『破滅の剣』3
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2006年12月18日
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●オープニング
●阿修羅の剣探索
『阿修羅の剣』は、現在は『竜戦士』の称号を冠せられるメイの国の英雄、ウーゼル ・ペンドラゴンの所持していた剣である。
ペンドラゴンは『天界人』と呼ばれる、異世界からアトランティスに来落した異世界人だ。約50年前、カオスの穴の開口とバの国の侵略で滅びかけたメイの国の人々を牽引し、その超絶的な戦技で数々の敵とモンスターを破り、そしてメイの国の復興とカオス戦争の勝利をもたらした、ある意味アトランティスそのものの英雄である。
だが、彼は死んだ。
原因は分かっていない。病死や自然死ではなく、戦死したと伝えられるのみである。信心深い人々には、『天界から来た英雄が天界に還った』と思われているが、その真偽は定かではない。
この辺りの状況が不鮮明なのは、熾烈を極めたカオス戦争で情報が混乱していたことや、その従者たちが戦地でことごとく戦死していたのもある。
伝説によれば、ペンドラゴンはカオスの穴から現れた漆黒の邪竜と対決し勝利したともされるが、それも確認した者は居ない。
だが少なくとも、ペンドラゴンが勇者でありそれに見合った武具を装備し、そしてその力を以て平和の礎(いしずえ)を築いたのは間違いない。彼が居なければ現在の平和は無く、そして東方世界はカオスの暗黒に塗りつぶされていただろう。
だが、現状が危ういバランスで立っているのも事実である。
カオス戦争で完膚無きまでたたきのめされたバの国も、その本国までは侵攻を許していない。それはメイの国が広大すぎて、失地回復が限界だったのもある。
つまりバの国本国の戦力は、今なお健在なのだ。
「いずれ、バは動く」
メイ王アリオ ・ステライドは言う。
「その時、我々には切り札が必要だ。天界人の来落はすでに全アトランティスにおよび、切り札たり得ない。だが唯一無二の『切り札』がある。それが、竜戦士の剣、つまり『阿修羅の剣』だ」
アリオは、声を張り上げた。
「見つけるのだ! 竜戦士のつるぎ、伝説の器物、約束された勝利の剣! 阿修羅の剣を!」
◆◆◆
アトランティ・メイの国中原に一つの噂がある。『破滅の剣』と呼ばれる魔法の剣が、存在するというのだ。それは持ち主を次々と滅ぼし、そして人の手を渡り歩いているらしい。
尋常でない噂に誰もがまゆつばものと思ったが、何故かカオス勢力が活発な動きを見せている。確かに、『阿修羅の剣』を所持していた英雄ペンドラゴンは、死んだのだ。
メイ王アリオ ・ステライドはその動きを牽制・調査するため、新造フロートシップ1隻とモナルコス2騎を部下に貸与し、冒険者を募った。
その探索隊の名は『ルーメン捜索隊』という。
彼らは前回の出撃で、カオスニアンの『破滅の剣』探索隊を捕捉・攻撃し、それを壊乱させるに至った。すでに『破滅の剣』に関する情報の再確認は済んでおり、それが存在するらしい場所の特定まで進んでいる。
問題は、前回壊滅させたカオスニアンの探索隊が『分隊』であって、件の遺跡に敵の本隊らしいものが存在することだ。
「今回の任務は、『破滅の剣』と呼ばれる器物を捜索することである」
今回の任務を命じられた『ルーメン捜索隊』隊長、フォーレスト・ルーメン侯爵が、集まった兵士・傭兵・冒険者に訓辞を垂れた。
「今回下賜されたフロートシップは、従来の船胴型のものではなく初めから空を飛ぶために設計された新造のものだ。名は『ヤーン』。『ヤーン級』の1番艦ということになる。精霊砲などを拡充し、速度も2割り増し、というところだろう」
そこで、フォーレストは地図を広げた。
「前回カオスニアンの『破滅の剣』捜索隊を補足しそれを攻撃、殲滅した我々ではあるが、どうやら敵はすでに『破滅の剣』の懐に飛び込んでいるらしい。つまりある廃棄された城塞に剣を追って侵攻中とのことだ」
――ざわざわざわ。
どよめきが、隊内に満ちた。カオスニアンはメイの国にとって討つべきものたちであり、ましてや領土内に跳梁を許したとあっては国としての面目も立たない。
「さて、情報を整理しよう」
状況把握が進んだところで、フォーレストが言った。
