『破滅の剣』2
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月15日〜11月22日
リプレイ公開日:2006年11月23日
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●オープニング
●阿修羅の剣探索
『阿修羅の剣』は、現在は『竜戦士』の称号を冠せられるメイの国の英雄、ウーゼル ・ペンドラゴンの所持していた剣である。
ペンドラゴンは『天界人』と呼ばれる、異世界からアトランティスに来落した異世界人だ。約50年前、カオスの穴の開口とバの国の侵略で滅びかけたメイの国の人々を牽引し、その超絶的な戦技で数々の敵とモンスターを破り、そしてメイの国の復興とカオス戦争の勝利をもたらした、ある意味アトランティスそのものの英雄である。
だが、彼は死んだ。
原因は分かっていない。病死や自然死ではなく、戦死したと伝えられるのみである。信心深い人々には、『天界から来た英雄が天界に還った』と思われているが、その真偽は定かではない。
この辺りの状況が不鮮明なのは、熾烈を極めたカオス戦争で情報が混乱していたことや、その従者たちが戦地でことごとく戦死していたのもある。
伝説によれば、ペンドラゴンはカオスの穴から現れた漆黒の邪竜と対決し勝利したともされるが、それも確認した者は居ない。
だが少なくとも、ペンドラゴンが勇者でありそれに見合った武具を装備し、そしてその力を以て平和の礎(いしずえ)を築いたのは間違いない。彼が居なければ現在の平和は無く、そして東方世界はカオスの暗黒に塗りつぶされていただろう。
だが、現状が危ういバランスで立っているのも事実である。
カオス戦争で完膚無きまでたたきのめされたバの国も、その本国までは侵攻を許していない。それはメイの国が広大すぎて、失地回復が限界だったのもある。
つまりバの国本国の戦力は、今なお健在なのだ。
「いずれ、バは動く」
メイ王アリオ ・ステライドは言う。
「その時、我々には切り札が必要だ。天界人の来落はすでに全アトランティスにおよび、切り札たり得ない。だが唯一無二の『切り札』がある。それが、竜戦士の剣、つまり『阿修羅の剣』だ」
アリオは、声を張り上げた。
「見つけるのだ! 竜戦士のつるぎ、伝説の器物、約束された勝利の剣! 阿修羅の剣を!」
◆◆◆
アトランティ・メイの国中原に一つの噂がある。『破滅の剣』と呼ばれる魔法の剣が、存在するというのだ。それは持ち主を次々と滅ぼし、そして人の手を渡り歩いているらしい。
尋常でない噂に誰もがまゆつばものと思ったが、何故かカオス勢力が活発な動きを見せている。確かに、『阿修羅の剣』を所持していた英雄ペンドラゴンは、死んだのだ。
メイ王アリオ ・ステライドはその動きを牽制・調査するため、新造フロートシップ1隻とモナルコス2騎を部下に貸与し、冒険者を募った。
その探索隊の名は『ルーメン捜索隊』という。
彼らは前回の出撃で、バの国のフロートシップと史上初の空中戦を行いそれに、勝利した。敵ゴーレムを破壊しフロートシップを鹵獲し、まさに大勝利を挙げた。
しかしそれは、この『破滅の剣』に関する情報の再確認をすることになった。ここに至り、『破滅の剣』実在の可能性がぐんと増したのだ。
「今回の任務は、『破滅の剣』と呼ばれる器物を捜索することである」
今回の任務を命じられた『ルーメン捜索隊』隊長、フォーレスト・ルーメン侯爵が、集まった兵士・傭兵・冒険者に訓辞を垂れた。
「今回下賜されたフロートシップは、従来の船胴型のものではなく初めから空を飛ぶために設計された新造のものだ。名は『ヤーン』。『ヤーン級』の1番艦ということになる。精霊砲などを拡充し、速度も2割り増し、というところだろう」
そこで、フォーレストは地図を広げた。
「空の案内人がまだ居ないので、速度が出ても我々は山の稜線沿いか、海岸線を進むしかない。両方とも危険は同じだ。相手が自然か、バの国境近くを通るかだ。前回バの国との国境を行き成果を挙げた我々の次の任務は、カオスニアンの『破滅の剣』捜索隊を補足しそれを攻撃、可能ならば殲滅することである」
――おおおおおおお。
