。
「二度に渡るグィネヴィアの誘拐未遂は、私達の目を引き付ける囮だったという事か‥‥」
「一概にそうとは言い切れませんが、王妃様の誘拐を知っており、それに乗じたのは事実です。他のものに一切手を付けていないところを見ると、メレアガンス候の手の者ではなく専門家の仕業でしょう」
「メレアガンス候の裏に控えるモルゴースの手の者の仕業という事か‥‥」
 しかし、メレアガンス候との開戦が間近に迫った今、アーサーは円卓の騎士を調査に割く事ができず、エリファスには引き続き文献の解読を進め、キャメロット城の警備を強化する手段しか講じられなかった。
 ――そして、メレアガンス候をその手で処刑し、オクスフォードの街を取り戻した今、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。

<某所>
「アグラヴェイン様! 聖杯の情報を‥‥」
「取り乱すな愚か者が。あのいまいち何か分からぬ聖杯のことであろう? 情報を握ったのであれば、それは外に漏れぬようにしなければならぬ」
 けたたましく開かれた扉を横目に、どっしりと椅子に座るアグラヴェイン。部下からその情報を受け取ると、分担しての捜索を命じる。
「しかし、聖杯のもとへと辿り着くことができるのは真の勇者だけだと‥‥」
「ハッ!? お前まだそんなことを信じていたのか? 聖杯だかなんだか知らんが、所詮は物なのだ。獲得するのに必要な能力は勇気などではない。幾つものガセ情報の中から本物へと辿り着く『運』と、漁夫の利を狙う襲撃者を追い返す『実力』のみが必要とされるのだ。‥‥ラーンスロットのような田舎者にこれ以上勘違いされてもらっては困るからな。隊を分け、情報を迅速に消化していくのだ」
 アグラヴェインからの言葉に、ただただ頷く部下。指示に従い、仲間を二派に分けて探索を行う手はずを整える。
「しかしそれではアグラヴェイン様は‥‥一人で探索へと赴かれるのですか?」
「馬鹿な! 俺様はこの前模擬戦を行った冒険者でも連れて行くつもりだ。奴らは作戦こそ素人だったが、個々の実力はそこそこいけたのでな。道中の警護をさせるつもりだ‥‥十中八九、漁夫の利を狙う者どもが俺のあとをつけてくるだろうからな」

<冒険者ギルド>
 賢明な諸君なら知っていることとは思うが、アーサー王の号令のもと聖杯探索が円卓の騎士の手によって行われている。
 当然、円卓の騎士であるアグラヴェイン・オークニーもその号令に乗り、彼こそが真の勇者であり最高の騎士であることを証明するために探索に赴くこととなった。

 そこで今回、諸君らには円卓の騎士であるアグラヴェイン様の護衛をお願いしたいのだ。
円卓の騎士が赴く場所にはすなわち聖杯に関する情報がある‥‥今回、諸君らが向かうクロウレイ地方の朽ちた教会の壁画もそうじゃな。
 したがってそれを狙い、あとをつけてくるよからぬ者もおるじゃろうし、ひょっとすると既に朽ちた教会には強力なモンスターや‥‥デビルがおるやもしれん。

 それに‥‥大きな声では言えぬが、アグラヴェイン様は利益のない戦いをとことん嫌っておられる。早い話が、面倒くさい事は嫌なのだ。
 道中も馬車の中で眠っていることが多いと思うので、基本的に戦力としては見ない方が得策だと思うぞ。

