●リプレイ本文
箱根女中探偵 #1−3――ジャパン・箱根
■サブタイトル
『湯けむり殺人事件・箱根温泉美人殺人紀行 3 解決編』
●ファニー・ザ・ジェスター(eb2892)の場合
「うーむ、ワカラン(汗)」
事実関係を洗い出し、そして推理する。
それは事件推理の基本だが、私にはそれを解決するほどの推理力が備わっていないようだ。
点はあぶりだせたが、線につながらない。ましてや図形など浮かんでこない。
自分がまるでメイクどおりの道化になったような気がして、私は思わず天を仰いだ。
私はファニー・ザ・ジェスター。人呼んでさすらいの道化師(呼んでない)。ハーフエルフの正体をピエロメイクで隠す苦労人である。
実際の話、全体の調査はうまくいっていると思う。それで浮かび上がってきた事実も多数ある。
要は、私が他の本当の姿で他の冒険者と顔をつき合わせし、相談していないことに問題があるのだ。一人の頭脳では考えも偏るし、何より発展性が乏しい。
なぜか?
多分、このメイクと振る舞いであろう。ハーフエルフであることや私の奇矯な衣装と振る舞い。自分が差別を気にしていることが枷となって、私自身を締め付けているのだ。
本当の姿をさらさねば、肚(はら)を割って話すことなどできない。何かを一つ、改めねばなるまい。
●焔依仄華(eb3419)の場合
――うふふふふ、あたしってば天才かも。
湯屋で湯浴みをしながら、あたしは一人ほくそえんでいた。
あたしの名前は焔依仄華。ジャパン出身のくノ一。本当は『炎の仄華』とか呼ばれたいんだけど、まだ無名だからこれから有名にならなくちゃ。
今回あたしは、囮捜査の囮をつとめることになった。といっても、『おちょう』と名のって湯浴みするだけなんだけど。
あ、内股にちょっとした絵を入れて刺青の女のように振舞うのも忘れてないわよ。
あたしは桶の中に鎖分銅と手裏剣を隠して、温泉宿をはしごしたの。相手の狙いが刺青の女なら絶対に食いつくはず。別に温泉に入りたいとかそう言う理由じゃないのよ。
もっとも、あたしのこの行動は残念ながら徒労に終わっちゃうんだけどね。
結局犯人らしき人物は現れず、温泉を浴びて個人的にはご満悦だったんだけど、あまり捜査には貢献してないのよね。
ただ、子蟹の刺青からみの事件は、ただの殺人事件で終わらなかったというのは、後ではっきりするんだけど。
ま、とりあえずこまきちゃんの話を聞きましょうか。
●南天輝(ea2557)の場合
――おせんは怪しい。
一抹の疑念をぬぐうことが出来ずに、俺はおせんの周囲に仕掛け罠を張り巡らした。
前回のおちょうの死によって、俺の疑念はほぼ確信に変わっていた。おせんは当事者的な事件の関係者ということだ。彼女に子蟹の刺青があるかどうかはわからないが、張る価値はある。
羽鈴の話によると(えらく顔を赤らめていたが)、おちょうの死は鈴の訪問の直前ぐらいのようだった。おそらく一刻(2時間)も経っていないだろうとのこと。検死の専門家ではないので、冒険者としての経験からの発言だが、俺は信じていいと思う。
この時間、おせんにアリバイは無い。仕事をしていたという話だが、それを証明する人物がいないのである。ただおちょうの死が明らかにプロによる犯行なので、お松との死と比較するとあまりに稚拙だ。そこが混乱の元なのだと思う。
だから、俺はおせんを張る。無実にせよ有実にせよ、白黒つけなければならない存在だからだ。
そして、俺は決定的瞬間を見た。夜中に鳥の鳴き声がしたと思うと、おせんは中庭に出て塀の向こうへ投げ文をしたのだ。
おせんもまた、引き込み手だったのだ! おそらく塀の向こうには盗賊仲間が居て、おせんの情報を待っていたのであろう。
しかし、子蟹の一味かどうかは分からない。何が起きたというのだろうか?
