未来への縮図【第一話】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 18 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月28日〜10月10日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

『ゴーヘルド・アーノルド連合軍。ザーランド・ベガンプ連合軍に勝利す!』

 ‥‥実際にはゴーヘルドが自領に侵入した敵を追い返しただけの話であり、新たな領土であったり金銭であったりするようなものは得ていないどころか、敵の残党が未だに領土の一部を占拠している状態なのではあるが、周囲の領主はその戦いを『ゴーヘルド側の勝利』と判断した。
 この結果は長らく二つの領に虐げられていた周囲の領に光を与えることとなったが、それは各地に眠る領主達の野心をよみがえらせる結果となった。
 ザーランド・ベガンプ連合軍が敗北してから三週間の間に四度の争いが起こり、そのいずれも‥‥ザーランドとベガンプの勝利に終わった。両軍(主にザーランドに言えることではあるが)は反省をいかし、圧倒的な戦力と巧みな交渉をもって襲い掛かってきた軍を撃退し、つけられた難癖を数十倍にして返済した。
 それだけが理由なのかはわからないが、一時は地に落ちたかにも思えたザーランドの実質的最高権力者ザーラル・レクアの威光は、既にクロウレイ地方一帯に届くようになっていた。

<ザーランド・会議室>
「‥‥ただいま帰還しました。作戦は成功です。我らは西よりの侵略者を撃退し、侵略者の領に食い込むことに成功しました」
「ご苦労だったねクラック。報告は聞いているよ。‥‥自らの手で汚名を返上する。さすがだね。戦いは疲れただろう。後のことはこちらに任せて君はゆっくり休んでいてくれ」
 かつて剣皇と呼ばれていた男はザーラルの言葉に頷き、部屋を後にする。歴史は繰り返すと言われるが、この世に歴史を研究する人物が存在している以上、あるいは『歴史』というものが残っている以上、人はそれから学ぶことができる。
 ザーラル・レクアはその意味では、まさに過去から生きる男であった。彼は過去を知ることができる立場にいたし、それを読める学識も、冷静な判断力も備えていた。
「だから本当の『合理』というものに辿り着くことができるんです。‥‥まさかゴーヘルド相手に『本当に』敗北を喫するとは思いませんでしたが、それもある種仕方のなかったことです。本当の目的を達成するためには‥‥‥‥ねぇ、燕?」
 彼は燕と呼んだ部下に言葉を投げかけるが、最初から返事など期待してはいない。言うことができればいいのだ。過去を学んでも、未来がそうなるとは限らない。余裕を持たねば人はついてこないが、常に余裕を保っていられるほど彼はまだ年輪を重ねていない。
「‥‥さあ、もう少しです。もう少しであの非効率極まりない過去に、決別することができるんですよ」

<冒険者ギルド>
 ザーランド軍は現在クロウレイ地方のとある町を占領中である。
 もちろん、それはあくまで自衛のための一手段であり、永久に支配する意志等は持っていない。
 今回は計画的返還の一環として、軍の一部を引き揚げさせることに決定した。そこで諸君たちにお願いしたいのだが、引き揚げる軍の代わりに町の治安維持にあたって欲しいのだ。滞在期間は五日間、諸君らはこちらが提供する詰所を拠点として、周辺の警護を中心に行っていただきたい。
 尚、こちらの統治を快く思わない異端者が伏しているとの情報も入っている。依頼には万全を期して、くれぐれも注意して望んでいただきたい。

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1501 シュナ・アキリ(30歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

