【黒王】前編

■シリーズシナリオ


担当:美杉亮輔

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2005年07月16日

●オープニング

 暗鬱な空からは、時折ポツリポツリと雫が落ちている。
 その雨滴にうたれながら、男は藪の中に身を潜めていた。
 男の眼は、じっと一点に注がれたままである。その視線の先は――鹿だ。子馬ほどの体躯をもつ、見事な獲物である。
 男はほくそ笑むと立ちあがり、弓をきりきりと引き絞った。
 獲物がこちらの存在に気づいている様子はない。この距離なら確実に仕留められる。
 キュン!
 男の放った矢が空気を引き裂いて疾った。狙いは過たず、光流は草を食む鹿の首筋へ――
 仕留めた!
 男が思った。すでに彼の眼は矢に貫かれた鹿がもんどりうって倒れる姿を幻視している。
 刹那――
 咆哮が轟き、鹿が地を蹴った。矢は空しく鹿のいた空間を流れすぎている。
 愕然とする男は、はじかれたように振り向いた。
 そこに――
 漆黒の闇が凝り固まったような巨躯の黒狼がいた。爛とした眼に鬼火のような光を浮かべ、男を見据えている。
 これが――
 男が息をひいた。それが分かったのか、黒狼の口が裂けるようにゆっくりと開かれていく。
 黒狼の口から太い牙が覗くのと、男の口から悲鳴が迸るのが同時であった。
 次の瞬間、黒狼の巨躯が空を舞い、男の悲鳴が途切れた。

「ええいっ!」
 壮年の、ごつい体格の男がテーブルに拳を叩きつけ、立ちあがった。
 彼の名はドレイク。集落の長である。
「また黒王か‥‥で、リノスは?」
「命に別状は‥‥しかし、当分弓は持てますまい」
 初老の男が応えた。彼の名はノーランという。
「おのれ――」
 ドレイクはギリギリと歯噛みすると、
「もはや捨ておけぬ。たかが狼、山狩りをして、根絶やしにしてくれる」
「いや――」
 ノーランが慌てて制した。
「そう簡単にはまいりませぬ。黒王とその眷属ども。なかなか手強く、我らが返り討ちになる恐れもございます。弓をとる者がいなくなれば、この村は――」
「ぬぅ‥‥ならば、どうすれば良いのだ?」
「それは‥‥」
 ややあって、ノーランは琥珀色の眼をあげた。
「冒険者に依頼しては?」
「冒険者、だと?」
「はい。難しい仕事をこなす者達と聞いております。その者達なれば、必ず黒王を仕留めてくれると」
「よし」
 頷くと、ドレイクは満足げにニヤリとした。
「黒王め。もはやお前の好き勝手にはさせん」

 音もなく――
 ひとつの影がドレイク宅から離れ、木立の向こうに滑り込んだ。
 影――それは背に弓を負ったエルフの若者である。優しげな顔立ちだが、きっと引き結ばれた唇は、若者の意志の強さを感じさせた。
「冒険者か‥‥」
 唇を噛むと、若者はアイスブルーの瞳を沈思に翳らせた。

