●リプレイ本文
箱根女中探偵 #1−2――ジャパン・箱根
●正しい人の殺し方
実際の話、人間を殺すのはわりと楽だ。難しいのは、殺したことを見破られず、なおかつ死体を発見させないことである。
古今東西、さまざまな目的と理由で人は殺されている。しかし多くの場合、証拠などが発見されてその殺人は明るみに出る。完全犯罪など無謀に等しく、ほとんどの場合成立しない。
しかしただ殺すだけなら、ちょっとしたコツでいくらでもできる。頚動脈を的確に絞めれば人間など10秒足らずで意識不明になるし、それからゆっくり殺してもかまわない。
むしろ、死体の始末が問題である。古くも新しくも、人が死んで一番かかるのはコストなのだ。それが殺人で一人殺されるか戦争で一万人殺されるかの違いであって、結局死体の始末が一番大変なのである。
「今回の事件の場合は、その手間をかける時間と金が無かったっていうことだよね」
と、物怖じせずに冒険者諸賢の中で自分の言葉を披露したのは、今回の事件の容疑者の一人、女中のこまきである。えくぼの可愛いおきゃんな少女で、人生の暗い部分などまったく見ていないような明るさを持っていた。ある意味伊勢神宮のしめ縄並に神経が太いと言える。
ふむ、とこまきは考える顔になると右手で握りこぶしを作り、親指を立て指先で自分のひたいをこつこつと突付いた。
「なら話は簡単ね。この事件は何か偶発的なな事態から発展して起こった、犯人にとっても想定外の事故みたいなものよ。犯人の目的はもっと別なところにあって、今回の殺人はその目的の遂行のための障害になったんだわ。その目的っていうのは――」
ごちん!
なにかこう、具体的に痛そうな音が周囲に響いた。自分の高説を披露していたこまきが、宿屋のおかみにげんこつされたのだ。
「油売ってないで働きな!」
「はい〜〜〜〜〜〜っ!」
ばびゅーんという擬音を残して。
こまきは冒険者の元を去った。
●ゲレイ・メージ(ea6177)の場合
私は真実を追究する探偵だ。難しい依頼を達成し、腕を上げたい。もちろん今回の事件も、真実を突き止め解決したいと考えている。
私の名は、ゲレイ・メージ。イギリス出身。真実の探求者たるウィザードだ。
今回の事件、私は、実は役人が犯人ではないかと考えている。だが他にも、役人は犯人の見当が付いていて、他人に邪魔されないよう『自殺』で片付けようとしているとも考えられる。もちろんその目的は、犯人を油断させる為だ。
『お松』が名前・出自を偽っていたと言うのは、何らかの理由によるものと思われる。逃亡者か、潜入捜査中の隠密同心とか‥‥。そうなると、追っ手か捜査対象に見つかり始末されたとかも考えられるだろう。
私は安楽椅子に座り、ひざに乗せた猫、ムーンの背を撫でながらパイプをふかした。
いずれも、「何らかの理由」というものが不明だ。いや、確実な線は一本だけある。役人が、何かの確たる情報を握っているという線だ。
うーむ。今までの情報を整理したほうが良いかもしれない。少しおさらいしてみよう‥‥。
●ルーラス・エルミナス(ea0282)の場合
「寅吉さん、私を護衛に雇ってもらえませんか」
そう私が切り出すと、番頭で今回の事件の容疑者である寅吉さんが、頓狂な顔をして私を見ました。
「それはありがたいのですが、あのう、おあしはいかほどになるのでしょう‥‥」
すっかり小動物のように縮こまってしまった寅吉さんが、小さな声で言いいます。まあ、私が支払った25Gで遣いこみを補填した上、身を守ってあげようというのですから、人の良い人間でも私の言動を疑いたくなるでしょう。
私の名はルーラス・エルミナス。イギリス王国出身のナイトです。
「私の目的は、予想される第2第3の事件の予防です。寅吉さんと女将さんの身辺を守ろうと思っています」
それから私は、役人の動きからこの事件はなんら終息していないと思われることを、正直に寅吉さんに話しました。さすがに女将が狙われるかもしれないと聞いて、寅吉さんが顔を青ざめます。
「女将にはすぐ話します。どうか例の件はご内密に‥‥」
金貨で頬面をひっぱたくようなやり方ですが、事件が起きるのを看過するわけにはいきません。私はそのまま、臨時雇いの用心棒となりました。
目的は達したと言えます。しかし第2の事件がまったく別の所で起こるとは、さすがに私にも予想は出来ませんでした。
●鷹波穂狼(ea4141)の場合
オッス! 俺ぁ悟○! じゃなくて、ジャパンの志士の鷹波穂狼だ! ちなみに女ジャイアントだ! よろしくな!