マリー・プラウム(ea7842

●リプレイ本文

●一幕
 確かにそこは町で『あった』。統治は粛々と行われており、表向きは混乱など見えなかった。例えそこから活気は失われ、人々が苦しんでいようとも。
「なんつーか、シケた町だね。こりゃ、貧民が不満を持ってるってのも頷ける話だね」
「やれやれ、雇われは辛いやね」
 閑散とした‥‥それは比喩ではなく、戦いの傷跡から建物が壊され、驚くほど見通しがよくなった町を眺めてパトリアンナ・ケイジ(ea0353)は口から渇いた笑いを、名無野如月(ea1003)はキセルから煙を空に吸い込ませる。
「多数の廃墟とその向こうにそびえ立つ大きな家‥‥なるほど、復興に向かってはいるが前途は多難ということか」
 木を形だけ組み合わせてつくったような粗末な住居の間を馬車が断続的に通過していく。ザーランドからのものらしく、その中には物資が満載しているようだが、それが町全体に行き渡るのにはかなりの時間がかかるということは、冒険者である彼らから見ても想像は容易であった。自分達がやってきたことを思い起こしながら、レイリー・ロンド(ea3982)はその光景を自らの目で見つめる。
「ま、そんなことを言っていても始まらないな。とりあえず依頼を受けたんだ。まずは詰所に行って一息つこう」
 長旅に疲れてぐったりとしている愛犬を抱えたリ・ル(ea3888)の言葉に他の冒険者達も頷く。確かに悲惨な状況ではあるが、自分達がここにこうして来ているということは、ザーランド軍の撤退も近いのだ。少ないながらもこうして援助が行われ続けている以上、富裕者からではあるかもしれないが街は徐々に復興していくだろう。
 彼らはザーランドから提供された詰所に荷物を置くと、早速警備へつく準備を始める。
「それじゃ、あたしは『繁華街』の酒場に行ってくるぜ。‥‥いや、情報収集デスよ」
「俺も行こう。‥‥もちろん、情報収集だぜ」
 警備が始まるまでの楽しみだといわんばかりに、空いた時間を利用して酒場へと繰り出すパトリアンナにデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)。どこが繁華街かは分からないが、酒場があると依頼書にはあったから一応酒場はあるのだろう。
「リルさん、ザーランドの駐留兵に挨拶に行きましょう!」
「ああ、そうだな。‥‥それじゃあちょっと出かけてくるから、ワンコをちょっと見ておいてくれ」
 リュウガ・ダグラス(ea2578)は軽く息を吐くと、全幅の信頼を寄せるリルと、町の現状を知りたいというサラ・ディアーナ(ea0285)を連れてザーランド軍の詰所へと移動していく。
 部屋には、四人の冒険者と、一匹の犬が残された。
「それじゃあ、あたしもちょっとでかけてくるね。町の道を覚えて、格好いいお兄ちゃんとお姉ちゃんを探してくるよ。シュナお姉ちゃんも来る?」
「‥‥あ、ああ。あたしは遠慮しておく。ちょっと疲れたからな」
 浮かれた様子で部屋を飛び出していったチカ・ニシムラ(ea1128)を見送り、シュナ・アキリ(ea1501)はどっかりと部屋に置いてあった椅子にどっかりと腰掛ける。
 ザーランド側の厚意か、ふかふかの椅子は自然と彼女の口から細い溜息を吐き出させた。
「お疲れですか? そういえばお二人とも、前‥‥」
「ああ、最近までザーランドとは敵だったぜ。依頼はしっかりこなふつもりだけろよ、ちょっとやつらと会うのは勘弁だは」
「私もだ。クラックとかいった奴の騎馬隊と戦ったが、正直何度も死ぬかと思ったぞ」
 詰所にあった干し肉を頬張りながらレイリーの質問に答えるシュナと、うっすらと汗をかきながら笑いかける如月。正確に言えば先の戦いでザーランド側について戦ったレイリーも彼女たちにとっては敵だったのだが、世の中には知らない方が効率よくできることもある。レイリーは彼女達のために火を起こし、湯をわかそうとする。
「‥‥‥‥‥‥」
 その後も警備開始まで詰所には穏やかな雰囲気が流れたが、たった一匹、犬だけが何かを見つけたように外を眺めたまま動こうとしなかった。

