『破滅の剣』4

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月30日〜01月06日

リプレイ公開日:2007年01月03日

●オープニング

●『破滅の剣』――その正体
 剣の探索行は、佳境を迎えていた。
 ルーメン探索隊は『破滅の剣』に後一歩というところまで迫った。しかしそれは、まさに破滅と引き替えの恐るべき探索行となりつつあった。
 『破滅の剣』に関する情報は、まだ確定していない。しかしそれが、大いなる災いを招く『器物』であることらしいことは類推されている。
 つまり運命――『因果律を操る器物』という見方だ。
 『風が吹いたら桶屋が儲かる』ではないが、物事は様ざまな事象の積み重ねによって構築されている。人は斬られればケガをするし、場合によっては死ぬ。
 が、一方で不慮の事故で死ぬ人もいる。そういう人は『運が無かった』と言われるが、例えば交通事故だって、たった2秒ずれれば、あるいはたった1メートル逸れていれば助かった、などという事があり得るのだ。
 『〜たら』『〜れば』ではないが、数多の『もし?』の世界に影響を与え操る器物――それが、『破滅の剣』という見方である。
「そもそも『因果律』を操るというのは、非常に危険なものだ」
 今回『特別顧問』としてルーメン探索隊に招聘されたジャイアントの覆面魔法使い――名をゼット(仮名)と言った――は、物覚えの悪い生徒に幾何学を教えるような口調で言った。
「『因果律』をいじるということは『連鎖的に状況が変革』されるという意味であり、つまり人知を越えた現象を引き起こしかねん。下手をすると、例えばワシが髭を一本抜いただけで世界が崩壊する。これは比喩ではなく、厳然たる事実だ」
 と言いながら、ゼットは門構えの口ひげを一本抜いた。それを息で吹き飛ばし、話を続ける。
「所有者が『勝利』を願えば、それは現実になるだろう。しかし『その過程で勝利するべき敵』が発生し、それがもたらす『被害』も現実化される。『名を馳せるため』に『対価となる悪名』が必要なら、それを生み出すためにその器物はありとあらゆる災厄を現実化させるだろう。それが例えば、天界の超兵器の出現や暴走といった現象の発生や、それそのものの出現に至るまで、ありとあらゆる微少な『可能性』を具体化させて成立させる。つまり因果律をいじって得た勝利には、起こらなかったはずの膨大な被害がついて回るということなのだ。時にその影響は、次元や時間をも超えるだろうな」
 さらっとゼットは言ったが、簡単に言うと、つまりそれは、『世界の破滅』と同義である。
「まあ、操れないことも無かろうが‥‥そんなことが出来るのは『カミサマ』だけだろうよ」

    ◆◆◆

 アトランティ・メイの国中原に一つの噂がある。『破滅の剣』と呼ばれる魔法の剣が、存在するというのだ。それは持ち主を次々と滅ぼし、そして人の手を渡り歩いているらしい。
 尋常でない噂に誰もがまゆつばものと思ったが、何故かカオス勢力が活発な動きを見せている。確かに、『阿修羅の剣』を所持していた英雄ペンドラゴンは、死んだのだ。
 メイ王アリオ ・ステライドはその動きを牽制・調査するため、新造フロートシップ1隻とモナルコス2騎を部下に貸与し、冒険者を募った。
 その探索隊の名は『ルーメン捜索隊』という。
 彼らはついに、『破滅の剣』の懐に飛び込んだ。しかしそれは、恐るべき運命の罠だった。
「今回の任務は、『破滅の剣』と呼ばれる器物を確保することである」
 今回の任務を命じられた『ルーメン捜索隊』隊長、フォーレスト・ルーメン侯爵が、集まった兵士・傭兵・冒険者に訓辞を垂れた。
「今回下賜されたフロートシップは、従来の船胴型のものではなく初めから空を飛ぶために設計された新造のものだ。名は『ヤーン』。『ヤーン級』の1番艦ということになる。精霊砲などを拡充し、速度も2割り増し、というところだろう」
 そこで、フォーレストは地図を広げた。
「前回カオスニアンの『破滅の剣』捜索隊逃がした我々だが、敵はカオスの増援部隊に合流し剣を持ち帰ろうとしている。今回はそれを捕捉し、剣を入手する」
 ――しーん。
 静寂が、隊内に満ちた。誰もが今回の任務の危険性を承知している。下手に関われば、因果律に巻き込まれ全滅するかもしれない。
 が、ここに居る者は皆、自ら志願して残った者たちである。
「さて、情報を整理しよう」
 状況把握が進んだところで、フォーレストが言った。
「カオスニアンの部隊は砂漠を行軍中と思われる。我々はゴーレムグライダーを以てそれを捜索し捕捉、戦闘状態に入る。ただただ進み、相手が剣を使う前にそれを確保。脱出する。この任務は、足の速い『ヤーン』にしか出来ん。危険は承知の上だが、皆の奮起に期待する。以上だ!」

