暴れん坊箱根女中探偵2――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月07日〜12月14日

リプレイ公開日:2005年12月16日

●オープニング

●密貿易
 密貿易――通称『抜け荷』というものは、ジ・アースでもわりとまかり通っているものである。
 現代のように、X線検査や麻薬犬といった調査手段が確立されているわけではない。また通称『鼻薬』と呼ばれる、抜け荷全般に見られる役人への賄賂の提供など、恒常的に『そういう荷物』が闇世界で流通しているのが通常だ。奴隷の売買から劇薬、果ては危険生物に至るまで、およそ人が商売として成り立つもの全てが、闇貿易の中を流通しているのである。それは、査察の厳しい月道だって例外ではない。
 つまり、危険の火種はどこにでもあるのだ。
「その火種を引き当てたのが、小春という娘か‥‥」
 牢屋の中で腕を組みながら考えているのは、貧乏旗本の四男坊の大野進之助である。
 進之助は牢屋の中で、元気に書物など読んでいた。さすがにヒゲが浮いたりして多少のやつれは見られるが、なにかこう、牢屋生活を楽しんでる風でもある。
 牢屋の廊下、監視付で進之助と話しているのは、冒険者ギルドの女番頭ですこぶる付きの美女、烏丸京子であった。
「まあ、ウチの子たちが調べたところによると、そんな感じみたいね」
 キセルをふかしながら、京子が言う。
「しかし抜け荷となると、話が厄介だな。なにぶん、抜け荷は摘発するのが大変だ」
 進之助が言った。
 さもありなん。先ほども書いたが、抜け荷には役人も一枚噛んでいることが多いのである。悪には悪なりの秩序が必要なので、藩主大久保忠義はそこそこ目こぼししているようだが、それが今回仇になっているわけだ。
「それよりも進さん、いつまでここにいるおつもりだい? そろそろ政務が溜まって大変じゃないのかい?」
 それに、進之助は苦い顔をした。
「ここの鹿毛内は俺の正体を知っているらしくてなぁ‥‥爺の根回しで軽い灸を据えているつもりらしい。その証拠に、爺から政務の書類だけは回ってくる」
 その言葉に、京子がくすりと笑った。
「おいたが過ぎましたね、進さん。ま、事件はうちの子たちが解決するから、しばらく我慢してくださいな」
 京子が言った。

    ***

「さて、集まってもらったのは他でもないわ」
 冒険者ギルドで、京子が言った。
「今回の小春殺し、抜け荷もそうだけど、何より『殺し』の線を忘れちゃいけない。100歩譲って抜け荷には目をつぶるとしても、『殺し』はだめ。そして過去の事例から察するに、役人の鹿毛内は何か大きな事件になってからこの件をを収穫するつもりみたい。いい? かならず鹿毛内を出し抜いて、殺しの下手人を捕まえてちょうだい。それには、抜け荷と殺しの両方の線を追う必要があると思うわ。まず事実関係を明るみに出すこと。よろしい?」

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9272 風御 飛沫(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3419 焔依 仄華(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3891 ヴァルトルート・ドール(25歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ 八代 樹(eb2174

