未来への縮図【第二話】

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月24日〜11月05日

リプレイ公開日:2005年11月03日

●オープニング

 一時占領していた『ザーランド軍』を襲った襲撃者はベガンプからのの刺客であることが尋問により明らかとなった。ベガンプ側はこれを否定したが、これまで二つの領にあった対立はこの事件をもって再び決定的なものとなった。
 ザーランド側から見れば、今まで食糧を提供してやっていたベガンプからの攻撃は明らかな『反逆』であり、かつて‥‥数十年前の争いでザーランドがベガンプを蹂躙したことの恨みをいつまでも持ち続けるベガンプへの呆れや怒りを呼び起こすものであった。
 そしてベガンプ側から見れば、今回の濡れ衣を着せられた上に、未だザーランドに根付くこちらを蔑む意識を再確認したものに他ならず、かつてザーランドが行った虐殺――両者の間で規模の差はあるものの――を反省しない行為にしか思えなかった。

 冷静な意見はあった。仲は違えど、ほんの数週間前までは同盟を結びかけた仲であり、隣の領でもある。
 しかし、感情というものは理屈を時に超越する。怒りに暴走した領民‥‥それが本当に領民であるかどうかは別にして、とにかく片方の領民が、もう一方の領民を潰そうとする度に人々の感情はいともあっさりと膨れ上がり、ついにそれが完全に‥‥‥‥理性を超越したのだ。

<ザーランド>
「レクア殿、ただいま部隊の準備が整いましたゆえ、これより『町』の警戒を厳重にすべく、出撃いたします」
「よろしくお願いしますジーフリドさん。‥‥激しい抵抗が予想されると思いますが、くれぐれもお気をつけて」
 簡素な挨拶を交わすザーランド有力者のレクアとジーフリド。
 冒険者があの町から撤退してからまださほど時間は経過していないが、事態は大きく動いていた。
 町で冒険者を襲撃した存在がベガンプからのものである‥‥と、ザーランドが考えている以上、段階的撤退は水の泡となって消えた。ザーランドは驚くべきはやさで警備の増強を決定し、その範囲も大きく広げることとした。
 領土の一部を占拠されている領主は領民の不満を受けてベガンプに救援を要請し、ベガンプもまたそれを拒みはしなかった。今やかつて冒険者達が『警備』した町では中と外に分かれてザーランド軍とベガンプと領主の連合軍が対峙しようとしていたのだ!
「いえ、『北』と戦える機会を私は心待ちにしておりました。今回の出撃に私を推薦していただいたことには感謝しておる次第です」
 簡素な言葉だけを残し、部屋をあとにするジーフリド。かつてベガンプとの戦いで多くの部下を失った彼にとって、この戦いは特別な意味があるものなのであろう。‥‥命を投げ捨ててもいいほどに。
「命なき部下のために命を捨てるか‥‥理解はできるが凡そ合理的ではない行動だね。さて、これからの動いていく今がどう未来へと繋がっていくのか‥‥楽しみだね」
 窓の外を眺めるザーラル・レクア。何事にも予測できないことは存在する。
 だが、幾重にも筋道を考え、それを合理的に実行しさえすれば‥‥
「長かった南北の争いも、終結するというものなんだよ。ねぇ‥‥クラック?」

<冒険者ギルド>
 前回諸君らが捕らえた襲撃者はベガンプから送られてきた刺客であることが判明した。ザーランドはこの事態を非常に重く考え、解放へ向けて動いていた町を再度占領することを決定した。
 しかしながら、ベガンプはこの極めて正当といえる行為に対してすら反感を抱き、ザーランドに害を成そうとしている。我らは正義の名のもとに、この行為を許すわけにはいかない。
 今回諸君らにお願いしたいことは、町の中に入って戦火から住民を守ることにある。既に町の周辺には少数ながら敵兵が展開しているとの情報があるため、単独での行動はくれぐれも控えて欲しい。住民を連れて避難することもかなり危険であろう。
 住民の避難、防御にかかる費用は原則こちらで負担するが、常識の範囲内でお願いする。

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1501 シュナ・アキリ(30歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