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea3585 ソウガ・ザナックス(30歳・♂・レンジャー・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4267 ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド(36歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)

●サポート参加者

無双 空(ea4968)/ バルディッシュ・ドゴール(ea5243)/ フォーレ・ネーヴ(eb2093)/ サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)/ 烏乃宮 秋水(eb5511

●リプレイ本文

『破滅の剣』4

●『運命』をめぐる戦い

『運命は、定まったものではない』。

 それは人としての願いであり、『生』に対する真摯な信仰である。
 死すべき運命に産まれた者は、それに抗うことも許されないのか? 答えは『NO』と叫びたい。誰でも今日を精一杯生き、そして願わくば悔いなく死に伏したいのだ。死を目前に悔恨を自覚することほど、恐ろしいことは無い――と記録者は思う。
 ゆえに、今回集まった冒険者と兵士と騎士は、その『覚悟』を持って集った者たちだ。運命を操作すると思われる魔法器物――『破滅の剣』を探索してきた、まさに勇たる者たち。
「これから趣く場所は、まさに『死地』だ」
 いつものように口上を垂れているのは、この探索を命じられたフォーレスト・ルーメン侯爵である。
「敵の足は遅い。それは、大型恐獣を擁しているからだ。その数が多いのも災いしている。大部隊ほど運用が難しいのは、我々に限った話ではない。つまり、『運気』は我々に向いている」
 ことさら『運気』という言葉を強調して、フォーレストが言った。この『運気』なるものが、破滅の剣に操られている可能性を承知の上である。
「だが、『運気』が勝敗を決めるわけではない。人が成すことは人が決める。そう、我らが決めるのだ! 魔法の器物なんざくそ喰らえだ! 俺は金輪際、魔法の武器には頼らんぞ!」
「え、じゃあこのフロートシップは?」
「うん? ううむ‥‥」
 兵士のツッコミに、一同から笑いが湧いた。
「悪くない雰囲気だ。フォーレスト隊長は役者だな」
 アリオス・エルスリード(ea0439)が、弓の具合を確かめながら言った。
「まあ、幸運とか不運とか、そういうのを超越したモンとやり合うんだからな。大ホラ吹いたって、怒られやしないだろ」
 風烈(ea1587)が、それに応じる。
 総じて、ルーメン探索隊の雰囲気は明るかった。誰もが、自らの為すべき事を為す。それが唯一の活路であると、承知しているからだ。
『運命とて万能ではない』
 今回探索行に同伴した、ゼットという魔法使いの言葉である。
『因果律をいじって世の中どうにか出来るのなら、最初の所有者が自分の望みを全部叶えておるだろうよ。実際は、世の中そんなに甘くないのだ。ゆえに、我らが力と意気と気合いと根性と筋肉を結集すれば、なんとかなるはずだ』
 気合いと根性についてはともかく筋肉については疑問だが、まあ言いたいことは分からないではない。
「ふん、あれがればあのカオス野郎も‥‥」
「やめておいたほうがいいな」
 ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)の昏い願望に、ソウガ ・ザナックス(ea3585)が割って入った。
「あれは、人の手には余る。自滅するだけだ」
「わかってるよこのむっつり野郎がよぉ!」
 ヴァラスが、吼えるように言う。無茶苦茶な戦士ではあるが、自分を破滅させるほど分別が無いわけではない。
「人数が足りないな」
 船隊指揮官の、ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド(eb4267)がつぶやいた。
「弓兵は不足。主戦力は冒険者とゴーレムのみ。それも鎧騎士が足りないとあっては、無用の長物かもしれない」
「そんなこと無いですよ。『力』があれば、それに干渉しようとする因果律をコントロールしやすいです。人が乗って無くても、ゴーレムは『力』。ゼット師匠が動かないのと同じだと思います」
 ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が言う。
 今回探索隊は、高速巡洋艦『ヤーン』に持てるものを全て持ち込んだ。ゴーレムグライダー2騎にモナルコス2騎。ただし兵員については、妻子ある者は騎士も兵士もフォーレストが除外した。中には密航してでも――という者も居たが、フォーレストは全滅の可能性のある探索行に同行させるつもりは無かったようだ。
「うちのロロが、相手の部隊を見つけたみたいよ」
 フォーリィ・クライト(eb0754)が、イーグルドラゴンパピーの背中をなでながら言う。陽魔法には《サンワード》という、日中なら現状の探索手段に比べほぼ無限と言っても言ってもいい探索手段がある。さすがに『剣を探せ』という知的な指示にはペットも対応出来ないが、カオスニアンの大部隊を捜すならなんとかなるものだ。
「では私がグライダーで‥‥」
 フラガ・ラック(eb4532)が動こうとしたのを、レインフォルス・フォルナード(ea7641)が手で止めた。
「偵察は、騎士グリフの役目と決まっているはずだ」
 ツヴァイ・イクス(eb7879)が、神妙な顔をして言う。今回の探索について『思うところ』多々な彼女ではあるが、今は感情を押し殺している。
「手順通り進めよう。グリフどのの操縦でアリオスどのが同伴。それでよろしいか? 船隊指揮官殿」
 ツヴァイが、ブラッグァルドに向いて言った。
「ああ、そのつもりだ。ソウガはモナルコスで待機。各員も準戦闘配置に」
 ここに、『破滅の剣奪取作戦』が始まった。