●リプレイ本文

暴れん坊箱根女中探偵2――ジャパン・箱根

●セーラ様、試練はタロンさまの専売特許だと思います。
 ヴァルトルート・ドール(eb3891)はフランク王国生まれのハーフエルフで、外見は20歳ぐらい。セーラ神の信奉者で、白クレリックである。ジャパンに来て冒険者人生を開業したが、ジャパン語が話せないという奇抜だがありがちな特徴を持っている。
 その彼女を連れて箱根を歩き回っているのは、大宗院真莉(ea5979)という女志士であった。冒険の募集で一緒になり、言葉が話せない不得手をカバーしてくれる良い『人間』であった。正直、ハーフエルフという生まれで幸薄いヴァルトルートにとっては、涙が出るほどありがたい。
「旦那様がそんなに浮気をするんですか‥‥」
「そうなんですよ。どうしてこんなの好きになったんでしょうね」
 ずるずるずる。
 何気ない世間話をしてるが、真莉はしぶきのような返り血をあびて、かなり壮絶な風体だった。そして襟を掴んでずるずると引きずっているのは、瀕死の大宗院謙(ea5980)である。遊郭へ情報収集へ向かい、それが真莉の知るところとなりこの結果となったのだ。夫の浮気に対し、真莉は容赦が無い。
 ――セーラ様、ジャパン人は恐ろしいです。これも試練でしょうか‥‥。
 ヴァルトルートが、心の中で思う。この夫婦を基準に見られても困るのだが、判断材料が少ないのだからしょうがない。
 彼らは楠戸賀屋ののれんをくぐると、待ち合わせに使っている部屋へと向かった。そこにはすでに先客がいて、彼女らを待ち受けていたようだった。
「先に飲(や)っとるよ」
 浪人の白銀剣次郎(ea3667)だった。
「首尾はいかがですか?」
 返り血を浴びたままの姿で、笑顔を向ける真莉。ちょっと引くぐらいがちょうどいい。
「小春の当日の足取りをつかんだ」
 剣次郎が猪口をあおった。ヴァルトルートにはジャパン語が通じないので、真莉が通訳した。
「酒蔵に行ったのは間違いない。蔵主のところに話どおりの手紙があった。楠戸賀屋から蔵までは五丁(約500メートル)。川沿いの水元を通って酒蔵に行っている」
「その証言はどこで取れたのかな?」
 いつのまにか復活した謙が問うた。プラナリア並みの回復力である。
「火売りだよ」
 剣次郎が言う。
 火売りは夜道で提灯などを売ったり、消えた提灯に火を灯したりする職業である。もっとも専業でやっている者は少なく、煮売りの屋台などが副業でやっていることが多い。
「煮売りの屋台があって、そこに火を借りに来たそうだ。その時は提灯をもっていたらしい」
『酒蔵に怪しいものはありませんでした』
 天井裏から、かすかに声が響いた。忍者の闇目幻十郎(ea0548)である。
『一通り調べたのですが、酒蔵の人にも場所にも怪しいところはありません。全員の素性は楠戸賀屋の女将も確認を取ってましたし、他の宿屋からも酒の注文は受けています。つまり酒蔵はシロですね』
 幻十郎が言う。屋根裏からとは、忍者らしいと言えば忍者らしい。
「ただいまー」
 そこに、新たな顔がやってきた。町娘に変装した、忍びの風御飛沫(ea9272)である。今回新参となったくノ一で、酒蔵近辺の聞き込みをしてきたのだ。
「いやー、疲れましたよー。あ、これお土産のお酒です」
 おきゃんな町娘といった風体の飛沫は、白木の柄樽を持っていた。酒蔵周辺の聞き込みのかたわら、酒を買ってきたのである。
「何か収穫はあったかいの?」
 剣次郎が言った。
「ぎやまんのかけらを見つけました」
 くっと、盃を傾ける剣次郎の手が止まった。飛沫が、「えへへー」と笑顔を見せた。

