暴れん坊箱根女中探偵1――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月12日〜11月19日

リプレイ公開日:2005年11月20日

●オープニング

●箱根における冒険者
 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。
 天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 神聖暦980年ごろ、源徳家康によって東海道が整備されると、湯本から須雲川沿いに元箱根へいたる道が開かれ、湯坂道にかわる本道となった。最近になって小田原から8里、三島から8里の芦ノ湖岸に箱根宿が開設され、元箱根にあった箱根関が宿の東に移転。道筋には杉並木と石畳がととのえられた。箱根神社への参詣も活況をとりもどし、元箱根は門前町として発展した。
 一方、芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は箱根七湯の名で知られるようになり、湯治場として賑わっている。とくに湯本は、唯一東海道沿いにあるため繁栄し、一夜泊まりの客は小田原宿や箱根宿をしのぐほどである。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。

 箱根そのものは小田原藩の直轄地であり、その運営は藩主大久保忠義が直々に行っている。だからといって、侍の領地運営にありがちな馬鹿みたいに厳格な統治ではなく、例えるならすごしやすい程度に適度に散らかった、自分の居室のようなものだ。わりと小器用に清濁併せ呑み、武士にとっても町民にとってもそれなりに居心地の良い場所になっている。
 実際、景気もかなり良く、仕事も数多くあり、『箱根で三日も働けばどこの藩に行く駕籠代も工面できる』などという評判も立つほどだ。そして実際、その通りなのだ。
 無論、多くの人が居れば揉め事も多い。深刻なことなら役人が、瑣末なことなら地回りたちがそれを解決してくれるが、『暴力専門の何でも屋』という職能が求められる場合はそのどちらも対処できない場合がある。たとえば、鬼種を始めとする怪物系の揉め事である。それ以外にも、愚直な役人や縦割り社会の地回りたちでは絶対に解決できないような、知能系の問題になると『彼ら』の出番となることが多い。
 『彼ら』――すなわち『冒険者』である。
 江戸では、社会の底辺のさらに底辺に属する性格破綻者の集団と見られがち(ヒデェ)な冒険者ではあるが、箱根ではわりと立派な部類に入る職業として認知されている。宿場と街道の安全を確保しているのは間違いなく多くの冒険者諸賢であり、惣菜の材料調達から夫婦喧嘩の仲裁まで、冒険者の仕事は実に多岐にわたりそして尽きない。
 だからこそではあるが、冒険者に来る依頼は「本当にどうにもならんのか?」と言いたくなるぐらい厄介なものもある。しかしそれで尻尾を巻くようでは、そもそも冒険者などやっていられない。
 そして今日も、やっかいな依頼がやってくる。
「今回の依頼はねー」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「よ」(´・ω・`)ノ
 牢屋の中から明るく挨拶したのは、『暇人の進さん』こと大野進之助という貧乏旗本の四男坊である。
 京子が冒険者諸賢を引き連れてやってきたのは、牢屋だった。その中に、進之助が居る。
「まあそういうわけで、進さん今、殺しの容疑をかけられて入牢中なのヨ」
 し――――――――――――――――――――――――――――――――――――ん。
 あまりのことに冒険者諸賢が絶句したのは、言うまでも無い。

 事の次第はこうである。
 一杯引っ掛けてほろ酔いの進之助は、道で死体を見つけた。
 あっさり書いたが、本当の事だからしょうがない。そしてそこにたまたま役人が駆けつけて、進之助は容疑者として御用となったのである。
 死体は若い町娘で、斬殺されていた。かなりの使い手のようであった。
「依頼内容は、進さんの濡れ衣を晴らすこと。この娘はナントカという宿屋の下女で小春という名前。なぜかぎやまん(ガラス)のかけらを握りこんでいて、手が切れていたわ。あまり長引くと政務が‥‥げふんげふん、その、まあ、都合が悪いから急いでちょうだいね」

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3419 焔依 仄華(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

暴れん坊箱根女中探偵1――ジャパン・箱根

●殺しのライセンス
 武士というのは、人を殺す職業である。
 極論だが間違ってはいない。戦争になれば武士は必ず駆りだされ、敵を倒すことを任務とされる。武勲の誉れは殺した人の数、獲った首の質で決まる。
 封建君主としての一定の権利と引き換えに、いかにも殺伐とした職務をこなさなければならないのだ。
 だから帯刀を許されるということは、すなわち殺人許可証を持っているのと同じ意味になる。封建君主である武士は、その領民の生殺与奪権を持つということだ。
 もちろん、無差別に殺していいというわけではない。そんなことをすれば、領民の突き上げを食らい自ら身を滅ぼす。領地で一揆など起きたら、その封建領主は通常切腹しなければならない。
 まあ多く場合、その封建領主が一揆を起こした農民を皆殺しにして事を収めてしまうのだが。
 ともあれ武士が人を殺すことは、わりと日常茶飯事である。問題は、その武士が大野進之助であるということだ。

●白銀剣次郎(ea3667)、走る。
「大野殿、湯もちを差し入れに来たぞ」
「おお、これはすまん。ありがたいな。ここの食事は不味くてな」
 そう言うと大野殿は、牢屋越しに拙者の手から湯もちを取った。
 拙者は白銀剣次郎。55歳、ジャパンの浪人である。
 今回の事件、真偽のほどはともあれ、大野殿が無体な殺人を犯したとは思えない。殺したとしてもなんらかの事情があるだろうし、そうでなければ無実であろう。
 そう思い、拙者は大野殿のアリバイの立証のために東奔西走した。大野殿から状況や現場にいたるまでのつぶさなルートを聞き、それを確認したのである。
 その結果、ある一点を除いて大野殿のアリバイは立証できた。ただその一点というのが致命的に問題であった。
 大野殿は、酒を飲(や)った小料理屋で、人と会っていたらしい。その証言はすでに、その小料理屋の主人から取っている。
 が、大野殿がその人物を教えてくれないのである。
「大野殿、協力していただかねばこの牢屋から出して上げられませんぞ」
 拙者の言葉に、大野殿はうんうんとうなってばかり。はかばかしくない。
 ――ワケアリか。
 合点のいかない大野殿の行動に、拙者は何かを悟ったような気がした。