楼 焔(eb1276

●リプレイ本文

<町・ザーランド軍駐屯所>
「ここまでの行程、ご苦労であったな。まずは長旅の疲れを癒したまえ。詰所を整備してある」
「町までの誘導、感謝するジーフリド殿。詰所の整備はありがたいですが、その前に情勢を教えていただきたいのです。住民を避難させるために適切な場所と、敵は俺たち‥‥つまり一般住民を襲う可能性があるのかということを」
 ジーフリドを見据えたまま、視線を逸らすことなく言葉を紡ぐリ・ル(ea3888)。アーランド兵は敬意を持ちながらも鋭さを持つ彼の言葉に思わず刃に手をかけるが、ジーフリドはそれを片手で制する。
「安心なされよ。兵力は互角である故、『どちらも』諸君らを敵に回す余裕は持ってはおらぬ。避難に適当な場所は陣形を参考にそちらで探してくれ」
「‥‥感謝します」
 一礼をしてテントをあとにする冒険者達。リルの横でジーフリドの言葉を聞いていたリュウガ・ダグラス(ea2578)は一つの困難が回避されたことに安堵の息を吐く。
「とりあえず一安心だな! 少なくとも前回のようなことはなさそうだ!」
「さて、パティ殿の言う通り『万一』ってことは『ほぼ確実』ってことだろうから、安心するには早いと思うがな。‥‥もっとも、やるしかないわけだが」
 口にくわえた煙管から一筋の白い糸を溜息と共に出す名無野如月(ea1003)。前回の依頼を加味すれば、面識のないあの指揮官の言葉をすぐに信用するつもりにはならなかったのだろう。言葉の端には疑念すら感じられる。
「来るか来ないか、信用できるかできないかは後々考えよう。今は避難所の選定と住民の避難が先決だ。手分けをしてやろう」
 いつ敵が襲来してくるかも分からない現状に、作業を優先させるレイリー・ロンド(ea3982)。事前の話し合いも決して十分とは言えなかった以上、時間は可能な限り有効に使わなければならない。
「それなら私は詰所の荷物をまとめておきます。数は足りないでしょうけど、ないよりはかなりましでしょうから」
「一人では危険だ! 私もご一緒しましょう! ‥‥よろしいですか、リルさん」
 詰所に用意された冒険者用の荷物を運び出そうとするサラ・ディアーナ(ea0285)の護衛役を買って出るリュウガ。同意を求められたリルは、複数の意味をこめて『頑張ってな』と声をかける。
 依頼の最中に不謹慎と言えば不謹慎かもしれないが、依頼人に裏切られ続けている(可能性がある)この現状では、心を休ませる手段は一つでも多いほうがいい。
「さて、あたしらは酒場にでも繰り出して‥‥いぇ、ドコニイルカキクダケデスヨ」
 そんなことを知ってか知らずか、笑いながら町の中へと消えていくパトリアンナ・ケイジ(ea0353)。他の冒険者達も、彼女の声を合図にして、町の中へとそれぞれ歩を進めていった。

<夜・教会>
「ヴ〜〜、さびぃ。高いトコは本職だがよー。こう寒いとなあー?」
 教会の屋根の上に陣取り、毛皮にくるまりながらブルブルと震えるシュナ・アキリ(ea1501)。雪すらちらつきそうなこの寒さの中で、不審者を監視し続けるのはなかなか厳しい仕事である。
「おねーちゃん、あったかいお湯を持ってきたよ」
 寒空に一筋の湯気が立ち昇り、その向こうからチカ・ニシムラ(ea1128)の顔が浮かび上がる。シュナは挨拶もそこそこに彼女の手からコップを受け取ると、胸元に当てて熱源代わりにする。
「生き返るぜ〜。‥‥しかしザーランドの詰所が騒がしいな。敵襲ってことはないんだろうし、何があったんだ?」
 異変に気付いてはいるものの、役割が不審者の発見である以上戦いに首をつっこんでもいられない。シュナはチカに情報収集を頼むと、再び闇の中に視線を向けるのであった。