●温泉街はけっこういろんな人が居る。
「思いのほか事態が進んでいるようだな」
 真実探求の徒、ウィザードのゲレイ・メージ(ea6177)が、辻の角から顔を出して言った。足元から、飼い猫のムーンが同じ様に顔をのぞかせているのがかわいらしい。
 ゲレイは今回、いいとこなしであった。役人の鹿毛内藤左ヱ門の所有する証拠品――ぎやまんの欠片――を調べようとして、丁重にお断り願われたのである。
「この事件は我々が担当します。外国のお客人は、どうか温泉めぐりでもなさっていてください」
 慇懃にお帰りを願われて、ゲレイにはとりつくしまも無い状態であった。
 ただ収穫もある。密貿易を差配できる、商家にめぼしがついたのだ。安楽椅子探偵を目指しているゲレイらしくなく、地道に足で稼いだ情報である。働け若人よ、であった。
 ちなみにゲレイ、頭はいい。しかし推理は、技術や技能で行うものではない。彼は知識偏重になりすぎるきらいがあり、現状は本人がめざすような賢者にはなれないでいる。
 それはともかく、彼が行っているのは『松井屋』という数寄物問屋の張り込みである。彼が飛沫から得た情報で絞った、抜け荷主の屋号であった。
 彼の絞込みは、飛沫の情報からであった。飛沫が得た情報は、「半端な数のガラスの酒盃が、安く売られていた」というものである。小春が持っていた欠片が、その「半端な数」になってしまった原因だとすれば、その売主が事件に絡んでる可能性が高い。
 それが、松井屋であった。
「調子どお?」
 そこに、背後から焔依仄華(eb3419)が忍び寄って声をかけてきた。この赤毛の忍びは、街中では目立つ。
「張り込みは退屈だ。本当はこんな汚れ仕事、賢人たる私の領分ではない」
「なーに言ってんのよ。あんたも冒険者でしょ? 口じゃなくて手足を動かしなよ」
「声が大きい! そうだ。おたく、これから出てくる十手持ち――あの、紺色の服の男を追ってくれ」
 ゲレイがそう言った指の先には、紺色のデコスケ姿の岡っ引が出てきていた。
「あれ誰?」
「この国の治安要員の一人だ」
「難しい言い方しないで普通にしゃべれない?」
 つんと、可愛らしく焔依が唇を尖らせる。
「抜け荷を買ったのが松井屋なら、それを売った人間が小春殺しの下手人かそれに近しいものだろう。つまり、松井屋に普通入り浸らない人間が関係者と見ていい。つまり、あの岡っ引だ」
 ゲレイが言う。
「ふーん、まあいいわ」
 そう言うと、仄華は人ごみにまぎれていった。

    *

 ――なんか、スキだらけで楽勝じゃない。
 仄華は紺服の十手持ちをつけていた。賄賂をもらうのが上手な男で、そこらへんの商家から包んだ小銭をもらっている。まあ、事あれば身方についてもらわなければならないので、その辺のバランス感覚は良さそうだった。
 が。
 ――あれ?
 ふっと気が緩んだ隙に、十手持ちを見失ってしまった。
「えー、やだー、うっそー」
 あまりの意表のつき方に、思わず声が出る。探すために足を速めたところで、その進路を闇目幻十郎がさえぎった。
「あら、幻十郎、どうしたの?」
「忍びがいます」
 幻十郎が仄華に言った。
「かなりの手練れです。自分でもかなうかどうか、微妙ですね」
 仄華はそこまでの鍛錬が出来ていない。が、幻十郎の腕を信用する分別はある。その人物が言うことなのだ。
「猿蔵という忍びが、箱根を拠点に暗躍していると聞きます(暴れん坊藩主シリーズ参照)」
 幻十郎が言った。
「かなりの腕で、これまた腕の立つ浪人と組んでいるという噂を聞きます。あなたの腕では、これ以上の深入りは危険でしょう」
 幻十郎が言う。
 どうやら、体勢を立て直す必要がありそうだった。

●こまきは考える
「道行きに小春ちゃんの提灯と草履が無いのは、小春ちゃんが普段通らない道に入ったんだと思うのよ」
 こまきは言った。
「仲通りとか路地を地道に探せば何か見つかるかもしれないけど、確証は無いわ。でもそういう証拠が見つからないことが、何かの手がかりなんだと思うよ。例えばぜんぜん違う場所で殺されて運ばれたとか。でも遺体に運んだ形跡が無いなら、犯人のほうが動いたのかもしれない――例えば川とか。川ってあちこちにあって、結構自由に動けるかもしれないね。あとは、抜け荷は川とか使えば利便になるんじゃないかしら? これって土地勘無いと判断が難しいかもしれないね。あとは――役人さんが証拠隠しているとか、そういうのもあるかも――あ、おかみさんに呼ばれてるから、あたし行くね!」

【つづく】