●リプレイ本文
●一幕<山道>
人は都市をつくることで平原を支配しようとしていた。キャメロットにいれば日用品を手に入れることには事欠かないし、腹が減ればエールハウスに寄ることもできる。
だが、山の中に入ったとき、冒険者はある種の事実に気づくのだ。自分達が征服したのはイギリスのほんの一部であるということに。
「お〜〜、え〜〜〜、な〜〜が〜〜め〜〜〜や〜〜な〜〜」
「ははっ。こういうのも冒険者の役得の一つかもしれないねえ」
崖の上から眼下を見下ろし、感嘆の声をあげる烈美狼(eb3563)とヴィクトリア・ソルヒノワ(ea2501)。強い風が彼女達の髪を浮き上がらせ、体じゅうにたまった疲れを忘れさせていく。
「‥‥なんにしろ、きょうはここで野営ですね。ここなら敵から襲撃されても早めに対処することができますし」
一方を崖、そして視界の開けた下り坂に囲まれた地形を確認してやれやれと腰をおろす朝瀬凪(eb2215)。冒険者とは疲れを知らぬ超人ではない。敵から襲撃される恐れの高い山道はできるだけ早く抜けてしまいたいが、疲れがたまって敵と戦えないのでは話にならない。
「お疲れ様でした。‥‥水汲みでしたら私が行きましょう。あなたは到着してからが本番なのですから、少しでも身体を休ませておいてください」
「‥‥‥‥」
獅臥柳明(ea6609)は他の冒険者と同じく一度はその場に腰を下ろしたが、使者から空の水筒を受け取ると、疲れた身体を起こして道中に見た川まで移動していく。
「ふ〜〜〜、やれやれ。山道がこんなに険しいなんて思ってなかったから疲れちゃったよ〜」
「フフ、冒険者がこの程度で疲れているようでは‥‥いけないな。今度‥‥僕が‥‥‥‥何か?」
「‥‥いや、別段気にしてもらえなくともいい」
疲れたのか、仰向けになるセイラ・グリーン(ez0021)へ、笑いながら光城白夜(eb2766)は話しかけようとしたが、それは二人の間に伸ばされた使者の手によって強引に中断させられる。
怪訝そうな表情を浮かべる白夜。使者は冒険者と混ざるように彼らと同じような格好をしているが、首筋にはしる筋肉など、下手をすれば本業の冒険者である自分達よりもたくましく見えた。
「ねぇ‥‥あんた‥‥ひょっとして昔は‥‥」
「まあまあ白夜さん。私たちは傭兵なのですし、与えられた依頼をこなせばいいじゃないですか」
『冒険者だったのか?』と聞こうとする白夜を遮るジークリンデ・ケリン(eb3225)。白夜が言葉を止めると、使者の男は眉間に寄せていた皺を緩め、ケリンヘ視線だけで一礼する。
「やれやれ、野営をするには風が強い場所だな‥‥」
銀髪が視界に入り、うっとうしそうに水筒の水を飲むシェゾ・カーディフ(eb2526)。空になった水筒に、彼もまた翌日に備えて川まで移動していった。
●二幕
「‥‥おや、こんなところに薬草が。これは‥‥‥‥‥‥たぶん傷薬になるでしょう」
水を汲み、ふと視線を横に移すと川べりに生える野草に気づいた。獅臥は野草を手に暫し考え込むと、一人苦笑いをしてその草を‥‥‥‥空に放り投げる!
小太刀が引き抜かれ、空に舞った野草を吹き飛ばすが、同時に緑色の草の視界は紅く染まりあがる。
「ッ‥‥あなた方は何が‥‥目的ですか?」
「不思議なことを聞くもの也。胸を裂かれても尚自分の運命が分からぬか?」
ひと裂きにされたネイルアーマーと胸元を抑え、言葉によって時間と距離を稼ごうとする獅臥。だが、彼の目の前に立った敵はそんな彼の意図を読み取っても尚、敢えて獅臥に問い掛ける。
「この‥‥一撃程度!!」
砂を握り締め、敵目掛けて投げつける獅臥。同時に後方へ転がり、バックパックの中からヒーリングポーションを取り出す。
「古典的な作戦也。もう少し手に力を入れなければ、引っかかっていたかもしれぬな!」
「‥‥ォア!!」
転がった獅臥の目に飛び込む敵の前蹴り! 胸を通して肺を蹴飛ばされた獅臥は、くぐもったような悲鳴をあげながら川に落下する。
水しぶきがあがり、獅臥の胸から流れた鮮血が水と混ざり、一部が紅く染まる。蹴り飛ばした敵は満足げに、落下した川へと歩み寄っていく。
「どうした? まさかこれで終わるわけでは‥‥ないようだなぁ!!」
「‥‥浅い!!」
川べりから突然後方へと飛びずさる敵。水の中に潜り、血を煙幕として敵の接近を待っていた獅臥は、皮しか斬れていないような手ごたえのなさに歯を噛み締める。
「クク、悪知恵もそこまで‥‥にぃ!!」
細く閉ざされようとしていた敵の瞼が見開き、背中からジワリと鮮血が浮き上がる。隠身の勾玉によって気配を完全に消していた朝瀬が敵の背中に短刀を突き刺したのだ。
「大丈夫ですか獅臥さん! これが‥‥」
「気を抜くな! まだ敵は‥‥!」
確かな手応えに、川べりで倒れる獅臥へほんの一瞬注意を移す朝瀬。シェゾの叫び声が響き渡り、一瞬の隙を見逃さなかった敵の裏拳が朝瀬の瞼に直撃する! 朝瀬の膝が折れ、刃に込めていた力が抜ける。
「りゃりゃリャーーー!!!」
生命の危機から解放された男が背中の傷を確認する間もなく、美狼が拳を振り上げる。握られた金属拳は男の顔面目掛けて突き進み、男の頬を掠める! 完全に不意をついたにもかかわらず回避されたという事実に、美狼は驚き‥‥脇腹にはしった痛みと共に砂利の中に弾き落とされる!