●二幕
 警備は順調に進んでいた。繁華街はそもそも繁華街と呼べるほど込み入ってはいなかったし、富裕層の住居はザーランド兵が巡回していた。酒場からは仲間の笑い声が聞こえる。
 最初は冒険者を警戒していた住民たちも、彼らの行動を見るにつれて、徐々に心を開いていったのだ。たった一つの不可解な点を除けば。
「‥‥やれやれ、なるべく刃物沙汰にはしたくなかったんだがな」
 警備を始めてからというもの、頭の中でどんどんと膨らんでいった一つの不安は、日を重ねるごとに如月の中で確信へと変わっていった。
「やっぱり貧民達か?」
「いや‥‥それはないな。それだったらいくぶん気が楽なんだがな」
 これまでも不審に思うことはあった。チカのブレスセンサーに反応があっても、その場には誰もいなかったり、こちらを尾行しているような足音が聞こえても姿は見えなかったり‥‥いや、正確には見ることができなかったのだ。冒険者である彼女達が!
「どうやら本格的に正体を暴く必要があるようだな! ‥‥再現の神、大いなる父の力を持って隠れし者をあばきだせ! デティクトライフフォース!」
 リュウガの体を黒い光が包み、不審者の存在を彼の脳裏へと告げる。こんな夜更けに外出し、自分たちをつけまわす‥‥おおよそ素人のそれとは思えない手際で自分たちを取り囲んだ敵の存在を!!
「やれやれ、できらぁパンを焼いてのんびりして、この依頼は終わりにしたかったんだがな」
「そうも言ってられまい! 敵の数は九だ! ここは皆を集め‥‥!!」
 武器を構え、合図用に借りていた笛に口をつけるリュウガ。‥‥すると、まるでその瞬間を待っていたかのように、暗闇の中から彼らめがけて複数の敵が飛び出してきた。
「がぁっ! こい‥‥!!」
 笛の音が音量を増す前に、踊りかかる複数の肉体! リュウガの口が瞬時に手でふさがれ、鋭利なナイフが躊躇することなく彼の目に突き立てられようとする!
「ちぇすとぉぉぉ!! ‥‥デュノン殿、詰所へ! ここでは距離がある、応援を呼んでくれ!」
 リュウガの視力を奪おうとしていた敵を弾き飛ばす如月。デュノンはこの場を二人に任せ、応援を呼びに行こうとしたが、その行動はすぐさま他の敵に塞がれた。
「こいつら、どういう‥‥」
 危機から免れたリュウガへ、同時に襲い掛かる複数の敵! 暗殺に慣れているとしか言いようがないその行動は、彼に壁を背にすることすら許さない!
「‥‥!?」
 デュノンの口を押さえ、無言のまま胸にナイフを突き刺そうとする襲撃者。‥‥だが、彼は自らの足が大地についていないことに疑問を覚え、ゆっくりと横を‥‥獲物以外の存在を眺めた。
「どうにも喧嘩じゃないみたいだねぇ。こちとらかわいいお嬢ちゃんにお酌してもらってたのに‥‥ずいぶんじゃないかぃ!!?」
 褐色の筋肉が唸りをあげ、襲撃者を夜空に向けて高々と持ち上げる。しなる背中は、明日へと繋がる人間橋の如く見事なブリッジを描き、敵を大地へと叩きつけた!!
「貴様‥‥!」
「パトリアンナさん、酔いすぎですよ。‥‥ここは私達が食い止めますから、皆さんは逃げて下さい!」
 二つの意味で酔っているのか、ブリッジを崩そうとしないパトリアンナめがけて刃を向けようとしていた敵を白い光が包み込む! パトリアンナに付き合わされて酒場にいたサラは、頬をうっすらと紅潮させたまま、集まった野次馬へ逃げるように叫ぶ。
 だが、襲撃者は新たな冒険者の襲来にほんの一瞬視線を合わせると、冒険者達に背を向ける! 狙う対象は‥‥家に逃げ込む住民!
「‥‥っ、罪の無い人を、傷つけさせはしません!」
 予想外の行動に驚き、サラは住民を守ろうとするが、いかんせん敵の数が多すぎる。分散した敵の刃を受けてかいたるところで悲鳴があがり、彼女の目の前で恐怖心から動けない子供に刃が向けられる。
「ヤメテーーー!!!」
 木魂するサラの悲鳴。鮮血が彼女の瞳を塞ぎ、赤茶になった視界の向こうから‥‥‥‥怒りに震える鬼神の表情が彼女を貫いた。
「気は‥‥済んだか!!?」
「‥‥!!」
 主の腕から滴り落ちる鮮血を餌として、獰猛な獣のように突進する二本の刃! 襲撃者は恐怖から後方に跳躍しようとするが、彼の足が動いたのは胸に刃が突き刺さった後であった。
「リルさん、治療を‥‥」
「俺はいい。それより住民を優先してくれ! こいつらを‥‥倒してくる!」
 子供に倒れた襲撃者を見せまいと間に入ったサラの頬を撫で、暗闇の中に消えるリル。サラはまだ震える足を叩くと、子供に詰所まで行くように告げて怪我人の治療へと走っていった。

