【合混】剣を‥‥
|
■シリーズシナリオ
担当:みそか
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月04日〜10月12日
リプレイ公開日:2005年10月17日
|
●オープニング
『冒険者が指揮すゴーヘルド軍、<剣王>クラック率いる騎馬隊を大いに苦戦させる!』
これは、クロウレイ地方に住む人間にとっては一つの大きなニュースであった。最強を誇り、正面からぶつかろうものなら『弾き飛ばされる』か『踏み潰される』か『串刺しにされる』の三択の中でしか選ぶ事ができなかったような騎馬隊を相手にして、冒険者達が大激戦を繰り広げたのだ!
しかも、その冒険者達はいわゆる歴戦の冒険者達ではなく、駆け出しからせいぜい中堅までに位置する冒険者であったというから驚きはさらに増す。
ゴーヘルドとザーランドの戦いは、ちょっとした英雄をつくって一時の終焉を迎えた。ザーランドの力は弱まることはなかったが、逆らわなければ少なくとも今のところは痛い目を見ることもなかった。
戦いが終わった後、本当の意味で苦境に立たされたのは‥‥ザーランドと連合を組み、そして敗北したベガンプであった。
鉱山都市として名を馳せるベガンプではあるがその大地は貧弱で、領自体の力は決して強いとは言えない。ザーランドと手を組んだことで周囲からの印象を悪化させ、そしてそのザーランドとの同盟すらも白紙同然となった今、食糧調達に苦しむベガンプは他領から見て高い武器生産技術を持つ、ともすれば垂涎たり得る存在となっていたのだ。
ザーランドのように、待ってそれを追い返す余力のないベガンプがとれる選択肢はただ一つ‥‥‥‥戦い、国力を拡大させると共に実力を示すことであった。
<コイル領・会議室>
「ラ、ラミスタよ‥‥相手はベガンプぞ。誠に勝算はあるのであろうな?」
「苦しい戦いではありますが、ベガンプも周囲の領に睨まれているため、さほど多くの兵を動員することはできません。懐まで誘い込めば、勝機は十分にあるかと」
戦いを前にして動揺する領主からの質問に、毅然とした態度で答えるラミスタと呼ばれた男。ベガンプに反抗の意志を示した時から見せしめ代わりに攻められることは分かっていたのだ。いまさら動揺したところで何が始まるわけでもない。
まだ若い彼の額には頬まではしる傷跡があったが、それも今は領主に反論させない凄みを出す一つの材料となっていた。
「これより私はベガンプに対抗するため、砦に向かいます。冒険者を含む傭兵を雇って対処にあたります故、コイル様は周辺領主への働きかけ、お願いいたします」
「う、うむ‥‥」
主が頷いたことを確認して、部屋をあとにするコイル。彼は左右の腰に銀の刃と古ぼけたロングソードを装着すると、城門前で待つ兵士達に向け、声を張り上げるのであった。
<冒険者ギルド>
「クロウレイ地方ってところは、いろんな領主が互いの首を狙う状況になっている。‥‥詳しい事情? 知らん、知りたきゃ自分で調べろ」
冒険者から寄せられた質問を一蹴するギルド職員。彼の態度に問題がないとは言えなかったが、余計な知識は戦う際に必ずしもプラスに働くとは限らない。
自分達が兵士として雇い主から雇われるというのなら、余計な事情など無視をして、突きつけられた依頼を達成する事だけ考えればいいのだ。
「依頼主はコイルっていう領主だ。その領主は、最近ベガンプってところに睨まれている。それで、そこに睨まれた領には大抵、『ロムン教』なんていう物騒な魔法を使ったり、怪しい鎧に身を包んだりした奴が襲撃を仕掛けているんだ。お前達の任務は、コイル領の内部にて発見された、連中のアジトを襲撃し、壊滅させることだ。厄介な依頼だが、下手は打つなよ!」
●リプレイ本文
●序幕
<コイル領・郊外>
それは『発見された』というよりも『発見したとみなした』と表現した方が正しかった。町のはずれにあった建造物への人の出入りは確かに少ないが、今まで気付かなかったというのは有り得ない。
「ベガンプとの繋がりを断つために、ここの拠点を潰す必要が出たのでしょうね」
「‥‥そうだね。だから、呼ばれたんだから」