●今回の参加者

 ea1303 マルティナ・ジェルジンスク(21歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6159 サクラ・キドウ(25歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7623 ジャッド・カルスト(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9356 ユイス・イリュシオン(46歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb0161 コバルト・ランスフォールド(34歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0901 セラフィーナ・クラウディオス(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●蒼空
 心と同じように。きっと肉にも相性というものがあるのだろう。
 ふっと可憐なシフール、マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)は思った。
 ジャッド・カルスト(ea7623)の肩を借りるのは初めてではないが‥‥妙に居心地が良い。
 そのジャッドは――
 お礼のつもりのマルティナに保存食を調理してもらったり(ちゃっかりマルティナはジャッドの保存食をいただいているが)、または汗を拭いてもらったりと甲斐甲斐しく世話されて、それほど悪い心持ちではない。どころか――
 羽をつまむ度にくすぐったそうにマルティナが身をよじるのが、面白くてたまらない。
「ライルさんと友達だとは思えないわね」
 セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)の冷えた声音に、ライル・フォレスト(ea9027)は仕方なく頭をかいた。
 確かに退屈な自分とジャッドが友人とは思えないだろう。そのことを口の葉に乗せると、屈託のない陽光を想わせる娘が首を振った。
「そんなことあらへん。退屈な人とは思えへんけど」
「そう思うこと自体が問題でしょう」
 ティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)と違って、サクラ・キドウ(ea6159)はにべもない。
 人の在り様は様々だ。そして、その全てに価値がある。サクラはそう思っている。
 ところで、とティファルが口調をあらためた。
「動物が人間を襲うというのは、必ず何らかの理由があるはずなんや」
「そうね。普通は、よほどの事が無い限り、動物は人に牙を向けないものだけど」
 言葉を途切れさせたセラフィーナに、返す応えはない。現時点ではあまりにも情報が少なすぎる。予断を持つことは危険であった。
「何故、助かったか‥‥」
 ふっと響いた自問めいた呟きに、冒険者達は頭を巡らせた。
 呟きの主は黒銀の影――雪銀の髪色に黒衣の僧侶、コバルト・ランスフォールド(eb0161)である。
「助かったのが不審か?」
 問うたのは年嵩の女騎士である。名をユイス・イリュシオン(ea9356)といい、コバルトの疑問は同時に彼女のそれでもあった。
「ああ」
 コバルトは氷の面差しのまま肯首した。
「被害にあった村人が‥複数人での狩猟では無く単身だったとしたら‥命を取り留めた事自体に違和感がある。『彼ら』にとっての狩りの対象ならば元より助かる筈は無いからな‥」
 警告か。最後にもらしたコバルトの言葉に、冒険者達は顔を見合せた。
 黒王は並外れた手強さを有しているという。その黒王に襲われたとあってはひとたまりもないであろう。なのに‥‥
 棘が刺さったような妙な違和感。当初より冒険者の誰もが抱いていた疑問だ。
 コバルトの言ならば、確かに糸口はほぐれそうだ。が。何にしても思考の隙間を埋める手駒が少ない。
 これでは返り討ちにあう恐れも――サクラの懸念が声となる。
「とりあえず情報集めから、ですね‥‥」
「でも、集落に着いても大変なんですよね」
 やっつけろって依頼なのに悠長だって云われそうで‥‥。マルティナの危惧だが、それも当然だ。
 依頼人が欲しているのは黒王の排除であって、彼等の襲撃の理由を知る事ではない。もしそこに集落の者にとって都合の悪い理由が沈んでいるとなれば、それはならさら厄介な事になる。
 その時、マルティナの身がふわりと浮いた。からみつく見えぬ糸を振り払うように、そのまま一気に飛翔する。
 蒼空に身を溶け込ませるように天翔けるマルティナの眼下に、集落が広がっていた。鮮やかな緑に抱かれるように、ぽつぽつと人の営みが見える。
 黒王が襲うという集落は、もう目の前だ。

●糸口
 体格が良く、そのことが生業に深くかかわっている場合、えてしてその事が自慢の種になるものだ。
 ジャッドはまず集落の長、ドレイクの体躯を褒めた。案の定ドレイクは相好を崩し、ジャッドとユイスにエールを勧めた。
 そろそろいいだろう。
 ジャッドが切り出したのは今回の到来の内容である。事の真相が見えぬ以上、此度は調査のみにとどめておきたい、というものだ。
 依頼人には何としてもそのことだけは承服させねばならなかった。地味に見えて、それは今回の依頼の鍵の一つになりうる難題だ。
「何を悠長な!」
 マルティナの云った通りだな。胸の内で皮肉に笑い、しかし表情だけは真面目に白々と――根絶やしにする為には必要だと説得する。
「もし少しでも生かしておけば、いつ数を増やすか知れたものではない。それではいたちごっこだ。永遠に依頼を出し続けるわけにもいくまい」
 ユイスの言葉は、強い。
 それは彼女の年齢からくるものか、それとも彼女の芯のもつ確かな強靭さかは分らないけれど。
 さしものドレイクがぐっと声をつまらせた。そうと見てとって、二の句を継がせないようにジャッドは重ねて尋ねた。そのへんの息の押し引きは心得ている。
「興味本位ですまないが、この集落はどのような事で生計を立てているのですか?」
「見ての通り、狩猟だ」
 憮然としたドレイクの応えを聞きつつ、ユイスは視線を部屋に巡らせた。
 壁にも床にも大量の毛皮が飾り付けられている。中に一つ、白銀に近い灰色の毛皮がユイスの眼をひいた。あれは狼の毛皮であろうか。
 人間が乱獲等で狼の生活を追い詰めていないか心配なんだ。
 ユイスの脳裡を、ライルの言葉が過った。レンジャーらしい言葉だと暖かい心持ちがしたものだが――端緒の一つを掴んだような気が、ユイスはした。

