【合混】剣を‥‥(最終話)

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 84 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜12月07日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

 戦いが起こることは既に分かっていた。
 それがどのような結末を起こすことになるのかも分かっていたのかもしれない。
 だが、彼らは退くことはできなかった。
 退くことは自分達の積み上げてきたものを全て手放すということを意味するのを知っていたから。
 人は誰もが安定した生活を手に入れれば保守となる。自分達の生活を脅かす部外者に危機感を抱き、それを排斥しようとする。部外者に対抗する力をつけようとする。

 ‥‥例え、それが最終的には自分達の滅亡を引き起こすことになるとわかっていたとしても。

『一分でも一秒でもいい、長く‥‥永くこの大地を、自らをはぐくんでくれた大地を守ってみせる!』
 攻める側と守る側の違いこそあっても、両軍の指揮官は拳を握り締めたまま、その考えを譲ろうとはしなかった。

<コイル領>
 遅れてしまった使者の到着は、結果的に援軍の到着が遅れることを意味していた。ラミスタ率いるコイル軍は援軍の非到着という現状で全体の士気が落ち込む中、ベガンプ軍と幾度となく激しい戦闘を繰り広げた。
 コイル軍は勇敢に戦ったが、堕ちた威信を再び取り戻しザーランドと対等な関係を築こうとするベガンプ軍の士気たるは、自領内で戦うコイル軍のそれに勝るとも劣らなかった。
 戦いは消耗戦となり、兵力に劣るコイル軍は地の利を活かすこともできず撤退を重ねていった。‥‥争いが起こったならば必ず起こるような一連の悲劇と呼ばれるもの―――虐殺であったり、女性への暴行であったり、略奪であったり、人身売買であったりするもの―――は、軽くダース単位で発生したが、それはあくまで陰の話であった。
 現状を保つためならば、大抵の人間はいかなる犠牲をも惜しむことはない。悲劇は戦場での英雄憚に覆い隠され、多くの領民もそれを支持する。
 つまるところ、冒険者ギルドに張り出される依頼も当然ながら‥‥‥‥争いへの協力の如何を問う物が何の疑いもなく選ばれることとなった。

<冒険者ギルド>
 我がコイル軍は近く城下付近において、ベガンプ軍と領の命運を賭けた一大決戦を行う。こちらの兵は諸君を含めて200、あちらの兵は400と数の上では勝ち目はないが、敵は不慣れな行軍で疲れ果てている上にこちらには地の利もあり、さらに言えば援軍のあてもある。敵を追い返すか、最悪釘付けにすることさえできれば再びベガンプ軍が舞い戻ることはできない。
 どうか諸君の力を貸して欲しい。諸君には兵40を与え、遊撃軍扱いで動いてもらう。どのような位置でどのような戦法をとるかは諸君に任せよう。こちらは城下前に一面に広がる森の中で敵を伏せる予定である。
 どうか、我らに力を貸して欲しい。よろしくお願いする。

<コイル領>
「姉さん‥‥あなたにもらったこの剣がある限り、僕は‥‥あなたに会うまで、死ぬわけにはいかない!」
 鎧の下から覗いた少年の面持ちを隠しながら、若き指揮官は最後の戦いへと赴くべく、城下へと進んでいった。

●今回の参加者

 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2501 ヴィクトリア・ソルヒノワ(48歳・♀・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea6609 獅臥 柳明(47歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2215 朝瀬 凪(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2526 シェゾ・カーディフ(31歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb2766 光城 白夜(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3563 烈 美狼(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「戦いでは生き残った奴が偉いですが、戦場では死んだ奴が一番偉くなる。思い返してみれば、我はそんな価値観に耐え切れなかっただけかもしれぬ」
 ‥‥すべての始まりは、ここからだった。

●序幕
 戦いを始めるのは簡単だが、終わらせることは往々にして難しい。
 複雑な事情であるにしろ、単純に頭に血が昇っただけにしろ、小手を投げつけるなり手っ取り早く殴ってみるなりして始めた戦いを完全に終結させるためには、両陣営から大の大人が両手の数ほど集まり夜を徹して話し合いを行うかあるいは‥‥‥‥相手を完膚なきまでに、戦意を喪失させるほど叩き潰すしかない。
「あ〜、やれやれ。聞いてみるのと実際に見るのじゃだいぶ違うんだね」
 高台から敵の陣地を見下ろすジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。400という数字はその『数字』そのものを見れば決して迫力を感じられるものではないが、実際に見てみるとそれなりの迫力を帯びてくる。
「フフ‥‥激しい仕事になりそうだね」
「‥‥ええ、どんな形になるにしろ、それだけは確かなことだろう」
 激戦の予言を視界に不敵な笑みを浮かべる光城白夜(eb2766)とは違い、シェゾ・カーディフ(eb2526)の表情が優れることはない。
 これから起こる戦いは、闘技場で行われるような競技でなければ、モンスターと戦うような通常の依頼でもないのだ。一人でも多く人を殺した者が‥‥まったく面識も恨みもない人間を殺した者が英雄とされる、戦争なのだ。
「この戦いで‥‥戦場で吟遊に何ができるのだろうな」
 空には雲が広がり‥‥雨はいつしか激しさを増していた。