どよめきが、隊内に満ちた。カオスニアンはメイの国にとって討つべきものたちであり、ましてや領土内に跳梁を許したとあっては国としての面目も立たない。
「さて、情報を整理しよう」
意気がが満ちたところを、フォーレストが制した。
「前回リザベ領某所で会敵したバの捕虜の証言によると、該当地に中規模のカオスニアン捜索隊が展開しているらしい。大型恐獣はアロサウルスが1匹程度だが、機動力を確保するためにヴェロキラプトル級の戦闘騎乗恐獣の兵団で構成されているようだ。ヴェロキのほうは数までは分からんが、少なくとも10騎は居るだろう。つまりゴーレムで十全に戦える相手は、アロサウルスに絞られる。ヴェロキはすばしっこいから、ゴーレムでは手に余る可能性がある」
兵には特性がある。強力なゴーレムも、すばしっこい小さな相手は不得手だ。大型の兵団を蹂躙するのには向いているが、細かい相手に素早く囲まれると図体が仇になるのである。
「つまり、今回の主役は騎士や兵士、そして冒険者諸賢になる。ヴェロキは強いぞ。心してかかって欲しい。危険は承知の上だが、皆の奮起に期待する。以上だ!」
●リプレイ本文
『破滅の剣』2
●戦術レベルと戦略レベル
『戦術』と『戦略』は違う。
今さら改めて言うまでもないが、『阿修羅の剣探索』は戦略――それも大戦略に相当するミッションだ。『阿修羅の剣がある』というだけで全軍の士気は鼓舞され、そして軍の統率も容易になる。また事実上カオスに対する最大最強の切り札でもあり、その使用者を超人『竜戦士』にする最強の武具と言われる。
たった一つの器物が、戦術レベルどころか戦局を左右する、文字通りの『特異点』なのだ。
過去にこのような『器物』の存在が、無かったわけではない。例えば現代世界の戦時中に生み出された、様々な新兵器群がそうであろう。戦車、飛行船、飛行機、あるいは――。
そしてその代表は、核兵器かもしれない。たった二発で旧帝国軍部の戦意をへし折った原子爆弾は、是非はともあれ『本土決戦』を声高に叫ぶ馬鹿どもの目を覚まさせ、戦争バカを『現実』に引き戻したのだ。功罪あれど広島と長崎の二発がなければ、日本は朝鮮半島のように南北分割統治という憂き目を見ていた可能性だってある。そこには現在の南北朝を見ても分かるとおり、数多くの不幸に塗りつぶされているのだ。
現代人の白金銀(eb8388)などは、この世界『アトランティス』に来て、思うところが多いはずだ。『自分がこの世界に来た理由』を求める彼にとって、今の現実はまさにプレ戦争状態にあるメイの国の現状である。そして戦争の相手は、人間かどうかも分からないカオスニアンとカオスの魔物、そして現代では絶滅したはずの恐獣――つまり恐竜という超現実的な事態だ。
重ストーンゴーレム『モナルコス』の制御胞で、銀は考える。
――結論は急ぐまい。
目の前に横たわる大河を渡らずに、その先へ行くことは出来ないのだ。今は一歩々々、確実に進むしかない。
「ギン、そろそろだ」
『ルーメン探索隊』隊長、フォーレスト・ルーメン侯爵が、制御胞の中の銀に向かって言った。
「起動準備」
両手を座席に据えられた水晶球に重ねて、『意気』を整える。鈍い精霊力の流れの、一回路になったことを、銀は知覚した。
●探索隊の作戦行動
その半日ほど前。
敵の『破滅の剣探索隊』の動向に関する情報を、『ルーメン探索隊』は金で買った。
相手は、遮光の用の分厚いフードをかぶった、カオスニアンだった。多分足は恐獣だろう。
「卿、信用してもよろしいのですか?」
カオスニアンが去ってから、忌憚のない意見をツヴァイ・イクス(eb7879)が言った。メイ人としては当然の反応である。
「まあ、カオスニアンも食わなきゃならんからな。こういう仕事をしている奴らもいるさ。実のところ『やっかいな相手』っていうのは味方に付けると頼もしいもんだ」
ザイル並みに太い神経を見せながら、侯爵は言った。お高くとまっているタカビーな『貴族様』と違って、フォーレストは現場主義で実用主義らしい。だから出世しないのかもしれないが、寄り合い所帯を束ねる人物としては合格であろう。
ツヴァイの評価を受けているとも知らず、フォーレストは出動準備を進めてゆく。