●三幕
「帰れ。ここは町の住民専用だぜ。‥‥てめぇらみてぇな黒ずくめに貸すベッドはねぇんだよ!」
 詰所の入り口で、中に逃げ込んできた住民と襲撃者との間に立ちはだかるアキリ。こうして詰所に一人残っておいたのは正解だったが、襲撃がここまで‥‥まるで最初から自分たちの存在を知っていたかのように的確かつ迅速に、しかもこれだけの規模で来るとは予想できなかったし、予想できるはずもなかった。
 石をスリングに込め、彼女は二人の敵をどうやって同時に倒そうかと思案をめぐらせる。
「この領地を占領するザーランド軍には憎悪を抱いていた。それに協力する者は‥‥」
「嘘もいい加減にしな。お前たちみたいなのがそのへんにごろごろいたら‥‥あたしらはおまんまの食い上げだろうがよぉ!!」
 用意していたかのように、台詞を読み上げる襲撃者の顔面に命中する石つぶて! 頭を抑える襲撃者を確認することなく、シュナはもう一発石をスリングで投げつけようとする。
 だが、それよりもう一人の敵の攻撃が早い! 振り上げられた刃は、ザーランドへの恨みが篭った言葉と共に振り落とされる。
「この地をザーランドから取り戻すため! この‥‥」
「天罰を受けるような行動をとるのかお前たちはぁあ!!」
 闇夜に紅い髪がふわりと舞い、詰所からこぼれる灯りを受けた日本刀がその光すらも切り裂く速度で襲撃者を弾き飛ばす!! レイリーは怒りに震える自らを抑えながら、背後関係を探るために襲撃者を取りおさえるのであった。

●終幕
「チカ、こいつらは一体何人いるのだ!?」
「こんな状況じゃわかんないよ〜〜‥‥でも、どんどん動いている人が増えてる。町の外からも‥‥合わせて‥‥たぶん20人くらい」
 リュウガの銀髪が紅に染まり、襲撃者が大地に倒れる。九名で全員かと思っていた敵は混乱が大きくなるにつれてその数を増し、いまや何人いるのかすらもわからない始末だ。
「気を抜くなよリュウガ! 如月! ケイジ! もうすぐザーランド軍が来る。それまで耐えればこっちの勝ちだ!! 住民を守りながら、こいつらを確実に仕留めるんだ!」
「やれやれ、厄介な注文だねぇ。いろいろとこいつらの背後はきになるけど、今はそうするしかないのかねぇ!」
 厄介な注文を現実に実行するリルを傍目に、傷の痛みを気合いでかき消しながら槍を振り回すパトリアンナ。他の冒険者も奮闘しているが、住民を守りながらの戦いはそれほど長く続きそうになかった。
「こっちだ! もっと早く走ってくれ!! あんたら軍隊だろうがよぉ!」
 皮肉笑いが彼女の顔を歪めた頃、ようやくデュノンがザーランド軍を連れてくる。そして間もなく富裕層の邸を守る私兵も合流し、戦局は一気に冒険者側へと傾いていった。


「終わった‥‥‥‥か‥‥」
 背を向けて逃げていく襲撃者の一団。リルは背後で頭を抱える少年に最後まで広い背中を見せながら、ゆっくりと大地に倒れ‥‥‥‥熟睡するのであった。

●余幕
 捕らえた襲撃者の尋問は、ここが現在をもってザーランド領であることを理由にザーランド軍が引き受けることになった。
 襲撃者はその背後関係を明らかにした後、ザーラル・レクアの名のもとに処刑されるだろうと彼らは宣言したが、その後の情報提供は、結局冒険者が町を離れるまで行われることはなかった。

●ピンナップ

パトリアンナ・ケイジ(ea0353


PCツインピンナップ
Illusted by 水城吹雪