 そのライルは、マルティナ、ティファルとともに森の中にあった。風向きを計算して彼が選んだルートを進んでいる。
 集落で森の様子だけでなく黒王達の縄張り等についても尋ねてみたのだが、さっぱり要領は得られず、それではと実地に探るということになったのだが‥‥。
 ひとしきりティファルから狼の生態についてのレクチャーを受けた後、ライルは首を傾げた。
「どうやら黒王は他の狼とは違うみたいだね」
 他の狼は知らず、黒王の襲撃地点をまとめると、決まった縄張りなどはないようだ。それは狼の生態とは異なるものである。
 と、ライルが足をとめた。ティファルが遅れ出したことに気がついたのだ。
「悪いなぁ、うち、すぐに道に迷ってしまうねん」
 荒い息をついて、ぐいとティファルは額の汗を拭った。森の空気はひんやりと冷気が染みているが、やはり夏は夏だ。
「こんな日はひなたぼっこやな」
 息吹探査の呪を一つ仕掛けてから、ティファルは愚痴った。
 そうか? と再び首を捻ったのはライルである。こんな日にひなたぼっこでもしようものなら、こんがりと焼けてしまうだろう。それは現実逃避ではないだろうか。
 そんなライルの想いも知らぬげに、ティファルが大きく伸びをした。
「エエ森やなぁ。うちの故郷によう似とる」
「ティファルさんの故郷ってフランクでしたよね?」
「うん」
 マルティナに頷いて見せたティファルの眼が遠くなった。深い色の碧眼は何を追っているのだろう。
「うちは人間と自然が一体になって平和に暮らせるのが一番思っとるんや。せやから人間と狼の住み分けをキチンとして、村人の前に姿を現さなければ退治する必要あらへんのやないかと」
「そうですね」
 マルティナが微笑んだ。
 事の真相はまだ知れぬが、もしティファルの云う通りになれば万万歳だ。誰も傷つかなくてすむ。解決とは、本来こういうものだろう。
「ライルさんが前に云ってましたけど、狼もいなくなると、それはそれで大変ですからね。自然の流れって云うか、営みに歪みが‥‥」
 うーん、なんて云ったっけ? 困ったように見つめるマルティナに、ライルは苦笑を返した。
「他の動物たちとのバランスが崩れて、そのうち山や森が荒れるんじゃないかってことかな?」
「そうそう!」
 手を打ち鳴らして感心するマルティナ。
 そのあまりにもまっすぐな表現に、ライルは面映そうに頬を染め、すぐに視線をさ迷わせた。いざという時に備えて狼達の痕跡を追い、罠の設置場所を探しているつもりであるが――身が入っているとは云い難い。それを誤魔化すように、
「だからってわけじゃないけど、できれば根絶やしにはしたくないんだ。黒王に肩入れするみたいなんだけどさ」
「依頼に私情をもちこむのって‥キライじゃないですよ」
 ふふと笑うマルティナは、小悪魔というより妖精に見えた。
 その時――草を踏みしだく音に、ライル達ははじかれたように身を潜めた。遠目の利くティファルはすでに物音の正体を捉えている。
 山犬だ。かなりの数である。風下であることが幸いして、まだこちらの存在には気づいていないようだが――
 マルティナがダーツ、ライルが忍び刀を手にした。雷撃を放つべく、ティファルも呪を紡ぐ用意をする。
 しかし出来得ることならば戦いたくない。多勢に無勢ということもあるが――
 後を尾行けてやる。
 その望みにライルの眼がギラと光った時、咆哮が轟いた。魂の底からひしりあげるような、強く哀しい旋律。
 打ち払われたように山犬どもが姿を消した後も、三人の冒険者は茫乎として立ち尽したままであった。 

●深層
 落ちた髪飾りを拾い上げ、ジャッドは娘を呼びとめた。
「これは、君のものだろう」
「あっ」
 慌てて髪に手をやると、娘は頬を赤らめながらジャッドに近寄ってきた。
「あ、ありがとう」
「いやいや。ところで」
 美しい君を守る為に、協力してくれないだろうか? 髪飾りとともに娘の手を握り締め、ジャッドは微笑む。するりと女性の心の隙に滑り込む手練は、ほとんど芸術的だ。
 耳朶まで薔薇色に染めた娘は、こくっと頷いた。

「あれも芸のうちか」
 傍らで様子を眺めやっていたサクラがぼそりと呟いた。
 戦いは刃を噛み合わせることだけではないと教えられたことがある。ならばジャッドは達人かも知れない。