今回はフラガ・ラック(eb4532)の提案で、前回の船央部からの出撃――モナルコスの降下という前回海賊戦法で行った強襲攻撃シークエンスを、敵居留地にエレメンタルキャノンを放った直後に行うという攻撃プランになった。現代人で軍事に多少詳しい者が居ればこの戦術の効果のほどがどれほどのものか推量できるであろうが、前例の無いことをやっている探索隊にとっては未知の領域が多い。しかし前回大成功だったこの戦法、二匹目のなんとやらを狙うのは悪くない選択である。
ゴーレムの搭乗はフラガと銀の2名。ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド(eb4267)は今回探索隊の戦闘指揮を申し出、受理された。彼女は弓兵の指揮をはじめとする艦の射撃管制を行う。
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)は近衛に1部隊を付けられ、魔法による援護を行う手はずになった。前回船酔いで死にそうになっていた彼女であったが、霊験灼(あらた)かなお守りのお陰で今回はピンシャンしている。ただし初日に酒保で下心満載の船乗りに呑まされ、酒癖の悪いところが明らかになってから誰も呑ませようとはしなくなったことだけ付け加えておこう。
風烈(ea1587)はメイの国に来て日が浅いが、ウィルの国で経験した対恐獣戦闘の経験談を話し、兵士たちに実戦での心得を教授していた。フォーレスト隊長との情報交換によると、ウィルの恐獣もメイの恐獣も同種ならばそれほど差はないようだが、後に実際に戦ってみたら、メイの恐獣の方が手応えがあったこと認知することになる。これは、暖かいメイの気候によるものではないかと思われた。
レインフォルス・フォルナード(ea7641)は烈に倣い、兵士たちに剣の訓練を付けた。剣を取ってはかなりの腕前であるレインフォルスをやりあって、騎士も兵士も彼に一目置くようになった。
準備は滞りなく進んでいた。そして、時刻は夜明け前を迎える。
●探索隊・強襲
アリオス・エルスリード(ea0439)とヴァラス・ロフキシモ(ea2538)、ソウガ ・ザナックス(ea3585)は斥候として情報の場所を望む丘の上に来ていた。
「ケッ、情報通りじゃねーか」
『カオスニアンはゴキブリ』と言ってはばからないヴァラスが、何か悔しそうに言う。
「情報通りなのはいいことだ。しかし陣容に油断は薄いぞ」
アリオスが言う。
カオスニアンの居留地は、『野蛮人らしからぬ』規律と陣容で構成されていた。構成員は20名余。ヴェロキは見た感じで10〜12匹。天界人である彼らの知るところでは無いが、かつてバの国がカオスニアンに教えた『軍』というシステムがまだ生きているのである。加えて前回の探索で、バの国のフロートシップを拿捕したのもある。警戒されて当然だ。
――ぎしっ。
「ん? なんでぇ」
妙なきしみ音に、ヴァラスが顔を向ける。
ソウガが顔色を変えていた。かなり険しい表情になっている。
「うっ‥‥」
アリオスがその視線の先にあるものを見て、声を上げそうになった。そこはアロサウルスの係留所で、えさ箱と思われる巨大な箱がある。
そしてそこから、白い――カオスニアンではないヒューマノイドの手足が覗いていた。さっきのきしみ音は、ソウガが得物を強く握った音だった。箱の周りの黒い染みは、おそらく血であろう。
「ゴキブリ風情が、いい度胸だ――」
ヴァラスが言う。しかし最低限の自重はしているようで、そのまま吶喊するようなことは無かった。
空全体が、薄く色づき始めた。そろそろ時間である。
「火を」
アリオスが言い、ソウガが目印用のたき火を始めた。
◆◆◆
「確認! やや左舷方向! 予定通りです!」
見張りの報告を受け、フォーレストはあっさり果断した。
「作戦開始! 以後戦闘の指揮は、ブラッグァルド女史に任せる」
「御意。弓隊配置につけ! 両舷バリスタ準備! 精霊砲発射準備! 一斉にヤるぞ!」
――ウォー!!
戦士たちから、意気があがる。
「下げ舵! 低空から目標点を通過し、精霊砲および弓隊一斉射! 旋回して3斉射後ゴーレム降下――今だ、撃て!」
艦首精霊砲が、炎のトカゲのような火球を放った。同時に弓隊が山なりに矢を放ち、バリスタが地面の恐獣を狙う。
ずっっどおおおおおおおおおおおおん!!