●こまきは考える
今回の事件、ミソは子蟹の刺青の女が二人殺されたということよね。ただし一人目の被害者のお松ちゃんは偶発的ななんらかによる殺人なのに対し、2件目のおちょうさんは明らかに狙って殺された。でなきゃ冒険者さんが見張っているのに殺されるはずが無いもの。しかも即死。
つまり、犯人は複数。お松ちゃんを殺したのは殺人の素人で、おちょうさんを殺したのは殺人のプロ。引き込み強盗である子蟹の一味が、強盗を働くためにウチの宿屋にお松ちゃんを寄越したのなら、犯人はその目的を遂行されると困る立場の人。
ただ宿屋の人たちが、殺人をしてそれを自殺に見せかける必要は無いし、もちろんおちょうさんを殺す必要も無い。動き回って何かの犯罪が起こるのを待っている役人たちも多分関係ない。
つまり、子蟹の一味と利害が相反する立場の人が犯人。そして、役人はその犯人が次の犯罪を起こすのを待ち、そこを狙って一網打尽にしようとしている。
とすると、犯人は――。
●ルーラス・エルミナス(ea0282)の場合
「つまり、別の盗賊団との確執か何かということですか?」
私はこまきさんの推理を聞いて、思わず声をあげてしまいました。それを慌てて、こまきさんが制します。
私の名はルーラス・エルミナス。イギリスのナイトです。
私はこまきさんと一部似たような推理に達していました。つまりこの宿屋の女将が盗賊の座長――つまりこの宿自体が盗人宿である可能性です。
ただそれについては、こまきさんに否定されてしまいました。こまきさんはこれでも10年この宿屋に勤めているらしく、繁盛もしているので女将達は盗人を働く必要が無いということだそうです。
こまきさんの話によると、多分別の盗賊団――それも同じ種類の引き込み強盗がこの宿屋を狙っているのでは? ということでした。つまり引き込み役が鉢合わせし、任務の為に片方を殺したということです。
引き込み強盗はおおむね凶賊である場合が多く、被害に遭った商家はたいてい皆殺しになります。犯人も、自分の命を守るためには相手の引き込み強盗を阻止する必要があるわけです。
とすると、最初のお松さんの事件の犯人は?
●凪里麟太朗(ea2406)の場合
――うーむ、完全犯罪というものは難しいものだ。
と、私はうなって黙り込んでしまった。
私の名は凪里麟太朗。ジャパンの志士。まだ11歳だが家庭内に問題を抱えて難渋している苦労人だ。自分で『苦労人』などというと怪しさ大爆発だが。
私の調査は、主におせんに向いた。正確には事件当日夜番だったおきょうや容疑者だったおせん、その他の人間関係についてである。
と言ってもめぼしい調査部分はすでに役人が行っていたため、私は残飯あさりのような細かい調査をするにとどまった。なんといっても一番の情報源である寅吉は捕まっているのである。それに、この事件の担当である役人・鹿毛内藤左ヱ門(かけうち・とうざえもん)のヤツは実に周到に調査と口止めを行っていて、我々冒険者の動きをけん制していた。腹立たしいが認めるしかない。奴は切れる優秀な役人だ。
そんな時だった。
「この事件から手を引け」
と、私が茶屋で一服していると、編み笠をかぶった侍が隣に腰掛け言ってきた。声に聞き覚えは無いが、顔は知っている。例の鹿毛内なにがしである。
「いいか、私はどのような犯罪の目も見逃さない。そしてソレが育ち実を付けるのを待っている。収穫前にあらされては面倒だ。とっとと箱根から居ねい」
むかっ。
ちょっと、腹が立った。ただ役人が、この事件をかなりの手柄と考えていることは分かった。
●音無藤丸(ea7755)の場合
拙者は音無藤丸。ジャイアントの忍者。もちろんジャパン出身です。
今回拙者は、牢屋に忍び込み寅吉さまと話をしました。内容は殺されたおちょうさんについてのさまざまなこと。もちろんアレとかソレとかの関係があったことが前提です。
寅吉さんの話によると、おちょうさんは部屋にいつも香を炊いていたそうです。しかし別に、水茶屋の女郎が香を炊くことなど茶飯事なので、特別何か気にしていたというわけではないようです。
香については、鈴さんの報告を待ちましょう。
お松については、先にも情報が出ましたが三月ほど前に入店。おせんは半年ほど前に入店だそうです。おせんの故郷は上方に近いほうと聞いていたそうですが、それの裏を取る時間は得られませんでした。
一番に聞きたかったのは役人が寅吉さまに何を訊いていたかなのですが、実は寅吉さま、ほとんど取り調べらしいものを受けなかったそうです。つまり『ただ捕らえられただけ』。それが役人の『思うところ』を如実にあらわしていると考えてもいいでしょう。
はてさて、どのようなことになることやら。
●羽鈴(ea8531)の場合
ニィハオ。私華仙教大国の武道家、羽鈴あるネ。ただいま片思い中アル。結構気持ちいいあるヨ。
さて、今回はおちょうさんの死んだときの情報をみんなに知らせることと、おせんさんの裏を取ることが主目的アルね。
部屋に充満していた香は、ジャパンではわりと一般的に使われている香で、水茶屋に限らず、女の子の、その、アレとかソレとかを職業にしている人はたいてい使っているアル。
死因は首を斬られての失血死。見た感じプロの仕業あるね。相手の手際はかなりのものアルよ。
争った跡はあまり見られないから、多分不意打ちあるね。
こまきちゃんの宿屋の従業員の履歴は取れたアル。一番最近でお松の三ヶ月前。次はおせんの六ヶ月前。あとはだいたい1年以上前で、こまきちゃんはもう10年も奉公しているアル。たいへんアルね。
それよりも、輝さんアル。番所から出たら一日くっついてくれたアルから、幸せだったアルよ。これならもう一人か二人、死んでくれても‥‥ううん、なんでもないアル。
●鷹波穂狼(ea4141)の場合
よお、俺ぁ鷹波穂狼だ! ジャパンの女志士でジャイアント! まあ、よろしくな!