●闇目幻十郎(ea0548)、探る。
 自分の調べた範囲で分かったことを、自分は仲間に報告しました。
 自分は闇目幻十郎。ジャパン出身の忍者です。
 自分が調べたのは、主に被害者とその周辺です。
 ナントカという宿屋は『楠戸賀(なんとか)屋』という宿屋で、先日もなにやら大捕り物があったばかりだそうです。
 被害者の小春という娘はそこのおさん(下女)で、まあ具体的には宿屋の肉体労働者ですね。こまきという同じ下女と仲が良く、よく話をしていたそうです。
 小春についてこまきにたずねると、単刀直入に「怪しいところは無かった」という答えが返ってきました。その日、小春はいつものように起きて仕事をし、その日はたまたま使いを頼まれて外出したそうです。
 使いの内容は、急な仕入れのために酒蔵へ手紙を渡すこと。手紙の内容は、明日の朝一番に酒を三斗入れてくれということだったそうです。なにやら急な宴会が決まったためのようですね。
 不審な点が見つからないのも、一つの手がかりです。おそらくは、偶発的な事故のようなものだったのではないでしょうか。

●大宗院謙(ea5980)、口説く。
 こまきさんを口説いた瞬間、私は足の甲を嫁さんに踏み割られた。
 私は大宗院謙。妻子持ちの侍だ。
 私が調査したのは、主に楠戸賀屋と箱根の周辺事情だ。女性に聞き込みを行い、その日宿屋に妙な人物が出入りしなかったかを聞き込んでみる。噂好きの女性たちは、実にさまざまな話をしてくれた。
 しかし、どの話も決め手に欠ける。というのも、箱根というのは様々な人が通過してゆく場所であり、怪しい人物などわんさといるのだ。
 もちろん、その中には冒険者も含まれる。
 野良猫にも《オーラテレパス》で話を聞いてみるが、はかばかしくない。そもそも猫に過度な期待をするのも間違っている。
 結局私が当たったアテで有用な情報を引いたのは、お京さんのところであった。
「ぎやまんというと、抜け荷か何かというのが相場よね」
 ぎやまんは、ジャパンではまだまだ貴重品である。好事家が好んで買うような代物で、一般にはまったく普及していない。抜け荷の可能性は、確かにありえる。
 あとは、嫁さんの拾ったネタも収穫してから考えるか。

●大宗院真莉(ea5979)、考える。
 旦那の足をかかとで踏み割ったあと、わたくしは被害者の女性・小春さんの調査を行いました。
 わたくしは大宗院真莉。志士で一児の母です。
 まずわたくしは、大野様に詳しい状況を聞きました。
 大野様の話によると、死体は袈裟懸けに背後からばっさり。ほぼ一撃で絶命していたようです。
 大野様が疑問に思っていたことですが、小春さんは提灯のような明かりを持っている様子が無かったそうです。ついでに言えば履物も片方無く、どこからか逃げてきたのではないか、ということでした。
 役人には冒険者ギルドの依頼ということで話を通し、情報を得ようとしたのですが、取り合ってはもらえませんでした。役人と冒険者ギルドは仲が悪いので、当然といえば当然でしょう。
 わたくしは鹿毛内藤左ヱ門(かけうち・とうざえもん)という役人に丁寧に引取りを促され、やむなく身を引きました。

●焔依仄華(eb3419)、茹る。
 ――あー、しあわせー。
 あたしは温泉につかりながら、冷茶を一杯やっていたわ。
 あたしは焔依仄華。ジャパンのくノ一よ。
 本当はこまきちゃんと茶会をしたかったんだけど、宿屋の人間はお客さんと湯に入っちゃだめっていう規則らしく、それはかなわなかったのよね。
 あたしが取った行動は、主に情報収集。もちろん依頼人の大野さんや、役人さん。
 大野さんから聞いたのは、主に道順。その日どのような店でどのような人と会い、どのような行動を取ったか。
 聞いてみると、結構怪しい。道順の前半はぼけていて、会った人も教えてもらえない。何かヒミツがあるんじゃないかしら? この人。
 ただ、色仕掛けは今回通じなかったのよね。前回の事件で何か言われたらしく、役人さんはすんごく口が堅かったわ。多分あたしの行動が上の人にばれたんじゃないかしら? 腹が立つわよね。失礼しちゃうわ。
 でも逆を言えば、役人は何かを握っているっていうことじゃないかしら? これは今後も要チェックね。

●こまきは考える
 今回の一件、多分偶発的な事故のようなものだと思うのよ。
 小春ちゃんは3年ぐらいの務めで、怪しいところは何も無かった。もちろん個人的な交友関係は知らないけど、真面目で将来はお嫁さんになるのが夢の14歳だった。
 死ぬには早すぎたと思う。
 ぎやまんを握っていたのは、多分何かの証拠品だと思うのよね。箱根は関所があるから、多分抜け荷とかそういうの。わたしは話しか聞いたこと無いけど。
 でも、街中で何をどうやったら抜け荷ができるのかが、わからないの。もしかしたら抜け荷っていうのはわたしが考えているようなものじゃなくて、もっとこう、小さなものなんじゃないかしら?
 みんな、お願い。仇を必ず討ってね!

【つづく】