月の灯りが差し込む夜、ジークリンデ・ケリン(eb3225)と光城白夜(eb2766)は、この依頼の背後にある壮大な『何か』の存在をその肌に感じながらも、依頼を達成すべく、建造物の入り口へと視線を移す。
「見張りは二人みたいだね。やっぱり相手もこっちが来ることは予想してたのかな?」
入り口付近の見張りを調査していた夜十字信人(ea9547)がトコトコと仲間のもとへと駆けていく。表向きにはともかくとして、ベガンプという後ろ盾を失ったロムン教も警戒を強めているようだ。
「相手も馬鹿ではないということですね。‥‥自分達がどういう立場に置かれているのかくらいはわかっているのでしょう」
武器を握り締める朝瀬凪(eb2215)。町の自警団に教団のことを聞き出した彼女は、仲間たちへ警戒を呼びかける。追い詰められた鼠は時として猫‥‥自らより大きな国家すら食いつぶしてしまう事がある。
そしてこれから彼女達が向かう場所は、間違いなく追い詰められた者達がいる場所なのだ。
「‥‥狙われるのがわかっているのにどうして逃げないのかな?」
「そうさね。ただ、向こう側にも体面ってものがあるんだろうねぇ。神の教団をなのっときながら逃げるってことはなかなか難しいんだろうよ」
セイラ・グリーン(ez0021)が口から出した素朴な疑問に答えるヴィクトリア・ソルヒノワ(ea2501)。邪教集団といえども、信者の大半はこの町で暮らす者である。冒険者達に出た非戦闘要員の捕縛指令もそんなところからきているのだろう。
「さて、いつまでもこんなところで雑談をしていても仕方がない。私の歌で連中の戦意を削いでやろう」
「‥‥あれ? でもその呪文って、こっちにも効果があるんじゃないの?」
大きく息を吸い込んでいたシェゾ・カーディフ(eb2526)に向けられるセイラの冷静な指摘。ついでに言えば、この呪文には絶対的な強制力がなく、窮地に陥った敵が刃を捨てるとは考えにくいものがあった。
「‥‥‥‥‥‥なんてことだ‥‥せっかく歌詞まで考えてきたのに‥‥」
「ま、まあそれは後で普通の信者に使って抵抗をなくせばいいやろ。なんにしろ、ある程度の戦いは予想していたんや。気張っていくで〜」
唯一の行動を失ってガックリとその場にうなだれるシェゾの肩に手を置いて彼をなぐさめる烈美狼(eb3563)。できればこのまま彼の愚痴でも聞いてやれば尚いいのかもしれないが、これ以上雑談をしていたら本当に敵に気付かれてしまう。
「さあて、いよいよ本番だねぇ。‥‥気張っていこうか」
笑みを浮かべるヴィクトリア。冒険者達は長らく続いた雑談交じりの作戦会議を中断させると、建造物の入り口へと進んでいった。
●一幕<入り口>
近々冒険者が襲撃してくるという情報は本部から寄せられていた。
その報せは彼らにとってまさに青天のへきれきであったが、いまさらここを捨てて別の場所に移るわけにもいかない。‥‥刃向かうコイルに、ひと泡吹かせるまでは!
「‥‥おいお前、まだ休憩時間ではないぞ!」
張り詰めた緊張感の中、壁にもたれかかる仲間を見て声を張り上げるロムン教信者。もうすぐそこに襲撃者が迫っているかもしれないというのにそんな体たらくとは! そんなことが‥‥‥‥
「あるものかぁ!!」
「‥‥‥‥!」
見張り兵の思考回路は自らの命を落とす一寸前で正しい判断を下し、迫った刃をバックステップで回避する。絶好の間合いに踏み込んでおきながら回避されたことがショックだったのか、白夜は足を一歩前に出しつつも再び間合いに踏み込むことができない。
「敵襲ぞ! 神に刃向かう者は即ちロムン様の御心によって‥‥!」
「ちょっとばっかり口上が長いやろ!! 殺らせてもらうで!」
相手の声を中断するべく、烈は獣の如く両足で力強く大地を蹴り出すと、敵の頭の位置へ拳を合わせる! 間をおくことなく突き出された彼女の拳は、その瞳に弾き飛ばされる敵の姿を映し出すことに成功した。
「‥‥にぃ! この程度、ロムン様が受けた痛みを思えば、なんということはないわぁ!!」
「こらえたってか。そうでないと面白くないねぇ。本番は‥‥これからだよ!!」
烈の拳を受けても尚右足で大地を踏み締める敵に、一足遅れてヴィクトリアが武器を持ち上げる。重厚なロングソードは、相手の眉間に迫り‥‥巨大な槍によって受け止められた!