俺ぁ今回、ルーラスのヤツがへばりついている寅吉が金を注ぎ込んだ女、おちょうを張ってみた。おちょうは人間の女で、会ってみると確かに男好きしそうないい女だったよ。
子蟹の刺青が鍵だと思って湯屋までおちょうをつけていったんだが、あいにく刺青は発見できなかった。もっとも内股までじろじろ見るわけにはいかなかったんで、完全な情報じゃないがな。
結局有力な情報を得ることぁ出来なかったんだが、子蟹の刺青についてはネタを仕入れたぜ。なんでも、手下に蟹の刺青をさせる盗賊団がいるらしい。この話が本当なら、事件のあった宿屋は盗賊を中に引き込んでいたことになるな。となると、盗賊の目的は内側から鍵を開ける『引き込み強盗』ってことになる。
だがここで、話が合わなくなる。引き込み役を殺す必要があったのは誰か? ってことだ。まあ、ぶっちゃけ殺されてもしょうがないような連中だが、実際に殺されちまうといろいろ謎が残る。誰が何の目的で殺したのか? そこが問題だと思うんだ。
ま、とりあえず俺ぁおちょうに張り付いているよ。何かあったらすぐ連絡入れるからな!
●伊達正和(ea0489)の場合
「で――あんたはいつまであたしの尻追っかけているつもりなんだい?」
と、おきゃんなこまきちゃんは俺に向かって言った。
俺の名は伊達正和。人間の浪人だ。江戸ではちょっとは知られた顔である。
「そりゃあ、事件が解決するまでさ。でないとこまきちゃん、殺されちまうかもしれないだろ?」
俺がそう言うと、こまきちゃんはくすりと笑った。
「うれしいけど、あたしは多分大丈夫。だって、殺されるアテが無いもん」
「なんでそう言い切れる?」
「動機」
俺が問うと、こまきは干した布団を取り込みながら答えた。
「殺されたお松ちゃんは新人でまだ三月しか勤めていなくて、人から恨みを買うような娘じゃなかった。だけど殺されたのは、犯人に何か動機があったからだと思う。順当に行くと、お松ちゃんは誰かの何か気まずい事を知ったか見ちゃったかして、それで殺された――こんなところじゃないかな」
こまきはまだ番頭の遣いこみの事実を知らない。知っているのは俺たち冒険者と役人だけである。
だからこまきの話を総合すると、犯人に一番近いのは番頭の寅吉ということになる。動機は充分だ。
と、思ったところで俺は役人の動きの不審さに気付いた。
こまきより役人のほうが情報を握っている。当然俺たちが考えるようなことにはすでに思い至っているだろう。
だが、寅吉が捕らえられる気配は無い。それはつまり、役人が寅吉をわざと泳がせているとも取れる。
「餌――か」
役人の意図に気付いて、俺はそうつぶやいた。何を釣るつもりかしらないが、さぞかし大物なのだろう。
●音無藤丸(ea7755)の場合
伊達さまの行動を逐一書き記しながら、拙者は周辺の警戒に余念がありませんでした。
私は音無藤丸。ジャイアントの忍者です。
今回の事件、意外と根深いのではと思い、拙者は役所の張り込みとこまき嬢の警護に余念がありませんでした。
役人側の担当者は、鹿毛内藤左ヱ門(かけうち・とうざえもん)という人物。聞いた話ではたいそうな切れ者とか。切れすぎて、悪い意味で切れているかもしれません。つまり、犯人がこの鹿毛内なにがしを筆頭とする役人連中である場合ですね。
鹿毛内氏の書付(捜査メモ)をこっそり拝見させていただきましたが、なにやら符丁のようなもので書かれていて判読は出来ませんでした。ただ蟹の絵があったので、それについての情報を得ていることは考えられます。おそらく盗賊のたぐいではないでしょうか。
あとは、犯罪者の場合女とカネをたどるということになるのですが‥‥鹿毛内なにがしは通り一遍等の賂(まいない)を受け取る以外、ごく普通の役人でしたね。この『通り一遍等』というのが微妙で、受け取りすぎず奪いすぎずと小器用に賄賂を集めています。これは逆を言えば優秀ではなくとも有能な治安維持を行っているわけで、一概に汚いとは言えません。微妙ですね‥‥。
●南天輝(ea2557)の場合
「あの‥‥その‥‥」
「いや、あまり固くなられても困る。俺はただあなたが安全でいられるよう護衛したいだけだ」
俺は生わかめを頭からかぶったような風体のおせんに向かって、できるだけ優しく言った。おせんはこういう状況に慣れていないのか、戸惑いを隠せないでいるようだった。
俺は南天輝。ジャパンの浪人。人間族だ。
役人の動きから第2第3の事件が起こると想定して、俺たちはそれぞれ被疑者の護衛に当たることになった。俺の担当はお松の同室だったおせん。負のオーラを百貫ほどまとった、水晶球とかに映したら間違って何か変なものが写りこみ『おわかりいただけただろうか‥‥』と陰気な口調で解説されそうな、暗い雰囲気を持った女性だ。
ちなみに趣味は、占いだそうである。