 どうか、よろしくお願いする。

●今回の参加者

 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6900 フェザー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea6902 レイニー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0970 ゴルス・ヴァインド(50歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●一幕
 馬車がガタガタと揺れながら、森の中を進んでいく。
 聖壁を探すためにキャメロットから旅立った八名の冒険者と一人の円卓の騎士は、漁夫の利を狙う敵の影に細心の注意を払うが、そんな集中力はいつまでも続かない。
 ‥‥最初にねをあげたのは、他でもない円卓の騎士だった。
「あ〜、眠い。俺はこれから仮眠をとる。何かあったら起こしてくれ」
「わかったけど‥‥‥‥大丈夫なんですか?」
 馬の手綱を握っていたレイエス・サーク(eb1811)は、やる気の感じられないアグラヴェインの言葉に、敬意は失わないまでも不満の感じられる言葉を放つ。
「くだらない質問だな。大丈夫なのかどうかは貴様らの働き次第で決まるものだ。‥‥がっかりさせるなよ」
「かしこまりました。アグラヴェイン殿のお手を煩わせぬよう、万全の体制をもって警備にあたりましょうぞ」
「ああ、せいぜい気張ってくれ。お前は暑苦しそうだから外の警備をしろ。戦いが起こったら、可能な限りそちらで処理してくれよ」
 敬意の念を込めた瀬方三四郎(ea6586)からの言葉にも、アグラヴェインは自分の考えていることをそのまま喋ってみせる。包み隠さないといえば誉めていることになるが、彼の態度は明らかにそれとは全く異質な、横柄さを前面に押し出している。
「それでしたらアグラヴェイン卿、馬車の中の警護は是非このフェザー・フォーリングの『妹』、レイニーに‥‥ふごぉ!!」
「俺は男だ『弟』だ、いい加減その紹介はヤメロ」
 それでも挫けることなくコミュニケーションをとろうとした(?)、フェザー・フォーリング(ea6900)の脳天に『妹』と呼ばれたレイニー・フォーリング(ea6902)の飛び蹴りが命中する。床に激突したフェザーは、馬車が急停止した反動でゴロゴロと馬車の外まで飛び出してしまった。
「どわーっ! レイエスさん、そんなサポートをしなくても」
「馬鹿、そんなことをする状況か。しっかり見ろ、前から敵が来たんだよ!」
 大げさな声を出すフェザーに、レイニーは再度彼の頭を叩く。一撃を受けてフェザーが正気を取り戻すと、彼の眼へ見るからに物騒な、武器を裸で持ち歩いた一団が現れた。
「数は五、六といったところか。どこの馬鹿か知らぬが、その程度でわしらに向かってくるとはいい度胸じゃな」
「ヘッ、護衛なんぞに用はねぇんだが。特別に俺達の実力を教えてやってもいいぜ。俺は‥‥」
 だが、アグラヴェインを護衛するのは場数を踏んだ冒険者である。いまさら物騒な武器の類に恐怖心を覚えるわけはないし、ハッタリの類も聞きなれている。ゴルス・ヴァインド(eb0970)は、敵の口上を軽く聞き流すと、値踏みをするような視線で、襲撃者との距離をじっくりとはかっていく。
「この者たちの‥‥処置は‥‥どうしましょうか?」
「逃がすことはできないねぇ。最低限馬は潰しておくとしてな」
 ゴルスと敵とが睨み合いを続けている最中にも、長寿院文淳(eb0711)を始め、敵襲を受けて護衛が集結していく。数の上でも(そして恐らくは実力でも)上をいくであろう状況に、冒険者の中には早くも敵を倒した後のことに思いを巡らせる者までいる。
「まあ聞いてくれよ。俺達も、あんた達と真正面から戦おうなんて‥‥思っていなかったわけだからな!!」
 敵の一人が叫ぶと同時に、馬車の背後からガタガタと音が響く! 驚き冒険者達が背後へと振り返れば、そこには十数名にも及ぶ山賊の一群が馬車へと迫ろうとしていた。
 背後から迫った敵の一団は、鼻息も荒く冒険者達に向けて叫んでみせた。
「ハッハ! 所詮てめぇらなんぞこの程度の‥‥ぃ!!」
 だが、その叫び声が馬車へと届く前に、馬車の陰から雷撃と矢とが彼らを襲う。まさか待ち構えられているとも思わなかった彼らは、奇襲の命である突進をやめて攻撃の主を探す。
「こちらは騎士様御一行だからな。馬鹿正直に来ないことは最初から分かっていたさ」
「そういうことだ。‥‥さて、俺のワスプに貫かれるか、それともこの場から逃げるか、お前達はどちらを望む?」
 馬車の陰から顔を出すレイニーとヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)。賊は冒険者達が放つ威圧感にしばらく躊躇していたが、やがて恐怖から逃れるように、一人の男が奇声をあげながら突っ込んできた。
「キイエエエエェェエ!!」
「‥‥フン、醜いものだな!」
 単体での突撃など冒険者達にとってはさして脅威とならない。レイエスの矢を受けて動きが散漫になった敵を、ヴルーのレイピアが貫き、男は膝から崩れ落ちるように地面に倒れた。
「そんなものか? 張り合いがないの〜」
 ‥‥馬車の前方からはゴルスの声が聞こえる。どうやら最初の襲撃は、何事も無く乗り越えられたようだ。

●幕間
「アグラヴェインさん、目的の教会まではあとどれくらいかかるんですか?」
 夜の帳が下りる頃、冒険者達とアグラヴェインは焚き火を囲んで夕食をとっていた。冒険者達にとっては食べなれた保存食‥‥のはずだったが、それも少し手を加えるだけで見違えるように香ばしい香りを放つようになる。
「一時間も歩けばつくほどの距離だ。一気に行軍しても構わないが、教会にいる奴は先ほどの『雑魚』とは違う可能性があるのでな」
 退けた賊を『雑魚』と切って捨てたことに、多くの冒険者達は顔をしかめるが、李明華(ea4329)だけは笑顔を崩さないまま、アグラヴェインの言葉に頷く。
「ずいぶんと嬉しそうだな、女。何がそんなに嬉しいのかは知らぬが、達者なのは料理の腕だけなどということにならぬことだ」
「‥‥ただ、ちょっともったいないと思ったんですよ。言い方一つで注意しているのか、嫌味を言っているのか、印象も変わっちゃいますし。それに気づくには時間もかかりますしね」
 アグラヴェインの器に温かな食べ物を入れる明華。
 ‥‥自らの欲求に正直な円卓の騎士は、何も言わずにそれを口へと運ぶのであった。

