箱根女中探偵 #1−1――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月05日〜09月12日

リプレイ公開日:2005年09月16日

●オープニング

■サブタイトル
『湯けむり殺人事件・箱根温泉美人殺人紀行 1』

●箱根における冒険者
 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。
 天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 神聖暦980年ごろ、源徳家康によって東海道が整備されると、湯本から須雲川沿いに元箱根へいたる道が開かれ、湯坂道にかわる本道となった。最近になって小田原から8里、三島から8里の芦ノ湖岸に箱根宿が開設され、元箱根にあった箱根関が宿の東に移転。道筋には杉並木と石畳がととのえられた。箱根神社への参詣も活況をとりもどし、元箱根は門前町として発展した。
 一方、芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は箱根七湯の名で知られるようになり、湯治場として賑わっている。とくに湯本は、唯一東海道沿いにあるため繁栄し、一夜泊まりの客は小田原宿や箱根宿をしのぐほどである。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。

 箱根そのものは小田原藩の直轄地であり、その運営は藩主大久保忠義が直々に行っている。だからといって、侍の領地運営にありがちな馬鹿みたいに厳格な統治ではなく、例えるならすごしやすい程度に適度に散らかった、自分の居室のようなものだ。わりと小器用に清濁併せ呑み、武士にとっても町民にとってもそれなりに居心地の良い場所になっている。
 実際、景気もかなり良く、仕事も数多くあり、『箱根で三日も働けばどこの藩に行く駕籠代も工面できる』などという評判も立つほどだ。そして実際、その通りなのだ。
 無論、多くの人が居れば揉め事も多い。深刻なことなら役人が、瑣末なことなら地回りたちがそれを解決してくれるが、『暴力専門の何でも屋』という職能が求められる場合はそのどちらも対処できない場合がある。たとえば、鬼種を始めとする怪物系の揉め事である。それ以外にも、愚直な役人や縦割り社会の地回りたちでは絶対に解決できないような、知能系の問題になると『彼ら』の出番となることが多い。
 『彼ら』――すなわち『冒険者』である。
 江戸では、社会の底辺のさらに底辺に属する性格破綻者の集団と見られがち(ヒデェ)な冒険者ではあるが、箱根ではわりと立派な部類に入る職業として認知されている。宿場と街道の安全を確保しているのは間違いなく多くの冒険者諸賢であり、惣菜の材料調達から夫婦喧嘩の仲裁まで、冒険者の仕事は実に多岐にわたりそして尽きない。
 だからこそではあるが、冒険者に来る依頼は「本当にどうにもならんのか?」と言いたくなるぐらい厄介なものもある。しかしそれで尻尾を巻くようでは、そもそも冒険者などやっていられない。
 そして今日も、やっかいな依頼がやってくる。
「今回の依頼は、箱根の温泉組合から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、塔之澤で自殺した女の事件の再調査。なにやら不審な点があるらしく、役人とは関係ない所で調べてもらいたいみたい。一応、第1発見者は確保されていて、番所で事情聴取を受けているみたいよ。その人の名前はこまきさん。湯屋の女中をしているみたい」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「今回の依頼、どうもきなくさいのよね。何かの前触れって言うか、その辺を感じ取って組合も仕事を回してきたんだと思うわ。ともあれ、用心してちょうだいな」

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7865 ジルベルト・ヴィンダウ(35歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2892 ファニー・ザ・ジェスター(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3419 焔依 仄華(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