<教会内部>
「木戸は固定して、開けないようにしてください。ここでじっとしていれば『絶対に』大丈夫ですから。皆さん安心してゆっくり休んでくださいね」
「はい、司祭様。食事まで用意していただき、感謝の言葉も‥‥」
 『絶対』を強調するサラ。教会に集められた貧民は、目の前に立つ彼女がそれほど高位な僧侶ではないことは分かっていつつも、希望である神にすがらずにはいられない。教会にいた聖職者たちも、戦いが近いと知るや彼らを残して町の外へ出て行ってしまったのだ。
 それもあって、新たな聖職者が――仮にそれが冒険者であっても、教会に戻ってきたということは、彼らにとって自分達が見捨てられていないという一つの根拠となっていた。
「いえ、私達はただ‥‥どうしました?」
 少し乱暴に扉が開けられ、身を竦めるサラ。彼女の視界の先にいたリルは、教会内の子供達を見て心が落ち着いたのか、一呼吸だけ置いて用件を告げる。
「ジーフリド殿に会ってくる。デュノンはここに置いていくが、少しでも怪しい気配があったらすぐに呼んでくれ」
 リルは言葉を言い終えると、デュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)を残してレイリーと共に、ゆっくりと扉を閉める。刹那、馬がいななき、蹄の音はだんだんと遠ざかっていった。
「あれ、なにかあったの?」
「いや、まだ噂の段階だから何とも言えないんだが‥‥‥‥どちらにしろ、俺達にとってはあまり関係のない話だ」
 屋根から降りてきたチカからの質問に、言葉を濁すデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)。一般人がいる場所で内容を話すわけにはいかないし、厳密にこちらに関係があるのかどうかと考えれば微妙な事柄でもある。
「とりあえずリルさんの帰りを待とうか! いい方の噂かもしれないしな!」
 部屋の中に流れた微妙な空気を流すリュウガの声。そうだ、どちらにしろやることは変わらない。‥‥例え外で何が起こっていようとも。

●本幕
 戦いは始まり、冒険者達は攻撃目標とならぬように教会の内部で身を潜める。
 どちらが勝つか、どちらの陣営が扉をノックするのか、それは時の運によるものだとここに来るまでは誰もが思っていた。
 だが実際に両軍が衝突したとき、ザーランド軍は噂が正しかったことを思い知らされることとなる。つい先日まではほぼ同数だと信じていた敵の数が‥‥倍にまで増えていることに。