●敵部隊捕捉
『敵はおそらく、まだその剣の『正体』に気づいておらん。『阿修羅の剣』と思っているだろう』
 アリオスはグライダーの後部座席で、ゼットと名乗る老人の言葉を反芻していた。
「運命を操る剣と知れば、どのような災厄が巻き起こるか‥‥想像するだに恐ろしい物だ」
 アリオスがつぶやく。そう、カオスニアンが高度な精霊魔法などの知識を知るはずもない。因果律という言葉すら知らないだろう。相手はまだ、その剣を括弧付きの『阿修羅の剣(?)』と思っているはずなのだ。
「見えました!」
 騎士グリフが、アリオスに向かって叫んだ。
「聞いていたより大部隊になっていますね‥‥」
 グリフが言う。
「アロサウルスが3体にヴェロキ16体――くそっ、ガリミムスの伝令隊が加わっている!」
 ガリミムスは戦闘能力を持たない代わりに、非常に高速で駆けることの出来る小型恐獣だ。これに剣が託されるようなことになると、追跡はほぼ不可能となる。
 ――押すか、引くか?
「戻りましょう、アリオスさん」
 グリフが言った。
「我々二人では、どうにも出来ません。発見される前に援軍を呼ぶべきです」
 アリオスは葛藤を隠せなかったが、グリフの言うことは正論である。
「よし、最高速でたのむ」
「はい!」
 グライダーは反転し、加速を始めた。

    ◆◆◆

 敵部隊増強の報告を受け、一同は作戦の修正を迫られた。しかも時間が無い。
「くそっ! どうすればいいんだ‥‥」
 ブラッグァルドが、珍しく荒れている。
「一匹も逃がさないようにするには‥‥ちょっとホネだな」
 烈も考える顔だ。
「このままやり合うのがいいだろう」
 と、とんでもないことを言ったのは、隊長のフォーレストだった。
「なあヴァラス、お前さんが強力な魔法の剣を手に入れて、そして目の前に功名を立てられるような敵が現れたらどうするかね?」
 いきなり話を振られて、ヴァラスが頓狂な顔をする。
「そりゃあヨぉ、ぶっちめて手柄にするに決まっているじゃねー‥‥か」
「そういうことだ」
 フォーレストが言った。
「相手は戦力的に、こっちを上回っている。しかも剣を手に入れて、相手の大将は使いたくてうずうずしているはずだ。負けが確定するまで、逃げはせぬよ。そして逃げるときは、大将も剣も一緒だ。やつらは『戦争』は知っていても『忠義』っていうのは知らん。『主君のために、剣だけ送って時間稼ぎをする』というのは、我々の考え方だ。そこに、つけ込むスキがある」
「ですが、それでは相手に『剣』を使われるのではありませんか?」
 ソフィアが、言わずもがなのことを言った。
「剣の影響が出る前に、奪取する。因果律というのは物事を順繰りに変化させてゆくのだから、影響が出始めても、それが効果を現すまで多少時間があるのだろう? その時間差に賭ける」
 まさに決死の覚悟で、フォーレストが言った。
「最悪の場合、ヤーンもモナルコスも放棄していい。馬があれば駆けろ、翼があれば飛べ。剣をカオスから奪取し、持ち帰ることが不可能なら海に捨てろ。カオスに『破滅の鍵』を渡さぬ事。それが第一と考えてくれ」