箱根女中探偵 #1−1――ジャパン・箱根

■サブタイトル
『湯けむり殺人事件・箱根温泉美人殺人紀行 1 事件編』

●女中というもの
 女中というのは、女の職業ではかなり底辺に位置する職業である。箱根では湯屋や宿場の土台を支える職業であり、数はいるが常に需要の多い職業でもある。
 仕事の内容は、掃除におさんどんといったいかにも『女中らしい』もの一般を想像していただければ良い。基本的にきつい職業で、肉体労働がほとんどだ。
「自殺したのはお松という名の女中さんです。年齢は16歳。明け方、目を覚ました第一発見者のこまきさんが井戸へ向かうと、そこで首を吊っていたお松さんを発見したということでした。ただし、このお松という娘は、この世に存在しません」
 イギリスの騎士、ルーラス・エルミナス(ea0282)が言った。
「存在しないってのは?」
 伊達正和(ea0489)がルーラスに問う。
「お松さんの実家なる場所に行きましたが、そこはただの廃屋でした。そこには元農家が住んでいたらしいですが、それは10年以上前の事。つまりこのお松という人物は、存在しないのです」
「ふぅむ」
 と、声をあげたのは、町娘の姿をした女の子だった。第一発見者のこまきである。正和が情報収集のために口説いたのだが、口説き返されここまでついてきてしまったらしい。正和の言葉を切り返したのだからたいしたものである。
「お松ちゃんは、ここ3ヶ月ほど前に入った新入りでね、でも仕事は出来て真面目だったんだよ。女中仲間とも仲が良かったから、誰かがやったとは思えないんだよね」
 こまきが言う。つまり人の恨みを買うような人物ではないらしい。
 ただし。
「でもね、アレは自殺じゃなくて他殺だと思う」
 と、こまきは言った。
「その心は?」
 調査の末に、やはりお松が存在しない人間であることに行き着いた凪里麟太朗(ea2406)が言う。
「おろく(死体)の首を見たけど、絞めた痕があった。首の後ろのところ。首吊りならそんなところに絞め跡はつかないよ」
 こまきが言う。なるほど、本当なら確かに他殺の可能性が高い。
「おろくを調べてみる必要がありそうだね」
 鷹波穂狼(ea4141)が言った。彼女は今回、『周辺事情』というやつの調査をメインに行っていて、事件自体にはあまり直接的な調査は行っていない。分かったことといえば、今回事件のあった湯屋はたいそう繁盛している優良店で、稼ぎ時にこの事件はちょっといただけない、ということぐらいである。
「おろくについては、拙者が調べさせていただきました」
 忍者の音無藤丸(ea7755)が、自信を持って言った。
「被害者には確かに首にさくじょう痕があり、くくった縄とは別の絞め痕がありました。それと番所の調書によると、被害者には子蟹の刺青があったそうです。内股の目立たない場所に」
 女が刺青というのも、なにやら意味ありげである。
「こまきさんはお松さんと仲が良かったんですか?」
 ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)の問いに、こまきは考える顔になった。
「仲が良かったっていうほどじゃなかったなぁ‥‥ただ仕事は一生懸命で、みんなきらいじゃなかたと思うよ」
 こまきが言う。
「つまり『何も無かった』ということかな?」
 ファニー・ザ・ジェスター(eb2892)が不真面目なメイクのまま真面目な口調で言う。
 この場合、何も無いほうがおかしい。自殺ならその理由があるはずだし、他殺なら同じく何か予兆や理由があるはずだ。
「アタシの調査結果も聞いて欲しいアルよ〜」
 羽鈴(ea8531)が言った。彼女はここ数日、こまきの居る温泉宿に女中として忍び込んでいる。
「まず大旦那さんや番頭さんをはじめ、アリバイのはっきりしていない人は3人しか居ないアルよ。こまきちゃんと、被害者のお松さんの同じ部屋のおせんさん、それと番頭の寅吉さんアルね。寅吉さんは賭場に行っていたみたいだけど叩けば埃ぐらいでそうアルね」
「こっちは空振りだったわ」
 焔依仄華(eb3419)が、残念そうな、それでも満足そうな顔で言った。彼女は調査にかこつけて、箱根七湯を回りとおしたのだ。
 ただ、死体の検分については同参させてもらった。外傷こそ無いが、確かに自殺ではなさそうだった。

 ところがその日、冒険者諸賢は番所に呼ばれることになる。そこには役人が待ち構えていて、何か訝しげな表情で冒険者を見ていた。
「この事件は、自殺だ」
 開口一番、役人が言った。
「素人は、下手な手出しをしないでもらいたい。事件は我々が解決する。以上だ」
 なんとも高圧的な態度である。
 予想外の伏兵に、驚いたのは冒険者たちだ。口々に「感じ悪ぅ」だの「失礼しちゃうわ」だの言っているが、事態の重要さに拍車がかかったのは確かだ。
 つまり、役人は何かを掴んでいるということ。そしておそらく、第2第3の事件を予見しているということ。
 ここまで集めた情報と役人の情報に、何か大きな違いがあるとは思えない。ならばおそらく、今まで集めた情報の中に『役人だから』つながる情報があるのだろう。

 事態は、次の段階に動こうとしている。

【つづく】