戦士と戦い<最終話>

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 84 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月28日〜11月07日

リプレイ公開日:2005年11月11日

●オープニング

<クロウレイ地方・ベガンプ>
 こうなることを予想できなかったわけではなかった。
 悪いシナリオとしては十分予想できたことであったし、ザーラル・レクアからの一時休戦をその通りの意味で受け止める者など誰もいなかった。
 だがここまで早く、それもここまで徹底した手法でこちらを追い詰めてくるとは誰が考えただろうか? 周辺の領主はザーランドの力の前に揃いも揃ってこうべを下げ、鬱積したストレスをこのベガンプへ向けようとしている。
 この一ヶ月でベガンプは五の争いをけしかけられ、それ以上の濡れ衣を着せられた。どこの馬の骨かも分からない『ベガンプ出身らしい』男が冒険者を襲ったり、こともあろうに円卓の騎士へ手をかけたりしているのだ。
 それらはいずれも計画していたことではあった。難癖つけて他領を占領するザーランドにいい感情は抱いてはいなかったし、アグラヴェインがザーランドから提供された何か‥‥おそらくは金か女かに乗せられて、レクアと親しくしているという情報もあった。
 だが、そう簡単に実行するほど彼らは向こう見ずではなかったし、手を出せばどうなるか分からないほど愚かでもなかった。
「だが、さすがに我慢の限界というものがこっちにもあるんだぜ。‥‥手に入れたカードを考えなしに切ることは馬鹿の象徴だが、切る機会を逸するのは愚者だ。‥‥‥‥頼むぜ。お前たちを信頼しているんだ」
「お任せを。‥‥私たちの本分は本来こういうことなのですから。なにやら、面白い影も見えておりますしね」

<キャメロット・エールハウス>
「お前たち、前回はご苦労だったな。あれ以来賊の影もなく、普段どおりの生活をおくることができているぞ」
 ガハハと笑いながら、エールを集まった冒険者達に振舞うアグラヴェイン。危険手当としては余りにも安いが、まあこの男相手に腹を立てていたら、腹が服を貫いてしまいそうなので冒険者達は黙ってエールを口に運ぶ。
「お礼と言ってはなんだが、お前たちにいい仕事を紹介してやろう。‥‥なに、前回ほど危険ではないさ」
 本当にお礼といってはなんだが、冒険者達の表情など構うことなく依頼内容を説明していくアグラヴェイン。話を要約すると、ザーランドからキャメロットまで来ている要人をザーランドまで送り届けて欲しいとのことのようだ。
「俺が頼まれたんだが、さすがに忙しい身でな! ‥‥この内容でこの報酬は破格だと思うが、どうだ?」
 笑うアグラヴェインとは対照的に、冒険者に耳打ちをする彼の部下。

 要人が連れていた私兵は‥‥キャメロット滞在中に、全員無残な死を遂げているということを。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0163 夜光蝶 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

風霧 健武(ea0403)/ 風霧 芽衣武(ea9934)/ 二階堂 夏子(eb1022

●リプレイ本文

<宿屋>
 月も寝たかと思える雲が天井すべてを覆い尽くした夜。要人護衛の任についていたクリス・シュナイツァー(ea0966)は、重装備を身に纏ったまま木戸から外の様子を確認する。
「‥‥!! ‥‥!!」
 外ではジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)が、異常なしというサインと共に、くるくると踊っていた。なぜ踊っているのかは不明であるが、恐らくはクリスの緊張をほぐそうという彼女なりの配慮なのであろう。
 クリスは小声で『お疲れ様です』と呟くと、残り少なくなってきた油を補給するべく、ゆっくりと歩いていく。こんな時間まで灯火があるということは襲撃者にとってはかえって怪しまれることになるかもしれないが、だからといって闇の中狭い室内で戦うわけにもいかない。
「これで‥‥‥‥! ‥‥なんだ、伊堵さんと黒妖さんじゃないですか。びっくりさせないでくださいよ」
「なんだとは失礼ですねぃ。こんな夜中にレディーが目の前に現れたんですから、少しはドキドキしてほしいところですよ」
「激しく‥‥同意します‥‥」
 暗闇のむこう側から現れた二人に、クリスはビクリと身を膠着させたが、それが水野伊堵(ea0370)と夜光蝶黒妖(ea0163)であったことを確認すると、ほっと息を吐く。
「はは。まあ機会があればそういうことも‥‥‥‥ところでお二人とも、こんな夜中にどうしたんですか?」
「いえ、ちょっくら用を足しに‥‥ではなくてですね、お知らせにきたんですよ。‥‥‥‥そこにいる鼠の存在をね!!」
 言うが早いか伊堵と黒妖は日本刀をすらりと抜き放つと、闇の中にめがけて突進していく。クリスが状況も理解できないまま刃が闇の中に吸い込まれれば、そこから湧き上がったのは鋭い金属音と、幾重にも重なるそれぞれの感情を込めた舌打ち!!
「こんなところまで出張とは奇遇ですねぃディール! 作戦は常に最悪の方向に考えろとは申しますが、これは果たして最悪というべきか、それとも最良と言うべきなのか!」
「っ、仕方ないじゃないですか。シドも楼奉もどこかの悪い冒険者のせいで死んじゃったんですからっ! しかし私の襲撃に気づくとは‥‥」
「誰かさんのせいで奇襲には慣れっこになっちゃいましたからね! 黒妖さんは外のメンバーに伝令を。クリスさんもボサッとしていないでフォローを頼みますよ!」
 互いに悪態を吐きながら、刃を交える伊堵とディール。黒妖は外へと走り去り、我に返ったクリスは、部屋の中のメンバーに一声かけてから伊堵の援護へと向かう。
「ディール、お前を‥‥」
「あなた達二人相手に勝てるなんて思っていませんからね。ここは逃げさせてもらいますよ」
 伊堵に一太刀浴びせ、ゴロゴロと後方に転がっていくディール。伊堵はこの機を見逃すまいと前に足を踏み出すが‥‥依頼内容と、聞こえた音を思い出し、叫ぶようにクリスへ警告する。
「クリスさん、きょうはモテモテですねぃ!」
「‥‥女性には夜中ではなく昼間にお茶でも囲んでお会いしたいものです」
「っ、浅かったか!」
「ああっ、やっぱりこっちにハーマインを配置すべきでしたよ!」
 剥がされた天井から投擲されたナイフを盾で受け止めるクリス。シューラとディールの二重の舌打ちが彼らの耳に届き‥‥‥‥轟音がそれらを全て薙ぎ払った。