「カオスニアンの探索隊は砂漠の『イルク砦』に侵攻中らしい。廃棄された砦なので防衛する者など居ないが、剣がそこにあるなら看過は出来ん。我々は城塞の懐に飛び込みカオスニアンの捜索隊を砂漠に追い返す。つまり『城攻め』だ。おそらくメイでは初めてのゴーレム兵器にによる城攻めになる。危険は承知の上だが、皆の奮起に期待する。以上だ!」
●リプレイ本文
『破滅の剣』3
●砦攻め
冒険者たちは、メイの国で初の、ゴーレム兵器を使用した城塞攻略戦を行うことになった。
攻城戦のセオリーとして、攻め手は城塞防御兵力の5倍の兵力が必須とされる。しかしこれは地べたを這って攻城戦を行う場合であり、今回の『ルーメン探索隊』には当てはまらない。なぜなら彼等には、新鋭フロートシップ『ヤーン』とゴーレム『モナルコス』2騎というルールブレイカーがあるからだ。
旧来の攻城戦は、スパイなどの破壊活動に頼らないのであれば、10人以上が持って城門へ突撃する衝角(ラム)やカタパルトなどの攻城兵器を多用する。いや、書き方が違う。多用せざるを得ない。そもそも人力、ないし人間が使用する武器・魔法のたぐいで城攻めを行うのは、無謀の極地だ。例え10人力の武人が振るう剣も、100人で積み上げた城壁の石を砕くには力が足りない。まごまごしていると、上から矢弾や煮えたぎった油を放たれて重傷を負う。つまり、城壁などの防御構築物の役目は基本的に『時間稼ぎ』であり、どのような屈強な戦士の個人技でも崩落することのない『防御戦線の構築』がその役目なのである。
それを、有無を言わさず無力化させるのが、フロートシップでありゴーレム兵器だ。フロートシップは上空から容易く兵員を城内に侵入させることが出来、そしてゴーレムは10人力でも破壊できない城門を容易く破壊する。細かい作業を横に置いておけば、これほど実用的な攻城兵器は、今現在のメイには無い。
「これが今のところ一番『アテ』になるイルク砦の図面だ」
探索隊隊長フォーレスト・ルーメン侯爵は冒険者たちに暗号化された図面を出して言った。
その数、22枚。
「これ‥‥どう『読め』ばいいんですか?」
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の問いに、フォーレストは「すまん、分からん」と答えた。髭をねじっているところを見ると、本当に困っているらしい。
「予想しておくべきだったな。砦の絵図が、馬鹿正直に残っているはずもなし。この処方は当然と言えば当然だ」
ツヴァイ・イクス(eb7879)が、意味を成さない図面の1枚を広げて言う。本人はおどけたような口調で言ったつもりだったが、どうやら周囲には、真面目に取られたらしい。
「そっちの『情報』はどうだったんだ?」
ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が、珍しくマトモな台詞を言う。
「至って紳士だったよ。『カオスニアンの情報屋』というのは、意外とアテにしていいみたいだ。金を払っている間はな」
ツヴァイが言う。彼女は前作戦でフォーレストが使用した『情報源』を、再度利用したのだ。無論フォーレストの許可を得てである。
結果、城塞攻略前に敵の別働隊をさらに一つ発見するに至り、能動的対処として『無視』を決定したところだった。無用の損耗を避けたかったのもあるし、別働隊が砦に到着するまで、どう見てもあと2日はかかりそうだったからだ。今回の作戦はイルク砦の奪取ではなく、あくまで『破滅の剣』である。
「問題は、砦の部隊が『本隊』ではなく少数の『精鋭部隊』だということだろうな」
アリオス・エルスリード(ea0439)が言った。ツヴァイの集めた情報が正しければ、敵の『本隊』は前回の作戦でほぼ壊滅させている。残ったのは剣の探索を目的に編成された、『特別な戦士たちの部隊』ということだ。戦闘能力のある恐獣ではなく、ガリミムスという非常に足の速い草食恐獣20騎ほどで構成されているらしい(ちなみにカオスニアンの情報屋も、このダチョウのような恐獣を使用していた。情報集めは速度だからだ)。
「‥‥作戦の変更は?」
ソウガ・ザナックス(ea3585)が、大戦斧を担いで言った。
「無し、だな。陽動と強襲、そして潜入。敵が少数精鋭なら、モナルコスを前面に出せばごり押し出来る」