「大丈夫だ。火はここまで回ってこない。神の寵愛を受けたこの建物に敵が来るはずもないからね」
 教会の上から状況を観察していたシュナからの報告が寄せられる度に、ザーランド軍が敗北したということは冒険者達の中でも確信されるよういなっていた。レイリーは泣き出しそうな子供をあやしつつ、いつ破られるか分からないドアへと耳を傾ける。
 『自分たちの領民を殺すわけはない』ということは頭の中でわかっていた。‥‥だが、同時に一つの疑問もよぎる。なぜザーランドはこんな負ける戦いを挑もうとしたのだ?  負けるために百名以上の命を犠牲にすることなど、あっていいはずが‥‥
「来やがったぞ! 数は10! 全員ベガンプの鎧を着ている!」
 シュナの警告で思考は強引に中断させられる。冒険者達は入り口の前で武器を構え、サラは中央に住民を集める。
「引き取りに来たってわけじゃないんだろうね。まだ陥落してもいない敵本陣を放っておいてこんなところで油を売る兵士がいるなんて思えないからね」
「どうやら『仕事』になるみたいだな。‥‥無警告で扉を破りにかかるなんてさ!」
 パトリアンナと名無野が呟く間にも教会の扉がモーニングスターのようなもので破壊されようとしている。中に誰がいるのかも確認しないあたり、どうやらこれはベガンプや領主軍の少なくとも『正規兵』ではないことが予想できる。
「正面に五人、裏口に五人だよ。他にも三人いる!」
「ここは通せません! 何があろうと通すわけにはいかないんです! 絶対に‥‥!!」
 チカの報告を受けたサラの言葉が終わる間際、正面の入り口が音をたてて壊れ、その向こうからベガンプの鎧に身を包んだ戦士が現れる。彼らは話し合おうとする冒険者達が口を開く間すら与えず、悲鳴をあげる住民めがけて火矢を打ち込もうとする!
「陣取り合戦なんてそっちで勝手にするんだなぁ!」
 火矢をつがえた手はシュナが放った矢によって痺れ、炎の矢は石造りの壁に突き刺さる。暗い教会の内部が微かに照らされる。
「貴様らにやられるほど皆の命は軽かぁないんだよ!!」
「っ! ‥‥ザーランド軍に協力するような奴らは皆殺しだ!」
 赤い髪を炎の色に染めて、刃を振り落とすレイリー。襲撃者はその一撃を受けると、芝居のかかった言葉と共に力ずくでレイリーを弾き飛ばす! 口元を綻ばせる襲撃者、弾き飛ばされながら‥‥視線を上に移すレイリー!
「オオオォオオ!!!」
「ちぇすととおぉおお!!」
 襲撃者の襲来を待ち構えていたリルが『上』、名無野が『横』から刃をそれぞれ突き出す! 二方向から強烈な一撃を受けた男は、その場で絶命した。
「戦うならもっと別の場所があるだろうに‥‥難儀なことだね。リュウガの旦那、チカ、背後は任せたよ」
 味方が倒れようとも躊躇することなく襲い掛かってくる敵に、既に弓の範囲ではないと得物を槍に持ち替えるパトリアンナ。背後を疎かにするわけにもいかないが、どちらか一方でも出口を確保しておかなければ最悪の惨劇が起こってしまう可能性もある。
「これでも受けやがれえぇえ!!」
 気合いと共に槍を振り抜き、襲撃者を弾き飛ばす。襲撃者は舌打ちを放ちながら、恐怖から頭を抱える住民を酷く冷めた視線で眺める。
「再現の神、その力を与えたまえぇ!!」
 冷めた視線はそのまま凍りつき、リュウガの刃と切り離された自らの身体を見る。子供は恐怖から悲鳴をあげ、サラは自らの身体を遮蔽物とする。
「裏口の敵はどうしたのだリュウガ殿。いくらこちらに集中しているとはいえ、チカ殿一人に任せたわけではある‥‥っ!」
「ここは‥‥絶対に通せません!?」
 安堵の息を吐くのも束の間、名無野は敵の一撃を受け止めながら状況の説明を求める。そして彼女の言葉が終わらない内に、裏口からガタガタと音が木霊し、兵士の姿が現れる。サラは唇を結び、ホーリーを唱えようとするが相手の姿を見て慌ててその行為を中断する。
「ジーフリド様より伝令! ザーランド本陣は陥落間近!! だが、ベガンプとの交流は住民のため可能な限り避けるようとの‥‥ことです!」
「大丈夫お兄ちゃん? ここで少し休んでいったら‥‥」
 ザーランド兵に背後から斬りかかろうとしていた襲撃者の刃をチカが放った風の刃とシュナの矢が逸らす。兵士は肩から盛大に鮮血を滴らせながらも、傷を負った腕で襲撃者を切り伏せた。
「どういうことだ!? ベガンプへの降伏も含めて考えるべきだと思っていたんだが」
「‥‥こいつらを含め、これはレク‥‥!!」
「みんな伏せろおぉお!!」
 伝令に疑問の声をあげるリル。兵士は一瞬躊躇したが、ザーランドの紋章を握り締めながら口を開き‥‥‥‥目を血走らせながら立ち上がった背後の‥‥ウィザードが放ったアイスブリザードを視界に入れた。
 リュウガの叫び声が教会の内部に響き渡り、周囲はあっという間に魔法の銀世界に包まれる。子供たちは吹き飛ばされ、老人は膝を床につく。襲撃者は‥‥兵士が絶命したことを確認すると、その場から立ち去ろうと背を向けた。
「逃げられるとでも‥‥思っているのか!!」
 吹雪の中から浮き上がるレイリーの姿。彼は二つ名がそうであるように、身体に秘めた炎で吹雪の中から飛び上がり、自らの誇りを込めて眼前の敵を一刀両断とした!
「こいつら‥‥」
「追わなくていい! チカとサラ‥‥全員ですぐに手当てにあたるんだ!!」
 追撃をしようとしたデュノンを制するリルの声。
 壊れた木戸の向こう側からは、ザーランド軍の本陣から発せられた炎の光と‥‥‥‥遠くから微かに聞こえる騎馬の嘶く声が幾重にも重なって、彼らのもとへと届いていた。
 壁に突き刺さった火矢の炎は既に消え、ブスブスと音をたてて‥‥追悼の煙を教会の煙突から微かに‥‥立ち昇らせていた。