地面に落着した火球は、10〜20メートルぐらいの炎を噴いて爆発した。
「戦果報告!」
「敵大型は無傷! ヴェロキは2〜3匹! カオスニアンは5〜6人はやったかな!」
ブラッグァルドの声に、レインフォルスが応じる。
「追加ぁ! 敵の親玉らしいのが出てきるぞ! 今降りれば確実に殺(や)れる!」
烈が、確かにカオスニアンのボスらしいのを見て取っていた。
「放っておく! 予定通り回頭! 面舵いっぱい!」
敵の親玉を叩くというのは戦の常道だが、それは組織が機能している場合である。ゆえにブラッグァルドの判断は、この場合正しい。
が、予定外もある。ゴツゴツと船腹に音がしたかと思うと、バリスタ用の矢が数本突き刺さっていたのだ。どうやら相手も、それなりに準備していたらしい。貫通した矢が馬を一匹傷つけ、兵士たちは内部で大騒ぎだ。
が、それもすぐに沈黙した。斥候に出ていたアリオスが、矢でカオスニアンの射手を射抜いたからである。
「さて、おっぱじめるか!」
ヴァラスが剣を抜き、ソウガが無言で大斧を構えた。彼らは斥候であると同時に、斬り込み隊でもあるのだ。
彼らが斬り込んだころ、ヤーンもモナルコスを降下させていた。モナルコスは走って戦域を壊乱させ、そのままアロサウルスの元へ向かう。その間には、ヤーンは着地し兵士たちを下ろしていた。騎馬や槍を持った兵士が、次々と吐き出される。
「《グラビティーキャノン》!」
重力場の咆吼が大気をつんざき、ヴェロキとカオスニアンをなぎ倒す。さらに《アグラベイション》でほとんどのヴェロキとカオスニアンに行動制限をかけた。
「あとはソウガさんに持たせた、薬草が効いてくれればいいのですが‥‥」
魔法を撃ち尽くし、近衛に守られた状態になったソフィアがつぶやいた。彼女は薬草の知識を総動員して、恐獣を操る薬物の再現を行おうとしたのである。その成果をソウガに託し、彼女は結果を待った。
●モナルコスvs恐獣
恐獣はアロサウルスのようだった。例のえさ箱を、がつがつと漁っていたところの急襲である。
これが人間なら混乱するところだが、アロサウルスには混乱する知能も無い。飢えを満たし、敵はたたきつぶす。肉食生物らしい単純な思考回路によって、恐獣はカオス勢力のどの兵士よりも機敏に反応した。
GAAAAAA!!
地響きを立てて、アロサウルスはフラガのモナルコスに突進した。
ガツ!
GYAAAAAAAAN!!
『フラガさん!!』
後退したフラガのモナルコスに、銀のモナルコスが駆け寄る。
『大丈夫です』
フラガが、血に塗れた大剣を振り血を払った。フラガのモナルコスは左肩を鎧ごとかみ砕かれていたが、その剣はアロサウルスの首を横に断っていた。《カウンターアタック》と《ポイントアタックEX》を組み合わせた、一撃ねらいの攻撃である。
フラガは、首から噴出する返り血を浴びながら、肩に噛みついたままのアロサウルスの首を引きはがした。鎧のスキマから流れ込む濁った血臭が不快だった。
『ヴェロキを叩きましょう』
フラガが言う。銀もそれに倣った。
◆◆◆
「二つ! そっち行ったぞ!」
「任せろ――後ろ!」
がこっ! と、背後から斬りかかったカオスニアンを、烈は《バックアタック》《ストライク》で捌いた。
烈とレインフォルスは、見事なコンビネーションを見せていた。互いに譲らない戦闘の達人である。かわし身の得意な烈は手数で応戦し、ヴェロキも二匹、共同で仕留めている。すでに敵は主戦力を大幅に削られ、壊走寸前というところだ。
「そっち!」
烈の声に、レインフォルスが少しだけ反応が遅れた。振り向いたレインフォルスが見たのは、牙の並んだヴェロキのあごだ。
が、そこに粉状のものが投げられヴェロキがひるむ。やたら薬草臭いのは、それがソウガの投げた『例の薬』だったからだ。
効果のほどは――どうやら失敗だったようである。ヴェロキはくしゃみをし出してたが、暴れるのを抑えるような効果はなかった。
ただ、そのスキだけで十分、ヴェロキを葬る時間ができた。
「だいたい終わったようだ」
ソウガが言う。確かに、戦局は決した。あとは残務処理になった。
◆◆◆
「ご苦労さん」
ブラッグァルドの肩を、フォーレストが叩いた。それで緊張が解けたのか、ブラッグァルドが甲板にへたり込む。
「いや‥‥うまくいって良かった‥‥」
ツヴァイの手を借りて立ち上がりながら、ブラッグァルドは心底安心したように言った。
誰しも、腹をくくるというのは大変なのだ。
●カオス勢力、壊滅
敵の調査隊は壊滅した。数名逃げ延びたようだが、誤差と考えて良いだろう。100パーセントの戦果という方が不気味である。
後に近在の村が一個壊滅していたことが判明し、王宮から援助が向かったことを付記すべきであろう。恐獣のえさにされたのだ。
さて、次は調査になる。果たして、破滅の剣とはいかなるものなのか?
【つづく】