●二幕
 薄暗い教会には、砕けた天井から朝日が差し込んでいた。
 冒険者達は眩い光に目を擦りながら、光に照らされた壁を‥‥聖壁の前に立ちつくす。
「これは‥‥‥‥」
 壁に手を伸ばし、秘められた情報を解読しようとした明華であったが、それはアグラヴェインに制止される。
「下手に触るなよ。高い買い物だったが紙を用意してある。これに複写するから貴様らは周囲の警備をしておけ。そもそも情報は‥‥ぉ!」
「避けろ!!」
 教会内部が俄かに暗くなったことを察知したレイニーの叫び声が響き、それを聞いたフェザーと文淳が二人を突き飛ばす。円卓の騎士と明華はゴロゴロと埃だらけの床を転がるが、今はそんなことに注目している場合ではない。
 天井の裂け目よりバチバチと音をたてながら落下してきたモンスター‥‥ライオンの頭に馬の脚を持つデビルが、冒険者達の前に現れたのだ。
「まさか‥‥本当に‥‥いるとは‥‥」
「呆然としている場合ではないだろう。卿はこちらへ。こいつは俺達が‥‥!」
 ジャイアントソードを握り締めたモンスターと対峙する文淳に檄を飛ばすと、ヴルーはアグラヴェインの避難を行おうとする。
「弱者は強者に付き従う‥‥当然の法則とはいえ、このタイミングで出てこられると厳しいですね」
 ブレスセンサーで息吹を感じ取ったフェザーは、新たな敵の襲来をヴルーに告げる。教会の周辺に住まうモンスター達は、まるでこの壁画を守っているかのように、侵入者である冒険者たちへ迫ろうとしていた。
「アグラヴェインさん、私が護衛しますので一旦教会の外に‥‥」
「くだらない冗談だ。俺には女の背を追う趣味などない。戦って欲しいなら、最初からそう言え!」
 唾を吐き捨てながら、刃を引き抜くアグラヴェイン。勇壮なその姿は、ここにきて初めて彼が円卓の騎士であることを認識させる。
「‥‥信じていますよ」
 明華の呟きは、モンスターの咆哮に吸い込まれていった。

「それでは私は卿と共に雑魚を倒しておきますゆえ、でびるとやらは、お願いしますぞ」
 掛け声と共に、モンスターへと向かっていく三四郎。
 だが、お願いされた冒険者達はたまったものではない。先頭に立ったゴルスは、重厚なジャイアントソードを軽々と振り回す敵の間合いに苦戦しながらも、必死に勝機を探っていく。
「GUUUUUU!!」
 デビルの叫び声と共に再びジャイアントソードが振り落とされ、教会内部のどよんだ空気が一瞬にして真っ二つに切り裂かれる! ゴルスはシールドソードで受け止めるが、相手の予想外の速さからか、防戦以上のことができない。
「啄ばめ! ワスプ!!」
 ゴルスの背後から埃が巻き上がり、鮮やかな青がデビルの視界に映る! 全身を青色で統一したヴルーはゴルスの背後から飛び出すと、白きオーラを纏わせたレイピアを渾身の力と共に突き出した!
 ヴルーの細い腕に筋肉が浮かび上がり、レイピアが描く細い線が禍々しく巨大なジャイアントソードの間合いをかいくぐる! 直撃を受けたモンスターは‥‥‥‥憎悪を瞳に込めて強烈な拳を前に突き出した!
「ぬぅ!!」
 それを身体を張って受け止めるゴルス。巨体を活かして敵を突き飛ばそうとするが、モンスターの力は予想外に強く、距離をとることができない。
「あああぉあああ!!」
 膠着した戦局を打開せんと、側面から気合と共に斬りかかる文淳! 武器を狙ったその一撃はジャイアントソードへ確実に命中したが、思いの他の強力(ゴウリキ)に弾き返されてしまう。
「‥‥これで、決める!!」
 三四郎から貰い受けた、たった一本の銀の矢をつがえ、放つレイエス!
 震える指から放たれた矢は、驚くほど直線的な軌道を描き‥‥‥‥天井から差しこむ光を浴びてキラキラと輝きながら‥‥‥‥モンスターの胸に深々と突き刺さった!
 モンスターは悲鳴をあげ、その場から脱出しようとするが、最後はレイニーとフェザーの魔法によって、息絶えた。


「‥‥つまらない時間を過ごしたな。依頼は完了だ。戻るぞ」
 アグラヴェインは壁画を頭と紙とに複写すると、馬車に乗るよう冒険者を急がせる。‥‥依頼への非難が彼の口から出なかったことは、冒険者へ向けた、彼なりの賛辞であった。