●一幕
「コイル軍の奇襲! 各員迎撃体勢をとれ!!」
 戦いは冒険者達が率いる遊撃軍の奇襲によって幕を開けた。地の利と天候とを活かし、ギリギリまで敵に発見されることなく接近した冒険者と四十名の手勢は、当初の予定である『背後』からではなく『側面』から敵を奇襲することに成功したのだ。
「何をしている! ここまで来て奇襲を許すとは‥‥見張りはきっちりと仕事を果たしていたのか!? これが‥‥‥‥!!」
「戦争の裏にある蛮行‥‥これもそうかもしれないけど、戦わないと‥‥何も解決しない‥‥っ!」
 声を荒げていたベガンプ兵士の体が血飛沫と共に崩れ落ち、その向こう側から血にぬれた朝瀬凪(eb2215)の姿が現れる。奇襲は完全に成功したわけではなく、無数の矢を放たれ‥‥自身も既に肩と腹に矢を受けた彼女は、それでも刃を握り締めることを止めようとはしない。
「そうだね朝瀬さん‥‥できるだけ敵陣深く切り込んで‥‥奴らを‥‥戦いに勝たないとね!」
 銀色の刃が紅く染まり、ボトリと落ちた首が光城の手に握られる。胴を持たぬ首を持った彼の姿はその漆黒の衣装と相まって不気味な雰囲気を放出する。
「‥‥怖気づくな雑魚!! 戦場で見せる臆病ほど無駄なものはない! 貴様らは俺の後に続け!」
「アルラム‥‥様。しかしこれは‥‥‥‥わかりました」
 異様な迫力に怖気づく兵士をかき分け、アルラムと呼ばれた男が冒険者達の前に立つ。兵士達はあからさまに不快な表情を浮かべたが、彼にひと睨みされると、そのまま一歩下がりアルラムの挙動を見守る。
 周囲で血が飛び、悲鳴が木霊する中で睨みあう両陣。それは僅かな時間ではあったが、髪から水滴がポトリと落ちるためには十分すぎる時間であった。
『‥‥!!』
 髪から滴った水滴が敵の姿をぼやけさせ、雨の中でビチャリと背後から敵が近づく音が聞こえる! 同時にその気配を察知した朝瀬とアルラムはぬかるんだ大地を蹴り飛ばし、まるで一対一の決闘であるかのように両者の距離を縮める!
「っ! もう少しだったのにさねぇ!!」
「‥‥僕に勝てるとでも‥‥‥‥!!」
 両者の距離が零となる前に動く周囲。駆けつけたヴィクトリア・ソルヒノワ(ea2501)はベガンプ兵士数名に囲まれ舌打ちを放ち、白夜は側面に立った男の刃を受け止める!
 金属音は豪雨の中でむなしく響き、誰のものかもわからぬ鮮血は足跡からできた水溜りを紅く染める。
 ラミスタ率いるコイル軍は正面から攻撃を仕掛け、戦いは激しさを増していった。

●幕間
「‥‥‥‥撤退の指令は‥‥‥‥」
「無理だろうな。ここまで激しくなっては声なんて届くはずがない」
 少し離れた場所で、奇襲部隊がベガンプ軍に飲み込まれていく様子を黙って見るジークリンデ・ケリン(eb3225)とシェゾ。離れた場所で様相を見守っていた彼女達は、主に兵士の治療にあたりつつ、戦況を見守っていた。
「‥‥戦う者もいれば、逃げる者もいる。戦場に紛れて金儲けを企む者もいる。正義感なんてものもありますが、それを覆い尽くすのは圧倒的な憎悪と怒号。血と涙だけですよ」
 弓を構えて敵に警戒しつつ、複雑な表情を浮かべる獅臥柳明(ea6609)。割り切ってしまおうと思えば割り切ることもできる。慣れようと思えば簡単に慣れることもできるだろう。
 だが、その感情を失ってしまっては自分達は‥‥‥‥‥‥雷鳴の向こう側に浮かぶ、あの男のようになってしまう!!
「戦場に嫌気が差して帰ってきた場所がまた戦場とはな‥‥我ながら情けなくすら感じる也」
 猛烈な光が周囲を包み込み、戦場から未だかつてないほど大きな悲鳴が‥‥何十何百と重なって交響曲を奏でる。余りに醜い絶叫にシェゾは耳を塞ぎ、白夜は目を閉じる。
「なに、誰だってそうですよ。そういう‥‥息子がいますから」
 そして柳明は穏やかな口調とは裏腹に刃を握り締め、目の前の‥‥‥‥豪雨の中瞼から水滴を垂らす一人の男と‥‥木霊琥珀という名のかつての戦士に向けて、刃を向けた。