「同感だ。単純な戦闘の場合、小細工したほうが負ける。『策士策に溺れる』というやつだ」
風烈(ea1587)が言い、レインフォルス・フォルナード(ea7641)が同意した。
「じゃあ、予定通り距離を置いて潜入部隊を放出。砦から300単位の中距離でゴーレムを投下。『ヤーン』はバリスタと精霊砲による牽制射を慣行――で、いいんだな?」
早くも『ヤーン』の戦闘班長と成りつつあるブラッグァルド・ドッグ・ブラッド(eb4267)が言う。誰もそれに異論を唱えはしなかった。
「陽動か〜。実のところもっと派手に戦(や)りあいたいんですけどね〜。何せゴーレムの実戦データは、あって損はしませんから」
「斬り結ぶことだけが戦(いくさ)ではありませんよ。時には『役割』を全うする。それも戦です」
白金銀(eb8388)のぼやきを、フラガ・ラック(eb4532)がたしなめた。まあ、当然であろう。この辺りの感覚は、現代人とジ・アース人の違いとも言える。
今回は、戦闘班を4班に編制(編成ではない)しての作戦である。
【陽動班1:陸戦隊】
風烈
レインフォルス・フォルナード
ツヴァイ・イクス
以下、10名の兵員たち。
【陽動班2:ゴーレム隊】
フラガ・ラック
白金銀
【陽動班3:航空射撃隊】
ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド
以下、船員など。
【潜入班】
アリオス・エルスリード
ヴァラス・ロフキシモ
ソウガ・ザナックス
ソフィア・ファーリーフ
まあ、簡単に言ってしまえば三つの陽動班で敵を引きつけ、その間に潜入班が内部に侵入。『破滅の剣』をかすめ取るというものだ。オーソドックスだが、ハマれば見返りは大きい。
「では、夜明け前に作戦開始だ」
こればかりは譲れぬと、フォーレストが隊長らしく声を上げた。
●名も無き剣士
「何がどうなっているんだ?」
予想外の展開が、砦では待っていた。ガリミムス20騎は未だ砦に侵入しておらず、砦の――この単語が適切かどうかは分からないが――『残存兵力』と交戦中だったのである。
「なんでぇ‥‥これなら外で殴り合った方が早くねーか?」
ヴァラスが、ぼやくように言う。
アリオス、ヴァラス、ソウガ、ソフィアの別働隊4名は、ソフィアの《ウォールホール》によってあっさり砦に侵入していた。あっさりしすぎて、罠かと思ったぐらいだ。
「どう見ても‥‥戦っているのって、一人、だよねぇ‥‥」
ソフィアも、常識外れの事態に困惑を隠せない。
さもありなん、砦の中に陣取って防戦しているのはたった一人の戦士だったのだ。投石、城壁崩し、弓矢に目つぶしの砂。およそ一人で可能な、ありとあらゆる手段でカオスニアンを退けている。彼我の戦力比は20対1だが、カオスニアンが速度を維持するために攻城兵器を持たなかったことが、彼等に災いしていた。腐っても砦。人力で討ち破るには、かなり手間がかかる。
「‥‥変だ」
ソウガが口を開いた。この探索行に参加するようになって、すっかり口数が増えている。
「何かだ?」
「‥‥戦士なのに、剣を抜かないのはなぜだ?」
アリオスの問いに、ソウガが答えた。
確かに、その戦士は剣を抜こうとしない。いや、まだ抜く必要が無いのかもしれないが、戦士なら剣を振ってナンボ。ましてや胸壁にカオスニアンが上がってきている現状では、もはや接近戦は必至である。
つまり、剣を抜かない理由があるか、抜けないのだ。
――アトランティ・メイの国中原に一つの噂がある。『破滅の剣』と呼ばれる魔法の剣が、存在するというのだ。それは持ち主を次々と滅ぼし、そして人の手を渡り歩いているらしい――。
まさか? という思いが、潜入班一同の間に駆け抜けた。戦士が剣を抜かない理由――この状況では、一つしか考えられない。
つまり、剣を抜けば『何かが起こる』のだ。それも戦士にとって良くないことが。
「加勢しよう。その上で、剣を検分させてもらうんだ」
アリオスがそう言ったところで、この状況ではまさに最悪のタイミングで精霊砲の火球が城壁を吹き飛ばした。戦場は一気に混乱し、恐獣は走り回りカオスニアンも現状が把握できないでいる。
元より、陽動班は戦場を混乱させ、潜入班の活動を援護するのが役目だったのだ。その作戦を打ち合わせ通りに実行しただけなのだが、何もかも悪い方向に転がってゆく。
――まさか、因果律を操る剣!?