<室内>
「出るぞ! 今すぐ行けば、ディールを倒せる」
「やめるんだな。ここから出ればそれだけ要人を危険に晒してしまう。‥‥卿が期待をしてくれているんだ。それに応えなければならない」
 壁を通して聞こえる廊下の状況に、いてたってもいられなくなり飛び出そうとするアラン・ハリファックス(ea4295)をヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)は声で宥める。自分達が守るのは、壁際で頭を抱えて怯えているこの太った要人だ。この部屋から出ることは敵に隙を見せることになる。
「ですが‥‥進入するとしても‥‥どこか‥‥!!」
「ヤバイ、離れろォ!!」
 長寿院文淳(eb0711)の声を遮り部屋に響き渡る『轟音』と『振動』。耳を研ぎ澄ますまでもなく、それがどこから来ているのかくらいはわかる! ブルーは腹の底から声を出し、同時にその体躯を躍動させる!
「離れろって言った‥‥ガァハァ!!」
 彼が要人を確保した瞬間、『壁』がミシミシと音をたてて砕け散る! 壁の破片とその向こうから飛び出してきた巨大な得物を受けて、要人と共に弾き飛ばされるブルー。
「ッ‥‥まさか男を庇って怪我を‥‥するとは‥‥」
「気にするな。見た目はアレだが殊勲だぞブルー。‥‥さて、今度は俺の番だ。招かれざる客はお帰り願おうか‥‥‥‥」
 ブルーを一瞥し、刃を握り締めるアランと文淳。凡そ室内戦には適さない巨大な武器を持った二人の襲撃者は、ブルーの影で怪我を痛がる要人へ向けて叫んだ。
「警告を下したにもかかわらずザーランドに向かうとは‥‥よほど命がいらねぇらしいな!」
「違いますね。‥‥私たちが守っている限り、この方の命が‥‥失われることはない!!」
「言うじゃないか文淳! それなら一人だけお前に譲ってやる!」
 武器を握り締め、ジリジリと敵との距離を詰めていく両雄。前面に立つアランからすれば、相手もこちらも一撃に全てを賭ける重戦士タイプ。馬鹿のように突っ込めば最良で相打ち、最悪で犬死にとなってしまうのは目に見えている。
 カウンターを狙うか、あるいは‥‥‥‥
「‥‥にぃ!?」
「もらったぞルードオオォオォァ!!!」
 突然前のめりになった敵の隙を見逃すことなく、アランは絶叫と共に刃を振り上げていった。