「顔を隠すのは勿体無いな。どうだ、羽鈴にメイクしてもらうか? あいつは趣味でしてるが凄いぞ」
そう言って髪に触れようとしたら、おせんは「ひっ」と小さく悲鳴を上げてあとずさった。
「あ、すまない‥‥。他意は無いんだ。許してくれ」
女性はデリケートな生き物である。冒険者の女性を見慣れていたせいか、俺は心配りが足りなくなっているようだった。よく考えれば、彼女は被疑者で死んだお松と同室だったのだ。役人の取り調べもあったろう。精神的に参っていてもしょうがない。
「夜も部屋の側に潜んでいるんでな、何かあれば俺を呼ぶんだぞ」
俺はそう言うと、おせんの部屋を出た。
●ファニー・ザ・ジェスター(eb2892)の場合
俺の捜査は、主に南天と共に進められた。
俺の名はファニー・ザ・ジェスター。イギリス生まれの、ハーフエルフのクレリック。
ピエロのメイクをしているからまともに対人関係を作れないことも多いのだが、実は至極まともな部類に入る常識人のつもりだ。まともなことを言うと「その顔でまともなことを言うな!」とよく言われるのだが。
ともあれ、第一発見者のこまきが悲鳴をあげた時の状況から俺の捜査は始まった。おせんにそのときの状況をつぶさに聞く。
おせんもなかなかに濃いキャラクターを持っていて、絶対何かに憑かれているような雰囲気を持っている。
「厠に行ったとき、お松ちゃんはぐっすり寝ているようでした。部屋から厠までは、何か特別なものを見たという記憶はありません。その晩はおきょうちゃんが夜番だったので、それ以外の女中さん達は寝ていたと思います‥‥。朝悲鳴を聞いたとき、私は寝ていました。起きたらお松ちゃんの布団が空になっていて、寝ぼけた顔を襖から出したら、こまきちゃんが殺されたお松ちゃんを見てガタガタと震えていました。他にも何人か顔を出していたようなので、悲鳴を聞いたときの不審な人物については分かりません。それ以前に、帯で首をくくったお松ちゃんの姿を見て‥‥」
あとは言葉にならないようだった。うむ、何か引っかかる。
●焔依仄華(eb3419)の場合
「あーらー、だんさんご機嫌ねぇ」
それとなく胸を腕に押し当てながら、あたしは一杯引っ掛けてご機嫌の役人さんにしだれかかった。
あたしの名前は焔依仄華。ジャパンのくノ一。もちろん仕事は冒険者。
あたしは忍者だから、職能を活かすならもちろんい・ろ・じ・か・け☆彡 ということになるかしら? それも得意なんだけど、どうせならおいしいお酒を楽しく飲みたいじゃない。
そこであたしの作戦は、『役人さんをおだてて飲ませて、うっかり秘密をしゃべってもらってしかもタダ酒もらっちゃおう計画(長い)』。これってあたしの美貌のなせる技よね。この美しさは業と言ってもいいわ(ぇー)。
役人Aさんから聞き込んだ話だと、箱根でなにやら近々大きな捕り物が行われるみたい。もちろん役人たちも網を張っていて、狙いは繁盛している湯屋っていうとこまで聞き出したわ。でもそれ以上は貞操の危機だったから、思わず殴って気絶させちゃった(テヘ☆)。
この情報、きっと関係あるわよね。
●羽鈴(ea8531)の場合
「うーん、困ったネ」
ワタシは途方に暮れて、その場で立ちつくしてしまったヨ。
ワタシは羽鈴。華国の武道家ネ。現在片思い中あるネ。
ワタシの目の前には、香のにおいの深い華やかな部屋があるアル。そこは昼間なのに暗くて、嫌な感じだったあるヨ。
そして、女の人が倒れていたアル。名前はおちょうさん。寅吉さんが金を貢いだ相手ネ。寅吉さんが貢いだのならきっと何か情報握ってる思ったから訪ねたアルヨ。
ちなみに寅吉さんの話だと、お松さんを紹介したのはこのおちょうさん言う話アルネ。これは何か、犯罪のにおいがぷんぷんするアルヨ。
と思った矢先のこの事件アル。見たトコ死んでいるようで、ぴくりとも動かないヨ。死因は多分、首を斬られての失血死。屏風に派手に血が飛び散っているネ。
「きゃああああああっ!」
気付いたら、水茶屋の女中さんが来てたアル。
その後の事は、あまり考えたくないアルね。ワタシは人殺しの嫌疑をかけられたけど、取調べが済んだら釈放されたアル。取調べで何をしゃべったかは記憶がトンでて覚えてないアルヨ。
水茶屋を張ってた穂狼に何か訊かれても「ウン」とか「ハア」とかしか答えられなくて、不甲斐ないばかりアル。こういうときは、好きな男性(ひと)に慰めて欲しいアルネ。
●記録者記す
羽鈴の釈放の後、宿屋には役人たちが来て寅吉を逮捕していった。お松、おちょう殺害の下手人としてである。ルーラスは寅吉のアリバイを証明したが、役人には取り合ってもらえなかった。
そればかりか、役人はこの事件を「痴情のもつれ」として捜査を終了した。寅吉は現在、牢屋に入れられている。そのうち、白州で裁かれるために御伝馬町に運ばれることになるだろう。
だが冒険者の誰もが、事件が終わったとは思っていない。
【つづく】