しかし前回はまずったぜ。まさか張ってたおちょうを殺されちまうたぁ、不覚を取ったといえばそうだよな。でも細かい事は気にしないのが俺の主義だ! とにかく事件の解決に全力を尽くそう!
で、今回の件で俺が張ったのは、お松の事件当時に夜番だったおきょうだ。夜番だったからアリバイがあるって先入観を持っちまったが、よく考えれば怪しいと言えないこともない。あとはおちょうが行ってた湯屋だな。湯屋や二人に接点があるか、あるいは無いかを調べるのが俺の仕事だ。
で、結果から言っちまうと、おちょうの行ってた湯屋には何も痕跡が無いな。それとおちょうとおきょうにも接点が無い。無さ過ぎて困っちまうぐらいなんだが、実のところ『何にも無い』ってぇのが正解じゃないかな。だとすると、犯人つーか怪しい奴は絞られてくる。それと、役人の狙いや役人が狙っている連中の狙いも絞られてくる。結局外堀を埋めた形だな。自分の仕事の結果が目に見えないのはちょっとアレだが、このさい気にしてもしょうがねぇ。まずは犯罪を予防すること! そのために俺の腕を活かすのはやぶさかじゃねぇからな。
さて、大捕り物になるぞ!
●ゲレイ・メージ(ea6177)の場合
私は真実を追究する探偵ゲレイ・メージだ。難しい依頼を達成し、腕を上げたい。そしてこれ以上の殺人を止めたい。
事件の全容はほぼ私の頭の中にある。役人の狙いは盗賊団の捕縛に違いあるまい。問題はその盗賊団がいずれの盗賊団かということだ。もちろん子蟹の盗賊団ではない。こまきはおそらく犯人ではない。夜番だったおきょうも話を聞くと違った。そして寅吉は今逮捕されているがお松の件とは無関係のようである。
ならば、最終的に犯人はおせんということになる。
ならばおせんは何者か? ということになる。それも明白だ。役人が狙っている盗賊団の一味なのだろう。おそらくは引き込み強盗の引き込み役と思われる。
つまりこの事件、二つの引き込み強盗団が鉢合わせした事が発端なのだ。おせんは引き込み役で人殺しは素人。おちょうの件は、おせんから情報の行った強盗団の手によるものだろう。手際の違いは、つまりそういうことだ。
私の当初の見立てとはだいぶ違ってしまったが、事実はこういうことだろう。麟太朗の話によると、役人は事件が起こってから完璧に捕縛することを考えているようだが、そのようなことは待っていられない。
われらはもちろん、事件を未遂に終わらせるのだ。
●記録者記す
数日後の夜半過ぎ、こまきの居る温泉宿が賊に襲われた。
しかし周到に冒険者たちが準備をし、その強盗たちは撃退された。おせんが引き込み役を行った、引き込み強盗だった。
役人たちはこの冒険者たちの動きによって予定を狂わされ、強盗の多数を逃がすことになった。
おせんは逮捕された。お松殺しの咎である。寅吉は釈放され、女将にこっぴどく女遊びをしかられてへこんでしまった。
おちょうやお松たちの、子蟹の一派は今回現れていない。十全の結果とはいえないが、事実関係が発覚した今となっては、子蟹の連中にこまきのいる温泉宿が襲われる心配はないだろう。
「こしゃくな冒険者め‥‥」
役人・鹿毛内藤左ヱ門は、苦虫を噛み潰したような表情でそうつぶやいたという。
【おわり】