<外>
「やりぃ! これで‥‥‥‥っ!!」
「チッ‥‥夜の闇の所為か?」
 斬りかかるアランの姿を見て緩めたジョーの口の下を矢が掠める。傷口の深さとは違って首から派手に滴り落ちる血液に、ジョーは腕に巻いていた包帯をあてがう。
「悪いマナウス。もう二秒だけ時間をつくって」
「またか!? 聞くには聞いていたが、ここまで化け物だとは‥‥っぅ!!」
 遮蔽物の陰に隠れ、甘えたような声でマナウス・ドラッケン(ea0021)にジョーはお願いをするが、相方の切羽詰った声にそうもいかなくなったとナイフを握り締める。
 事前に二階堂夏子からの情報収集によって、矢を使う相手が賊に混じっていることを予想することができた。過去の経験を生かしてマナウスとタッグを組んで弓手と戦えば、これが見事に(マナウスにとってはまたも女難ではあるのだが)機能している。
「そう言うなって。その化け者と私は今まで一人で戦ってきたんだ。‥‥だけど、今回ほどいけると思ったことはないよ!」
 マナウスが怪我を回復する時間をつくろうと、ナイフを持ったまま矢を射るジョー。相手からも同じように返ってくるが、それは帽子を掠めるだけでいつもの精度はない。
「成る程。確かに今回は‥‥‥‥負ける気はしないな!」
「‥‥なめるな素人ども!! 余裕から生み出すのは油断だということを‥‥クゥ!!」
「あんたがいつも言ってる『素人』こそ油断の対象じゃあないのかぃ!? ここいらで終わりにするぜハーマイン!」
 互いに姿は見えないが、声を頼りに‥‥あるいはそれをフェイントとして矢を放つ三人の射手。外と廊下では決定打が生まれない中、部屋であった場所では、大きく戦況が動こうとしていた。

<部屋>
「俺はプロだ‥‥。サシ‥‥この‥‥程度ォオオ!!」
「‥‥捜していた甲斐があったってことだなぁ!!」
 アランが振り落とした日本刀は、ルードの左腕に深々と突き刺さる。‥‥いや、ガードされる。アランはそのままの勢いで腕を切り落とそうとするが、敵の纏う重厚な鎧と筋肉はそれを許しはしない! 刃と共に両腕をふさがれ、死に体となったアランは、逆にルードの一撃をその身体に受ける!
「オオォア‥‥ッッツツツ!!!」
 腕からズブリと日本刀が抜け、体が二つになりそうな衝撃から放たれる悲鳴は、歯とプライドによって噛み殺される。ルードと同じく、その場に片膝をつくアラン。
「アラン殿! ‥‥!」
「誰を援護しようとしている!? てめぇの相手はこの俺だ!」
 ブラックホーリーでアランを援護しようとしていた文淳に迫る巨大なメイス! 文淳の防御行動が一瞬遅れたが、メイスは天井を突き破り、それ以上に遅れる。結果として文淳は金槌でその一撃を受け止め‥‥予想外の衝撃に二歩後退する。
「‥‥っ! だったらこっちから行くだけだ!!」
「やめておけ。さっきの一合で実力差が分からなかったか? 後ろの豚さえ置いていけば、‥‥‥‥だとぉ!?」
 笑いながら文淳の攻撃を受け止めていたイルザックの表情が一変する。先ほどまで壁の隅で震えていたはずの‥‥要人の姿が見えないのだ!
「‥‥早く‥‥気づかれる‥‥前に」
「っ、だが‥‥こいつ、重いぞ。こんな奴をチィーストイに乗せるのか?」
 がっくりとうなだれた要人をひきずる黒妖とブルー。イルザックとルードが壁に開けた大穴は、結果として逃走用ルートとなったのだ。
「なめ腐りやがってえぇええ!! その豚を置いて‥‥!!」
「やらせるかぁアアア!!!」
 憤怒に満ちた表情で黒妖とブルーに突進していくイルザックを文淳が体当たりで弾き飛ばす! 馬のいななく鳴き声が木霊し、三人の姿はみるみる内に小さくなっていった。
「本気でキレたぜ俺は。もう仕事とかはどうでもいい。‥‥ルードォ、こいつら二人だけでも絶対にこの場から生きて‥‥」
「何をやっているんですかイルザック! 騒ぎすぎると帰り道でザーランドに襲われますよ! 一応の目的は達成したんですから、ここは逃げるが‥‥しつこいっ!」
「ここで逃したら次がいつになるかわかりませんからねぃ。白黒つけさせて‥‥もらいますよ!」
 イルザックの声を遮るディール。イルザックは盛大にその場で地団太を踏むと、他の仲間と共に闇の中へと逃げていった。

「追う必要はありません。今は早くブルーさん達と合流しましょう」
「‥‥わかりましたよ。なんとも残念なことです」
「エ〜〜!! もう少しだったのにぃーー!! キィー!!」
 静かになった周囲を一望して、合流を優先するように提案するクリス。伊堵やジョーは服やら包帯やら布を歯で噛みしめんばかりの勢いだが、なんとか自分の中で納得すると、ブルーたちと合流すべく、あらかじめ打ち合わせしておいた次の町へと移動するのであった。


 ‥‥その後、要人をザーランドに引渡し、キャメロットまで帰還した冒険者を待ってたのは、『まあ俺ならもう少しうまくやるがな』というアグラヴェインからのお決まりの台詞と、『俺は近々ザーランドに向かう。客人として招待されているからな』という、彼の今後に‥‥関する文言であった。