「っ‥‥」
「このガタイ、打ち倒せるならやってみるさねえ!」
背中の傷を確認しようと距離をとる男。ヴィクトリアはそれを好機と見るや、ロングソードを片手に片足を踏み出し‥‥‥‥踏みとどまる。戦力の全てをこの男一人に使ってしまうようでは、依頼内容を根本から勘違いしてしまったことになる。
「突出は控えてください。あくまで目標はこの方の護衛です」
「わかってるさね。ちょっとやんちゃがやりたかただけ‥‥ぇ‥‥!」
ケリンへ笑いかけるヴィクトリア。だが、彼女が迫る足音に気づいて刃を構えたとき、その構えるスピードなど比較にすらならない速度で男の刀が彼女の巨体を‥‥‥‥弾き飛ばす!
「一歩退くのは良作也我、それを許すほど甘くは無い!」
「‥‥少し‥‥調子に‥‥乗りすぎだぜ!」
黒装束と皮製の黒マントが闇を創り出し、闇の中から銀に光るライトソードが現れる。余裕の笑みを浮かべながら回避する男を見ることもせず、白夜は再度大地を踏みしめ、本命の一撃を浴びせ掛ける!
「惜しい。実に惜しかったぞ!」
「‥‥‥‥!!」
だが、彼の手は空気を斬ったとしての手応えしかもたらすことはない! 耳元で聞こえた男の声は彼の耳に飛び込み‥‥‥‥白夜は声を出す暇も無く切り伏せられた。
「待て、自分達は旅人だ。なぜ俺達を襲撃する!?」
「笑わせるなよ。この琥珀が何も知らずに刃を振るっているとでも思ったか?」
深い傷を負わせたつもりが、気が付けば冒険者がほとんどやられているという現実に、シェゾは使者達が逃げるための時間を稼ぐため、武器を持つことなく男に問い掛ける。
いかに強力だろうと相手はたった一人。時間を稼ぎ、全員で慎重にとりかかれば決して勝てない相手ではなかったが、いかんせん事前の準備も、さらには危機意識も足りなさすぎた。その結果が単独で攻撃を仕掛けた行動であり、攻撃手段を持つ者といえば使者の前に立っていたセイラとケリンくらいしか残っていないという現状である!
時間稼ぎまで見破られ、こちらに向かって来る琥珀と名乗った男に、シェゾはせめて時間を稼ごうとマントを手に巻きつけ、不慣れな格闘戦へと持ち込もうとする。
「三人とも、今のうちに逃げてください!」
「‥‥こうもあっさり負けてしまっては、他の冒険者に申し訳が立たないですからね!」
シェゾのマントが琥珀に切り裂かれる間際、敵の両側面から獅臥と朝瀬が刃を突き出す! 怪我を負っていようともそれは相手も同じ。両脇から踏み込めば、どちらが有利かなど論ずるまでもない議題であった。
「そうこなくては面白くも無い! 今宵は思う存分戦おうぞ!!」
背後に目があるのかと疑いたくなるような身のこなしで両太刀を回避する琥珀。獅臥と朝瀬は同じ過ちは繰り返すまいと、互いに距離をとることなくたった一人の敵を睨み据える。
「今の内です。逃げてください」
「逃げるのは構わないが、お前に仲間を全員見捨てる覚悟はあるのか? ‥‥とんだ結末だ」
手を引いて逃げるように促すケリンの手を払いのける使者。男は腰から古ぼけたロングソードを抜き放つと、セイラの耳元で何か一言囁き‥‥前に踏み出す!
「本命がこうして来てくれるとはありがたい也ラミスタ! 貴様と戦えるなら、こうして‥‥」
「勘違い‥‥するなよ。この人は‥‥僕達が護衛する人だ!!」
「使者さん、主役を奪おうなんて甘い考えだねぇ!」
刀を握り直す琥珀に斬りかかる白夜とヴィクトリア。怪我を負った二人が繰り出す攻撃は決して十分なものとは言えなかったが、それでも‥‥‥‥空中に飛び上がった美狼から注意を逸らすくらいのことはできる!
「リャアアァアーーー!!」
気迫と共に両腕に込められる力! あらん限りの力で拳を握り締めた美狼の一撃は、琥珀の顔面に命中して彼を大きくのけぞらせる!!
「これで‥‥‥‥」
「軽いわぁーー!!!」
確かな手応えに微笑すら漏らした美狼の表情が一変し、前蹴りが彼女を再び砂利の中へと突き飛ばす。勝利を確信した琥珀は刃を振り上げ‥‥‥‥周囲を包んだ煙に気づいた。
「それなら全員で逃げるだけです! 皆さん、来た道を戻ってください!!」
使者の提案に従い、道を戻るように叫ぶケリン。傷を負った冒険者の走るスピードは決して速いとは言えなかったが、アーノルドとは逆方向に歩いていく冒険者達を見て、琥珀は追跡をしてこなかった。
ある程度敵をひきつけることには成功したが、コイル領の使者がアーノルドに到着したかどうかは未だ不透明なものとなっている。