●会敵
 ヤーンは、持てる最大の能力を発揮して敵地に向かっていた。冒険者も兵士も、すべての準備は終えている。覚悟の面も含めてだ。
「単なるうわさ話が、こんな大事になるとはなぁ‥‥」
 ツヴァイが、つぶやいた。
「難敵とまみえるのは武人の誉れ、と言いたいが、今回は多少面白すぎだな」
 レインフォルスが、珍しく軽口を叩く。
「ふ‥‥似合わぬな、レインフォルス」
 ソウガが、それを混ぜっ返した。
「ソウガこそ、ずいぶん口数が多くなったぞ」
 レインフォルスが、それにやり返す。
 二人は、互いに苦笑しあった。
「最高のベルモットがあるんだ。終わったら皆で呑もう」
「ああ」
「俺も混ぜてくれ」
 ツヴァイが言う。
「天界人の行く末を、しっかり見届けたい」
「見えたぞ」
 甲板上から、アリオスが声をかけた。一同が、武器を手に取る。

    ◆◆◆

「船隊、射撃用ー意!」
 ブラッグァルドのかけ声で、左右両舷のバリスタに人がしがみついた。
「面舵! 左舷バリスタ隊! 放て――っ!」
 バババラン!!
 風を切って太矢が彼方の兵団に吸い込まれてゆく。
「つづいて取り舵! 右舷バリスタ隊! 放てっ!」
 バババラン!!
 さらに一斉射、こちらにはアリオスもついていたのだが、《シューティングポイントアタック》で一匹のアロサウルスの頭蓋を砕いた。
 わっ!
 船から歓声が上がる。
「バリスタ巻き上げ! 艦首精霊砲発射用意!」
「はいな!」
 フォーリィが、船首の火精霊砲に着座していた。彼女はこの後斬り込み隊に加わるのだが、どうせ魔力など使わないから――ということである。どのみち正確な狙いも必要のない武器だ。
 左右のバリスタが巻き上げを終了したころ、火精霊砲は射程に入った。
「撃て!」
 ごうっ!
 火弩弾が、敵部隊のど真ん中に落ちて爆発する。
「対空防御! 弓が来るぞ!」
 盾を構えた兵士が、バリスタの射手やフォーリィの周囲に展開した。ほどなく、かつかつと甲板に矢が刺さり始める。
 その後ブラッグァルドは、ヤーンを敵の周囲に展開させてバリスタを2斉射加えた。そのうちアリオスが担当したバリスタが、やはりもう一匹のアロサウスを絶命させた。
 ヤーン隊は湧いた、が。
 ひゅごっ!
「あれ?」
 精霊砲を放とうとしたフォーリィが、頓狂な声を上げた。精霊砲が急に、息を吸い込むような音と共に停止したのだ。
「きゃっ」
 その襟首を、誰かがひっつかんでフォーリィを引きはがした。直後。
 どっが――ん!!
 強烈な爆発音がして、衝撃と大音響がフォーリィの身体を揺さぶった。あ、これは死んだな、とか思う余裕さえあった。
「ふん、剣め。どうやらその力を現し始めたと見える」
 が、フォーリィの身体の上から降ってきたのは、年齢を経た男の声だった。
「ゼットさん!」
 やけどを負い、衣服をずたずたにしたゼットが、フォーリィをかばうように甲板に伏せていた。
 精霊砲が、爆発したのだ。何らかの動作不良が原因と思われる。
 ぐらっ!
「――どうした!」
 ブラッグァルドが叫ぶ。船が急によろめき、前から下降を始めていた。
「艦首動力器損傷! 高度が保てません!!」
 精霊砲の爆発で、どうやら不 具合が起きたらしい。それも連鎖的に。
 艦の位置は、敵進路のど真ん中である。多少減らしたとはいえ、彼我の戦力比は7対1以上。もっともこのまま墜落すれば、7対0になりかねないが。