ソフィアが思う。
人間の運命は定まっていない。予定の決まった人生などあり得ない。
しかし、例えば相手を斬り殺すことで相手の人生に幕を引くことは出来る。罪悪の多寡は置いておいても、運命に干渉してその命運を変えることは可能なのだ。
魔法使いの間では、それを『因果律』と呼んでいる。ジ・アースの魔法使いの間では、『神』はその因果律を極限まで調整できる絶対者に近しい者であり、つまりそれが出来れば、汎ヒューマノイドどころかミジンコだって神になれるのだ。
それを可能にする器物があるとすれば、それを所持した者はまさに、『神にも悪魔にも』なれる。
つまり『破滅の剣』は、阿修羅の剣に匹敵するかそれ以上の、超弩級のマジックアイテムなのだ。ソフィアの仮説が正しければ。
あるいは、阿修羅の剣そのものなのかもしれない。しかし、ソフィアはその意味と危険性を、正しく理解していた。
「だめ! 近づかないで!」
思わず、声が出る。その時、風を切る音と共に数本のバリスタの矢が地面に突き刺さった。1本はヴァラスの脇腹数センチのところをかすめて、地面に突き刺さっていた。あと少し横にずれていたら、ヴァラスは胸を貫かれて即死していたかもしれない。
「‥‥‥‥‥‥!!」
さすがのヴァラスも言葉を無くし、陸に上がった魚のように口を開け閉めしている。
「下がって、やり過ごすの! このままだと、私たちまで巻き込まれ――!!」
その時、精霊砲の火弩弾の炎が、彼等をあぶろうとしていた。
「――――!!」
高速詠唱の《ウォールホール》が、間一髪で潜入班の命を救った。地面が陥没し4人を飲み込んだ直後、その頭上を爆発の炎が舐めてゆく。多少やけどはしたが、直撃よりマシだ。
嵐のような攻撃の後――。
砦にはカオスニアンと恐獣、そして名も知らぬ戦士の死体が転がっていた。
『何があったんですか!?』
銀の声。モナルコスが、城内に侵入していた。
が、すでに剣の姿はどこにも無かった。
●剣を追って
「運命を操る剣‥‥か。確かに、欲しがる者は空の燐の数ほどいるだろう。カオスニアンに限らずな」
報告を受けたフォーレストが、難しい顔をしていた。
阿修羅の剣という確証は無いが、それに匹敵する器物と聞いて、さすがに事態の重要性を感じていた。阿修羅の剣でもそうでなくても、放置しておくことは出来ない。
ましてや、その剣はいままさに、カオスニアンの増援部隊の手に渡ろうとしている。もし冒険者たちの『作戦』も因果律に組み込まれ操られていたのだとしたら、下手をすると追跡しただけで隊が壊滅しかねない。
ソフィアの選択は、ヴァラスに矢が刺さらなかった数センチの差ほどしかない、ギリギリの好手だったのだ。
「思いたくは無いな。俺が戦ったのが決められた『運命』だなんて」
烈が言う。戦いに対して強い矜持を持っているだけに、今回の件は少なからずショックである。
「いずれにせよ、放置は出来ん」
フォーレストが言った。
「だが、皆には選択の自由を与える。下船したい者は申し出るといい。咎にはかけん」
覚悟を決めた表情で、フォーレストが言った。
【つづく】