●二幕
 雷はジャパンでは『神』鳴りと表記されることもある。
 その力は数多ある種族の最も優れた力をもってしても、強大な魔法をもってしても、対抗できるものではない。
「久しぶりだね琥珀のおっさん。なんかまわりは戦争どころじゃないみたいだけど、あんたは‥‥やるつもりなんだろ!?」
「‥‥是」
 肩からたった今刺さった矢を引き抜く琥珀。たった二撃の雷によって大混乱に陥った戦場を背に、琥珀と‥‥そして未だに戦意を失わぬベガンプ兵士は一人でも多くの命を奪おうと殺意を剥き出しにして彼女達の前に立つ。
「戦いはもう終わってるっていうのに難儀なもんやね! これで‥‥!!」
「美狼!」
 言葉を遮り、既に泥沼と化した大地に、そして戦場に烈美狼(eb3563)を叩きつける琥珀! シェゾは叫び、突進を試みるが、それは他でもない獅臥によって止められた。
「それほど長くは食い止められないでしょう。援護をお願いします。‥‥‥‥らああぁぁあああ嗚呼!!!」
 気合と絶叫を全身から放ち、琥珀へと突進する柳明。未だ刃は交えずとも、一目見ただけでわかる己との力量差! だが、ここが戦場(イクサバ)である限り、戦場の終わりを告げる『合図』が放たれぬ限り! 背を向けるわけにはいかない!!
「誉めてやる。勇気を持ち、我に向かって来れる者のみが戦う権利を有する!」
「‥‥ォォ‥‥おお!!」
 突進にあわせて琥珀は刃を振り落とすが、ぬかるんだ地面の影響か十分に踏み込むことができない! 刃は柳明の肩の一部を切り落とし、柳明の刃は‥‥泥の中に落ちる。
「ナイスだ柳明のおっさん! 絶対にあんたには当てないから‥‥期待していろ!!」
 抱きつくように琥珀の動きを止める柳明に、僅かな隙間を縫って琥珀だけに矢を射んとせんジョセフィーヌ! 視界の端に浮かんだ敵影はシェゾが身を張って止め、放たれた矢は‥‥‥‥琥珀の瞼を僅かに掠め、大地に突き刺さる! 柳明が口から血を吐き、大地に倒れたのはそれとほぼ同時刻のことであった。
「千載一遇の機会を逃したな女。‥‥もう終わりだ。全ての祈りは無為となり‥‥‥‥!!」
「戦いは終局へと動き始めるんや!!」
 泥の『中』にある大地を蹴り飛ばし、空高く跳躍する美狼! 飛び散った泥は琥珀の視界を塞ぎ、打ち抜かれた拳は泥の中に敵を弾き飛ばす!!
「ははっ、どうや。これ‥‥で‥‥!」
「奇策は誉めよう! だが、浅知恵で絶対的な力の差を埋めることは叶わぬ!!」
「浅知恵はそっちだよ! 今度は外さない。私の弓はあんたの胸を貫く!」
 泥から飛び出し、先ほどの彼女と同じように跳躍する琥珀! ジョセフィーヌは今度こそ外さぬと矢を振り絞り、ジークフリデは万一に備えてファイヤーボムの詠唱に入る。
 美狼の助けに入ろうとしたシェゾはベガンプ兵に行く手をふさがれ、柳明はまだ膝を立てるだけで刃を握ることもできない。
 終わらせることが困難であるはずの戦いは終わりへの刻を確実に刻み‥‥‥‥蛮行の前に、屈した。
「これは‥‥まさか‥‥」
「どういう‥‥‥‥どういうことだー!! なぜ戦わせぬ! なぜ争いを止めよなどと号令をかける! これでは‥‥何のために我らは‥‥ベガンプ、コイル‥‥十諮詢名隊は命を落としたのだ!!」

 全てを終わらせた蛮行‥‥‥‥それは、両陣営から大音量で奏でられた『全軍撤退』の合図であった。

●終幕
「どういうことさね‥‥これは? いったい‥‥」
 雷の余波を受けて失神した白夜と朝瀬を背に呆然とするヴィクトリア。確かに死体はたくさん転がっている。だが、コイル城は落ちていないしベガンプ兵もまだ戦う意思を失ってはいない。それが‥‥それがどうして、こんな中途半端な形で決着をつけなければならない!!?
「妥協だ。コイル様は領土の一部をベガンプに渡すことを密使でお送りになり、これ以上被害を出したくないベガンプはそれに応じた。ベガンプは面子を保ち、コイル様は脅威から解放される。‥‥全ては丸く収まり、領民もそれを支持するだろう‥‥‥‥この戦場にいる者以外は!!」
 気絶したセイラ・グリーン(ez0021)を‥‥かつて姉と呼んだ存在を抱きしめながら、コイルの紋章が刻まれたヘルムを泥に叩きつけるラミスタ。


 この戦いで死んだ者は『英雄』と呼ばれるのだろうか? 生き残った者以上に尊崇され、権力者ですら礼を欠かさないのだろうか?

「ふざ‥‥けるなよ、こんな戦いで‥‥こんな戦いにまきこまれて、死んでいって‥‥なにが‥‥‥‥なにが‥‥英雄‥‥だぁ‥‥ぁ‥‥‥‥」
 戦いの結末を聞いた兵士は‥‥自らの腹に刺さった刃を握り締めたまま叫び‥‥‥‥一人の英雄となった。