「んだってぇ! こんな‥‥」
「我が名はバーノフ。ロムン様の加護により再び生を受けたものなり」
狼狽するヴィクトリアをよそに、攻撃を受け止めた男は聞かれもしないのに自らの名を名乗る。本当かどうかはわからないが、復活したと叫ぶ槍を持った男は、夜の闇の中にぼんやりと浮かぶその巨大な槍をヴィクトリアの胸目掛けて突き出す。
「‥‥っ! 加護で復活したとかそんなことを言って恥ずかしくないのかねぇ。信じるだけで不死身の力が得られるんなら、冒険者の商売あがったりさねぇ!!」
「信じたからこそ我はここにいるのだ! それもわからぬ愚か者は、我らを蔑むであろう!」
重く、低い金属音が何度か反響し、ヴィクトリアとバーノフは武器を交える。敵の力が勝っているのか、拮抗しているように見える二人の戦いも、徐々にロングソードが外へと流されていく。
「ハッ! 神の加護を受けぬ貴様らの力などその程度‥‥!」
「義に生き、義に死す‥‥ってな!! 往くぜ!!」
二本の小太刀が闇に二筋の亀裂を生み、バーノフの視界にまるで飛んでいるように跳躍する信人の姿が映る。刃を持ち攻撃を浴びせるその姿は彼女の美しい赤髪と相まって舞を踊っているような印象すら与える。
上から振り落とすようなその一撃はバーノフの鎧の隙間に突き刺さり、一筋の紅い糸を夜空に投げ出す。だが、まだ攻撃が浅かったのか、バーノフは怯むどころかさらなる叫び声をこだまさせて、野獣の如く槍を振るってくる。
「そっちはそっちで楽しそうですが、ボチボチこちらの加勢もお願いしますよ。‥‥ただでさえ数が多くて参ってるんですから」
「お願いします。‥‥これは戦争ですから。お互いに‥‥手加減はできないでしょう」
凪とセイラに守られながら、建造物から駆け出してくる敵兵の攻撃をしのいでいたジークリンの掌から火球が放たれる!
勢いよく敵の横を通り、建造物に命中したその一撃は、古ぼけたロムン教のアジトを崩壊へと導いた。
「シェゾさん、一般の信者はお願いしますよ!」
「フッ任せておくのだ。さあ皆、戦いなど愚かな事だ。私の歌を聴くのだ! 何故だろう? 切なく思える秋の雨‥‥」
信者が中から飛び出してくるのを見込んで、メロディーを唱えるシェゾ。彼の口から放たれる歌は、それを聴くものの気力を奪い、逃走する意志をも剥奪していく。
「っ‥‥この程度の歌で、我らがロムン様の加護を打ち破れるとでも思っているのか?!」
「‥‥‥‥はやい‥‥!」
白夜へ刃を振り落とす男。気力を奪おうとする歌を振り切って放ったその強烈な一撃は、白夜の防御を掻い潜り、彼の腕に深く突き刺さる。
「二度目の正直ってやつや! あんじょう倒れてな!」
だが、それが結果として男の隙をつくりだすこととなった。白夜の体に深く突き刺さった刃は簡単には抜けず、烈の大きくふりかぶった蹴撃を受け止めることがままならない。
「ぬうぅう!! やらせる‥‥」
「させないよっ! こっちも半人前だけどさ、少しは男を見せねぇと彼女とイチャイチャできねぇじゃんか!」
バーノフは仲間の窮地を救おうと鎧を躍動させるが、それは信人の刃によって防がれる。信人の台詞はおおよそ女性が放つものとは考えにくいが、個人には複雑な事情があるものなのでここではこれ以上触れないことにしておく。
「神妙にするがよいさ! あんたも抵抗するなら斬って捨て‥‥!!」
「‥‥甘く見るなよ女がぁ! ロムン様の加護を受け、ラートマ様に認められたこのバーノフの力は無敵、決して貴様程度に劣るものではないわぁ!!」
バーノフの太い腕が鎧越しにうなりをあげ、ヴィクトリアをロングソードごと弾き飛ばす。信人はゆっくりとこちらに向き直る敵めがけて刃を突き出そうとするが、バーノフはなんとその攻撃を受けようとしない!
「無双旋風‥‥チェストォォォ!!」
「力比べをすればどちらが強いか、その程度のことくらいわかるだろうがぁああ!!」
交錯する二本の小太刀と一本の槍! 小太刀は鎧に弾かれるが‥‥槍は信人の脇腹を肉隗と変える!!
「ああぉああ‥‥!!」
「どうだっ! この力の差、貴様ら如きのかけだし冒険者など、ロムン様の加護‥‥を‥‥‥‥」
脇腹を押さえ大地をごろごろと転がる信人。バーノフは全身から汗をかきながら、勝利に酔いしれ‥‥‥‥大地にゆっくりと片膝をついた。
「すいませんね。‥‥背後をとらせてもらいました」
ヴィクトリアと信人を弾き飛ばしたことで完全にその挙動を止めたバーノフ。がら空きとなった背中には、凪が持つ短刀が深々と突き刺さっていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「戦いは終わったようやな。あんたらもこれ以上抵抗するようなら、こいつと同じ目にあうで!!」
物言わず、大地と接吻するバーノフを視界に、烈はその他の信者へ向けて声を張り上げる。事実上の長を失い、拠点までも失ったロムン教信者たちに‥‥抵抗する気力は、残ってはいなかった。