「どれ、一肌脱ぐか」
 ゼットが、ボロボロの態で立ち上がった。
「《ローリンググラビティー》!」
 がつん! と、艦首が持ち上げられる。
「ソフィア嬢、ソルフの実を持っておるか?」
「は、はい!」
 ソフィアが、持っていたソルフの実をまとめて渡す。
 ゼットはその後、《ローリンググラビティー》を12回かけて船を不時着させた。着地時にけが人が数名出たが、状況から考えれば無傷に近い。
「フォーリィ嬢、ブラッグァルド嬢に、『どの辺を狙って撃ったか』教えてやるといい」
 あっ、と、フォーリィが手を叩く。そう、精霊砲の不 具合が恣意的なものなら、そこに『破滅の剣』がある可能性が高いのだ。
 フォーリィがブラッグァルドにその旨を報告すると、ブラッグァルドは即座に動いた。
「総員白兵戦用意! 目標! 敵陣中央のヴェロキ集団! フラガ! 出られるか!」
『む‥‥問題ない!』
 モナルコスから、声が帰ってくる。実はこの時、フラガは着地のショックで壁に叩きつけられケガをしていたのだが、おくびにも出さなかった。
「私も出ます!」
 騎士グリフが、もう一騎のモナルコスにとびつく。
「無理――いや、頼む!」
 止めかけたブラッグァルドだが、考え直して出動を許可した。今の彼では5分も動かないだろうが、何もしなければ死ぬだけである。
「俺も兵を率いて出るよ」
「隊長!」
 フォーレストが、具足を完全装備して表に出てきた。
「まあ、武人の誉れってことで良いんじゃないか? 騎士ってのは、結構因果な商売なんだよね」
 侯爵クラスの貴族を失うことがメイにどれだけの打撃を与えるか計り知れないが、このマリ○に似たおっさんは士道準じるつもりらしい。
「行くぞ! メイの騎士たち! 我らカオスを叩き伏せん! 目指すは敵将ただ一人! 命を惜しむな、名こそ惜しめ!」
「「おう!!」」

●決着
 ――何が起きているんだ!
 カオスニアンの将、ガリハム・ゲドは困惑していた。
 戦域は混乱している。理由は分からないが敵船は墜落し、敵兵力も痛打を受けたはずだ。何より兵力は、彼等のほうが数倍も上なのだ。それが今、食い破られようとしていた。しかも正面から。
 最初に起こったのは、地震だった。地面をほじくり返すような激震で、部隊の半数以上が転倒した。しかしその地震は、敵兵が攻めてくるとぴたりと止まった。
 そして今度は、銀髪のエルフ女の魔法である。一直線に伸びたその不可視の攻撃は、その軸上にある味方をことごとく転倒させ、あろうことかそれは『ガリハムまでの道』を作っていた。
 恐獣は、あてにならなかった。ゴーレムが2騎がかりで戦っていて、完全に押されていた。
『剣を抜け』
 何かが、ガリハムにささやいた。
『剣を抜け!』
 しかし剣に伸ばした手が、弓矢で射抜かれた。青い服を着た男が、船の上から撃った弓だった。
『剣を抜け!!』
「抜かせるかよォー!!」
 2本の刃が、ガリハムに迫った。
 それが、ガリハムの見た最後の光景だった。

●部隊帰還
 多くの犠牲を払い、探索隊は問題の剣を入手した。
 後、剣は『阿修羅の剣ではない』ことが確認される。明らかに作りが違ったからだ。
 そしてそれを使おうという愚を、アリオ王は犯さなかった。剣は封印され、王宮の宝物庫に収蔵された。
「ま、最初からやりなおしか」
 ベルモットの瓶を傾けながら、ソウガが言った。
 しかし、うまい酒ではあった。

【おわり】