 老人には敬意をもって接するべきだ。が、全ての老人が敬意の対象に値するとは限らない。
 ドレイクから紹介された集落の古老は、セラフィーナの手をとると、良い手触りだとほざいた。
「――黒王のことであったな」
 セラフィーナに手をつねられ、ようやく古老はユイスの問いを思い出したようである。
「しかし何故そのようなことを訊く? ドレイクの依頼は黒王の始末であったのだろう」
「依頼は受けた。が、命のやりとりをするのだ。自分に納得のいく理由が欲しい。無闇に命を奪う行為は己の信念に反する」
 当初は隠しておく思惑であったが、あえてユイスは曝け出した。元より心に仮面を被せての会話は得意ではない。
 ややあって、古老はふぉっふぉっと空気のもれる音で笑った。
「面白い連中じゃの」
 良かろうと、居住まいを正した古老の面からはニヤケた色は拭い去られている。
「ぬしたちの察しの通り、黒王は森の主よ」
「やはり」
 ユイスとセラフィーナは顔を見合わせた。
 これで一つの推論の裏づけはとれた。が、まだ全ての霧が晴れたわけではない。怪我人から得た話から察するに、端から黒王は殺すつもりではなかったようだ。そこを質さなければならない。
「その黒王が、何故集落の者を襲うのです?」
「黒王は‥‥怒っておるのよ」
「怒って?」
 問い返したセラフィーナに、古老は沈鬱な眼を伏せた。
 それではもう一つ――今度はユイスが口を開いた。
「狼を守護する者などはいないのですか?」
 ユイスはエルフの存在を想定していた。もしそのような存在があるとするなら、それは森と連なる者だ。
「それは――」
 ややあって、古老は哀しげな眼を上げた。

 天穹は茜色から濃い群青へと色を変え、やがて山の端の残照も消えた。
 集落へと続く丘陵を歩くコバルトの足取りは、重い。独り仲間から離れ、周辺の確認を兼ねて覆い隠された話でも拾えぬかと期待していたのだが‥‥
 外れ、か。
 コバルトが皮肉に口を歪めた時――
 気配を感じ、コバルトは振り返った。
 薄闇の中に、何者かいる。
 細身の若者。布で隠されたコバルトの耳と相似の特徴的なそれ。エルフだ。
「冒険者だな」
「お前は何者だ?」
 コバルトの問に応える代わりに、エルフの若者は矢をつがえた。
「帰れ。さもなくば、殺す」
「というところを見ると、黒王に与する者だな」
 鏃から若者の面に。コバルトは冷ややかに眼差しを転じた。声には一片の動揺もない。
「不殺で行動する知恵を持つ彼らを、単に排除対象とは考てはいない。我々で良ければ力になろう」
「馬鹿な」
 若者から響くのは嘲弄の笑い。完全なる拒絶だ。
「お前達に何ができる。これは我等と奴等の、いや森と人との戦いなのだ。それに――」
 エルフの若者が視線を投げた。その秘めたる意図を読み取り、さしものコバルトも狼狽の面を振り向かせる。
 一陣の殺風が彼の銀髪をさらりと翻らせた。

●襲撃
 集落は、切れ目はあるのだが、柵で取り囲まれている。その柵を軽々と二つの影が飛び越えた。音もなく地に降り立った影は、漆黒の颶風と化して集落を疾り抜ける。黒王とその眷属だ。
 と――
 弧を描いた炎が黒王の前にぼとりと落ちた。ジャッドが村人に用意させた松明だ。
「何をするつもりだ?」
 足をとめた黒王めがけてジャッドの槍が疾った。光流と変じた槍の穂先であるが、しかし黒王は容易くかわしてのけた。鬼火のような蒼い眼が、ぎらりとジャッドを睨み上げている。
 ジャッドほどの者が戦慄を覚え、喘鳴をあげた。その隙を突くように、空に躍ったのは、これも巨大な山犬だ。
 その前に――するするとサクラが立ちはだかった。
 交差する光と影。再び距離をおいた時、山犬は地に伏し、サクラの肩からは血がしぶいている。すれ違いざま、サクラの手刀が山犬に叩きこまれた刹那を見とめ得たものが、果たして何人いたか。
 が、そこまでだ。
 黒王がゆるゆると闇に消え去って行く。そうと知りながら、サクラとジャッドは身動き一つならなかった。
「この子達が完全に悪い、とも云い切れなさそうですし‥‥弊すのは後からでも出来ます」
 果たしてそうか――黒王の後を追って逃げ去る山犬を見送るサクラの眼には、怖気に似た色が浮かんでいた。

 同じ刻、黒王の騒ぎに紛れるように、ユイスとセラフィーナはドレイクの狩猟小屋に忍び入っていた。
 黒王の襲撃が始まる少し前、ドレイクが大物の狼を仕留めた。それからドレイクは狩猟小屋に人を近づけないようになった。
 ジャッドが集落の娘から聞き出した内容だ。
 暗い中、夜目の利くセラフィーナが手探りで進む。やがて――
 彼女達は見つけた。
 布で覆い隠されたもの。それは小さな檻であった。
 中には、吠えられぬよう口をくくられた夜色の狼の子供がいた。